本日も晴天なり。
曲がりなりにも吸血鬼の仲間である俺がかんかん照りのなか散歩をしているのはひどい裏切り行為になるかもしれない。
こっちだってしたくてしてるわけじゃないんだ。目的のもんだって本当は見つからないほうがいい。
頭ではこんなことするまでもなく、そうであるから彼女足り得ると分かってはいるが、己の目で見るまでは決めつけたくなかった。
中学生になってだいたい2週間ほどたったが、特に異常もなく緑谷との訓練は少し遅れるようにはなったが、その分質を向上させるべく日夜模索しているところだ。
やっぱり年を重ねればそれだけ体のつくりもしっかりしてくるし、ちょっとやりすぎても意外と耐えられるようになった。
それでも貴重な休日をメンタルケアのために散歩に費やすほどバカじゃないしそんな調子こいてない。
基本的には図書館巡りをしつつ、勘に従って歩き回っている。
およそ3時間ほど歩き、もうそろそろ切り上げようとしたとき、目に入った。
わざわざ休日つぶしてまで探し歩いた目当ての人。
休日であるというのに、我が中学校の制服姿で歩いている羽川を見た。見つけてしまった。
人前では明るく、気丈にふるまっている彼女にも触れがたい闇が存在していることを確認してしまった。
不幸であることが、親にそのような扱いを受けることが羽川を羽川たらしめているものだと分かっていたからこそ、そんな現実受け入れたくなかった。
専門家である忍野メメは彼女のことを気持ち悪いと言っていた。
彼女と同じ空間に居なければならない保護者のことを同情してしまうほど、彼女は優れすぎていた。
穢れに満ちた人間が浄化の光を受けるように、彼女の存在はあまりにも正しすぎた。
そして、その光は苦痛を伴うものだ。だから、彼女の存在を否定し、天岩戸に閉じ込めるように迫害したのだろう。
俺ではあの家庭はどうにもならない。
壊れすぎているものを何も知らない部外者がどうにかできるほど、簡単なものじゃない。
ヒーローになると誓ったはずなのに、俺は目の前の孤独な女の子を抱きしめることも出来ない。
だから、今の俺に出来ることをやるしかない。
「やぁやぁ、羽川さんじゃないか。奇遇だね」
「あ、鬼人君、こんにちは」
完璧な偶然を装い話しかける。
三つ編みをなびかせ少々変わった振り向き方をして振り向く羽川。
シャフ〇ってホントに現実でも可能なのか……
「いつもこの近く通るんだね。学校からは離れてるけど……」
どうやらばれていたらしい。俺が気づいていないのになぜ知っていたんだ。
「いやー実は図書館巡りが趣味でさ、羽川さんはどうして?」
嘘だ。図書館に興味何て一ミリもない。本は好きだがメインはラノベだ。
「……休日はいつも散歩することにしてるの」
すこし困った顔をして、それを誤魔化すようにすぐに明るい表情に戻し答える。
あまり聞くべきではなかったようだ。
「あー、いいよな散歩、特にこんないい天気なんだから歩かないと損だよな」
個人的な経験則の困ったらとりあえず全肯定だ。
「ハーフヴァンパイアの鬼人君が言うとなんだか変に感じるね」
「あいにく今まで太陽を敵と感じたことがないからな……」
正直弱点らしいものが見当たらないため、自分が本当に吸血鬼の要素があるのかわからなくなる。能力はあるが吸血鬼のものだとはわかりにくいからな。
「トマトジュースが好きなくらいしかないな」
「典型的なギャグマンガのキャラみたいだね」
これも一つのフォーマットだが、これしか思いつかないのはダサいな……
「銀とか試せるような機会もないから、わかりやすいものは今のところないな」
「へぇーじゃあ杭とかはどうなのかな?」
いや、それは殺す時に使うものだろ。可愛い顔と裏腹に意外と物騒な考えも持っているようだ。
「それは流石に試す機会は無いといいな……」
「再生力とかはちょっと気になるなぁ」
羽川に気になる対象にされるのは誇らしいが、実験対象的な目線で見られているのは勘弁してほしい。
「今のところ大きい怪我とかしたことないしなぁ……」
「もしかしたら怪我すると同時に治してるのかもね」
それだとちょっと強すぎる気もするが……まぁ、阿良々木君もうそうだが、ヴァンパイアハーフであるエピソードもかなりの強敵だったようだしな。
「一応、吸血鬼の能力は多少は使えるけど……羽生やしたりとか、血でもの作ったりとかだな」
「霧になったり、魅了したりとかはできないの?」
出来てたらとっくにお前に使っている。いや、流石にそんな汚い方法は願い下げだが、ちょっと気になりはする。
そうして夕暮れが近づくまで、羽川との雑談を楽しんだ。
今の俺は、こうして彼女の話し相手の一人でいい。いつか彼女の中で少しでも安らぐ場所に俺はなりたい。
◆◆◆
あーあ、今までいろんなとこたらい回しにされたり、保護者に叩かれたりしたけど本当に私ってどうしようもない人生を送るんだな……
なんだか眠れなくて夜道を歩くなんて、今日はちょっと変な気分になっていた。
きっと、鬼人君と話したせいだろう。彼といるとなんだか不思議な気分になってしまう。
「こ、こんな夜道を女の子が一人で歩いちゃ、だ、だめだよなぁ……俺にみたいな悪い人につかまっちゃうからなぁ!」
「ヒ、ヒヒヒ……さっきから個性使うそぶりも見せやがられねぇようだが、没個性なのかぁ? でも体の方は……ガキの癖に結構いいじゃねえかよぉ」
よだれを垂らしながら私の体を嘗め回すように見る。きっとこれが初めての犯行なんだろう。緊張から手が震えているし、肩に力が入りすぎている。
きっと私の初めてはこんな薄暗い小屋の中で終わるのだろう。下手すれば命だって……
でも、もう疲れちゃった。
「な、なんだその目は!!! てめぇも俺を、バ、バカにすんのか!!!」
唾を飛ばし、声を荒げる。
「て、てめぇがこんな目に合ってるなんて知ったら、てめぇの親はどう思うだろうなぁ……悲しむのかぁ? ヒヒヒ、あぁ楽しみだなぁ……」
「残念ですけど、それだけはありませんよ。あんな人たちは私のことをどうとも思っていませんから。私がどうなっても、悲しむ人なんていませんから」
誰も私を見てくれる人なんていない。私の頭を優しくなでてくれる人なんて……誰もいない。それなら、このままここで死んでも同じかもしれない。
でも鬼人君と話すの、楽しかったな……あとちょっとだけでも、あんな時間が続いたら良かったなぁ……彼は私がいなくなったら、悲しむのかな……そうだと、嬉しいな。
バンッ!!!!
ドアを蹴り破る音が響く。
「そんな寂しいこというなよ、羽川。お前がいなくなったら、俺は結構悲しいぜ」
そこには、美しい一人の鬼がいた。
肩で息をしながらも、ニヒルに笑う彼の口元からは夜に巣くうものの証が見えていた。