わらしべ長者で宇宙海賊 【旧版】   作:岸若まみず

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第10話 暗闇と猫と気合いビンタ

俺達に物資輸送の依頼をしてくれた阿武隈さんのパーティへの補給予定日。

 

ダンジョンの入り口周りは物々しい雰囲気となっていた。

 

 

「中と連絡は?」

 

「そもそも崩落でWi-Fiが生きてるのかどうかもわかりません」

 

「他の全組合員の確認取れました。取り残されてるのは『恵比寿針鼠』と『伊藤猟兵団』の二組です」

 

「賞金首を追って奥まで行ってた連中か……」

 

 

管理組合(ギルド)の職員たちが深刻そうな顔で頭を突き合わせて話し合い、冒険者達は装備をつけたままダンジョンの入り口を睨んでいる。

 

 

「調達屋!」

 

 

そんな常ならぬ雰囲気に俺がおろおろしていると、珍しくバラクラバを外した素顔の気無(きなし)さんに呼び止められた。

 

 

「気無さん、これは一体……」

 

「なんかあった~?」

 

「お前ら今日は中入るな、焼死体が追加で五つ出た。しかも運び出した後に地震で崩落が起きて恵比寿の連中と伊藤んとこが取り残されてる」

 

「えっ! ヤバいじゃないですか!」

 

「やべーんだよ、中にいるのはただの火吹きトカゲ(サラマンダー)じゃないって話も出てる。このまま入り口を発破とコンクリで塞いで東三(とうさん)封鎖の可能性もある」

 

「じゃあ中の阿武隈さん達はどうなるんですか?」

 

「今生きてるかどうかもわかんねぇよ。たしか前に長野で同じような事があった時は結局四パーティが全滅して……」

 

 

気無さんの言葉に、嫌な想像が脳裏によぎった。

 

心臓がバクバクと早鐘を打ち、踵から背中にかけて水でも垂らされたかのように悪寒が走る。

 

一昨日握手したあの人達が……全滅?

 

にっと前歯を見せる阿武隈さんの笑顔が脳裏に浮かび、がっしりと硬かった掌の感覚が震える手の先蘇ったような気がした。

 

 

「トンボ?」

 

 

抱っこ紐の中のマーズが、気遣わしげにこちらを見ながら俺の腹をトンと叩いた。

 

真冬なのに、首筋を汗が落ちる。

 

少しだけ気持ちが落ち着いてきた。

 

そうだよな。

 

まだ死んだってわけじゃない。

 

 

「あん時は結局誰も中に行けなくてな。とにかく雪がひどくて救急車も……」

 

 

気無さんの話を聞き流しながら、俺はギリギリのソロバンを弾いていた。

 

落石は最悪、バリアでなんとかなる。

 

落ちてる岩も収納できる。

 

ビームだって無効化できるバリアだ、竜の炎だって多分大丈夫だろう。

 

一つ一つ自分のできる事を数え、ゆっくりと息を吐き出した。

 

そうして気づいた、おそらく自分にしか彼女達を助けに行けないという事実。

 

それが胸の中のもやもやに方向性を与えた事を、はっきりと自覚した。

 

きっと、やってもやらなくても後悔するに違いない。

 

ならば、やってみてもいいはずだ。

 

俺は震える前歯で下唇を噛みしめ、正しいかどうかわからない決断を下したのだった。

 

 

「気無さん。俺、中に行ってきます……実は今日、補給の約束をしてたんで……」

 

「馬鹿野郎! 引っ張られるな!」

 

 

バン! と凄い音がして、気無さんのデカくて硬い掌による張り手が俺の左頬に入った。

 

まだバリアを張っていなかったから、モロに食らって頭がクラクラした。

 

 

「お前にできることなんかない、冷静になれ!」

 

 

子供の頃以来久々に受けた張り手の効果だろうか、急速に脳みそに血が回ってきた気がする。

 

 

「いや、俺岩とか収納できるんで奥まで行けるんですよ」

 

「バリアもあるしね~」

 

「あ、そういやそうか。でも危ねぇぞ!」

 

「あのでも、俺ここで行かなきゃ一生引きずる気がして……」

 

 

そう言いながら顎をカクカク動かす俺を見て、気無さんは不思議そうな顔をした。

 

 

「どうした?」

 

「いや、歯がぐらぐらしてる気がして……」

 

「お前も冒険者ならちったぁ鍛えろ! 生きて帰ってきたらだけどな……」

 

「はい!」

 

「組合には俺が説明してきてやる、行くんなら準備しろ!」

 

 

気無さんは俺の肩をバンと叩いてから、すぐに組合職員の元に向かっていった。

 

 

 

 

 

「いいですか? 十キロ地点の広間(Aベース)まで行ったら必ず連絡してくださいよ! 連絡がなければ助けには行けませんから!」

 

「わ、わかりましたっ!」

 

 

組合職員から手渡されたごつい無線機をジャケットの胸ポケットに入れ、俺は何度も何度も頷いた。

 

ジャケットのポケットは冒険者達から受け取った食べ物やLEDライト付きの笛、安産祈願のお守りなんかの餞別でパンパンになっていた。

 

 

「調達屋! 無理すんな! 絶対帰ってこいよ!」

 

「戻ったらいいとこ連れてってやるから絶対死ぬなよ!」

 

「飯田達と伊藤達を頼むぞ!!」

 

 

皆の顔を見回して、何かを言おうとして言えず、俺はダンジョンへと足を踏み入れた。

 

いつもと違う、砂埃混じりの空気。

 

いつもと違う、光源のない真っ暗闇。

 

銀河警察の生体維持装置の暗視モードもエコーロケーションモードもオンにして。

 

ここに初めて入った日のようにガチガチに首を強張らせて、俺は進んだ。

 

 

「マーズ、良かったの?」

 

「んー? 何が?」

 

 

マーズは、俺に行けとも行くなとも言わなかった。

 

でも俺に「下ろしてくれ」とも言わなかったのだ。

 

 

「死ぬかもしれないんだよ」

 

「死ぬかもしれないなんて、船に乗ってりゃ当たり前だよ。海賊の艦砲射撃食らったら全員一緒に次の人生なんだもん」

 

 

それに……と、彼は続けた。

 

 

「ここ、まだ修羅場じゃないから。全然ビビる必要ないよ」

 

 

闇の中で腹に感じる暖かさの中で、彼がくあっとあくびをしたのを感じた。

 

 

 

 

探索は順調に進んだ。

 

暗視モードは優秀で、ヘッドホンのような生体維持装置から発生したヘルメットのシールドのような力場に画像が投影され、洞窟内がまるで昼間のような明るさで見える。

 

天井や壁の崩落で通路を埋め尽くすほどに積みあがった岩も、最初はえっちらおっちら収納していたのだが、途中からコツが掴めてきて掃除機で吸うようにスムーズに収納できるようになっていた。

 

 

「だいぶ慣れた?」

 

「あんだけの量をやりゃあね」

 

 

大きな崩落は入り口から少し行った場所だけで、幸いな事にそこから先は順調に進むことができていた。

 

積もったものはどかせるけど、地面がなくなってたら進めなかったからな。

 

崩落の影響か魔物の姿も全く見えず、いつもより進むのが楽なぐらいだ。

 

そんな道を五キロほど進んだところで、その声は聞こえてきた。

 

 

「ぉぉぃ……ぉぉーぃ」

 

「なんか聞こえた?」

 

「聞こえたね」

 

「誰かいますかーっ!」

 

「っち……こっち……」

 

 

LEDランタンを取り出し、光を灯しながら近づくと地面には男性が倒れていた。

 

 

「大丈夫ですか!?」

 

「あ……調達屋か……助かった、助かった……」

 

 

倒れていたのは、伊藤猟兵団のメンバーの一人だった。

 

 

「他の方は?」

 

「うちの団は俺以外全滅だ……すんげぇ火にやられて……俺は一番後ろにいたから炭にならずにすんで……そうだ、俺は……俺だけ……」

 

「歩けますか?」

 

「だめだ……暗くてもう、どこにいるのかわからなくて……」

 

 

俺は彼の前にLEDランタンをごとりと置き、その隣に水とブロック食品を置いた。

 

 

「いいですか、あっちに向かえば外に出られます。救援も呼びますので」

 

「頼む……連れてってくれ……もうダメなんだ……」

 

「他にも人がいるんですよ!」

 

 

俺は足を掴む手を振り払い、無線に『五キロ地点に生存者あり。崩落は解消。先へ進みます』と送信して奥へと進んだ。

 

背中からは「頼む……待って……」というか細い声が投げかけられ。

 

無線機からは『一旦戻れ!』という割れた声が響いていた。

 

俺は全てを振り切って、真っ暗闇の中を前に進んだ。

 

これ以上怯えに足を取られないように、足早に進んだ。

 

 

 

十キロ地点のいつもの広間は、その半分ほどが崩落で埋まっていた。

 

嫌な想像が頭に浮かび、矢も楯もたまらずに叫んだ。

 

 

「誰かいませんかー!?」

 

 

問いかけに返事はない。

 

俺の声だけが暗闇に木霊していた。

 

 

「ちょっと待ってね、生体サーチしてみるから」

 

「え? そんなんできるの?」

 

「警察用だからね~生体維持装置って最後に残る装備だから基本的に多機能なんだ。これだけで宇宙空間に放り出されてもある程度耐えれるぐらいだし」

 

 

俺の両手を足場にしながら、マーズは軽い調子でそんな事を言ってヘッドホン型の生体維持装置を操作する。

 

ヘルメットのバイザーのような力場にピコピコと光る点ができ、その横に読めない文字が浮かび上がった。

 

 

「この部屋は人間大の生体反応なし、虫とかネズミぐらいかな。人間ならもっと大きな点が出るはず」

 

 

俺はホッとして胸を撫でおろした。

 

 

「それ、ここから先ずっとオンにしといてよ」

 

「別にいいけど、死体はサーチできないんだからあんま深入りしないでね」

 

 

マーズの言葉に、俺はこくりと頷いた。

 

広間を進むと、ちょうど俺たちがいつも陣取っていた場所が岩で潰されているのが見える。

 

 

「ありゃ、こりゃ~えらい事になってるね」

 

「もうちょっと崩壊が遅ければ俺達も生き埋めだったかな?」

 

「バリアがあるから大丈夫だったんじゃない?」

 

 

それはそれで悪目立ちしたような気もするけど……

 

まあ、悪目立ちなんてのは今更か。

 

俺は無線機を取り出し『Aベース人なし、奥へ進む』と送信をした。

 

ノイズ混じりの返信は、事前に組合に報告されていた阿武隈さんチームのキャンプの場所を伝えていた。

 

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