わらしべ長者で宇宙海賊 【旧版】   作:岸若まみず

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第2話 焼き芋と猫とバリア布

「形はレーションみたいだけど、なかなかいけるね。中の肉もいい感じ」

 

「これ、中に入ってんのはタコっていう海の生き物なんだよ」

 

 

猫型宇宙人のマーズを伴って役所に行ってきた帰り道、俺達はたこ焼きを食べながら雪降る町を歩いていた。

 

マーズの仮帰化申請、というか仮国民登録といった感じだろうか。

 

成人男性の俺が後見人になる事によって、マーズを日本に住んで働けるようにしてもらってきたのだ。

 

異世界と地球がダンジョンで繋がってからこれまで、幾度もの混乱を乗り越えてきた日本の役場の異世界人課の手際は早く。

 

良く言えば融通無碍、悪く言えばガバガバな対応で全てを爆速でこなしてくれた。

 

なんせ二十年も前から毎日毎日、国交も結んでない国から代わる代わる人がやって来ては住み着いたり帰ったりするのだ。

 

いちいち全部精査していてはいつまでたっても仕事が終わらないのだろう。

 

ブラックリストに入っていない国や種族、危険そうに見えない異世界人はほとんど素通りで仮帰化申請を通しているようだった。

 

国内にはまだ見つかっていないダンジョンも多いしな。

 

地方では自分たちの身を守るために自警団(ヴィジランテ)を組んで異世界人狩りをやっている所もあるそうだが、都会では概ね異世界人を受容して税金を取る方針で固まっていた。

 

 

「そんでトンボ、ジャンクヤードの動きは?」

 

「ああ、昨日交換されてた謎の部品は今日また謎の布と交換されてたよ」

 

 

俺のスキル『ジャンクヤード』はヘンテコなスキルだ。

 

物々交換のできる無人販売所のようなもので。

 

何かを入れてしばらく放っておけば、運次第で別の物と交換されているのだ。

 

ミカン一箱から始まった物々交換はだいたい半日に一度ぐらいの間隔で進んでいた。

 

ミカン一箱 → 麻薬 → 宇宙の貨幣 → 食料用プラント(の部品)と来て、今は謎の黄色い布になっている。

 

 

「やっぱり麻薬(ヤパブリンカ)の後に交換されてた金の量から見ても、多分トンボのスキルは等価交換なんだと思うんだよね」

 

「等価交換ねぇ、正直宇宙人の価値観は全然わかんないんだけど……まぁ損してないんならいいか」

 

 

ていうか等価交換って事は、ミカンの皮と交換されたマーズはゴミと等価だったって事になっちゃうけど……

 

さすがにミカンの皮と人一人が本気で釣り合うって事はないだろう。

 

そこらへんはもしかしたら、スキルを持った人自身の価値基準が関わってくるのかもしれないな。

 

そんな事を考えながらザクザクと音を立てる雪道を歩いていると、隣のマーズが「あっ!」と声をあげた。

 

 

「トンボトンボ! あれ何? なんか音出してるけど!」

 

 

ピョコンと尻尾を立てたマーズが指差した先には、客引きの音声を流しながら低速走行する石焼き芋のトラックがあった。

 

 

「ありゃ石焼き芋だよ。甘い芋」

 

「芋が甘い!? なんだそりゃ!」

 

「食べてみる? 高いから半分こだけど」

 

「食べたい食べたい!」

 

 

二人で走って焼き芋屋を追いかけ、一本四百円もする金色の焼き芋を半分に割って分ける。

 

マーズは甘党なんだろうか、昨日食べたラーメンや今日食べた焼きそばやたこ焼きにはあまり興味なさげだったのだが、焼き芋の甘さにはつぶらな瞳を見開いて大喜びしているようだった。

 

 

「あんまぁ~! なんだこりゃ!」

 

「おお、こりゃ当たりだ、甘いなぁ」

 

「兄さんわかってるねぇ。当たりも当たり、大当たりよ。うちは芋にこだわってんのよ。なんつったって紅はるかだからな」

 

 

焼き芋に齧りつく二足歩行の猫が物珍しかったのか、焼き芋屋のオッサンが窯に薪を足しながら得意げに話しかけてきた。

 

 

「猫の兄さんは最近日本に?」

 

「ああ、つい最近ね」

 

「日本は焼き芋に限らず色んな美味いもんあるからさ、良かったら楽しんでってくれよな」

 

「楽しむ楽しむ!」

 

 

本当に美味そうに芋を食べるマーズに気を良くしたのか、焼き芋屋のオッサンはちっこい芋をサービスにくれて去っていった。

 

 

「トンボ、これジャンクヤードに入れといてよ。後で食べるから」

 

「ああ、いいよ」

 

 

俺がちっこい焼き芋を収納すると、マーズは持っていた芋を口いっぱいに頬張ってゴロゴロと喉を鳴らした。

 

改めて見ても本当に猫そのものだな。

 

俺が芋を食べながらマーズの喉の音を聞いていると、またどこからともなく移動販売の音楽が聞こえてきた。

 

 

「あっ! また音鳴らしてる車が来た! あれもなんか甘い物売ってるの!?」

 

「ありゃ灯油……燃料の移動販売だ」

 

 

大興奮のマーズが見つめる灯油の移動販売車の反対側からは、低いベース音を響かせたVIPカーがやってきた。

 

 

「あっちの背の低い車は!?」

 

「ありゃヤンキーの車」

 

 

今日はじめて町に出てきたマーズは、色んな物に興味津々なのだった。

 

 

 

 

「うーん、こりゃ凄いな」

 

 

夜も更けたり午前零時。

 

マーズは俺がバイト先の廃棄のピザ生地で勝手に作って持って帰ってきたピザを齧りながら、フンフンと鼻を鳴らして片手の肉球で黄色い布を揉んでいた。

 

この布は俺のスキルのジャンクヤードでミカン一箱から四回の交換で辿り着いた物だ。

 

一応説明では『力場伝導性熱結合ポリジ布(620%)』とあったが、正直意味不明だ。

 

 

「それって何に使うもんなの?」

 

「こりゃ力場を伝導する布なんだけど、それだけじゃなくてブースターにもなるって代物だよ」

 

 

余計にわからなくなったな。

 

俺はトマトソースだけのピザを第三のビールで流し込み、もう一度聞いた。

 

 

「どう使うわけ?」

 

「まあ待って、力場ってわかる?」

 

「わかんない」

 

「引力ってあるでしょ? その逆が斥力と言って……」

 

「待った待った、どう使うのかだけ教えてくれればいいから……」

 

 

俺が解説を遮るとマーズはちょっと困った顔をして、こちらにグッと布を突き出した。

 

 

「これを身に纏えば強力なバリアが張れる……ただしバリア発生装置がないから今は使えないって感じかな」

 

「あ、そういう事……」

 

「正直これは実用性があるから、残しといたほうがいいと思うよ」

 

「じゃあ残しとこう」

 

 

詳しく説明してくれようとしたマーズには申し訳ないが……

 

俺はどうも昔からゲームのややこしい説明とかが苦手で、全部飛ばしてしまうタイプなのだ。

 

とりあえず布も残した方がいいならば残しておこう。

 

交換用の冬ミカンもまだあるしな。

 

 

「しかし、今回は当たりが来たからいいけどさ。こうやって交換待ちしてても同じぐらいの価値の物がグルグル回るだけだろ?」

 

「たしかに」

 

 

マーズは小さな指でこちらを差し「そこでだ!」と続けた。

 

 

「いい感じの物が来たら、こっちの金に変えてみない?」

 

「宇宙の物を地球で売るってこと?」

 

「まあこんだけ技術力が違ったら売って金にできるような物はなかなかないかもしれないけどさ、金儲けの種ぐらいなら色々あると思うんだよ。この布とか」

 

 

小さな肉球が黄色の布をちょいと摘んだ。

 

 

「まあたしかに、金にできるなら言う事ないけどさ。たまには具のあるピザも食べたいし」

 

 

俺が上にトマトソースしか乗っていない廃棄品のピザを掲げてそう言うと、彼は深く頷いた。

 

せっかく便利な力があるんだから、もう少しいい生活がしたい! とは思う、正直な話。

 

 

「あっちの物がこっちの金にできれば、ジャンクヤードでももっともっとデカく交換できるし……金が入ればさ、焼き芋だって一人一本食えるわけでしょ?」

 

「焼き芋ぐらい……とは言いたいけど、たしかに焼き芋屋見かけるたびに一本づつ食ってたら生活キツイかもな」

 

「この変な味の酒も飲まなくてよくなるしね」

 

 

マーズは俺の第三のビールを勝手に全部飲み干して、変な顔をした。

 

 

「そう思うなら飲むなよ!」

 

「ま! ま! とにかくさ、せっかくいい感じの力があんだからさ、セレブに! とは言わないけど、食うに困らないぐらいにはしようよ。仕入れはトンボ、目利きは俺で……」

 

「そんでもって目標は宇宙船だろ?」

 

「昨日は気軽に言っちゃったけどさぁ、本当にいいの? 宇宙船は高いよ?」

 

「俺だって一生に一度ぐらいは宇宙に行ってみたい、目標は宇宙船だ!」

 

 

別に海賊行為する予定もないけど、かっこいい海賊船ならなお良しだ。

 

ぶっちゃけ宇宙船が手に入ったって、一人で宇宙に行く勇気も知識もないしな。

 

マーズはプロの船乗りだって言ってたし、動かし方ぐらいわかるだろう。

 

 

「改めてよろしく、マーズ」

 

「おお! 稼ごうか!」

 

 

深夜零時の1LDK、コタツ机の極貧ピザと第三のビールの上で、俺と猫型宇宙人は二度目の握手を交わしたのだった。

 

 

「あ、そういやトンボ、昼間の小さい芋出してくれよ。デザートにするから」

 

「ああ……あ、ごめん交換されてる」

 

「えっ!? キープしといてくれなかったのかよ!!」

 

「いでっ! ごめんって!」

 

 

手のひらに突き刺さったポプテのマーズの爪は、猫のマーズの爪と同じぐらい痛かったのだった。

 

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