わらしべ長者で宇宙海賊 【旧版】   作:岸若まみず

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第24話 部長と姫と男の夢

「人足りないって」

 

「やっぱりそうですか?」

 

 

迷歴二十二年の六月、俺達は未だに人手不足に悩んでいた。

 

姫によるワンマン家内制手合成業をごまかすために借りた古い工場、その入口付近に作った発送場で、阿武隈さんと吉川さんはくたびれた顔で座っていた。

 

 

「仕事自体は簡略化されてて、発送も業者が取りに来てくれるのはありがたいんだけどさ、どんだけ捌いても発注書が増えてくだけってのは精神的にキツいよ」

 

「気にしないでって言っても、やっぱ気になりますか?」

 

「川島君、逆の立場だったら気にならない?」

 

「いや、多分気になります……」

 

 

これに関しては、多分給料を増やしたところで解決しない問題だろう。

 

本当はこういうリクルートはエージェントなんかに頼めばいいんだろうけど、姫曰くうちはああいうのに頼るにはちょっと特殊かつ隠し事が多すぎるらしい。

 

頼ったところで政府組織の人間しか送り込まれて来ないだろうとの事だ。

 

 

「姉さん、誰か知り合いいない?」

 

「知り合いったって、冒険者ぐらいしかいないんだよね」

 

「冒険者の奥さんとか、兄弟知り合いとかでもいいんだけどさ。姉さんが管理できる範囲なら増やしてもらってもいいんだけど」

 

「それってあたしが面接するの? バイトだよ?」

 

「阿武隈さん、その話なんですけど……なんとか正社員になってもらうというわけにはいきませんでしょうか……?」

 

 

俺は深々と頭を下げながらそう頼んだ。

 

コネも実績もない俺には、正直、実際、マジで、頼れる人が彼女の他にいなかったのだ。

 

普通の会社ならもっと小さく初めて人と一緒に会社をデカくしていくものなのだろうが……

 

俺の不徳でいきなり身分不相応の供給を求められてしまったうちの会社は、こうしてどうしようもなく泥縄なリクルートを強いられてしまっていた。

 

 

「正社員、正社員ね……まあ本当は願ってもない話なんだろうし、社長を信用してないってわけじゃないんだけど……」

 

「そこを何卒……何卒……」

 

「まあまあまあ、とりあえず、仕事しやすくなるように役につけるためって事じゃダメ? 別にこの国の法律なら労働者側からはいつだって辞めていいんだしさ。姉さん今なら即部長だよ」

 

「む、部長、部長かぁ」

 

 

ダメっぽい反応だった阿武隈さんも、うちの専務の執り成しにちょっとだけ顔色を変えた。

 

ナイスだマーズ!

 

もっと押してくれ!

 

 

「ね、マーズくん、私は? 私は?」

 

「入社するなら課長だね」

 

 

阿武隈さんはまんざらでもなさそうな吉川さんの反応を見て、首をポキポキ鳴らしながら俺の方を向いた。

 

 

「社会保障はちゃんとしてくれる?」

 

「もちろんですよ! 退職金の積立もしますから!」

 

「……じゃあ、ま、いいか。よろしくね、社長」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「ありがとね」

 

 

こうしてわけのわからない会社には元冒険者の部長と課長が入り、人手不足にも少しだけ希望が見えた。

 

彼女達は手始めの仕事として、元一緒のパーティを組んでいた残りの二人を呼び戻してくれたのだった。

 

 

 

 

 

蒸し暑いはずの六月の夜も、うちの部屋は快適だった。

 

空間調整器は音もなく快適な温度の空気を吐き出し、空気中の湿度を調整してくれている。

 

「アンタ達のご飯、雑だからヤダ」と台所を一手に切り盛りしてくれるようになった姫は部屋着の白いジャージで何かを炒め、テレビからは昔から続いているシリーズのロボットアニメが流れている。

 

そんなマッタリした空気の中、俺とマーズは最近ハマっている宇宙のウォーゲームで遊んでいた。

 

 

「だからさ、八巡目で探査機打てばこっちの戦闘ロボも無視できたわけだよ」

 

 

マーズがコタツ机の上に置かれたボードゲームに表示されたアンテナのマークをタップすると、そこから円形に光が照射され、少し離れた場所にロボットの頭のアイコンが浮かび上がった。

 

 

「探査機って色んな使い方あるんだなぁ」

 

「トンボは戦いたがりすぎ、どんな強いユニットも接敵しなきゃ効力発揮できないんだから」

 

「でもこのかっこいい宇宙のサイコロマシーン、いっぱい回したくならない?」

 

 

俺がボードゲームの端についたサイコロマシーンのボタンを押すと、クリアケースの中に入った不思議な形をした三つのサイコロが超高速でギュインと回る。

 

刻まれた数字から光を発しながら回るそれは互いにぶつかり合い、クリアケースの中を縦横無尽に飛び回って底に落ちた。

 

 

「やっぱかっこいいよなぁ」

 

「そんなので喜ぶのは子供か君ぐらいのもんだよ」

 

「こういうの地球人の男は絶対みんな好きだって。とりあえず、今の反省も踏まえてもうひと勝負!」

 

「いいけど、風呂掃除はトンボだよ」

 

あんた達(ボーイズ)、そこどけて。ご飯できたよ」

 

「あ、すぐどけます」

 

 

俺達はすぐにボードゲームを畳んでしまい、コタツ机の上を片付けた。

 

机の上には姫の買い集めたパステルピンクのお皿に盛られた梅しそ焼き飯や、それぞれのコップに入れられた麦茶がサーブされていく。

 

俺のはゲームの限定版についてきたマグカップで、マーズのは魚の名前が書かれた湯呑みだが、姫のはオシャレなアメリカ製の桜色のやつだ。

 

俺もかっこいい奴に買い替えようかな……とゲームのロゴ入りのマグカップを見て思うが、まだまだ使えるものを買い替えるのもなんとなく気が引けた。

 

 

「お茶、なんか変?」

 

「いや、そろそろコップ買い替えてもいいのかなって」

 

「いんじゃね? 姫とおそろいにしよ。まーちゃんは?」

 

「このコップ、がっしりしてて好きなんだ」

 

「じゃあトンボだけね。姫と同じ種類の緑のやつ、頼んどいたから」

 

 

さすが姫、即断即決だ。

 

ゲームのマグカップはペン立てにしよう……

 

 

「それよりこの焼き飯どうよ? ネットでバズってたレシピだけどいけんでしょ」

 

「あ、たしかにさっぱりして美味しい」

 

「すっぱくていい感じ」

 

「そういやさ、さっきのゲームに出てきたみたいな戦闘ロボってあの合成機(きかい)で作れたりするの?」

 

 

俺がテレビのロボットアニメを見ながらそう聞くと、マーズは不思議そうな顔をした。

 

 

「え? なんで?」

 

「いや、実物ってどんなもんかなって」

 

「多分トンボの想像通りの物だと思うけど」

 

 

俺の想像通りの物ならなおさら、ぜひとも見てみたい。

 

姫の方をチラッと見ると、黄金色の瞳と目が合った。

 

 

「別に戦闘ロボぐらいはラインナップに入ってるけど、今現役で使われてるのが第十八世代だったから……そのずうっと前の第五世代ぐらいのものしか作れないよ? 最適化もされてない時代の八メートルぐらいのやつ」

 

「八メートル!? それってそれってやっぱさ、乗って操縦できるの?」

 

「できるけど」

 

 

やっぱりできるんだ!

 

 

「それって、俺でも操縦できるかな?」

 

「簡単じゃない? 二百年前とかの物だと神経接続も必要ないと思うよ」

 

 

そう言われると、もう俄然乗ってみたいな。

 

 

「今アリバイ用に借りてる古工場あるじゃん。あそこって今発送部しか使ってないわけだし、場所はあるから……作ったりできないかな?」

 

「作れるけど、なんで?」

 

「いやなんでって……男の夢なんだよ、戦闘ロボはさぁ」

 

 

俺が言うと、姫は冷めた目でマーズを見た。

 

 

「まーちゃん、こう言ってるけど、どうなの?」

 

「夢じゃないね」

 

「そりゃ宇宙の人にとっては現実だろうけど、地球だとそれに命懸けてる人だっているんだから!」

 

 

戦闘ロボに乗れるなら命だって差し出すって男はきっと沢山いるだろう……いるよな?

 

多分うちの親父なら差し出すぞ。

 

 

「まあまあ、別にダメって言ってるわけじゃないよ。八メートルならトンボのジャンクヤードに入るし、あのドラゴンみたいなのが現れた時のために作っておくのも別にいい」

 

 

でもさ、とマーズは続けた。

 

 

「材料は? それに戦闘用ロボぐらいになると自己発電じゃ発電量が追いつかないから、燃料も必要になるよ」

 

「それって、宇宙からの交換じゃダメ……?」

 

「あのさぁ、ヴァラクも戦争中だから。戦闘用ロボットに使う資源とか、いくらあっても足りないものを回してくれるわけないじゃん」

 

「それはそうか……」

 

 

でも、八メートルの動かせる巨人、このチャンスを逃したら二度と関わる機会なんかないような気もするんだよな。

 

なんとかならないものかと焼き飯を食べながら考え込んでいると、マーズが「あっ」と声を上げた。

 

 

「姫、マグラガントはどう?」

 

「ああ、こっちで魔石とか言われてるやつ? まああれもエネルギー物質だから、各種資源に変換できるっちゃできるけど効率悪いよ?」

 

「え! 魔石でなんとかなるの?」

 

 

俺がそう聞くと、姫はあんまり興味なさそうにピンクに塗った爪を眺めながら「うん」と答えた。

 

魔石というのはダンジョンの魔物の臓器から取れる柔らかい石のようなものだ。

 

触媒としての用途が主らしいが、色々な使い方をできる物質でもあるらしい。

 

 

「まあ高出力のエネルギーさえあれば、物質の変換ぐらいはできるけどさぁ。強化外骨格(レイバースーツ)みたいにクズ鉄と石コロから作れるわけじゃないからね? 不純物の少ない銅とか鉄とかアルミとか、大量に必要だから」

 

「集める集める! 集めます!」

 

 

それぐらいの資材なら普通に買い集められるはずだ。

 

こういう時は、心底アイテムボックス持ちで良かったなと思う。

 

 

「トンボ、魔石はどうするの?」

 

「それなんだけど、冒険者から買い集めよう!」

 

 

魔石は別に売買が禁止されてるわけじゃないからな。

 

企業に属している冒険者も普通に魔石を取りにダンジョンに行くし。

 

ただダンジョン管理組合から大量に買い取るには事業者として審査を受ける必要があり、使用用途も調べられるらしいからそちらは厳しいかもしれない。

 

 

「ウチの紐付きになってもらうって事? 厳しいんじゃない? ウチの会社全然信用ないし」

 

「それに関しては前からちょっと考えてた事あったんだよね」

 

「え、何?」

 

 

マーズはなぜかちょっと嫌そうな顔をしてそう尋ねた。

 

 

「今って現金取引じゃん。それをポイントにしてみたらどうかなって」

 

「ポイント?」

 

「冒険者にはうちの会社に魔石を売ってもらい、それをポイントとして支払う。そんでそのポイントは、優先販売だったり割引販売だったりでいろんな特典付きでうちの商品に使えるわけ」

 

 

名付けて、川島ポイント経済圏だ。

 

将来的にはもっと色々な事に使えるようにして、旅行とか通信とか、大量の人を囲い込んだ一大経済圏に……なったらいいな……

 

 

「あ、なるほど。まともなアイデアじゃん」

 

「俺はいつでもまともだろ?」

 

「で、その優先販売とか割引販売とか、誰がやるの?」

 

 

マーズが俺の脇腹を突っついてくるのに肘で突っつき返したりしていると、スプーンを置いた姫の冷たい声が食卓に響いた。

 

 

「え……? 誰って、そりゃあ、誰だろ……」

 

「下にやらせるつもりじゃないよな? 今でさえ地元に帰った冒険者仲間呼び戻したりしてて人足りてないっぽいのに、阿武隈(クマ)さんキレんじゃね?」

 

「あ、それは、もちろんです」

 

「トンボ、あんた下持ったんでしょ? ならこれまで通りの考えなしは通用しないってわからない?」

 

「あ、いえ……それは、わかってるつもりです」

 

「つもりだよね?」

 

 

姫の圧に、俺の足は自然と正座の姿勢に変わっていた。

 

マーズはそろそろと姫と俺の間から逃げ出し、みんなの食器を流し場に持って消えた。

 

姫の言っている事はあまりに正しく、俺の考えはあまりに浅く。

 

結局この日の銀河最強の個人事業主からの辺境の星の新米社長への薫陶は、テレビ放送がカラーバーになるまで続いたのだった。

 

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