「私たちが出る意味ある?」
「提督が出撃するようにおっしゃったのですからしょうがないですわ」
「でも飛行機あんなに出して生き残る深海棲艦とかいないでしょ。ていうか出しすぎじゃない」
鈴谷は熊野他数名と一緒に領海内に侵入した深海棲艦の迎撃に向かっていた。彼女はこの出撃に疑問を感じていた。ここはタウイタウイ泊地の領海内で、なおかつ近くにはブルネイ泊地とパラオ泊地がある。ここまでやってくること自体潜水艦でもなければ珍しいのに、今回侵入してきたのは艦隊、それも未確認の艦種が含まれているそうだ。提督は航空機と艦娘による迎撃を命じた。
提督は迎撃に航空機を実に百機以上使った。正直あれだけの航空機を使ったうえで自分たちが出撃する必要性を感じれなかった。
「敵には未確認の深海棲艦が含まれている。念には念を押してのことだろう。それに戦力が足らないよりは過剰のほうがまだいいだろう」
旗艦の長門はそう言って鈴谷をなだめた。熊野も「そうですわ」と同調している。鈴谷はまだ少し納得できなかったがそれを声に出すことはせず適当に返事をして済ませた。
航空機が出撃したのが二十分ほど前、今頃侵入した深海棲艦に攻撃を行ているはずだ。その時提督から通信が入った。伝えられたのは信じられない内容だった。
「航空隊が壊滅!?」
『ああ。すでに全体の半分は喪失がはっきりしている。近づいたものはほとんど落とされてしまったから敵にどれだけ損害を与えたかも不明だ。敵はまだ遠くまで移動していない。用心しろ、相手はただの深海棲艦ではないぞ』
「了解」
「うっそでしょ。あれだけ飛ばして返り討ちに合ったの?」
「そのようですわね」
「鈴谷、熊野、偵察機を上げろ。敵の様子を調べるんだ。くれぐれも近づきすぎないように」
「「了解」ですわ」
長門からの指示通り二人は即座に水上機を射出した。射出された水上機は彼女たちの周りを一周してから簡易的な編隊を組んで飛んでいった。
三十分後水上機より敵艦隊発見の報せが入った。二人はそれぞれで情報を整理し長門に伝えた。
「敵艦隊はシブツ島南端より約四十キロ南で航行中。損害は、軽微もしくは無しに近いね」
「構成は多種の深海棲艦に……船が四隻らしいですわ」
「なに、船?深海棲艦ではなく船がいるというのか?」
「偵察機からの情報ではそのように」
「しかし提督からは事前に未確認の艦種がいるとしか聞いてなかったが……一度聞いてみよう。提督、こちら長門だ」
『どうした。何かあったか』
「先ほど鈴谷と熊野に索敵を行ってもらった。そこで深海棲艦に加えて船が四隻という報告がある。これは事前に聞いてないぞ」
『すまない。どうにも信じられなくてな。情報が不確かだったのでお前に立ちに話すのはやめておいたのだが、そうか見間違いではなかったのか』
「それなら見間違いだったらよかったな。悪い知らせだ。敵の損害は軽微もしくは無しだ。敵は数十体の深海棲艦に船が四隻。私たち六人でどうにかなる相手ではないぞ」
『あの規模の空襲を無傷で乗り越えたというのか!?わかった、追加で部隊をだそう』
「ああ頼む」
「どうでしたの」
「船がいるというのが信じられなくて言わなかったらしい」
「なにそれ、嘘でも見間違いでも教えてほしかったんですけど」
「まあまあ。言い分は分かるが確かに今の時代に船がいるなんてそうそう信じられることではないからな。それに造園をよこしてくれるそうだ。敵はシブツ島の南にいるんだったな。針路は」
「東に向かってますわ。セレベス海を抜ける気かもしれませんわ」
「分かった。パラオ泊地の手は煩わせないようにしよう。先を急ぐぞ」
水上機が二機、遠くを飛んでいるのが見えた。自分たちを監視しているのか機銃の射程外を飛んでいた。敵ながら言い判断と言えよう。今の彼女は射程内に入ったものはすべて攻撃する気なのだから。その代わり自分から向かうことはない。それに今は空母の戦闘機が全滅していて、迎撃もできない。一応補充中なのだがそれがいつ終わるか分からない。
あの水上機はタウイタウイの艦娘のだろうか。それなら今頃自分たちを追っているのかもしれない。まあ、だとしても返り討ちにするだけなのでのんびりと待つことにしよう。巡航速度で航行しているので追っているのならいずれ追いつくだろう。それまでは暁とお話でもしていよう。響のことを教えてあげなければ。
「いる~?」
彼女はウキウキで部屋に入った。暁は無愛想な顔で彼女を迎えた。
「さてさて、どこから教えてほしい?響のことはね、記憶を覗いたからなんでも教えてあげられるわよ」
「じゃ、じゃあ私が沈んだ後のことを教えてくれる」
「沈んだ後?それってどこまで?」
「響が、その、沈んだところまで」
「あーはいはい、オッケーよ。丁寧に教えてあげるわ」
彼女は響の歴史を話し始めた。暁が沈んだ後第六駆逐隊がどうなったのか。響が参加した戦いや、見届けた艦船、ちょっとした事件など、そのすべてを話した。内容的に暗いものが多く、暁の顔は暗かった。彼女は時折心配する様子を見せたが、暁は大丈夫、と話の続きを求めた。
一九四三年の出来事を話している頃、駆逐艦の電探に何かが引っ掛かった。方角は西側、艦隊の後方だ。彼女は少しの間話の手を止め、電探の反応をうかがっていた。
「どうしたの」
急に話すのをやめてしまった彼女に暁は尋ねた。
「ちょっと、なにか来たみたい。多分艦娘ね。追ってきたやつ。処理してくるわ」
彼女はなるべく早く戻る、と言い残して部屋を後にした。甲板に出た彼女はすぐに船尾まで行ったがほかの駆逐艦が邪魔で後ろが良く見えない。仕方なく彼女は一番後ろを走る電に乗り換えて艦尾から海を見た。電探が反応したのは十五キロ先、水平線の向こうだ。いつの間にかかなり近づいていたらしい。それほど暁とのお話に夢中になっていたということだが。
目視ではまだ見えないので航空機で確認したいが、まだ補充が終わっていない。思ったよりも補充が遅い、気軽に使い倒すことは出来なさそうだ。
「……でも向こうに空母いないわよね」
そういえば飛んできたのは水上機二機だけだ。もし相手に空母が居れば間違いなく艦載機を飛ばすだろう。空母がいないのならこちらから攻撃機だけを向かわしても問題はない。彼女は後方から迫る艦娘に攻撃を指示した。空母は攻撃機を排出するが、戦闘機の反省を踏まえて半分に抑えた。
攻撃機が水平線に消えそうな頃、電探の反応の正体らしき艦隊を見つけたと報せがあった。それとやはり艦娘の艦隊で六隻いるそうだ。こちらの戦力に対してたった六隻で来るとはなめられているのか。それとやはり相手の艦隊に空母はいない。それにどうやら離れているようだ。こちらの攻撃隊に怖気ついたか。彼女は直ちに攻撃を指示した。それと同時に駆逐艦にも砲撃を指示する。当たるとは思ってないが、相手の進路妨害ぐらいにはなるだろう。逃がしはしない。
進路はそのままなので使える主砲は船尾側にある二番砲塔のみ、それが四基ある。一分に十発という頻度で打ち出される砲弾は水平線の向こうへと消えていく。砲撃支援としては十分だろうか。相手の艦隊の構成は戦艦一に巡洋艦二、駆逐艦が三、こちらまであと十キロ以上もある。攻撃隊は半分だが二百ほど飛んでいった。まあ、向こうの射程内に入る前にすべて沈むだろう。二百は過剰だったかもしれない。
追ってきた艦娘の数が少なかったので彼女は自分が出る必要もないだろうとあとは空母自身に任せ、暁の元へと戻った。
暁は体制を変えずに彼女を待っていた。
「早かったわね。もっとかかるかと思った」
「追ってきてたの六隻だけだったわ。多分空母だけで何とかなるだろうか戻ってきちゃった」
「ふーん」
「さあお話の続きをしましょ。えっとどこまで話したかしら……」
水上機を回収していたところ、前方から敵の航空機が迫ってきているのが分かった。
「敵航空機だ。総員対空戦闘!」
「うっそ、まだ回収しきれてないんですけど」
「い、急ぎますわよ!」
「急いでくれ、ものすごい数が来そうだ」
長門の対空電探は十五キロ先の反応を拾った。これつまり、それぐらい遠くから探知できるほどの数がやってきているということだ。今までの経験上これほど遠くから探知できたことは全然なかった。数少ない記憶から推定するに近づいて来ているのは
「二百か……!」
事前の報告では深海棲艦が多数いることは分かっていたが、その詳しい内訳は分からなかった。しかしこの時点で少なくとも空母が三隻以上はいるのが分かった。航空機基地隊が壊滅した時点で薄々思ってはいたがやはり六人ではとてもじゃないが敵わない。どうする、援軍はすでによこしてあると提督は言った。しかしその援軍がいつやってくるのか分からない。となると生存を重視して一度引くべきか。
「くっ、一度引くぞ」
「え、どうして。もう近いよ」
「あの数の空襲は無事では済まないぞ。最悪沈むかもしれん。一度引いて援軍と合流する方が賢明だ。向こうは準巡航速度で動いてる。合流まで待ってもすぐに追いつくだろう」
「確かにそうかもしれませんわね」
「提督、長門だ」
『どうした、何かあったか」
「敵には少なくとも空母が三隻以上いることが分かった。そのほかにも多数いて私たちだけじゃどうにも手におえん。援軍が来るまで一度下がる。援軍はいつ到着するんだ」
『今どこにいる』
「シブツ島南端から南東に約六十キロだ」
『それならあと二時間だ。なんとか耐えてくれ』
「二時間か……わかった」
援軍到着まであと二時間、それまで生き残らなければならない。水上機も回収し終わり、長門たちは急いで針路を変更した。何百キロの速度で追ってくる飛行機の前では雀の涙ほどの時間稼ぎにしかならないが、少しでも距離を離して、数秒だけでも援軍の到着までの時間を減らしたかった。
そしてついに敵航空機の編隊が現れた。日が傾いた空に黒い点の集合体はまだまだ目立つ。あれがすべて自分たちに襲い掛かってくるのだと思うと鳥肌が立つ。
その時、彼女たちの周りに何かが着弾した。水柱の大きさからして戦艦かそれ以上のものだ。
「くっ、戦艦もいるのか!?」
「で、でも周辺には何もいないよ」
「だったら一体何が」
「とりあえず今は逃げた方がよろしいのでは!」
彼女たちは撤退しようとするが、それを阻むかのように砲弾が着弾する。でたらめに撃っているのか狙って撃っているのか、彼女たちは蛇行しながら逃げるほかなかった。結果あまり距離を稼がないうちに敵航空機に捕まってしまった。
攻撃機は彼女たちの進路に向けて爆弾や魚雷を投下していく。砲撃が邪魔でうまく避けることができない。避けきるのは無理だと早々に判断した長門は魚雷の被弾を避けることをとにかく重視させた。爆弾なら数発当たっても魚雷よりも幾分かマシだ。だが駆逐艦の一人がある一本の魚雷を避けようとしたとき目の前に着弾したので思わず右に避けたためにとうとう魚雷に被弾してしまった。
「大丈夫か!」
長門が急いで駆け寄ると駆逐艦はその場でとどまっていた。当たり所が悪かったのか機関が壊れて大破してしまっていた。
「足の艤装を落とせるか?」
長門は彼女を抱えて逃げようとした。そのため彼女に足の艤装の電源を落とすように言った。彼女は長門にうなづき足の艤装の電源を落とした。長門はすかさず彼女を抱え上げ撤退を続けた。
敵航空機は身重な長門を狙いだした。実際長門は駆逐艦の艦娘を抱えているため回避がしにくい。自分が重点的に狙われだしたことに気づいた長門はあえて艦隊から離れるようにした。これで少しでも艦隊の被害を抑えようという判断だった。自らが囮となっても沈むつもりはない。むしろ艦隊から少し距離を取ったおかげで着弾地点からもずれて回避や対空砲火に集中できるようになった。だがそれでも圧倒的物量を見せる敵にだんだん回避や対空攻撃が間に合わなくなってきた。爆弾が直撃し頭が揺られて一瞬視界がブラックアウトした。次に視界がはっきりした時前方と左舷から五機ずつ飛行機が水面付近を飛んでいた。すでに投下直前、頭では理解しても体はまっすぐと進み続ける。時間がゆっくりに感じられ。魚雷が投下されるのを見て避けられないと思った。海中を進む魚雷の影が見えた。五本の影が自身に向かっている。少しでも避けようと右に体を傾けるがその程度では避けれない。長門は最後に「すまない」と言葉を残した。