紫色の曼珠沙華をあなた達に   作:猫又提督

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捜索

「初めまして、呉の鎮守府で指揮をしています」

 その男は声こそ厳ついものの意外にも礼儀正しく挨拶してきた。暁たちもその挨拶に答えて各々挨拶を返す。

「私達の艦隊との挨拶は作戦海域に向かう際にしてください。それでは作戦内容について話します」

 そうして語られた作戦はここに来るときに司令官から聞いた内容を丁寧にしただけのものだった。駆逐艦と潜水艦で新型を捜索。それ以外は捜索時に護衛。新型を発見した場合その場で戦闘を開始する。わざわざ大和連れ出すのはそのためだという。

「もし新型が再び艦船の大和に搭乗し、本体に対する攻撃が届かなくなった場合は艦娘の大和中心として艦船大和を撃沈させてください。それでは早速ですが作戦を開始させてください」

 呉の司令官による説明が終わったかと思うと今度はこちらの司令官があと、と付け加えた。

「呉の指揮下に入っているとはいえ依然としてお前たちの会話は全て俺が聞いているからな。変なことは言うなよ」

 全く余計なことを言う男だ。ここに来る前に言えばいいものを。わざわざ人がいる所で言って抑止力を高めたつもりだろうか。

 それぞれが桟橋から身を乗り出した。全員が海上に降りたことを確認すると、大和が特別捜索隊出撃、と言って進みだした。暁たちもそれに続いていった。

 

 

 時は満ちた。全ての艦船の準備が完了しいつでも出撃できる。作戦は暁のもとへ行き、彼女を探し出して殺害すること。暁がいる場所へは彼女に乗り移った時に確認してある。

 彼女は立ち上がった。それが作戦開始の合図、大和の主機が唸り、それはやがて周りにも伝播していく。大和が海底から浮かび、海面に出ないところで静止する。それから進路を北に向けた。

 彼女は今から初めて目的を伴う行動を開始する。そのことに対する熱意は凄まじく何が何でも遂行するという信念があった。邪魔する存在は全て排除する。もしあの場の艦娘全てが相手になるのならば全員を殺した上で暁を殺す。素晴らしい作戦だと彼女は思った。絶対に成功するだろうし、成功させるしかない。

「必ずあなたを生の執着から解放してみせる」

 暁は確かここから北西に向かい、ある場所で北東に向かっていったはずだ。そこからどういけばいいかよく分からないが、多分どうにかなるはずだろう。

 彼女は準備している間、意図せずのことか深海棲艦を生み出さずにいた。しかし動き出したことで艦隊が進んだ後からまた生まれくる。だがその数は先日よりも少なかった。この事実に彼女は気づくことはなく、またもし気づいたといても彼女は何も気にすることはなかっただろう。

 

 

 

 家を離れてしばらくすると大和が暁たちに声をかけてきた。

「今日はよろしくお願いしますね」

 自分たちに声をかけてくるとは珍しい。まあ一緒に作戦行動する以上連携は大切なので致し方ないのかもしれない。

「こちらこそ」

「念のためにそちらの旗艦の方知っておきたいのですが誰が旗艦なんですか?」

 そう聞かれ暁たちは困惑した。今まで明確な旗艦を決めたことがない。全てその場のノリで決めていた通常なら司令官から任命されるのだろうが、うちのはそんなことしない。暁たちは一度集まり誰を旗艦にするのか決めることにした。 

「誰にする?」

「暁いいんじゃねえか?大体そうだろ」

「私もそれでいいと思うぞ」

「私も賛成です」

「睦月もです!」

「えぇ、私がやるの?」

「いいじゃねえか別に。いっつも先頭取ってるだろうが」

「時と場合によるでしょうが。私がいない時は他の誰かがやってるんでしょ?」

「でも暁さんがいるときはいつも暁さんがしてますから」

「……面倒だから押し付けてるわけじゃないでしょうね」

 その言葉に一同は押し黙った。図星らしい。暁はため息を吐いて了承した。

「はぁ、しょうがないわね。いいわよ、私がやってあげる」

「流石はここの最古参様だぜ」

 集団は解散し、少し呆れた顔で暁が名乗りを上げた。

「私が旗艦よ。よろしくお願いするわ」

「駆逐艦が旗艦を?あ、失礼しました。そうですよね、あなた達は特務隊ですから」

「いいわよ変に気遣わなくても」

「い、いえ、決してそんなことは……これ以上いうとややこしくなってしまいますね。すみません。では艦隊全体の指示は暁さんに渡しますので、そのときは暁さんが自身の艦隊に連絡お願いします」

「分かったわ」

「それでは早速ですが第一警戒航行序列に陣形を変更します」

「了解。艦隊第一警戒航行序列、前に出るわよ」

 暁が自分たちを前に出そうと後ろに声をかけた。暁、グラーフ、秋月、初雪の四名は連合艦隊に配属されたことがあったのでスムーズに移動できたが摩耶たち三名はその経験が無かったようで、暁の号令を聞いてもあたふたするだけだった。

「だいいち……なんだって?」

「第一警戒航行序列、なにあなた達連合艦隊に入ったことないの?」

「すみません……」

「睦月もないですぅ」

そういえばこの三人は艦娘としての経験が浅い。軍艦の生まれ変わりに近しい艦娘でもその全てが軍艦と一緒というわけではないので建造されたときは人間で言う新兵と同じだ。仕方なく暁は簡単にだが三人にどう移動すればいいのか教えた。

 暁を中心としてグラーフ以外が扇状に展開する。グラーフは空母のため一応暁の後方に移動した。その後ろに呉の艦隊が単横陣に並んだ。これは所謂対潜警戒の陣形だった。

 

 今日の航路は先日のブーゲンビルから南下するルートではなく、直接鉄底海峡まで向かう最短ルートをとっている。そのため大和がいようとも昼過ぎには到着するであろう。掃討作戦の効果か潜水艦はおろか、深海棲艦全く見ない。グラーフや呉の空母にも索敵してもらっているが水平線まで影がチラホラと見える程度であり、いつしかの真っ黒な光景は遠い過去に等しくなっていた。

「今日はもしかしたら敵に会わずに……」

「左舷前方に潜望鏡発見」

 今日は敵に会わずに済むかもしれない、暁がそう言おうとした矢先の報せだった。やはりここは腐っても南方海域、掃討したといえども生き残りはいるものである。発見んしたのは前方左翼側にいた秋月だったようで彼女が自分で行きます、と潜水艦の処理に向かった。

 艦隊から離れ潜望鏡を発見した辺りに行く。近くまでやってきたら速度を抑え水中探査儀によってより細かい位置をとらえる。それが済むと爆雷を設定し数個ばら撒く。数秒して爆発が起こり、潜水艦と思しき破片が浮かびかがってきた。撃沈を確認すると再び艦隊に加わり簡単に報告を行った。しかし、秋月の目線は何故かグラーフに向けられているように思われた。通常なら旗艦に報告すべきだが、この両者未だに喧嘩中である。秋月は意地でも暁と話したくないようで、旗艦である暁ではなくグラーフに潜水艦撃沈を報告した。そのことが暁とグラーフにも通じたのか、暁はフンと顔を背け、グラーフは苦笑いで了解といった。

「あ、あの、旗艦暁さんでは?」

 大和が混乱した様子で尋ねる。秋月は自然な様子でグラーフに報告した。旗艦グラーフだと間違えていると思えるほどに自然だった。困惑した様子の大和にグラーフが答えた。

「すまない。ちょっと二人は喧嘩中でな。見苦しいと思うが勘弁してくれ」

「は、はぁ……」

 するともう一人、グラーフに反応する者が現れた。

『おい、どういうことだ。お前らまた喧嘩したのか』

「……余計なお世話を」

『迷惑かけるなって言ったよな』

「別にかけてないでしょ」

『かけてるんだよ。お前らの勝手な私情で連携を乱すな。お前らに呉の艦隊が引き回されるなんてあってはならないことなんだぞ!いいかその場でなんとかしろ。いいな』

 そう言って彼は雑に無線を切った。一先ずこの件は面倒なので放って置こう。夕立たちが何か期待するような目をしているがひたすら無視をする。仲直りでもしてほしいのかもしれない。しかし暁にはそんな気はまったくない。秋月の方から謝ってくるのならば考えなくもないだろうが、秋月の方も暁に謝るつもりは全く無かった。皮肉にも両者共に考えが同じだったため二人共近づこうとしなかった。グラーフと初雪は見慣れた光景に触れることなく、またいつも通りいつの間にか仲直りしてるだろうと特に触れることがなかった。麻耶はそもそも興味がなさそうだった。

 

 道中何事もなく目標海域付近まで来れた。鉄底海峡より数十km手前、グラーフ呉の空母によって事前に索敵が行われる。その間も敵潜水艦を警戒し之字運動をしながらその場で待機する。

 発艦してから数十分、そろそろ海峡に着いた頃だろう。

「どう?たくさんいる?」

「そうでもないな。ここに来るまでよりかは数は多いが先日ほどじゃない。私達で前もって処理しきれるだろう」

 それからさらに数分索敵し、航空機による攻撃で十分殲滅可能という判断に至った。二隻の空母による攻撃隊の発艦が行われる。グラーフだけでも壮観だった発艦作業は二隻だとより映える。空に浮かぶ無数の点が全て味方機というのはなんと素晴らしいことだろうか。

 一次二次と攻撃隊を発艦し、二次攻撃で殲滅が完了した。残った敵艦も既に虫の息、最早脅威でもなんでもない。

 艦隊は海峡に進入した。それと同時に駆逐艦は水中探査儀で潜水艦と並行して新型に関する音が拾えないか作業を開始する。潜水艦は先行して海底付近にて痕跡がないか捜索を開始した。

 艦隊は進み続けついに前回新型が現れた場所までやってきたがここまでなんの成果もなかった。現在潜水艦二隻による海底調査を行っており艦隊はその結果を真上で待っていた。しばらく待っていると二隻が浮き上がり大和に報告した。暁たちは大和通してその結果を聞くことになる。

「結論から言いますと海底には何も見つからなかったとのことです」

「え、そんなはずは……!?」

 その事実に一番驚いたのは秋月であった。彼女は、暁に新型はまだいると言い続けていたので、これがいないとなればそれ即ち暁に負けることを指す。すでに暁は勝ち誇ったような顔で秋月を見ている。

「い、いやでも……見逃したのでは……?」

「しかし海底には何もなかったと」

「何もない?戦艦大和もですか」

「戦艦大和というと私のことではなく、暁さんたちが見たという艦船のことですか?ちょっと待って下さい……いえ船の残骸すら見なかったと」

「いや、それはおかしいですよ。あんな大きな船が残骸一つ見つからないなんて」

「……たしかにそうですね。船が見つからないとなるとつまりそれは……」

「移動してるってことですよね」

 その結論に至った全員が一瞬固まった。しかしすぐに行動に移る。移動したなら捜索しなければならない。空母は航空機による捜索を開始し、駆逐艦は再び水中探査儀を用意する。潜水艦も捜索範囲を広げて再び潜行した。

 血眼になって探す秋月とは対象的に暁の捜索は消極的だった。それは当然、もし見つかってしまえば秋月からさらに馬鹿にされるからである。しかし、秋月と同意見なのもまた事実だった。暁にとっても大和の痕跡がなにもないというのは不自然極まりないことで移動したというのが最適解だろう。ならばこのまま見つからずにいてくれるか、ちょっと遠いところで朽ちてくれていた方がいい。

 暫く捜索を続けているとグラーフが暁に近づいてきた。

「暁、少し不思議なものを見つけたんだが」

「なに……?」

「……腑抜けた声だな。いや、それは置いといて、航空機で辺りを見ていたんだが深海棲艦でできた列みたいなものを見つけたんだ」

「列?」

「ああ、ここから北西に島に沿うような感じで列が出来てる」

「……まさか北西に移動したとか?」

「これが新型の移動によってできたものかは分からないが、少なくとも奴は深海棲艦を無尽蔵に生み出してただろ?」

「ありえなくはないってことね……あー、はいはい。分かりました。呉の方にも報告するわ」

 暁は渋々といった感じで大和に報告しに行った。大和は艦隊の指揮をとり、逐一報告を受けていた。

「あの、少し話したいことがあるのだけど」

「……ではよろしくお願いします。はい、なんでしょう?」

「えっと、うちのグラーフが変なものを見つけたって……」

 暁はグラーフが見たものを説明した。大和は少し考えるそぶりを見せてすぐに空母に指示を出した。そして自身も搭載していた偵察機を飛ばした。

「私も少し確認して見せます」

 場所の案内はグラーフが行ったので大和はすぐに状況を把握することができた。確かに深海棲艦が一本のライン上に存在しており、その線はソロモン諸島を北西に走っている。

「確かにもしかしたらこのライン上に行けば新型が見つかるかもしれません。艦隊を一部切り離して向かいましょう。暁さんもよろしくお願いします」

「はーい」

 というわけで別動隊を編成しなおす必要が出てきた。まず別動隊として行動したいものを募集した結果、秋月と夕立が手を挙げた。あともう一人ぐらい言ってもいいかもしれない。

「じゃあ夕立と、あんたと……摩耶で」

「は、なんであたしなんだよ」

「あなたどうせここに居ても水蒸気飛ばすしかやることないでしょ。この中じゃ一番主砲の威力高いんだから行ってきなさいよ」

「……わーったよ。じゃあ行ってくる」

 暁は別動隊の三人を引き連れて大和の元へ再び近寄った。すでに大和の方では別動隊が決まっていたらしい。暁は三人を紹介した。

「分かりました。別動隊として私も行動しようと思っていたので暁さんがこの場に残るのであれば好都合です。一時的にですが秋月さんたちを私の指揮下に入れても構いませんか?その代わり残った艦隊を暁さんの指揮下に入れて構いませんので」

「あー、まあいいわよ」

「分かりました。それでは行ってきます。何かあればすぐに連絡しますので」

 そうして大和は別動隊となった五人を引き連れて行ってしまった。暁はその様子をただジーっと眺めていた。

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