暁たちは引き続き海峡で新型の痕跡を探していた。大和から預かったのは潜水艦二隻に駆逐艦が一隻。一方こちらが預けたのは夕立、秋月、そして摩耶だ。残った全員は協力して調査を行っている一方で暁は、報告を受けないといけないからと自分に言い聞かせながら結局は見つかってほしくないからと、消極的な態度を見せ続けていた。
潜水艦の一人が暁の近くに浮上してきた。
「大和さんに言われてもう一度海底を詳しく見てきたのね」
「あー、何かあったの」
「んーん、やっぱり何も見つからなかったの。だから次はどこを探せばいいのか指示を仰ぎたいのね」
暁は迷った。こういった調査自体初めてだし、懲罰部隊に潜水艦がいたことがないのでどう使えばいいのか分からない。それに本格的に探してもらって新型が生きているという事実を見つけ手られても困る。どうしようかと考えているとふと目の前の潜水艦が潜水空母でもあることを思い出した。呉なら改装ぐらい行っているだろう。
「ねえ、あなたって潜水空母なの?」
「そうなのね」
「じゃあ、グラーフと一緒にこの辺りを索敵してもらえない」
「え、でもそれは空母だけで事足りると思うのね?」
「でもあなたが持っているのは水上機でしょ。普通の飛行機じゃ水上に何か見つけても近くから観察できないし、でも水上機なら降りてそれがなんなのか確認できるわよね」
「わかったのね。じゃあそっちの空母と一緒に行動するのね」
そう言って潜水艦はグラーフの元へと行き暁と同じことを口にした。グラーフは一度こちらを見たものの、やがて潜水艦と一緒に索敵活動を再開した。
それからしばらくしてもう一隻の潜水艦も浮上してきたが変わらず何の痕跡も見つからないということだった。こちらも同じく指示を仰いできたため、適当に南東方面の調査を指示した。
そして暁は初雪の場所へと向かった。初雪はずっと水中探査儀で水中を探っている。彼女は水中探査儀の扱いにたけていたのでとりあえず彼女を訪ねたのだ。
「どう、何か見つかった?」
「……なにも」
「やっぱり何もないのね」
「……何もなさ過ぎて逆に不自然。やっぱり移動したと考えるのがまだ妥当」
「は、それってつまり秋月と同意見ってこと」
「はぁ……暁は神経質すぎ。めんどくさい」
「は、ちょ、なにそれひどい!」
「言いたいことは終わった?……じゃまだからあっち行ってて、聞こえにくくなる」
「ふん。言わなくても離れるわよ」
初雪に適当にあしらわれて不機嫌になった暁は次に睦月の元へと向かった。彼女は呉の駆逐艦と一緒に探っているらしいが、水中探査儀の扱いに慣れていないらしく難航しているのが所作と顔に現れている。特に所作については隣にいる呉の駆逐艦と見比べるとより顕著に表れていた。
「どう、なんかあった」
「あ、えっと、まだ何も……」
「そっちは?」
暁は隣にいた駆逐艦にも聞いた。こちらも同じく何も見つからないという。ここまで何もないのなら少なくとももうここにはいないのだと思った。
秋月は大和たちと一緒にソロモン諸島を北上していた。とはいえ、ラインを艦隊で追うわけではなく航空機だけで追ってもらい、艦隊はそこからずれて諸島の北側から平行に追っていた。
「……ずっと続いていますね」
ラインはやはりソロモン諸島の真ん中を突き抜けるように細くはあるがライン上に深海棲艦が湧いている。それも駆逐艦や軽巡洋艦で、空母や戦艦は見られない。もしこのラインが新型の移動によって形成されたものならその力は大分弱まっているのだろう。
大和は以上の考えを艦隊に伝えた。
「もし発見した場合はそのまま戦闘に入っても問題ないと思われます。皆さん用意だけはしておいてください。
航空機による調査を進めているとブーゲンビル島で東に曲がっていた。ラインは途切れることなく太平洋に続いていた。それを確認したところで一度暁に知らせておくことにした。
「大和です。そちらで何か発見はありましたか?」
『いえ、何もなかったわ』
「あのラインですけど太平洋にまで伸びているみたいです。あれが新型のせいかはまだわかりませんがとりあえずこちらの調査を優先したいと思いますので、こちらに移動できませんか」
『了解、今どこにいるの』
「ショアルーズ島の北端沖合です」
『分かった、移動するわ』
暁が到着するまでラインの観察を行っていたが、とうとう航空機で行ける範囲を超えても途切れることはなく、加えて暁が到着するごろには日も大分傾いていた。
「来たわよー」
大和の後方から声がする。振り向くと暁が来ていた。
「あ、すみません。せっかく来ていただいてあれなんですが、もうすぐ日が沈んでしまいますのでそろそろ帰投しようかと思ってるんです」
「ん、まあそれでいいんじゃないの?」
調査が終わるならそれもまたよし。一行は帰投のため陣形を組みなおした。
その途中大和と暁にそれぞれ通信が入った。特に暁に対しては一人ではなく部隊全員に入った。
『おい!お前ら早く帰ってこい!襲撃だ!』
「は、襲撃?何から」
『駆逐艦だ!』
「駆逐艦?それぐらいで騒がないでよ」
『深海棲艦じゃない!艦船、本当の船の駆逐艦から砲撃を受けている!』
突拍子の名ことを言うものだと思った。しかし艦船による砲撃と聞いて思い当たる節が一つあった。そう新型のことだ。しかし奴が乗っていたのは戦艦、少し状況が違う。詳しく事情を聴こうとしたが司令官はいいから早く戻ってこいとだけ言って切ってしまった。
暁たちは目を見合わせた。突然のことで皆少し混乱しているようだった。
「皆さん急いで戻りましょう!」
通信を追えたらしい大和が叫んだ。彼女は自分の司令官から暁たちよりも詳しい状況を聞けたらしく、帰投しながらその内容を話した。暁の司令官と同じく複数の艦船の駆逐艦から砲撃を受けているそうだ。加え深海棲艦の群れも加わっているらしい。ただこの深海棲艦は奥側の個体に活動が見られないようだった。この特徴から襲撃は新型が行っているものと判断されたらしい。
「現在鎮守府の戦力で対応しているそうですが深海棲艦の壁が分厚く、空母による爆撃で何とか駆逐艦にダメージを与えていると。ただこちらも駆逐艦の装甲が思ったよりも分厚くたいしたダメージを与えられないと。加えて対空射撃も苛烈だと」
「魚雷による攻撃は無理なのか?」
「そこまでは分かりませんでしたが、おそらく深海棲艦が壁になっているのかと」
「そうか……」
「新型っていうなら戦艦がいるはずでしょ。そっちは見つかってないの?」
「はい、現在捜索中だそうですがおそらく駆逐艦よりもずっと後ろに配置されているものと」
「戦艦に砲撃されたひとたまりもないわね」
「そうですね……恐らく我々はその戦艦及び新型と接敵するはずです。先日と同様深海棲艦の群れも発生している場合があります。急を要しますが焦らず行きましょう」
作戦を開始した。駆逐艦を前に出して艦娘をおびき寄せ、撃破しようとしたが駆逐艦を静止させた瞬間に深海棲艦が湧いて出てきた。どうやら奴らは静止すると湧く量が爆増するらしい。嬉しい誤算というわけだ。お陰で奴らが盾となってくれている。空母の艦載機による爆撃を許しているがそれも微々たるものだ。このまま駆逐艦で砲撃し奴らの居場所を壊滅させた後、暁を探す。本当は大和で一掃させたいが多分暁まで抹消させてしまう。殺すときは自らの手で殺してあげたい。
今一つの問題がある。現在大和を駆逐艦のかなり後方に配置しているのだが、駆逐艦の様子が見えないため、どれだけ打撃を与えているのかわからないということ。操作は思念で出来ることがわかったのでとりあえず砲撃するようにしているが、暁を吹き飛ばしていないことを願いたい。
そうだ、ここから駆逐艦まで移動できるか試してみよう。移動する方法は検討もつかないが多分操作するときと同じように思念でなんとかなると思う。
目を閉じて行先の駆逐艦を思い出す。すると周りの音が遠くなるのを感じた。それは次第に収まっていったが、今度はいろいろな音が聞こえてくるようになった。目を開けるとそこは大和の甲板ではなかった。目の前には窓がありそこから一つの島が見える。ここが思い浮かべた駆逐艦かはわからないが移動が成功したのは確実だった。思わずできたことに少し感心していると船体が揺れるのを感じた。外に出るとくぐもっていた外の音がはっきりと聞こえる。空には艦娘の艦載機と思われる飛行機が飛び回り駆逐艦の機銃がそれに応戦している。島に砲撃するようにしか指示してなかったと思うが自衛は勝手にするらしい。ただ標的が小さいので全然当たらない。そのせいで攻撃を許しているが、飛行機が小さい分持っている爆弾も小さいので当たっても小さな穴ができるぐらいだった。
彼女は艦首までやってきて遠くを眺めた。主砲の爆音が一定間隔で鳴り響いている。駆逐艦から島までの距離はおよそ十数キロ、島が水平線上に小さく見える。艦娘と深海棲艦が戦っているらしい爆発も何個か見えるが、ここまで随分と遠い。
「やれてるかな」
ここからだと遠すぎて戦況が分からない。なので彼女は島に近づいてみることにした。彼女は艦首から跨いで海に飛び降りた。しぶきが立ち、彼女は海の上に立つ。そこから歩き出した。駆逐艦の周囲数メートル先から深海棲艦は湧いている。湧いて出た直後の奴らは何の反応も示さない様子でただ前に進み続けていた。ただ彼女がその群れに入ろうとすると奴らは自ら彼女のために道を開けた。彼女はその道を歩き続けるが当然十数キロもある距離を歩き禰衡とすればかなりの時間がかかる。彼女も早々にそれを思い知った。
「遠いな……どうしよう」
楽にできる方法はないかと辺りを見回した。彼女の目にすぐ横を通過し続ける深海棲艦が目についた。
そうだ、こいつに乗ればいい。そう思った彼女は乗りやすそうな形をした深海棲艦を探し出す。
「……あ、あれがいいかな」
彼女は一体の深海棲艦を見つけ出した。あれに乗ろう。
彼女はその深海棲艦の前で手を上げた。その個体はちゃんと彼女の目の前で止まる。彼女が跨り、行けと命じるとその個体は彼女を乗せてまた進みだした。
やはり深海棲艦に乗ると、楽で早い。歩くよりよっぽど効率的だった。前線に近づくに連れて砲撃戦の音も大きくなってくる。彼女は適当な場所で群れから外れ、見通しのいい場所から戦場を確認しようとした。
戦場は深海棲艦の優勢に見えた。艦娘は先頭に立つ深海棲艦を易易と沈めているが、彼女達が沈めるスピードより深海棲艦湧き出るスピードの方が断然早い。前線はジリジリと前に進んでいた。ふとこちらを向いた艦娘が仲間に何か言った。すると突然攻撃が彼女の方へ向かってしまった。最初は遠くに着弾していた砲弾もすぐに夾叉するようになった。彼女は慌てて群れに戻った。
彼女は学んだ。艦娘たちは自分を殺そうとしているのだ。彼女自身に攻撃能力はない。なので護衛が必要であった。とりあえず彼女の近くにいる深海棲艦に自分の護衛を頼もうとした。しかし、どう指示しても奴らが従うことはなかった。さっきはおとなしくしたがったのにどういうことだろうか。彼女は悩み考え、一つの仮説を立てた。ここは前線に近く深海棲艦の活動が活発なっていた。もしかしたらすでに自我が芽生えていて手放しに従ってくれないのかもしれない。
彼女は一度戻り深海棲艦の源泉近くまで来た。そこでもう一度自分を護衛するように指示を出してみる。すると見事に群れの中の何十体かが彼女にまとわりつくようになった。駆逐艦から戦艦までが彼女の前後に立つ。その状態で再び前線へ向かった。
前線へ向かうと、すぐさま艦娘の攻撃が降ってきた。しかし今度は護衛が応戦する。相手の艦娘はすでにボロボロの者が多く、本来ならずっと強かっただろうに護衛の深海棲艦相手に随分と苦労していた。その様子を見て彼女は思いついた。すべて島への砲撃に充てていた駆逐艦の砲撃をいくつか艦娘たちがいるあたりへ目標を変えてみた。
少し時間が空いて、空から一つの砲弾が降ってくる。不運にも一つの艦隊にそれは直撃してしまった。彼女から見えたのは一つの黒い影が空中へ放り出されるところであった。それは彼女からは黒い塊が一つ飛んでいっただけに見えた。だが、近くにいた艦娘には違うように見えたのかもしれない。彼女への攻撃を忘れてその黒い塊を見て固まってしまった。そこへ深海棲艦の群れは容赦なく飲み込んでいく。その後も目標を変えない砲撃はたとえ最前線の深海棲艦を巻き込もうとも降り続けた。