俺の家は牧場を経営している。
牧場と一概にいっても、牛や羊など取り扱う家畜は様々だが。そんな中でもウチは競走馬、いわゆるサラブレッドの生産を主としていた。
とはいえ、牧場で繋養している繁殖牝馬は僅か三頭。しかもどれも十五歳以上の高齢に差しかかっている。
なんの取り繕いもなくいってしまえば、ウチはごくごく小規模な牧場だ。
祖父の代から創設され、今は父が引き継いでいるが、設備は祖父が生きていた頃とほぼほぼ同じ。ただ手入れは行き届いている。そこだけが自慢だ。
普段から父親は馬の世話を欠かさずしている。馬は可愛いとよく口にしているが、どうやったらあんなに愛情を注げるのだか。
俺の母親、父親にとっての伴侶がいなくなってからだ。以前からも父は馬を溺愛していたが、母と喧嘩別れしてからは一層馬に尽くすようになっていった。
馬の世話や馬房の掃除をたびたび手伝わせてもらうがその際でも父は馬を溺愛している。息子の俺も愛してくれているのだろうが、このイチャつき具合を見せつけられると少し胸が痛む。
正直、父に世話をされる馬を目にするたび、羨ましいと思えてしまう。
その感情がどうしようもないくらい傲慢だということはわかっている。ぶつけられる相手が可哀想だ。
だから俺はそっと胸にしまい込んだ。父を父でないと思い込んで、接することにした。
最初はどす黒い感情が胸の内で渦巻きそうになったが、今ではすっかり慣れてしまった。
自分の本心を忘れ、牧場を手伝うようになっていった。心そのものが機械と化したようだ。
感情を持たないロボットのようになって、ある日。
牧場に、一頭の栗毛馬を迎えることとなった。
なんでも大レースを勝った馬だという。しかし種牡馬失格となり繋養先が見つからなかったのだが、父親が引き受けを名乗り出たため、この牧場に来たのだと。
最初は興味なさげに小耳に挟むぐらいだったが、そうもいかなくなってしまった。
「すまんが、新しく入る馬の世話を頼めるか?」
父から投げかけられた言葉に、ただただ機械的に承諾の意を返す。
いったいどういう馬なのだろうか。気性が荒すぎなければいいのだが……。
「ああ、そうだ。引退馬の名前も教えとかなきゃな。名前は……」
――ハードバージ、皐月賞を勝った馬だからな。
父は真っ白な歯を剥き出しにして笑いかける。
俺の気持ちも知らないで。
だけれど、今になって前世の父に感謝するようになるとは、この時はまだ思いもしなかった。
ハードバージと俺の縁は、ここから結びついたのだ。
とりあえずプロットは書いてあるから大丈夫なはず……。