猫の少女に拠り所を   作:ムカサキ

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つばさリバース

中学に入りもう1か月が経とうとしている。

 慣れない学校にドキドキワクワクした感情も消え失せ、小学生の楽しさに想い馳せるものも多くなってきた。

 緑谷も中学に入ってからは勉学の方にも力を入れだし、ヒーロー研究も本格的になり、俺との特訓も一日に2時間あればいいほうになってしまっている。

 かくいう俺も副委員長としての職務を全うするために精一杯になってしまい時間をあまり作ることが出来なくなってしまった。

 個人的には羽川との時間が増えるのは大変ありがたいことなのだが、女に現を抜かして失敗してきた人間は前世で腐るほど知っているからな。バランスも多少は考えねば……

 思い返せば羽川が襲われてからもう1週間が経つのか。

 あの後は警察の事情聴取やら、個性の無断使用と(ヴィラン)と対峙することの危険性をみっちり叱られた。まぁ、一ミリたりとも反省はしてないけどな。羽川が襲われて怒りにストップなんてかけられなかった。

 まぁ、しこたま怒られた後に羽川から「かっこよかったよ」なんて言われてもうデレデレになっていたがな。

 

……悔しいが、いまの俺では羽川の家庭に首を突っ込めるほどの勇気も資格もない。時間が解決してくれるモノではないことくらい分かってはいるが、それでも彼女の根幹となる闇には触れられない。今はせめて、羽川の拠り所の一つになれることを願い、関わることしかできない。臆病者だ。

 

 それに、あの時持った疑問はいまだ聞けずにいた。

 それはブラック羽川についてだ。

 確かにあいつは自我を持ってるし、羽川のストレスに応じて出てくる存在だが、この世界ではあくまでも個性というものなっているはずだ。現に、羽川を探す際に行っていた図書館巡りでも、一応「障り猫」の存在については調べたのだが、そんなものはないということだけが分かった。

 

 一応化け猫自体についても多少はリサーチを重ねたが、結局は「障り猫」のような善良な人間に憑りつくようなものは見当たらなかった。

 

 だからこそ不思議なのが、あいつは羽川の制御下には置かれるが、それはあくまでも発動権限のみで人格制御は不可能というものなのか? 

 しかし、羽川に猫の個性についてズバッと聞くのはちょっと遠慮しちまうんだよな。なんか聞かれたくない雰囲気を毎回出してて……

 

 しかし、ここで羽川が個性を制御できずにいるのは非常に困る。

 物語でもそうだったが、障り猫と羽川の相性は最強だ。いや、正確にはどのような怪異でも羽川の手に掛かればAランクを軽く超えるバケモノになるのだが、それを差し引いてもヤツは強かった。

 専門家であり、3人のヴァンパイアハンターを一人で抑えちまうような奴と20回ほど戦って20回は勝てるくらいに怪物だ。

 だからこそ、あいつの力が借りれないのはもったいなく感じる。

 それに、あいつは今の羽川の唯一の家族になってやれるかもしれない数少ない存在なんだ。変に敬遠するよりも手を取り合うのが一番に決まってる。

 

 というわけで、それとなく聞くことにした。

 

 

 

 

「そういや羽川の個性って結局何なんだ?」

 

 それとなく聞けませんでしたので、もう直球に行くことにする。

 

「あー、前も言ったんだけど私もよくわからなくて……」

 

 こう言って毎回はぐらかすのが、今回ばかりは堪忍してくれよ。

 

「流石に自分の個性を分からないで済ますのは危ないと思うからさ。この前の事件も個性使ってたら何とかなったかもしれないし……」

 

「確かにそうなんだけど、一度発動させたらなかなか制御が利かなくて勝手に暴れちゃうから危険なの」

 

 ふむ、ヤツならありうることだ。しかし、そこはほら仮にも吸血鬼の俺がいるんだ。どんと任せてほしい。

 

「ということは個性を使うと人格変更があるわけだろ」

 

「そうだね、それに……一応記憶は残ってるんだよね」

 

 あー……なるほど道理で使いたがらないわけだ。本来障り猫は本人の記憶には残らないはずだが、ここでは多少仕様が変わっているのだろう。

たぶんあの野郎出るたびに「ニャハハハハハハ────ッ!!!!」って鳴くのだろう。

 常識的な羽川にとっちゃ、そんな個性使うのは結構心労が重なるのだろう。

 

「んー、でもよやっぱりこの個性社会で使えないのは結構きついぜ」

 

「それはわかってるんだけど……」

 

「よし! じゃあこうしよう。俺とその個性使った羽川で会話してみないか?」

 

 まぁ、現状はこれしかない。最悪エナジードレインされて忍野の二の舞になるかもしれないが俺は羽川にはせめて自衛が可能なレベルにはなってもらわないと困る。夜道歩かれるだけで心臓が爆発しそうになるんでな。

 

「で、でも、それじゃ鬼人君が危険だよ」

 

「大丈夫! これでも同年代の中じゃ結構出来るほうだし、それに誰かが矢面には立たないとな」

 

 多少の危険は晒さないとな。

 

「虎穴に入らずんばってやつだ、相手は猫だけどな。さぁ観念して俺に猫耳を見せるのだ」

 

「そ、それが目的じゃないの! も、もう……」

 

 そんな失礼な! 羽川さんの猫耳はもちろん楽しませてもらうが、ちゃんと羽川のことを思っての行動だぞ。

 

「う、うぅ。じゃぁ……放課後でだよ」

 

「あぁ。場所なら任せてくれ、誰にも見つからない場所なら発見済みだからさ」

 

 もちろん場所はいつもの訓練をする場所でだ。

 

「ほ、本当だよね……心配だよ」

 

「まぁ、最悪ぼこぼこにされかねんが、死なないなら問題ない」

 

 これでも生命力には長けてるからな。

 軽いタッチぐらいならちょっときついぐらいだろう。

 

「問題点しか見当たらないよ……」

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 放課後、約束通り雑木林の中にある空き地に来た。

 

「それじゃ、頼むぜ」

 

「う、うん……」

 

 羽川が集中し、念じるようにしていると急激に変化が起きる。

 

 三つ編みで結んでいた髪がはじけるようにロングヘア―になり、真っ白に染まる。

 極めつけは何と言っても猫耳だ。

 そしてゆっくりと目を開けた瞬間、周りの木々に飛び移る。

 

「ニャッハハハハハ────ッ!!! 久しぶりに出てこれたニャー!!」

 

 本人談の通り、なかなか出てくる機会がなかったのだろう。はしゃぎまわり今までのなまった体を戻そうとするように動き回る。

 

「ご主人も結構ひどいニャ、これでも真摯に向き会おうとしてるってのによ」

 

 な、なんだと? 暴れまわって迷惑をかけたんじゃないのか? 

 いや、もしかすると羽川はその変化を嫌うあまり彼女と対話をしてこなかったのだろう。

 思い出してみると、ブラック羽川はもとより羽川に多少なりとも協力的だったはずだ。

 

「ん? お前、確かご主人が襲われたときに来た男かニャ?」

 

 動き回るのをやめ俺を注視するブラック羽川。

 

「あ、あぁ、一応記憶にはあると思うが、改めて鬼人狭間だ」

 

 挨拶をしようとして思わず手を出す。

 

「あー、ご主人のヤツ俺の設定を知らないのかニャ」

 

 まぁいいニャ、と俺の手を掴む。

 

「あぐっ!」

 

 急激に力が抜け、体のエネルギーを吸い取られる感覚を味わう。

 

「ま、これがオレの設定だニャ」

 

 何の説明もなしに、いきなりエナジードレインをかましやがる。

 まぁ、これも通過儀礼の一つだ。

 

「わかったかニャ? これからは気安く触ろうとするんじゃにゃい」

 

 OK、肝に銘じる。

 

「あ、あぁ。そいつは了承するが、こっちもいろいろ話が合ってな。付き合っては貰えないか?」

 

「あー、別にいいニャよ。ご主人から多少は見ていたからニャ」

 

 え、結構ひと悶着あると思っていたのだが……

 

「ま、お前はご主人を助けたからニャ、変に邪険にはしにゃいニャ。それに、オレもご主人にはもっとオレを使いこなしてほしいからニャ」

 

 そのやけに協力的な態度に少し怪しむ。

 しかし、化け猫はその不安を取り除くように語りだす。

 個性が「化け猫」が生まれたときからそれは遡る。

 

 

 

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