紫色の曼珠沙華をあなた達に   作:猫又提督

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間違えて13話を先に投稿してしまいました。申し訳ありません


新たな敵

 数時間が経った頃、突然に司令官から通信が入った。帰ってこいだそうだ。日が沈みかけているので今日はもうおしまいらしい。グラーフは暁達よりも先に四人と合流した。しばらく待っていると二人も戻ってきた。

「はぁ、なんだか物足りない」

「もっとやりたいです…」

 二人が戻ってくるが言葉の通り物足りない顔をしていた。体は深海棲艦の体液で塗れていてサイコパス味に磨きがかかっている。

「明日も掃討するんですからそんなに気を落とさないでください」

「夕立ちゃんがちょっと怖いにゃしい」

「もう諦めるしかないかもな」

「なんの話ですか?」

「いや、なんでもない。ほら帰ろう」

 一向は単縦陣で進路を島に向ける。帰りも全く敵に出会わなかった。最近鎮守府近海に全然深海棲艦が見えない。前段作戦時も索敵の傍ら近海の哨戒も変わらず行なっていたのだが、全くもって敵がいなかった。この点も異常なのだが、別に支障があるわけでもなくむしろスムーズに作戦が進むのだからほっといていいか。

 

 鎮守府が見えてきた。前もって早く上がるように言われている。自分たちの後ろに他の艦隊がいる。彼女達に姿を見せないうちに自分たちは上陸し姿を隠さなければならない。桟橋では司令官が待機していた。

「手短でいいから撃沈数を報告しろ」

「えっと私が…」

「個人はいい。お前ら全員でだ」

「え、じゃあちょっと時間ちょうだい。数えてないわ」

「…5分で数えろ」

 七人は固まり、それぞれの撃沈数を報告する。グラーフがそれぞれの撃沈数を計算してくれている。やがて全員が報告し、まとめてそれを暁に報告する。

「…報告するわ。駆逐艦三四隻、軽巡一九隻、重巡一八隻、空母九隻、戦艦一一隻、潜水艦十隻よ」

「……潜水艦が十隻、と。よし、もういいぞ行け」

 彼は紙に暁の報告を書くとさっさと戻ってしまった。暁達は動じることなく彼の言いつけ通りそそくさと上がって公園に向かった。

 

 同じような日が三日続いた後の日、その日も暁達は変わらず掃討をしていた。連日の作戦が功を制しているのかだんだん前線が南に下がっていた。ブーゲンビル島沖もほとんど安全な海域になっておりソロモン諸島の奪還が現実味を帯びていた。

 暁が戦艦に魚雷を撃ち、夕立がナイフで滅多刺しにしていると通信が入ってきた。まだ日は高く登っているので帰還の命ではないはずだ。

『おい、鉄底海峡に向かえ』

 どう言うわけだか彼はそう言う。彼女達は困惑し、暁が代表してその疑問をぶつけた。

「どうして。まだここの深海棲艦倒しきれてないわ?」

『いいからいけ。他の艦隊が救援要請をしている』

「じゃあ私たちが行く必要ないじゃない。私たちより近くにいる艦隊は沢山いるでしょ」

『他の部隊もとっくに移動している。お前らが最後だ』

「え、全部隊?なになに、一体どうしたって言うの」

『姫級が出たらしい。新型で攻撃方法もかなり特殊だ。数時間前に一部隊が接敵してから全部隊に告知されて応援に向かった。それでも撃破できずむしろ被害が広がっている。それで仕方なくお前らにも声をかけたってことだ』

「全部隊って、大本営の艦隊も向かったんでしょ。それでも倒せないってどんな姫級よ」

『ああ、こうg、あ、はい、少々お待ちを…とりあえずお前らは至急援護に向かえ。詳しいことは後で話す』

 彼は何か言いかけていたが、誰かに呼ばれたようで通信が切れた。言いかけた内容が気になったが、これ以上情報は聞けなさそうなので仕方なく彼に言われた通り鉄底海峡に向かった。

「偵察をした時には姫級はいませんでしたよね」

「ああ、何度も偵察したが一度も見つかってない。新型と言っていたからもしその姫級が小型だったら見逃した可能性もあるが」

「もしくは海中に潜っていたとか?」

「一週間もか?流石に深海棲艦でもそんなにずっとは潜らんだろ」

「潜水艦の可能性もありますよ」

 グラーフの航空隊が水上にいる深海棲艦を見逃すのは考えにくい。となれば夕立の言う通り潜水艦の可能性が高いだろう。

 

 ブーゲンビルから鉄底海峡までは地味に遠い。急げと言われたので、道中に出会う深海棲艦は無視して進んでいるが、掃討しきれていないためその数は多く、砲撃を掻い潜り、潜水艦の魚雷を避け、時折やってくる空襲も凌ぐのにとても苦労した。特に潜水艦は初雪がソナーで探ってくれているが、ほぼ最大戦速で航行しているため雑音が酷くうまく聞き取れない。それでも事前に察知できている。かつ電探も扱っているので彼女の練度は凄まじい物だろう。

 グラーフが前もって航空隊による援護を送っていた。彼女達よりも先に目標海域に到着し、その様子を伝えてくれる。グラーフが航空隊から受け取った情報は、海を埋め尽くす量の深海棲艦、そして一隻の巨大な船だった。

「船?このご時世に船がまだあるの?」

「いやそれよりも、海を埋め尽くすってどれだけの量なんですか。以前の南方海域よりも多いんですか?」

「ああ、深海棲艦で海が真っ黒らしい」

「海が深海棲艦で真っ黒…考えただけで生きた気がしないにゃしい」

「でも、獲物が沢山ですよ。これはチャンス!」

「なんのチャンスだよ。そういや船ってなんなんだ。でっけえ船って言ってたがタンカーか?」

「それがな……」

 グラーフは一瞬、このことを言ってもいいのかと躊躇した。しかし躊躇ったのはほんの一瞬のことですぐにこれは言わなければならないという使命じゃんに変わった。一度唾を飲み込み、もう一度初めから言う。

「それが…戦艦大和、だそうだ」

「は、戦艦?」

「艦娘ではなく?」

「ああ、実際の船だそうだ」

「おいおいマジかよ」

 それは日本艦であれば誰もが知っているはずの船。しかし、艦娘である彼女達にはそれは知識でしか知らず、遠い微かな軍艦が残した記憶でしか見たことがない。だからこそその最後も、沈んだ場所も知っている。

「なんで戦艦大和がこんなところに」

「誰かが持ってきたの?」

「あの、新型の姫級の仕業でしょうか…?」

 彼女達が困惑していると再び司令官からの通信が入った。

『戻った。で、えっと、ああそうだ。新型の姫級の攻撃方法だが』

「深海棲艦を大量に生み出すことかしら」

『あ?なぜ知っている』

「グラーフがさっき偵察してくれたの」

『そうか。てことはあの戦艦も確認したんだな?』

「ええ」

『なら話は早い。現在艦隊が苦難しているのはまさにその戦艦だ。大量の深海棲艦は姫級の力であることはほぼ確実だが、その本体が戦艦大和の甲板上にいる。攻撃しようにも大和の装甲やそれ以前に深海棲艦のせいで近づけない。お前らの役割は深海棲艦の群れを一点突破し何とかして本体に打撃を与えることだ』

「了解」

 通信が切れた。彼女達の間に少しの間静寂が広がったが、すぐにそれは破られる。

「打撃を与える、と言うっていうのは沈めろって言うのとは違うのでしょうか?」

「さあ、そうなんじゃない?」

「え、撃沈できる…んですか?」

「いやぁ、マジの戦艦は…そもそもどうやって上に登るんだよ。甲板にいるたって、海からじゃ乗り込めないだろ」

「それはその時に考えましょ。今は一先ず現場に急いで向かいましょう。海を埋め尽くす量って言われても実際に見てみないと良くわからないわ」

「獲物がいっぱいなんでしょうね!」

「…嬉しそうですね」

「はい!獲物がいっぱいなのは嬉しいっぽいです…あ」

 興奮しすぎたのか、ついに夕立からぽい、と言う言葉がでた。しかし彼女は同時にかつての鎮守府でそれについて激しく叱責されたことを思い出した。すぐに自分が発してはいけない言葉を言ってしまったと、反省し口を噤んでしまった。

「…大丈夫だ。ここにお前の言動を注意する奴はいない。気にせずに振る舞えばいい」

「はい!」

 少し和んでいると、初雪が顔を上げた。

「…電探に感あり」

「また襲撃?回避するわ」

「いや…多分違う…」

「違うってどういう…」

「…電探の波が乱立してる。多分群れだと思う」

「群れって…まだ鉄底海峡までかなり距離があるんじゃ」

「そのはずだ。だが相手が深海棲艦を生み出し続けているなら、初めに艦隊が接敵してから時間が経っているし、その量は甚大だろう」

「つまりあたし達は今からそれに突っ込まなきゃいけないってことか…?」

「そういうことになるわね。覚悟はいい」

「私は大丈夫です」

「私も、もしもの時は接近戦も辞さない」

「…うん」

「どっちみちやらなきゃいけないんだろ。じゃあやるっきゃないな」

「夕立はとても楽しみです!」

「睦月はできてません!」

「よし、じゃあこのまま進むわよ。各自準備はしっかりとね」

 後ろからなぜ!と叫ぶ声がした気がするが気のせいだろう。集団に接触するまでまだ少し時間がある。グラーフだけは空母の特権で先んじて攻撃を開始している。全力航行をしながら発艦するのは久しぶりであったが、かつてのように深海棲艦と格闘しながら発艦した頃と比べれば圧倒的に楽なはずで、彼女は手際良く発艦させ続けている。

 

 さらに数十分航行した。電探の波は段々と近くなっている。それはやがて肉眼に見える距離にまで近づいていた。一面に見える深海棲艦は海を埋め尽くし、さながら真っ黒であった。上空には空母から発せられた航空機が飛び交い、そしてそれと戦う恐らく本土の艦隊の航空機が混じり合っていた。

「本当に真っ黒ね」

「うわぁ…」

「報告で聞いていたよりもよっぽどひどいな」

「グラーフさん達って昔あれぐらいの量を相手してたんですか?」

「いや…流石にあの量はなかったかな」

「てことはお前らも未経験の量かよ…」

「睦月達生き残れるんでしょうか……」

「うわぁ…獲物がいっぱい…」

 一人を除いて誰もがその光景に引いていた。今からあれに突っ込む。そう考えると覚悟していてもその決意を揺らがせる。いやだがあれは全てノーマル艦。まあよほどヘマをしない限り命にかかることはないだろう。問題は弾薬が足りる気がしないということ。やはり司令官が言った通り一点突破は必須だ。暁や夕立はともかく秋月と初雪は今回ドラム缶を携行してないしグラーフもせいぜい護衛にしかナイフを使ったことがない。だがやるしかないのだ。敵さんはすでにこちらに気付き攻撃を開始している。まだ少し遠いので避けれるが、これは流石に突っ込めば避けることはできない。同士討ちを嫌ってくれなければあっという間に蜂の巣になってしまう。

「いいわね、睦月と摩耶が魚雷を撃ってそれと同時に吶喊するわよ」

「分かりました!」

「おっけ」

「合図に合わせて、3…2…1、放て」

 睦月と摩耶が魚雷を撃った。それと同時に七人全員が群れに突っ込む。彼女達のすぐ前方で魚雷が命中。水柱が何本も立ちそこに彼女達が追撃をかける。砲弾をなるべく節約するため、先頭は暁と夕立が請け負い深海棲艦を蹴散らし、処理していく。グラーフの艦爆隊が急降下爆撃を行い、群れに穴を開けていく。彼女達はその穴と穴を繋げる線を描くように群れの発生源、姫級の本体へと向かっていく。

 期待通り深海棲艦は同士討ちを嫌って全く撃たない。ただ人型をしている深海棲艦は手に持った主砲を振り回してくる。暁は防楯でそれを防ぐが数発でボコボコになり使い物にならなくなる。使い物にならない防楯はかえって邪魔になる。しかし着脱式ではないのでつけっぱなしにするほかない。

「痛い!」

 後ろから睦月の叫びが聞こえる。何かしらの攻撃が当たってしまったらしい。思った以上に進めない。これでは目標に到達するどころか、全滅の可能性も出てきた。いちいち処理していられない。強引にでも突き進むべきだ。

「摩耶、これ持って」

 暁は死骸を摩耶と夕立に一体づつ渡した。

「おいおい、どうすんだよこれ」

「それ持って突っ込んで、グラーフは摩耶に場所を伝えていって」

「了解した」

「そんな無茶な」

「そうでもしないと辿り着けない。いいからやって」

「クソっ。わーったよ」

 暁自身も死骸を持ち前に突き出した。その後ろにグラーフ達が並ぶ。

「吶喊!」

 質量で強引に押し進んでいく。摩耶が主に押しのけ、その隙間に暁と夕立が滑り込むように推し進めよりスペースを開けていく。後ろからグラーフが方向を指示する。

 途中摩耶が持っていた死骸が耐えきれず手元から千切れてしまった。摩耶と目の前の深海棲艦の目が合う。一瞬血の気が引いた。しかし相手はなんの反応を示さなかった。ただ虚な目で彼女を見つめる限り。疑問に思ったのも束の間、横から新たな死骸が渡され再び行軍を開始する。

 時折死骸を交換しながら進むこと数キロ。突如建物が見えた。

「いたぞ。あれが多分大和だ」

「やっとですか。私からはちょっと見えないんですけどあとどれくらいですか」

「数百mだろう」

「ですってよ頑張ってください」

「くっそ。もう腕がパンパンだぜ」

 全員が何かしら損害を負っている。特に睦月は大破に近い。目標に近づいても攻撃は出来なさそうだ。グラーフ辺りに護衛をつけて生存を優先してもらいたい。

 グラーフの指示の元進んでいると、突然彼女達は集団を抜けた。振り返ると、さっきまで攻撃していた奴らは彼女達への興味を失ったように前に進んでいる。深海棲艦が海から這い出ているところも見えて、ここがあの集団の起点だとわかる。

 前方にはあの戦艦大和が海上に鎮座している。大和の周りには深海棲艦はおらず海面が見えていた。




ストックが一つ消えてしまった……

この世界において艦娘の服はただの制服です。傷を肩代わりしてくれません。睦月は現在に大怪我を負い、血みどろな姿になっています。腕が取れかけているとかそのレベルです。
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