わらしべ長者で宇宙海賊 【旧版】   作:岸若まみず

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第13話 サイバネと猫とサングラス

「それで、冒険者のみんなと酒盛りしてるうちにドラゴンの素材が交換されちゃったんだ?」

 

「……はい、すんません」

 

 

死地から帰還した翌日の夜。

 

気無(きなし)さんや雁木(がんぎ)さんに昼すぎまで飲み屋を連れ回され、大学もバイトもぶっちぎって寝ていた俺は猫のマーズに理詰めで詰められていた。

 

マーズだって一緒になって騒いでたのに……とも思わなくもないが。

 

交換は俺の担当だし、言い訳もできないポカだしな……

 

 

「別に俺は交換そのものに怒ってるわけじゃないよ、あんなもの地球では使い道がなかったわけだしさ」

 

「う、うん……」

 

「でもさ、うっかりってのは困るんだよね。今後のトンボのためにもならないし」

 

「ごもっともです……」

 

「これまで行ってた稼ぎ場も閉鎖されちゃったんだしさぁ。トンボもドラゴンと戦った時みたいに、もうちょっとだけしっかりしてよね」

 

 

マーズはそう言って、テレビの電源をつけた。

 

気をつけます……

 

 

『都は本日正午に東京第三ダンジョンの閉鎖を発表。崩落原因の調査のため自衛隊の探索班が調査を開始する……』

 

「結局ドラゴンの事は言わないんだね」

 

「そりゃあ言えないって、あんなのがいるってわかったら東京の人みんな地方に逃げちゃうよ。俺達にも箝口令が敷かれてんだから」

 

「この街って人多すぎるからちょっとぐらい減ったほうがいいと思うな」

 

 

マーズはそう言いながらくあっとあくびをした。

 

宇宙基準でも人が多く感じるって、やっぱ東京の過密さはどうかしてるんだな。

 

しかし、俺もまだ眠い……酒も残ってるし。

 

 

「それで、ドラゴンは何と交換されてたの?」

 

「それがパッと見じゃよくわかんないんだよね。一応『ザウート 高速型演算補助ユニット(覚醒)』って書いてあったけど」

 

「え? ちょっと出してよ」

 

 

俺がマットブラックの歪な球形のそれを机の上に出すと、マーズはやけに重たいそれを机の上で転がしながらフンフン鼻を鳴らして色々と確認し始めた。

 

ごろごろと転がる玉を肉球で触ってるとますます本物の猫みたいだな、などと思っていたら、ふいに目が合った。

 

マーズとじゃない。

 

玉の表面にパチッと開いた、二つの黄金の目玉とだ。

 

 

「うわーっ!!」

 

 

叫びながら全力で後ずさる俺に、マーズはうるさそうに顔を向けた。

 

 

「何? 近所迷惑だよ」

 

「目っ! 目がっ!」

 

 

黄金の目はギョロギョロと部屋中を見回してから、俺の顔に視点を合わせた。

 

無機質な瞳だけでじっと見られていると、なんだかこれまでに感じたことのない種類の不安感があった。

 

 

「目ぐらいあるよ、これ脳殻だもん」

 

「脳殻って!?」

 

「人の脳味噌が入ってるって事、義体化した人(サイボーグ)のパーツだよ。うちも爺ちゃんが義体化しててさ、俺も一緒にディーラー行ったりしてたんだよね」

 

「そんっ……! それっ……! それって……! ……誰?」

 

「そんなもん見ただけじゃあわかんないよ。でも……このユニットがヤバいってのはわかるね」

 

 

マーズは脳殻をゴロンと転がして、目の反対側に入っている歪な三角形の刻印を指さした。

 

 

「これ見て、これは銀河で一番デカい銀河警察軍の持ってるパテントを利用していますっていう印」

 

「つまり……? その()軍人って事?」

 

「わざわざパテント料が超高い軍事技術を使ってる部品って事。多分中の人は軍人じゃない。ザウートって娯楽用のハイエンド義体会社だし、何より仕様が特殊すぎるんだよね」

 

 

彼は肉球で脳殻をポンポンと叩いて、嫌そうな顔で言った。

 

 

「表面に書いてある情報を鵜呑みにするならだけど……これ多分、演算に特化してる。軍で言うなら特殊電子戦装備ってとこかな」

 

「全然わかんないんだけど、それって凄いの?」

 

「うーん、君にもわかるように言うと……この人をネットワークに繋げば、日本の行政ぐらいなら一人で回せるね」

 

「凄すぎる!」

 

 

そしてヤバすぎる。

 

公務員解雇マシーンじゃん。

 

 

「ていうか中に人が入ってるならさ、そのままじゃヤバくない? なんかに繋いであげられないの?」

 

「うーん、でも海賊から流れてきたっぽい品でしょ? アム……あ、こっちじゃトロイの木馬って言うんだっけ? そういう事も考えられるよ」

 

 

マーズはそう言うが、もし自分が同じ状況に置かれたらと想像すると、俺はもう気が気じゃなかった。

 

体が動かないのに意識があるまま倉庫(ジャンクヤード)の中に放り込まれたらと思うと……

 

ゾッとするというか、絶対ごめんだ。

 

因果は回るとも言う。

 

俺はもし助けられるのならば、この人を助けてあげたかった。

 

 

「たしかにそれはヤバいけどさ……ちょっと話聞いてみるだけとか、できない?」

 

「脳殻って性能と生体維持に全振りだから余計なインターフェースついてないんだよね。あ、でもうちにはアレがあるか……」

 

 

マーズは洗って干していたバリア布を持ってきて、脳殻をぐるぐる巻きにし始めた。

 

 

「それで巻くとどうなるの?」

 

「脳殻が発する微弱な思念波でもさ、この力場伝導布を増幅器(アンプ)にすれば拾えるかもしれないんだよね。本来の使い方じゃないけど」

 

「スピーカーが勝手に拾っちゃうラジオを普通に聞ける音量まで上げるみたいな事?」

 

「その例え、よくわかんない」

 

 

彼は銀河警察の生体維持装置とバリア布と宇宙テレビ(ホロヴィジョン)を繋ぎ、耳をぴこぴこさせながらちょっとずつチューニングを合わせていく。

 

映像こそ映らないが、ざあざあ言っていた音が静かになったり、高音になったかと思えばボーッと太い音になったりする。

 

三分ほどいじった所で、一瞬だけ人の声のようなものが聞こえた。

 

 

「おっ!」

 

「いけるっぽいね」

 

 

マーズが更にチューニングを詰めていくと、だんだん声が近くなってくる。

 

それと同時に、脳殻の目玉がギョロギョロと忙しなく動き出す。

 

ホロヴィジョンから、男とも女ともわからない無機質な声の謎の言語が聞こえ始めた。

 

 

『……蜉ゥ縺代※……縺薙%縺九i蜃コ縺励※……』

 

「なんて言ってるの?」

 

「助けて、あそこには戻さないで、ってさ」

 

「大丈夫、戻さないから。大丈夫だから」

 

 

そう言いながらつるりとした脳殻を撫でると、その手をマーズにはたかれた。

 

 

「ノイズが入るでしょ」

 

「あ、ごめん……」

 

『……縺輔i繧上l縺�……繝ャ繝峨Ν……謌サ繧翫◆縺上↑縺�……諤悶>……』

 

「攫われた、レドルギルド、戻りたくない、怖い、ってとこかな。レドルギルドってのは、銀河を股にかける広域指定海賊団だね」

 

「ヤバいの?」

 

「ヤバくない海賊なんていないけど、レドルはまっとうな事業もやってるしまだマシな方かな。辺境星系だと交易相手がレドルだけなんて事もよくあるから、海賊扱いされてない地域もあるよ」

 

「海賊相手に交易とか成り立つの?」

 

「銀河にはそんぐらい人が足りてないんだよ。千年前からつい最近まで続いてた、でっかい戦争があったからね」

 

 

千年……銀河は何でもかんでもスケールがデカいなぁ。

 

 

『……縺�縺」縺ヲ縺ェ繧薙〒縺ゥ縺�@縺溘b繧薙□縺�……』

 

「なんかのコードかな? 伝えたい事があるんだろうけど、銀河ネットワークにも繋がってないこんなド辺境じゃデコードできないんだよな」

 

 

スケールのデカい銀河の猫はぶつぶつ言いながら、手元の紙に宇宙の文字を書き始めた。

 

宇宙の言葉だから俺には何がなんだかわからなかったが、同じ言葉を何度も何度も言っていて、なんとなく脳殻の中の人の切実さだけは伝わってきていた。

 

そのまま十分ほど聞き取りを続けた後、マーズはふぅとため息をついて、両手を上げて伸びをした。

 

 

「思考がループしてるし、これ以上は無理かも」

 

「これって対話とかできないの?」

 

「脳殻の仕組み上、こうやって剥き出しにされると思念波をブロックし切れないって特性を悪用してるだけだからね。思考の上澄みを覗き見てるだけだよ。逆に言えば嘘もつけないから尋問にも使われるんだけど」

 

「思考盗聴って実在したんだ……」

 

「何それ?」

 

 

彼は不思議そうな顔をしながら脳殻にぐるぐる巻きにされていた布を外す。

 

 

「とりあえず、こんなとこかな」

 

「マーズ、俺さ……」

 

「わかってるよ、なんとかしてやりたいんでしょ? たしかにこれをなんとかできるのは、この星じゃあトンボだけだろうしね」

 

 

マーズの言葉に、俺は頷いた。

 

さすがに昨日の今日だ、命を賭けるような事はもうまっぴらごめんだ。

 

しかし、これから先、いつか手に入った義体をこの人にあげるぐらいの手助けはしてもいいと思うのだ。

 

逞しい冒険者達と比べれば俺の手は短いし、貧弱で、度胸だってない。

 

でも自分の手が届く範囲で人に何かをできるようになれば、たとえ直接は何も返ってこなくても、きっと得るものはあるだろう。

 

俺は昨日の命がけの蛮行を経て、なんとなくそういう考えを持つようになっていた。

 

 

「俺だって氷漬けだった所をトンボに助けられたんだ、別に嫌とは言わないよ」

 

「ごめんねマーズ、宇宙船を手に入れる目標に一直線じゃなくなっちゃうかもしれないけど……」

 

「トンボ、宇宙船っていくらするか知ってる? 元々そんな簡単に手に入るなんて思ってないよ」

 

 

マーズは肩をすくめながらそう言って笑い、肉球で俺の腕をポンと叩いた。

 

 

「あのさ、体はしばらく手にはいらないかもしれないけど、退屈しないようにテレビはつけっぱなしにしとくね」

 

 

俺は脳殻にそう話しかけ、テレビがよく見えるようにカラーボックスの上に置いた。

 

すぐに金色の目がギョロギョロと動きだし、さっきまでと見え方が違う部屋を見回しているようだ。

 

うーん、脳殻さんには悪いけど、やっぱちょっと怖いな。

 

俺は東京に来る前に買って結局一度もつけなかったサングラスを箪笥から取り出し……

 

それを脳殻の目玉の部分を隠すように設置したのだった。

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