猫の少女に拠り所を   作:ムカサキ

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はざまヒーロー

自分がこの世界に来た理由をたまに考える。意味なんて気っとないし、偶然の産物。下手すりゃ、自分のことを精神異常者なのかと思うことも少なくはなかった。

 

 仮にこの世界がもしも、何かの作品の中だとすればきっとヒーローになることが一つのゴールとなるのだろう。

 しかし、俺は今まで別に誰かを守りたいなんて思ったことは無いし、正義感に満ち溢れる男でもない。ヒーローとは無縁の人生だった。

 

 では、どうして? 

 目覚めた個性から、昔抱いた憧れを思い出してヒーローになることを決意したが、それでもいまいち実感は湧かないし、特訓だって何となくでしていた。妙な使命感に駆られていただけだ。

 でも、その理由がはっきりと分かった。

 

 俺は、羽川翼のヒーローになるためにこの世界に来たんだ。

 運命がそう仕組んだのだと確信した。

 

 

 

 

 

「き、鬼人……君? どうして……」

 

 呆然とした様子の羽川を見る。

 連れ去られるときに負ったであろう傷から流れる血が見える。

 匂いで追ったため、流血したことは分かっていたが、実際に彼女の傷を確認すると怒りで冷静さを忘れそうになる。

 

しかし、

「どうしてもこうしても、お前がピンチの時助けんのは当たり前だろ、委員長が居なきゃ副の俺はどうしたらいいんだよ」

 

 彼女を安心させるためにも、ここは格好つけさせてもらうぜ。

 

「だ、誰だ! てめぇは!!! こ、こいつのオトコか!?」

 

 そいつは嬉しい勘違いだが、てめぇがするんじゃねえよ。

 羽川にいかがわしい真似をしていいのは俺だけだ、ぶち殺すぞ。

 

「黙れ、もう警察に通報済みなんだよ。大人しくしょっぴかれろ」

 

 移動中にすでにやるべきことはやっている。

 それで大人しく捕まってくれるような相手ならいいんだが。

 

「く、くそったれが……テメェもバカにしやがって……てめぇら二人ともぶっ殺してやる!!!」

 

 男は自身の体を猛獣に変え、襲い掛かる。

 狼男と吸血鬼は仲間だと相場が決まっているのだがな。

 

「シネェ!! クソガキガァ!!」

 

「知性の欠片もねえな……ガキだからって舐めてると痛い目見るぜ?」

 

 怒りを通り過ぎて、どこか冷静になった頭で敵を煽る。

 興奮と怒りで涎を巻き散らかしながら獣男は突進してくる。

 死ねだと? 冗談も休み休みにしてほしい。この国に法律がなかったら今すぐぶち殺してやりたいところを……

 

 男の突進は涼し気にかわされ、おまけの後ろ蹴りを喰らい壁へ激突する。

 

「すごい……」

 

 肉体の最適化は視力にも表れるのは緑谷との特訓で分かっている。

 身体能力だけじゃなくて、動体視力も人間の頃とは別物なんだ、こんな奴の突進など当たるほうが難しい。

 にしてもこいつ、緑谷より少し早いぐらいだな。ブラック羽川ならどうとでも出来ると思うのだが……

 

「ウガァアアアア!!! ゼンゼン、キイテネェゼェ!!」

 

 ちっ、獣の個性なだけあってピンピンしてやがる。

 大方、ろくに特訓もしたことのない身体だけは頑丈な半グレ風情か。

 バカみてぇに騒ぎやがって、もうじきヒーローが駆けつけるからヤケになってんのか? 

 ……使うか。

 

「そうかい、じゃあこっちも本格的にやらせてもらうかな」

 

 まだ実践レベルじゃねえがしたかない。

 

 鋭利な爪先で手のひらを切る。

 流れ落ちる血液がこぶし大ほどの血の塊として集まる。

 

 吸血鬼としては半人前な俺では、唯一使い物になる物質創造能力も血液という媒体がなければ使用できないし、大きさだってまだ大したことない。しかし、その分威力と操作性に長ける。

 

「血製『群体』」

 

「ナンダァ? ヒーローキドリカ、クダラネェ!」

 

 うるせぇ、俺だってこんな廚二チックな名前嫌だけど、俺の個性は名前付けすることでなんか操作しやすくなったんだよ。

 名前を付けることによって存在を縛り付けるのは、その存在を確固たるものにする役割もあると考えて、わざわざこんな技名とか言ってんだ。

 

 こぶし大ほどの塊が1㎝ほどの細かい刃となり男を襲う。

 

「グアアア────ッ!!」

 

 目などの急所は外しているが全身を足の指まで切り刻み、相手の血と自分の血が混ざりあい、血の雨が吹き荒れる。

 

 もう十分だろう、浮遊する無数の刃は蒸発し消滅する。

 

 痛みで気絶したようだが、念のため落ちていたロープできつく縛る。

 

 およそ300mlほどの消費か、1時間で元に戻るだろう。

 とにかく、今は羽川の介抱が優先だ。

 

 

 

 

 

「大丈夫か、羽川! ごめん、遅くなった」

 

 きつく縛られた縄を丁寧にほどき、怪我がないか確認する。

 手首にはしっかりと跡が残っており、常人なら音を上げてしまうであろう痛みと苦しさが伝わってくる。

 

「う、うん。まだ何もされてはいないけど……どうしてここに?」

 

 よかった……衣服も破れたり脱がされた様子もないが、それでもわからないからな。

 

「その……適当にブラついてたら羽川が襲われるのが遠巻きに見えてな。個性使って追いかけたんだが、車には追い付けなくてな……血の匂いで追えはしたけど……そういや頭の怪我! 大丈夫なのか!」

 

 もう血も乾き始めた傷のことを思い出す。

 

「ちょっと痛むけど、大丈夫だよ。慣れてるから」

 

「慣れてるって……」

 

 どういうことだ、羽川が肉体的な虐待を振るわれたのは高校生の時の話じゃないのか? 

 

「私も一人で歩いていたせいで襲われちゃってさ。女の子が夜道を歩くのはやっぱり危ないね」

 

 危ないねって……まるで他人事みたいに言うなよ。

 どうして、自分の身を大切にしないんだよ。

 

「死ぬかもしれなかったのに……なんでそんな軽く済ますんだよ」

 

「軽いことだからだよ。私なんて鬼人君が来てくれなかったら、そのまま(ヴィラン)の被害者として名前を連ねるだけだよ」

 

 どこか疲れたように答える羽川はこちらには目を合わせようとしない。

 

 そんな、自分の命を見ず知らずの他人と同じように考えるなよ。

 もっと自分を愛してもいいだろ。

 

「ごめんね・・・意地悪言っちゃた」

 

 感情にブレーキをかけることが出来なかったことを後悔するように俯く。彼女の目は暗いままだ。誰かに愚痴を言ったり、自分の想いなど聞いてもらったことがない羽川は、きっと誰にも当たったりぶつかったことがないのだろう。

 

 今の俺には何ができる。羽川のために、何をしてやれる。

 

「なぁ、羽川。お前にとって俺はなんだ」

 

「何って……同じクラスメイトの副委員長で……友達、だよ」

 

 どうやらそこの共通意識はあったらしい。よかった、これでただのクラスメイトとか言われてたもう何も言えない。

 

「そっか……俺も、羽川がいなくなったら不登校になるくらいには友達のつもりだぜ」

 

 俺の言葉に口を閉じ、少し俯き、そして顔を上げる。

 

「……鬼人君、私の話、少し聞いてもらっても、いいかな。あんまりいい話じゃないんだけどね」

 

 もちろんだ、ゆっくりでいい。誰かに吐き出したくなる時だってあるだろうさ。今の羽川にはそれが一番必要だから。

 

「あぁ、お前の話ならなんだって聞いてやる」

 

 だから、お前の苦痛を俺にも少しは分けてくれ。

 

 

「……私が今住んでる家はさ、初めからそこにいたわけじゃなくて、いろいろたらい回しにされてきたんだ」

 

「私の本当の母親は私が物心がつく前に亡くなっているの。恋多き人らしいから父親が誰かも分からなくて、今の保護者は渋々私を抱えている状態なの」

 ……あぁ、知ってる

 

「だから、私の家はそれぞれがバラバラに暮らしている感じでね、保護者は二人とも私に出て行ってほしいと思ってるんだ」

 

「もう、歩み寄ることが出来るほど、修正が利くような状態じゃなくなっちゃったの。だから、私の家庭は壊れるの分かりきったものなんだ……」

 ……それも知ってる

 

「休日は散歩の日にしてるのも、家に居づらいからなの。あの時、鬼人君とあった時だって」

 

……でも、表面上だけだ。彼女がどんな気持ちでいたのかなんて知らない。俺は何も知らないんだ。

 

 

「でも、あの人たちは悪くないの。私がいると、皆不幸にしちゃうから」

 

そのまま言葉を続けようとする羽川を止めるように、口を開く。

 

「少なくとも、俺は羽川といるのは好きだよ」

 

 だからこそ、分かりたい。羽川翼を理解したい、受け止めたい。俺の頭じゃ無理かもしれないけど、それでも最後まで彼女の味方でいたい。

 

「こら、そんなこと言ったら女の子は勘違いしちゃうんだよ」

 

「そいつは嬉しいね」

 

 イタリア紳士のようにキザで格好つけてな。ちょっとでも彼女の気持ちがやわらげばそれで十分だ。

 

「ごめんね、鬼人君に意地悪しちゃった」

 

「それでいいと思うぜ。辛くなったら誰かにぶつけてやれ」

 

 それが正しいと思うから。一人で抱え込んでも、俺のようにつぶれてしまうだけだ。

 

「ありがとう・・・鬼人君」

 

「どういたしまして」

 

 そのままヒーローが到着するまで話し続けた。薄暗い部屋の中でも彼女の笑顔はとても眩く、綺麗だった。

 

 

 

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