わらしべ長者で宇宙海賊 【旧版】   作:岸若まみず

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第12話 鱗と猫と力場神拳

『Aベース、要救護者四名、うち一人意識なしです! あと奥からなんかヤバいのが来てますよ!』

 

『こちら気無(きなし)だ! いいか調達屋! これからうちと雁木(がんぎ)のとこで組合の救護部を護衛しながらダイブする! 恵比寿の連中は安全な所に移送したらあんま動かすな!』

 

『はいっ!』

 

『奥から来るやつに追いつかれたら恵比寿の女達放って全力で逃げろ! お前はやる事やった! 冷静になれよ! ヤケにはなるな!』

 

 

俺は広間(Aベース)に移送し終わった阿武隈さん達の前に預かっていたコンテナ類を出し、その隣にスポーツドリンクや携行食を置いた。

 

ダンジョンの奥からやって来ているヤバい奴は、もうすぐそこまで近づいてきていた。

 

 

「救援は来ます、気を強く持ってください。皆さんの荷物は置いておきますので、もし余裕があれば身支度を」

 

 

Aベースからダンジョンの奥へと続く通路に向かう俺の背中に、誰かが言葉をかけた気がしたが振り向かなかった。

 

いや、振り向けなかったのかもしれない。

 

ちょっとでも躊躇えば、俺のちっちゃい器に入った勇気は全部こぼれてしまいそうだったから。

 

 

「行くの? 多分こっからは修羅場だよ?」

 

「マーズ、言ってたじゃん……」

 

 

俺はぽつりぽつりと呟くように言いながら、ジャンクヤードに入っていた岩でAベースへの通路をぴったりと埋め直した。

 

 

「男には、命の張り時があるって……」

 

「言ったけどさ、あの時とは状況が違うよ。今度は本当に命がけだ。力場(バリア)だって絶対じゃないんだからね」

 

「……自分とは関係ない人達のために命張ってさ、死んじゃったら馬鹿かな?」

 

「いいんじゃない? いかにも冒険者っぽくてさ」

 

 

マーズは抱っこ紐から俺の肩へと軽やかに飛び移り、ヘッドセットに取り付いた。

 

 

「力場強度のモニタリングはしててあげるから、やってみなよ」

 

「……心強いよ、ほんとにさ」

 

 

俺はジャンクヤードから缶ジュースを取り出して、手の中でシェイクした。

 

カシュッと軽い音を立てて銃へと変形したそれを構え、闇の中を進んだ。

 

 

 

 

最初、俺はそれを陽の光だと勘違いした。

 

別の出入り口にたどり着いて、ダンジョンを抜けてしまったのだと思ったのだ。

 

しかし、通路を真っ白に染め上げるそれに全身を包まれてはじめて、俺は自分がドラゴンのブレスの中にいると理解したのだった。

 

 

「うわーっ!!」

 

「トンボ、バリアは大丈夫だから! 落ち着いて頭を狙って撃って!」

 

 

それは神話の世界から抜け出してきたような(ドラゴン)だった。

 

途方もなくデカくて、チビるほど怖くて、目を離せないほど美しかった。

 

ダンジョンの天井を削るぐらいの巨体には、俺の掌ほどもある真緑の鱗をびっしりと纏い、人を丸呑みにできそうなほどの口の端からは白い炎がチロチロと漏れている。

 

そいつは俺を値踏みするように、口から漏れる炎で煌めく瞳をこちらに向けていた。

 

 

「撃って撃って撃って!」

 

「あああああっ!!」

 

 

俺が思いっきり銃の引き金を引くと、ヴァオン!! と唸り声のような音が上がり、竜の眉間に小さな穴が開いた。

 

銃が発する音と振動が大きくなるにつれて、その穴がどんどん大きくなっていく。

 

 

「トンボ! 引き金離して!」

 

「あっ! あっ! そっか!」

 

俺が引き金を離すと、銃の音と振動がぴたりと止まり、額から血を吹き散らす竜の首が力なく地面に落ちた。

 

 

「やった!? やったか!? やったよな!?」

 

「やったよ」

 

「良かった……」

 

 

俺は脱力し、へろへろと地面に座り込んだ。

 

いつ漏らしたのかもわからない小便で濡れたズボンを気にもとめず、俺は地面に突っ伏した。

 

 

「マジで死ぬかと思った、マジで死ぬかと思ったって」

 

「まああれはビビるよ……あれ? トンボ……? トンボ! 顔上げて!」

 

 

肩に鋭い痛みが走った。

 

マーズが爪を立てたのだ。

 

 

「え……? マジ!?」

 

 

ビデオの巻き戻しのように、今穴を開けたはずの竜の頭に肉が盛り上がっていた。

 

むくりと頭が持ち上がる。

 

それが地面から完全に離れる頃には、真っ赤な血に塗れた額にはもうすでに緑の鱗までもが生え揃っていた……

 

 

「再生するのかぁ……トンボ、これ頭落とさなきゃ駄目だ」

 

「やべっ! やべっ! やべっ!」

 

 

俺があたふたと銃を構え直すのと、二度目のブレスが来るのはほとんど同時だった。

 

 

「落ち着いて! ブレスでバリアは破れないから! まず深呼吸」

 

「はあーっ! ふうーっ!」

 

 

俺が力いっぱい深呼吸をしていると、急にブレスが晴れてドラゴンの顔が現れた。

 

打ち止めか? と思ったが、ちょっと視線を下げると俺の腹には真っ白なブレスが吹き付けられ続けているのが見える。

 

どういうこと?

 

 

「やばい! ブレスが収束し始めてる!!」

 

「えっ!?」

 

 

ボオオオオオッ!と低く鳴り続けていたブレスの音が、徐々に耳に痛い高音へと変わっていく。

 

ヘッドホン型の生体維持装置から、ビーッ! ビーッ! とアラート音が鳴り始める。

 

 

()けて! 避けて避けて! このままじゃ力場が飽和する!!」

 

「え? あ? うわああああああああっ!!」

 

 

パニックになった俺は、避ける事も銃を撃つ事もできなかった。

 

ただ手を体の前でクロスして、竜の顔へと突っ込んだ。

 

バッキィィィン! と音が鳴り、バリアに跳ね飛ばされた竜の首が跳ね上がる。

 

耳をつんざくような爆音の後に、収束ブレスに破壊された天井から岩がめちゃくちゃに降ってきて俺の後ろの通路へと降り注いだ。

 

 

「どうしよどうしよどうしよーっ!」

 

「とにかくブレスを吐かせないで!」

 

「えっと、頭を狙って、頭を狙って……」

 

「何でもいいから撃っちゃえよ!」

 

 

しかし俺が銃を構えて竜の方を向くと、そこに竜の頭はなく……

 

その代わりに地すべりのような轟音と共に、竜の尻尾が削り取った岩壁と共に叩きつけられた。

 

再びバッキィィィン! と音が鳴り、竜の尻尾は地面を削りながら元の場所へと戻っていく。

 

怒りに狂った竜は目にも留まらぬ速度で無茶苦茶に暴れまわり、奴が壁や床に体を叩きつけるたびに地面は揺れまくり、俺は立っているのもやっとの状況だった。

 

ダンジョンはどんどん削り取られ、壁や天井には亀裂が入って崩落し、見るも無惨な姿に変わっていく。

 

やはり、今日の崩落はこの竜が原因だったのだろう。

 

 

「トンボ、ブレスだ!」

 

「あっ! やべっ!」

 

 

真っ白に光る口からブレスを吐こうとする竜に身を屈めながら走り寄り、俺はまたバリア体当たりで相手の体勢を崩す。

 

ブレスを邪魔された竜は俺に噛みつこうとするが、バリアに阻まれて後ずさった。

 

 

「やばい! 怖いよ!」

 

「吐かれる方が怖いでしょ!」

 

「撃つよ!」

 

「撃ちまくって!」

 

 

俺は竜の頭に向かって引き金を引くが、なんと竜は首や体をかわして致命傷を避け始めた。

 

撃てば穴は開くのだが、高すぎる再生能力のせいで開ける端から再生されてしまうのだ。

 

 

「一旦退却……」

 

「無理だよ! 後ろは岩で塞がってる!」

 

 

後退は不可能。

 

かといって竜の脇を抜けて逃げようにも、竜の向こう側も落石で埋まってしまっているようだった。

 

 

「こんなとこで生き埋めで窒息死は洒落になんないよ!」

 

「窒息しない! 生体維持装置は宇宙空間でも耐えられるって言ったろ!」

 

「じゃあ竜が窒息するのを待てば……」

 

「何時間かかるのさ!」

 

 

ん? その手があったか!

 

こっちは窒息しても死なない、竜は死ぬ。

 

ならさっさと空気をなくしちゃえばいいんだ。

 

 

「マーズ! 酸素をなくして!」

 

 

俺はジャンクヤードから空気清浄機代わりに使っていた空気組成変換器を取り出すと、マーズは大きく目を見開いた。

 

 

「その手があったか! フルパワーで酸素を窒素に変換! 力場の中で変換してたら僕らまで窒息しちゃうから、これは地面に置いて壊されないように守って!」

 

「了解!!」

 

 

マーズが設定を変えてくれた空気清浄機を地面に置いて、俺は竜と向かい合う。

 

もう音としても聞き取れない、足元の小石を吹き飛ばすような咆哮を放ち、竜は首を鞭のようにしならせて俺のバリアを打つ。

 

 

「くの! くの!」

 

 

バリアで弾きながら銃でバシバシと竜の体を撃って、なんとか時間を引き伸ばしていく。

 

それでもじりじりと竜がこちらににじり寄って来るので、俺は銃をジャンクヤードにしまい、両手に黄色い力場伝導布をぐるぐると巻き付けた。

 

 

「来るなら来い!」

 

 

竜の噛みつきを力場(バリア)パンチで跳ね返し、ブレスを吐こうと開いた口を力場アッパーで閉めさせる。

 

一度も攻撃は喰らっていないはずなのに、アドレナリン全開で力いっぱい動いたせいか体中の筋が痛かった。

 

 

「酸素濃度低下してきてるよ!」

 

「よし! よし! よし!」

 

 

もう竜の口の端から、白い炎は出ていなかった。

 

酸欠のせいか巨体はフラフラと揺れ、(つるぎ)のような牙の並ぶ口はパクパクと力なく開閉するだけだ。

 

クルッと、後ろを向こうとした途中の姿で竜は倒れた。

 

尋常ならざる再生力を持っていても、ない物(さんそ)を取り込む事はできなかったようだ。

 

俺は少し離れたところからその最後を見守り、そっとその躯をジャンクヤードの中に収納したのだった。

 

 

 

 

 

帰り道は行きと比べればとんでもない時間がかかった。

 

竜が暴れて道を崩落させまくった影響もあり、更に俺達自身がはじめて足を踏み入れた領域という事もあり、方位磁石を使っても迷いまくってしまったのだ。

 

頼みの綱の無線機もバリア体当たりをした時に落としてしまっていたようで、岩の下敷きになって壊れてしまっていた。

 

そのせいで俺達は朝七時に入ったダンジョンを、夜中の三時になってようやく脱出しようとしていた。

 

今日はさんざんな日だった。

 

バイトも休んじゃったしな。

 

まあでも、Aベースにいた四人は引き上げられた後だったので、奮闘が無駄にならなかったのは良かったかな。

 

 

「しかし、戻ったら入り口コンクリで完全に埋められてたりしてな」

 

「コンクリは竜みたいに再生しないからゆっくり銃で壊せばいいよ。それよりトンボ……大丈夫? ちゃんとシナリオ覚えてる?」

 

「大丈夫だって、竜はめちゃくちゃに暴れて奥に消えたって事にするんでしょ?」

 

「あんなん二人で倒せたなんて話になったら大変だよ。僕らが化け物扱いされちゃうよ」

 

 

俺だって悪目立ちはしたくない。

 

いや、もう悪目立ちしまくってるんだけど……これ以上はごめんだ。

 

英雄になりたくてやったわけじゃないし、英雄がろくな死に方をしないって事も知ってる。

 

俺はやるべき事をやった。

 

それだけでいいんだ。

 

 

「あ、なんだ良かった、開いてるじゃん」

 

 

ダンジョンの入口は普段夜間は閉められている鉄門も開けっ放しで、外から中を照らしてくれているようだった。

 

 

「外からライトで照らしてくれてるね。誰か残っててくれたんだ」

 

「なんか申し訳ないね、こんな夜中まで」

 

 

俺は生体維持装置の暗視モードとバリアを切り、光源をLEDランタンに切り替えた。

 

外に出てみると、入り口を照らす投光器の横にはモコモコのダウンを着た組合の警備員さんが一人、スマホを弄りながら椅子に座っていた。

 

 

「あ、お疲れ様でーす」

 

「でーす」

 

 

警備員さんはちらっとこっちを見て挨拶を返し、またスマホに視線を戻し、もう一度こっちを見た。

 

 

「……って! あんた帰ってきたの!?」

 

「すいません遅くなりまして、お手数をおかけしてしまったようで……」

 

「そういう問題じゃないって! 本部! 本部ーっ! 川島パーティ帰還!!」

 

 

職員さんが無線に向かってそう怒鳴ると、ダンジョンの隣にある管理組合の建物から大量の人が飛び出てきた。

 

バラクラバの気無さんのパーティに、二本差しの雁木さんのパーティ、他にも見知った人達がみんな笑顔で俺達に飛びついてくる。

 

 

「調達屋ーっ! 足あるかーっ!?」

 

「お前マジかよ! あの地震の中無事だったか!」

 

「人五人も助けて死んじまうなんてアリかよって思ってたよ!」

 

「朝まで帰ってこなかったらもっかいAベースまで捜索に行く羽目になってたんだぞこの野郎!」

 

 

抱きつかれて体中をバシバシ叩かれて、筋肉痛の体がめちゃくちゃ痛む。

 

マーズはみんなが飛びついてくる前にちゃっかり一人だけ離れ、難を逃れていた。

 

 

「中で暴れまわってたのって、ダラス十四号と同じ種類のドラゴンだったんだろ?」

 

「なんですかそれ?」

 

「知らねぇのかよ! アメリカのダラスを州軍の半分を巻き込んで壊滅させた最悪のランドドラゴンだよ! 伊藤んとこの生き残りのボディカメラに写ってたんだって! 中で見なかったのか?」

 

「気無! 気無! 見たら死んでるって!」

 

「あ、そうか」

 

 

ギャハハと楽しげに笑う皆とは裏腹に、俺はなんだか今まで痛くなかった胃が急に痛み始めたのを感じていた。

 

ちょっと離れた所にいるマーズと目を合わせ、静かに頷き合う。

 

やっぱりシナリオを決めておいて良かった。

 

俺はみんなにもみくちゃにされながら二月の高い月を見上げ、深く細く、ゆっくりとため息を吐いたのだった。

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