わらしべ長者で宇宙海賊 【旧版】   作:岸若まみず

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第32話 手巻きと猫とサードアイ

涼しい秋風が東京を優しく撫でる中、俺は至上の幸福を味わっていた。

 

 

「やっぱクソかっこいいって! マジで!」

 

「まぁ好きな人は好きなんだろうね」

 

 

クリスマスの子供かってぐらいに盛り上がる俺に対して、猫型宇宙人のマーズはあんまり興味なさそうに頷いた。

 

 

「いやいや! 男なら誰でも好きでしょ! 戦闘ロボだよ戦闘ロボ! カッコよすぎるでしょ!」

 

「これの十倍ぐらいのサイズを見慣れてるとなぁ……」

 

「それはそれで見てみたいけど、ないものねだりしてもしょうがないじゃん。とりあえず! 俺にとっては! 今あるこのロボットが! 一番最高なんだよ!」

 

 

俺は膝立ちをした全高八メートルの巨大(・・)ロボットの前で、拳を握ってそう言った。

 

そう、川島総合通商の配送センター横の元工場部分でコツコツ組み立てていた戦闘ロボットが、ついに完成したのだ!

 

全体を白く塗装された角張ったクールなボディには、俺が小遣いで買ってきた缶スプレーで入れた金のラインのワンポイントが光り、かっこいい。

 

トラディッショナルなヘルメット型の頭部には凸型のバイザーがはめられていて、深緑色のバイザーの奥には薄っすらと三つのカメラが見えてかっこいい。

 

額部分には渋るマーズに頼み込んで特別に付けてもらった一本角(ブレードアンテナ)がそそり立ち、機能性はともかくかっこいい。

 

三メートルぐらいあるビームライフルも、俺の太ももぐらい太いビームソードの発生装置も、超重厚でめちゃくちゃかっこいい。

 

かっこいい……いや、かっこ良すぎる!

 

これが俺の専用機か!

 

 

「……ッ……チョェ~!」

 

「もう『かっこいい』とも言えてないじゃん……それでトンボ、名前は何にするの?」

 

「え!? 名前? これって機体名とかないの?」

 

「機体名っていうか型番はあるけど、それじゃ味気ないんじゃない? こういうのって導入先でペットネームつけたりするもんだからさ」

 

「うーん……そういうもんか」

 

 

そうとわかっていれば、しっかりと名前を考えておいたんだけどな。

 

川島総合通商のロボだからカワシマン……は、ちょっと違うか……

 

凸型のバイザーがあるからジ○……いやいや、さすがに既存のロボットの名前はまずいよな。

 

金のラインが入ってるから、ゴルダイン……それにしては予算不足で金色の割合が少なすぎだしな……

 

額にも目があるし、三つ目……いや三つ目はダサいか……うーん……三つ目を英語で……

 

 

「そうだ、サードアイ! このロボットの名前はサードアイにしよう!」

 

「サードアイね、いいんじゃない?」

 

 

うん、しっくりきた!

 

そうと決まれば肩に三つ目のパーソナルマークをステンシル塗装しないとな。

 

いや、まあでもそれは別の日にじっくりやるとして……

 

 

「それじゃあ名前も決まったところで、早速試運転を!」

 

「あーダメダメ、歩かせたりしたら天井突き破るよ。今高さギリギリなんだから」

 

「え!? なんで!? ここって天井十メートルぐらいなかったっけ? 基本訓練はここでやるって言ってなかった?」

 

「そりゃアンテナがついたからでしょ。だからアンテナはいらないって何回も言ったじゃん、あれがなきゃあ歩行訓練ぐらいならギリできたのにさ」

 

 

そういえばマーズ言ってたな……「後で付ければ?」って。

 

そこをかっこよさ重視で「なんとか付けてくれ」とお願いしたのは俺だった……

 

俺は自分の浅はかさに打ちのめされ、工場の緑色の床に両膝をついた。

 

 

「くぅ~っ……それでも……それでも俺のロボにアンテナは欲しかった……」

 

「まあ今はしまっといてさ、姫にどっかダンジョンの中の広いとこ探してもらって動かそうよ」

 

 

マーズにそう言われ、俺は床に正座で座ったまま、うなだれるように頷いた。

 

 

「あ……でもちょっと待って」

 

 

そう言いながらすっくと立ち上がった俺に、首を斜めに傾けたマーズは訝しげに「何?」と尋ねた。

 

 

「言っとくけど、アンテナはすぐには取れないよ。あれは飾りじゃなくて専用のハーネス引いてメインコンピューターに接続してあるんだから」

 

「違う違う、ちょっと何枚か写真取ってほしくて」

 

「まあ、それぐらいなら……」

 

 

ちょっとだけ頭を冷やした俺はサードアイの足に座った写真を撮ってもらい、全ての機材を収納した。

 

これからも何か大きい物を作るときにお世話になるであろうこの工場には、今はどこからか吹き込んできた砂と枯れ葉が残るだけ。

 

俺とマーズは箒でそれらを掃き清め、改めて工場を後にしたのだった。

 

 

 

 

朝夕がめっきり涼しくなり、こたつ布団が戻ってきた1LDKのリビングで、俺達は手巻き寿司を巻いていた。

 

姫の用意してくれた具材はイクラや刺し身なんかの定番品から、メキシコのチップスやコーンマヨ、アボカドや人参のスティックなんかの変わり種まで、バラエティ豊かに揃っていた。

 

 

「秋はさぁ、このサーモンっていうのが旬なんだってさ」

 

「たしかに脂が乗ってて美味いね。この手巻き寿司? って言うやつはちょっと難しいけど」

 

 

マーズは手と口の周りを手巻き寿司からはみ出た具材でベタベタにしながら、俺がきれいに巻いた末広巻きの手巻き寿司をじっと見た。

 

 

「あー、マーズこれ食べる?」

 

「食べる食べる」

 

 

俺からイクラとサーモンの親子手巻きを受け取った彼は、小さい猫の口を精一杯大きく開けてそれを頬張った。

 

しかしやはり末広巻きではマーズの口には大きいようで、端から具材がポロリしてしまっている。

 

うーん、もっと細く巻いた方が良さそうだな。

 

 

「この手巻き寿司っていうやつさぁ、日本の伝統的な家庭料理なんだって。イソスタでバズってるとこ見たから今日はこれにしてみた」

 

「伝統的……まあたしかに言われてみりゃあそうだけど……」

 

「食べにくいけどさ、結構いけるよこの料理」

 

 

マーズはそう言いながら、俺が作ってあげたまぐろと卵ときゅうりの細巻きを頬張った。

 

うんうん、細巻きなら普通に食べれそうだな。

 

次はツナマヨ巻きでも握ってあげようかなと海苔を取ったところで、姫の人差し指が俺の右手の甲をズビシと突いた。

 

 

「え、何?」

 

「おいおいトンボ、姫ちゃんにも巻いて差し上げろよ」

 

 

姫はニヤけた顔でそう言いながら、俺の手を突いた人差し指でマーズの頬張っている寿司を指さした。

 

 

「あ、はい……」

 

 

もちろん、姫様のためならいくらでも。

 

俺が卵とサーモンとツナマヨの手巻き寿司を作って姫の皿へと献上すると、代わりに姫も俺の分を巻いてくれていたようで、あちらからも寿司が来た。

 

けっこうデカい姫の末広巻きの先からは、何やら緑色の物がチラチラと見えている。

 

 

「姫、これって何巻きなの?」

 

「それはね、えーっと、エビとアボカドと、ウインナーのジェノベーゼソース巻き」

 

「ボ、ボリューム満点だね……」

 

 

まあ、別に食えない物じゃないだろう。

 

俺はずっしりと重いそれを口に入れながら、なんとなしに付けっぱなしのテレビを見る。

 

 

『埼玉第四ダンジョンでは本日も四名の行方不明者が出ており、今朝より大宮駐屯地の探索部隊による調査が……』

 

 

テレビの画面の中では、草加にある埼玉第四ダンジョンの入口が自衛隊の部隊でごった返している所が映されていた。

 

 

「あー、やっぱ玉四大事(おおごと)になってんだ」

 

「うちで調べた時は何にもなかったのになぁ」

 

気無(きなし)の兄さんが言ってた通りアイススライムが原因なら、ドローンが来た時は岩の間とかに隠れてたんじゃない?」

 

 

玉四で凍死者が出たという情報を掴んでからすぐ、俺達は大量のドローンを送り込んで玉四の中をくまなく探索していた。

 

だがその時はそれらしき大型モンスターも発見できず、ただ玉四の地図が埋まっただけ。

 

その後も玉四の死亡者と行方不明者は増え続け、今回ついに自衛隊の部隊の出動に至ったらしい。

 

こりゃあ玉四も閉鎖になって、冒険者がいくらか東京に流れてくるかもしれないな。

 

この時の俺は、なんとも不思議な味の寿司を食べながら、呑気にそんな事を考えていた。

 

そして玉四から文字通りの火柱が天高く吹き上がったのは、この一週間後の行楽シーズン真っ盛りの日曜日の事だった。

 

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