紫色の曼珠沙華をあなた達に   作:猫又提督

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睦月ってそんなに敬語話すキャラだと思ってなかったんですよ。確認したらめっちゃ敬語で話すじゃないですか。キャラ被りがたくさん……


殲滅作戦

 朝、暁は早くに目覚めた。テントとはいえほぼ地面に寝たせいか少し体が痛い。外に出ると、まだ薄ら明るかった。燃え尽きた焚き火のそばで誰か座っている。

「…おはよう。グラーフ」

「ああ…おはよう」

 彼女は暁に声をかけられるまで燃え尽きた焚き火を見つめていた。昨日と変わらず声に覇気が全くない。昨日のことがまだちらついているのかもしれない。

「まだ悩んでるの?」

「……あぁ」

「あなたが気にすることはないでしょう?あいつはそれ相応の報いを受けただけよ」

「私は、ビスマルクに何も及ばないようにと思って庇ったんだ。まさか逆に苦しませているなんて思いもしなかった」

 暁は何も返さなかった。黙って次の言葉を待つ。

「……一晩ずっと悩んでいた。自分の行動は独りよがりなものだったんじゃないか、もし庇わなかったらそれはそれで幸せだったんじゃないか」

「あら、じゃああなた寝てないの?」

「まあ、そうだな」

「ふーん。あなたがこうすればよかったなんて思ってももう何も変わらないわよ。当たり前のことだけどね。ま、せいぜい反省する程度に収めておきなさいな。過去を変えようたってそんなことはできないわ」

「暁は過去を変えたいなんて思ったことはないのか」

「そりゃ勿論……」

 ふと昔を思い出す。嵐の夜のこと、脳裏に映るのは右から映り込む砲煙と遠くに上る煙。彼女は頭を振ってその記憶を追い出した。

「勿論変えたいと思ったことは何度もあるわ。でもその度に変えれない事実に絶望したわ。だからね、私は生きるの。私にとって生きて事実を背負うことが唯一自分の罪を償える方法だと思ってるから。あなたもそうすれば?」

「そうか。そうだな、それがいいかもしれない。今度決めてみることにするよ」

 やがて日が上るにつれ、他の者も起きてきた。昨晩と同じように火を起こし、簡単な朝食を取った。

 恐らくもうすぐ作戦がl始まるだろうから各自艤装をつけた状態で待機していた。だが、中々指示がこない。仕方なく秋月が家まで戻って様子を見てくると、本土の艦娘達はすでに出撃した様子だった。

「もしかして私たち出撃しなくていいのでは?」

 戻ってきた秋月が様子を伝えた後にそう締め括った。

「え、でも元帥に期待してるって言われましたよ?」

「睦月は出撃しなくてもいいならそれでもいいですけどね〜」

「…同意…」

 一向に出撃する予兆がないのでとうとう艤装を下ろし、くつろぎ始めた。平和な時間を満喫していると、公園の入り口から司令官が悪態をつきながらやってきた。

「ああ、くそ何でこんな遠いんだよ」

「あ、司令官ですよ」

「何の用かしら」

「おい、お前ら出撃だ」

「え、するの」

「何でしないんだよ」

「だって全然指示来ないじゃない」

「お前らを本土の艦娘達に合わせるわけには行かんからタイミングをずらして出撃させるんだよ。わかったらさっさと準備しろ」

「ちっ、めんどいなぁ」

「なんか言ったか」

「いーえ、何も?」

 

 一同は艤装を背負い、いつもの桟橋までやってきた。

「お前らはブーゲンビル島沖で掃討を行なってもらう。本作戦の期間は約三週間。長くても一ヶ月だ」

「思ったより短いですね。もっと数ヶ月かかると思ったのですが」

「予想される敵戦力がかなり低いから、数こそ多いが撃滅にそれほど時間はかからないという判断だ。だが、現状姫級が見つかっていないから明確な作戦目的がない状態だ。が、これはお前らには関係ない。ただ深海棲艦が出てこなくなるまで沈めろ。なお掃討は昼間のみ、夜戦はするな」

「了解。じゃ、暁、懲罰部隊出撃します」

 機関を第一戦速にし、桟橋を離れる。沖に出てから速力を上げ巡航速度でブーゲンビルを目指す。先に本土の艦隊が通ったお陰かソロモン諸島までに敵艦隊に出会うことなく近づくことができた。

 ブーゲンビル島沖約50km手前。グラーフと摩耶が索敵用の航空機を発艦させる。暁達も電探を以て索敵を開始した。

 発艦してから数十分後、航空機から敵艦発見の報せが入る。その後、電探にも反応が現れる。距離は数十km先、まだまだ快適には遠い。

「やはり数が多いな」

「電探だと詳しい数が分かりませんね」

「どう、どれぐらいいるかわかる?」

「あぁ、うじゃうじゃいるぞ。艦隊になっている奴や、孤立している奴もいる」

「見慣れた感じだな。よっしゃ競走しようぜ。一番数沈めたやつが勝ちな」

「いいわね、乗ったわ」

「夕立のナイフ捌き見せてやります」

「睦月は…がんばります!」

「すまないが一番槍は私がもらおう」

 すでにグラーフが攻撃機を発艦させていた。彼女の航空機は発艦後素早く編隊を組み水平線へと消えて行った。

「あ、ずりーぞ!」

「空母だからな」

「まあまあ、まだ始まったばかりですから」

 

 さらに時間が経ち、水平線の向こうから黒煙が上がっているのが見える。やがて敵艦の姿も見えてくるがグラーフの攻撃のせいか酷く混乱しているようだ。

「暁、突撃するわ」

「参ります!」

「…突撃、します」

「行きます!」

「摩耶様の実力見せてやるぜ!」

「突撃にゃしぃ!」

 暁達は陣形を崩し、各自が最大戦速で突撃を敢行する。一番射程の長い摩耶が射程内に入るや否や主砲を放つ。だが、当然のように砲弾は外れた。

「クソ!当たんねえ!」

「そんなに遠くで撃っても当たりませんよ。もっと近くで撃たないと」

 しかし、外れた砲弾は近くの深海棲艦に自分たちの存在を知らせた。奴らはこちらに向かってくる。あちらかもこちらからも近づいているので、両者の距離はすぐに縮まる。駆逐艦の主砲の射程内にも入り睦月も砲撃を行う。その他のものはまだ撃たず距離を縮めていく。深海棲艦の砲撃を躱し続け、機銃でも届きそうな距離まで詰めると、ようやく秋月と初雪が砲撃を開始した。両者の砲弾は外れることなく敵艦に吸い込まれていく。特に秋月の主砲はその連射速度も相まってあっという間に敵を沈める。しかし依然として暁と夕立は砲撃を行わず、さらに近づいていく。その手にはそれぞれ錨とナイフが握られていた。

 まず夕立が一番手前にいたホ級に飛びかかる。軽巡だろうと臆しはせずその喉元に刃を突き立てた。青色の、人間にはない体液を撒き散らせ項垂れるホ級。夕立はナイフを抜くと最後を見届けずに次の獲物に移った。暁は駆逐隊に単騎で吶喊する。手前にいる艦に錨を振り下ろすと、丁度装甲の繋ぎ目部分であったか錨の先が深く突き刺さった。同じく青い体液が滴るが暁は容赦なくそのまま振り回していく。力一杯振り回しながら鎖を伸ばしていくと、近くにいた駆逐艦も吹き飛ばし、最後は突き刺さった駆逐艦に砲撃を行う。機能を停止させたか砲撃を喰らった駆逐艦の目の光が失われた。先ほど吹き飛ばされた駆逐艦はすでに中破以上のダメージを受けているはずであり、処理は楽なはずである。暁が吹き飛んだ駆逐艦の一体に近寄るとすでに夕立のナイフが刺さっていた。

「ちょっと、横取りしないでよ」

「早い者勝ちですから。ぼーっとしてるとどんどん取っちゃいますよ」

「こ、この…」

 言い返す言葉がない。それよりもさっさと次の獲物を狙った方がいいかもしれない。競い相手は夕立だけではない。消化不良だったが暁は大人しく別の奴に舵を向けた。横取りされたのはあの一体だけで他はまだ生きていた。彼女は錨と主砲を使って次々に撃沈していく。あっという間に彼女の戦績に駆逐艦五隻が追加された。獲物はまだまだいる。どこを向いても電探に反応があるので、かえってどれからいけばいいのか迷うほどだ。ひとまず夕立とは逆方向に近いところからやっていく。

『空母がいるぞ』

 ふとグラーフから通信が入った。場所を聞くと暁が一番場所が近い。

「いいの。教えちゃって」

『ただの忠告だ。上には気をつけろよ。獲物はもらうがな』

「あなたがやる前に私がやるわ」

 電探では1km先に反応がある。上を見るとグラーフの航空機がおそらく母艦の方へ戻っていた。その先を見るとすでにグラーフが攻撃隊を送っていた。彼女は急ぎ空母へ向かう。その途中夕立も同じやつを狙っていたのか隣に並んだ。

「む。暁さんも空母ですか」

「ええそうよ。あなたにはあげないけどね」

「いーえ。私がもらいますよ」

 二人はさらにスピードを上げる。だが、暁が段々と前に出ていく。最終的に敵空母が見えた時には暁が人一人分前に出ていた。

 敵空母は単艦ではなく巡洋艦を含む艦隊を組んでいた。こちらを見て僚艦が迎撃体制を取り、空母も格納庫を開いた。

「ちょっと、空母以外もいるんだけど」

『誰も空母だけがいるとは言ってないぞ。空母がいるってだけだ』

「あーそう」

 他にいようがそいつらごとやってしまえばいい。まず立ちはだかるのは重巡で、主砲では仕留めきれない。相手が撃ってくるが彼女はさも当たり前に避け、詰めていく。目の前までやってくると、暁は錨で体を引っ掛けて後ろに投げた。邪魔をするのが駆逐艦なら、錨で吹き飛ばすなり何なりするが重巡はノーマルでも少々手こずる。なら別の奴に押し付けるまで。彼女のすぐ後ろには夕立がいたはずだ。うわっ、と後ろから声がした。

「ち、ちょっと何するんですか!」

「邪魔だからそいつあげるわ。空母は我慢なさい」

「何を言ってるんですか!」

 夕立は暁に近づこうとするが、彼女が寄越した重巡が夕立にターゲットを移し彼女を攻撃しようとする。仕方なく夕立は重巡の相手をする。その間に暁は空母に近づいていく。敵の駆逐艦や軽巡が前に立ちはだかるが彼女はその錨を振り回し、強引に道を作った。その先には念願の空母が目を見開いて立っている。振り回した錨を前に投げる。じゃらじゃらと音を立てて鎖が錨に引っ張られて伸びていく。相手は反応しきれず素直に錨にぶつかり倒れてしまった。近寄ると顔面で受けたようでその顔面には青い血が流れていた。暁は手早く爆雷を格納庫に突っ込む。数秒後に爆発が起き、誘爆が起こって格納庫の口からは火が吹いた。格納庫と体は神経が繋がっているのか、空母は叫び苦悶の表情を浮かべた。誘爆はまだまだ続いている。いずれ大爆発を起こすだろう。撃沈は確実だ。

 夕立はすでに重巡を処理している。暁も残党を処理しにかかる。どうってことはない。文字にして表現するまでもない殺戮である。ノーマル艦など彼女達二人にとってはもはや敵として物足りない。最終的に夕立は重巡一隻駆逐艦一隻、暁は空母一隻軽巡一隻駆逐艦三隻を仕留めた。

「私の方が多いわね」

「さ、最終的には私が勝って見せます」

 両者は再び別れてそれぞれ獲物を狩っていく。

 

「グラーフさん。あなたのお弟子さんは順調に育ってるみたいですよ」

 秋月はその様子を遠目から見ていた。

『ああ、私も上から見ているよ。しかし一度引き受けた上でいうのも何だがやはり暁と一緒にいる方が上達するんじゃないかな』

「…まぁ、そうかもしれませんね」

「ふう、全く全然いやしねえ。何の話してたんだ?」

 摩耶がため息をつきながら近寄ってきた。後ろには睦月もいる。

「いや、暁さんと夕立さんがいいコンビだなっていう話を」

「おいおい、殺戮マシーンは暁だけで十分だぜ。せめて大人しくあってほしいよ」

 多くの鎮守府で夕立は殺戮マシーンと化するもので、それこそ無邪気に殺しにかかるのだから今のあの状況は本来の自分を取り戻すと考えればいい傾向にはあると思う。が、確かに暁だけで十分だとも思う。

「そういえばお二人とも勝負はいいんですか?」

「勝負も何も…」

「もう勝てないにゃしい!」

 あの二人の処理スピードは以上で、どうやっても追いつけない。

「確かにそうですね。じゃあどうします?私たちだけで別に勝負しますか?」

「いやもういいよ。何やかんやお前らも早いからな。あたしは勝てねえよ」

「そうですか」

「…来た。0-2-0」

「うわっ。なんだいたのかよ」

 秋月の後ろから彼女でない声がした。どうやら初雪のようで何やら集中しているようだ。

「何してるんですか?」

「とりあえずそこ避けた方がいいですよ。魚雷がきます」

「え」

 慌てて避けると、数秒後に彼女達の横を黒い影が通り過ぎるのが見えた。

「潜水艦を釣ってたんですが見事に釣れましたね。初雪さん距離は分かりますか」

「300mぐらい」

「ちょっと行ってきます」

 そう言って秋月は単艦で進む。初雪の言った通りに300m先で止まると爆雷を2、3個投下した。数秒後に爆発が起き水柱が立った。

「…やれたのか」

「はい。撃沈を確認しました」

「潜水艦がいるって、夕立ちゃん達に知らせなきゃ」

 焦る睦月を秋月が止める。

「あの二人なら大丈夫ですよ。あれだけ出鱈目に動いてたら潜水艦も狙えませんから。私たちは私たちで着実にやっていきましょう。潜水艦には気をつけて。さっきのでここに潜水艦がいることが証明されましたから。特に摩耶さんはお一人では対処できませんから」

「わーってるよ」

 結局四人は艦隊を組んで掃討作戦を再開したのだった。




夕立の暁に対する評価は以前よりも落ちています。彼女は暁が摩耶を殴ったという事実から物理的にも権力的にも上の存在には立ち向かう、そういう艦娘だと思っていました。しかし暁はただ生き延びたいだけなので上に、特に大本営に楯突く気はありませんし、摩耶を殴ったのも一抹の感情に任せただけです。なので実は殴った後ちょっと後悔していました。
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