紫色の曼珠沙華をあなた達に   作:猫又提督

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一抹の希望をつぶしに

 航空隊は空母五隻を含む艦娘の連合艦隊から飛び立っていた。それ以外の情報は尾行していた戦闘機がばれて即座に撃ち落とされてしまったため分からないが、距離が艦隊より後方約四十キロだったのですぐに第二次攻撃を行うと予想した。彼女は即座にレ級二人と他三人を連れてこれを撃滅すべく全速力で向かった。

 艦娘どもに向かってしばらく、海面が赤く光っていることに気づいた。すでに日は落ちてきている。今まで気づかなかったが、夜まで待った方が有利かもしれない。まだ日が落ちるまで時間があるのでそれまでに空襲がもう一度あるだろうが、海中に潜っていてもらえば当たらないだろう。そう思った彼女は残った艦隊に沈降を命じた。しかし艦隊から返事が返ってこない。今まで彼女が何か命じた時は言葉にはしにくいが何かしら返事のようなものがあった。しかしそれがない。もしかしたら離れすぎて彼女の指示が届かないのか。水平線から見えなくなってしばらく進んだあたりなのだが。仕方なく彼女は無線機を取り出し直接指示をした。彼女たちは第二次攻撃隊に捕捉されないよう大回りで向かうようにした。

 遠くに大編隊を見つけた。あれがきっと第二次攻撃隊だ。夕日が逆光になっているおかげでとても目立っている。見つからないか一瞬不安になったが、こちらに向かってくる機影はなかった。攻撃隊の最後尾が言った後にレ級の艦載機にそれぞれ一機ずつ飛んでもらった。すでに敵が移動を開始している可能性もあるためそのためのナビゲーションが必要だった。

 結果から言えば敵はさらに十キロほど艦隊に近づいていた。そして敵艦隊の詳細も分かった。空母五隻、戦艦四隻、巡洋艦二隻、駆逐艦一隻とかなり偏った編成だ。こちらの艦隊の射程、主に駆逐艦の主砲だがそれに対抗しようとしたのだろう。さらに空母が後方に駆逐艦一隻のみを護衛に置いていることも分かった。残念ながら途中で落とされてしまったが、彼女は敵艦隊の後方に回り込むことにした。先に空母を仕留めておこう。これは駆逐艦の性だろうか空母はどうにも沈めたくなる。

 

 

 

 第二次攻撃隊を送り出してから旗艦の赤城は攻撃隊からの報告を待っていた。初遭遇時の基地航空隊の攻撃、それから生き残った二人の駆逐艦の証言から、今回のように航空機で異常な高さから爆撃を行うという作戦を立案した。結果としてそれはうまくいった。命中率も敵の的が大きかったおかげかさほど悪くなかった。可能であれば航空機のみで撃滅したかったが、時間的にこれが最後だろう。敵には長射程の主砲を持つ艦艇がいると聞いている。戦艦よりも長いのだとか。

 ついさっき深海棲艦の航空機を発見した。すぐにこれを落としたが、近くに深海棲艦がいるという報告は入っていない。だがこちらは連合艦隊、ちょっとやそっとの敵には臆することもない。

 ボロボロで戻ってきた二人を見た時は驚いた。そして事の顛末も受け入れがたいものだった。あの長門が沈んでしまった。吹雪を抱えて移動していたがために集中攻撃を食らったという。更に鈴谷と熊野も敵航空機の餌食になったそうだ。長門たちから受け取った貴重な情報は長射程の砲撃を可能とする艦艇が四隻、そして少なくとも三隻以上の空母を含む艦隊であること。赤城は半ば放心状態でその情報を聞いていた。この数年間長門と一緒に過ごした記憶がよみがえり涙が流れそうだった。しかし赤城はそれをこらえた。今は泣くときではない。しっかり敵を取ってから泣くべきだ。一旦心の整理をつけたつもりだが油断するとまた涙が浮かんできそうだ。

「敵が見つからない?」

 攻撃隊から入った報せは奇妙なものだった。もう一度敵艦隊のいた場所に向かうとそこには深海棲艦の一体もいないというのだ。ましてや艦艇なども見つからなかった。その周辺を探したのかと聞くと、もちろん探したという。

「どうしますか、赤城さん」

 隣から加賀が声をかけた。

「第一次攻撃隊の攻撃で撃滅した、なんてことはあり得ませんよね」

「ええ、損害は与えましたが撃滅するほどのダメージではなかったはずです」

「では大規模な移動を?いや、それでもそう遠くにはいけないはずですが……」

 考えても何も思いつかない。とりあえず再度周辺を捜索し何もいないようであれば帰投するように指示した。もうすぐ日が完全に落ちてしまうので、そうなれば収容が難しくなる。

「変ですね。敵は一体どこへ」

 一先ず第一艦隊の旗艦にこのことを報告しようと思った。

「陸奥さん、すみません敵艦隊を見失いました」

「見失った?敵艦隊はとても目立つ様相をしているはずだけど」

「ええ、そのはずです。ですが第二次攻撃隊が再度敵艦隊の元へ向かったところ跡形もなくなっていたそうです」

「それは、第一次攻撃で撃滅したのではなくて?」

「残念ながら損害は与えましたが撃滅するほどでは」

「じゃあ一体どこへ」

「とりあえず攻撃隊に周辺を捜索させています。もしかしたら攻撃隊を再度向かわせた間に大きく移動したのかもしれません」

「分かったわ。もし見つからなければ一度帰投しましょう」

「え、な、長門さんの敵討ちは」

「ええ、本当はそうしたいのだけど長門ならもし私が沈んでも冷静に状況を見るはずよ。現状航空機でしか行こうだが得られないから、発艦できない夜間はとても危険だわ」

「分かりました」

 赤城は加賀たちの元に戻り陸奥との会話を伝えた。加賀たちはそれを了承し索敵に集中した。赤城は何としても敵艦隊を見つけたいという思いが上がった。長門の仇のため、妹の陸奥のため、そして長門本人のためだ。しかしその熱意を裏切るように敵艦隊は見つからない。日はどんどん落ちてとうとう目視の索敵ができなくなってしまった。赤城はあともう少しと粘ったがこれ以上暗くなっては着艦作業に支障をきたしてしまうため悔しいがここで攻撃隊を戻すことにした。

 赤城は撤収命令を出すと申し訳なさそうに陸奥に見つからなったと報告した。

「そう……仕方ないわ。航空機を収容したら一度戻りましょう。明日、まだいるかわからないけどもう一度探せばいいわ」

 赤城は悔しさをにじみだした。それは長門を沈めた敵艦隊の怒りからくるものであり、またそれを見つけることができなかった自分への怒りからくるものでもある。しかし赤城はそれを表に出すのを我慢した。なぜなら今最も感情を出したのは陸奥のはずだから。彼女が冷静でいる以上自分も冷静でいなければならないのだ。

 索敵に熱中していたせいで攻撃隊が戻ってくる頃にはもうずいぶん暗くなっていた。日がある時より着艦が難しくなるが、問題はないはずだ。自分たちの航空機は暗いぐらいで着艦ができなくなるほど未熟ではない。誘導灯を突ければ昼間と変わらず着艦できる。赤城は先頭にいる航空機に向けて腕の飛行甲板を差し出した。航空機もギアを下げて着艦体制に入る。と、突然護衛をしていた駆逐艦が叫んだ。

「何か近づいてます!」

 赤城は驚き振り向いた。何か近づいている。潜水艦だろうか。ならばすぐに移動しなければまずい。しかし攻撃隊はどんどんギアを下げている。急ぎ着艦中止を指示し、すでに失速速度まで落ちている航空機のみを収容することにした。

「距離は」

 加賀が駆逐艦に尋ねる。

「三千……二千五百……二千、すごいスピードで近づいているみたいです。魚雷かもしれません!」

 赤城たちは最低限の収容を終え回避行動をとった。そのころにはアンノウンから距離五百まで縮まっており、危機一髪だったと言えよう。少し広めに回避したので魚雷はよけれるはずだ。通り過ぎる魚雷を確認しようと海面を見ていると、短い悲鳴とともに駆逐艦の娘が海中に没した。

 赤城は波紋だけが残った海面を見つめていた。駆逐艦の娘は何かに引きずり込まれた。彼女の近くにいる自分たちも同じように引きずり込まれるかもしれない。逃げなきゃという思いで動かない体を無理やり動かした。

「た、退避!」

 絞り出した声で加賀たちにもその場から逃げることを促した。赤城の声ではっとした加賀たちは急いで移動した。赤城はそのまま陸奥達にも同じことを言おうとした。陸奥の第一艦隊は赤城の第二艦隊から少し離れたところにいるためさっきの騒動に気づいていなかった。

「陸奥さん、急いでそこから逃げてください!」

「ど、どうしたの」

「何かが私たちの足元に潜んでいます。さっき暁ちゃんが引きづりこまれました!」

「そ、そんな」

「とりあえずそこから移動を!」

 そこに何かが海中から上がってきた。赤城と陸奥は二人で盛り上がった海面を見たが、そこから上がってきたのは暁だった。

「あ、暁ちゃん無事でしたか」

 暁は赤城と陸奥の二人の顔を見てから赤城に向かって助けを求めた。

「ご、ごめんなさい。うまく海面に上がれないの。足の艤装が壊れてしまったかもしれないから引き上げてくれない?」

「分かりました。今引き上げますね」

 赤城は暁を海面から引き揚げようと手を伸ばした。すると陸奥が赤城の腕をつかみかけた。赤城は陸奥の顔を見たが彼女は「ごめんなさいなんでもないわ」と言って腕をひっこめた。赤城は再度暁の腕を取って引き上げた。暁はするりと海面に上がった。

「大丈夫ですか」

「ええ、おかげで一人確実に殺れるわ」

「はい?」

 二人の間に数秒の間が開いた。暁は左手で後ろから錨を取り出し、裂き割れた先に伸びた鎌の刃ではなく持ち手からまっすぐ伸びた先の槍を赤城に突き立てた。腹の辺りを突いた槍は赤城の腹を貫通し背中から出ていた。

 

 

 

 彼女は護衛の駆逐艦を確実に始末するために海中に引きずり込んだ。するとどうだろう。それは暁ではないか。暁は目を見開いて驚いた様子を見せた。突然海中に引きずり込まれたかと思ったらそこには自分と同じ姿した人が居るのだから当然だろう。彼女は慣れた手つきで暁を始末した。鮮血が海中を漂い暁の体は急速に沈んでいく。

 暁は護衛対象ではなかったのか?そうだ、暁を死なせてはならない。じゃあなぜさっきの暁は殺したのか、それはただ彼女はただの暁であって護衛対象の暁ではないからだ。暁だったら誰でも殺さないわけじゃない。彼女が守る暁は彼女の元宿主で、彼女はその宿主を守るために生まれたのだ。

 最初に始末したのが暁だったので彼女はそれを利用することにした。そして空母の一人をこうして捕まえたわけだ。戦艦が空母を止めようとした時はばれたかとびっくりした。

「はーい、一人やりぃ」

 暁はにんまりと笑って見せた。赤城は困惑した顔で暁を見たがその顔はやがて苦痛に変わった。

「あ、あぁ……」

「赤城!?」

 陸奥は驚き慌てて赤城の元に駆け付けようとした。

 暁は突き立てた槍を引き抜いた。赤城はつかんでいた暁の右腕を離し、槍に貫かれた穴を押さえて膝まついた。暁はそんな赤城を人質とでもいうように近づいた陸奥に鎌を突き出した。

「初めましてあなたの後ろにいるやつらもそこの空母さんたちも」

 陸奥はそこで自分の周りを見てみた。自分の後ろには第一艦隊のほかのみんながすぐ後ろに、加賀たちもいつの間にか近づいており、その顔が心配に歪み切っている。

「一つ雑談。私のこの鎌ね、最初はかっこいいって思ったんだけどいざ使ってみるとどうにも使いにくいのよね。刃の内側に引き込まないと切れないから刀みたいに斬撃できないし刺突もできないから、私ねちょっと改造してみたの。どう、この錨のさきっぽに槍みたいのをつけたの。これならさっきみたいに突き刺せて便利なの。はい、雑談終わり。それじゃ、反撃の開始でーす」

 その言葉が終わると同時に、彼女は赤城の頭を掴んだまままま鎌を引いた。赤城の首が何ら抵抗なく刎ねられた。さらに陸奥たちの後ろからは待機していたレ級二人が飛び出した。全員の目が彼女に釘付けになっていたので後方に現れたレ級に反応が遅れ気づかない者もいた。レ級はその中で気づいていない者から襲った。一体まるで別の生き物のような尻尾で噛みつき主砲を接射する。たちまち艦娘の体は粉々に砕け散った。もう一体は空母に目をつけ、強靱な尻尾で叩きつけた。気づいていなかった空母はその攻撃をモロに受けた。足が離れないので衝撃を逃すことができず、距離も離せない。レ級の追撃を許し、再び攻撃を受けて頭が潰れてしまった。

 レ級の存在に気づいた陸奥達は全員そちらを向いたが今度は彼女の攻撃が飛んでくる。

「よそ見しない」

 彼女は加賀たち空母に矛先を向けた。戦艦と違って防御が薄く、たとえ防御されてもそれごと崩せるからだ。

「悪いけどあなたたち全員沈めるから」

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