猫の少女に拠り所を   作:ムカサキ

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はざまセンス

ブラック羽川が羽川翼にとっての味方であり、ともに戦おうとしてくれる存在だと分かった以上、やらないければならないことがある。

 

 制御? それは後回しでも問題ない。奴曰く羽川の頭脳も持ち合わせているそうだから、レベルは多少下がるがそれでも戦闘に支障はきたさないものらしい。そのため訓練などはもっと羽川とブラック羽川の距離が縮まってからだ。

 

 そのやらなければならないことは、名前付けだ。

 

 今まで散々ヤツのことをブラック羽川だの言ってきたが、それはあくまでも俺にとってヤツはブラック羽川というだけのことであり、厳密にはヤツは名前がない。

 この世界には障り猫も存在しないし、かといって奴をただの猫の個性と呼ぶのはあまりにもひどすぎる。あいつはあいつなりに羽川の家族であろうとしてるんだ。

 

 となると一体どんな名前になるかだが、結局は羽川が決めることだからな……

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

「なぁ、羽川。結局アイツとはうまくやれてるのか?」

 

「あの子のこと? そうだね、最近はたまには使って手紙で会話したりしてるよ」

 

 放課後、雑務をこなしつついつものように雑談をする中、気になっていたことを聞く。

 関係性はどうやら良好のようだ。定期的に出しているため暴れまわったりもしないようだ。良かった良かった。

 

「手紙?記憶自体は見れるじゃないのか?」

 

「見れるとは言っても忘れかけそうなことを思い出すっていう感じかな・・・まぁ、一番はそれじゃ味気ないでしょ?」

 

なるほど、理解。

 

「そっか、ところで羽川一つ思ったんだが……いいか?」

 

「うん、どうしたの?」

 

 本題へ切り出す。

 

「俺達はあいつのことを「あの子」とかで読んでるけどさ、名前とか決めてないのか? どうも呼びづらくて……」

 

 たまにブラック羽川って言いそうになっちまうからな。

 

「あ、考えてみるとそうだね。せっかくお話しできるようになったのにそれじゃ寂しいかな」

 

「そうだろ? それにアイツもいつまでも名無しが可哀想だろ。ここは一つ名前でも付けてみないか?」

 

 これが結構重要なのだ。前にも言ったが名前付けとは言わば存在を縛り付ける。存在を確定させるものだ。この世界にもその通説が通じるのかは知らないが、少なくとも羽川の中であいつが確固たるものになるのは間違いないだろう。

 

「うーん……私ってそういうのが苦手だからなぁ、今までおままごとなんてしたことないから名前を付ける経験ってないんだよ」

 

 それは俺も薄々感じていた。そもそも羽川が何かに名前を付けるのは学者的な名づけしか思い浮かばない。

 

「しかしなぁ、適当につけるのもダメだしな」

 

「……決めた! 鬼人君に付けてほしいな」

 

 へっ? 

 

「お、俺? どうしてまた」

 

 ホントにどうしてだ。

 

「だってさ鬼人君って技名つけてたでしょ、あれって数ある内の一つみたいなネーミングだったし、他にもいっぱい名前つけたりしてないの?」

 

「い、一応そうだけど……」

 

 は、恥ずかしいぃ。いざ自分が必殺技を叫んでるのを見られて、それを指摘されるのってこんなにも苦しいことなのか……羽川の猫耳をいじったのを根に持っているのか? 

 

「そうでしょ、だったら私よりもノウハウはきっとあるだろうし……それに鬼人君が決めた名前で私はあの子を呼んであげたいな」

 

 ちょっぴり照れてそう言う彼女はお下げをくるくるといじる。

 か、かわいい……

 

「そ、それなら仕方ないな! 羽川の頼みを断るのは体が拒絶して出来ないからな、考えるよ」

 

「あ、ありがと」

 

 こういう時に「ごめんね」じゃなくて「ありがとう」が言えるって結構凄いよな。日本人気質の俺だとなんか謝ってしまう。

 じゃなくて……名前か。いざ付けてみろとなると、全くだが思い浮かばない。

 

 とりあえず取っ掛かりでいろいろ考えてみるが、アイツのことを「ミー」だの「シャミ」みたいな名前になられても、なんかコレジャナイ感が半端ない。

 人名っぽくしようにも、怪異という前提が頭から抜けず、心の中で決めた前提条件もあってか、納得のいくものは思いつかない。

 

 ……20分ほどが経った。もうそろそろ帰らなくてはならない。

 

「今のところはまだ思いつかないな……」

 

「無理言ってごめんね。やっぱり私が考えるよ」

 

「いや! それは俺のプライドが許さない。大丈夫バッチシなの考えてくるからよ」

 

 そう大見得切って別れたが、帰宅しておよそ1時間ほど考えるが思いつかない。

 

 どうしたものか……

 

 

 

 

 翌日の放課後

 

「悪いなもったいぶってさ。結構理由だったりもあって説明に時間がかかるとおもってよ」

 

「全然いいよ。あー気になるなー。いったいどんないい名前なんだろうなぁ」

 

 ハ、ハードル上げますねぇ。

 しかし、そこは問題ない。胸張って誇れるいい名前だ。

 

「じゃ、とりあえず名前から……「ブラック羽川」なんてのはどうだ?」

 

「ブラック……羽川」

 

 なんだ? 実年齢40間近のおっさんが一晩考えて使いまわしなのかだって? 

 いいんだよ、どこまで考えても結局は俺にとってあいつはブラック羽川という結論に至った。

 

「アイツってさ表面上じゃ羽川とは全然似ても似つかない、白と黒みたいな真逆な性格だろ」

 

 これはあくまで俺がそう感じただけだが。

 

「でも、根の方は羽川を感じるとこがあって……それに、羽川のことを家族だと思ってるからさ」

 

 だから、あいつにも羽川の姓をつけてやりたかった。ハーフの人っぽさはあるけどな。

 

「だからさ、羽川にとっての本当の家族になってほしくて、名字からとったんだけど……どうかな?」

 

「……凄くいい名前だと思う。そっかこの子は私の家族なんだよね」

 

 あぁ、紛れもないお前の家族でお前の味方だ。

 

「うん。決めたよ、ブラック羽川。今日からこの子はブラック羽川にする」

 

 その瞬間、羽川に急激な変化が訪れる。

 

「ブラック羽川か! ご主人が考えたにゃまえじゃねえのは残念だが、悪くねえにゃ」

 

「なっ、お前、勝手に出れるようになったのか!」

 

 急に出てきたブラック羽川に驚き、思わず後ろに倒れる。

 

「んにゃ? どういうことだニャ? にゃんでオレが出てきてんだ?」

 

 自分でも分かってないのか? 

 となると思い当たる節は一つしかない。

 

「恐らくだけど、名前付けしたことでお前という存在が「ブラック羽川」として確立されて、結構権限とかが強くなったんじゃねえのか?」

 

「ふむぅん、にゃるほど……うん、そいつは良いことだにゃ!」

 

 いや、勝手に動かれるのはそれはそれでまずいのだが、特にお前の場合誰かに触るだけでエナジードレインが起きてしまうし。

 

「にゃんだぁ? その心配そうにゃ顔は、オレが勝手に出てこれるってことはオレの判断でご主人を危機から助けれる可能性が増えるんだぜ。良いことだらけだろ」

 

「た、確かにそうだが……」

 

 お前が勝手に出てきて彼女の印象が下がるのもそれはそれで怖いが。

 

「ま、ここらで戻っといてやるかニャ、ご主人が戻りたいそうだニャ」

 

 そりゃそうだろ。ここ学校だぞ。

 白髪は美しい黒髪に戻り、猫耳も消え去る。うーむ、羽川のままで猫耳が生えないものか……

 

「も、もう、誰かに見られてたら危ないよぉ」

 

「ま、まぁまぁ、アイツも生まれて10年でようやく名前を貰えたんだ。嬉しかったんだろ」

 

「そ、それならしょうがないかな……それに凄く喜んでたしね」

 

 ありがたい限りだよ。まぁ、ただの流用でしかないがこれでも結構考えぬいてのものだ。

 

 これを機に羽川もブラック羽川をもっと信頼してほしい。心の拠り所はいくつあってもいいもんだからな。

 羽川の前から消えることは多分ありえないが、それでも羽川の味方になってくれたことをより実感してほしい。

 

 

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