紫色の曼珠沙華をあなた達に   作:猫又提督

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強化試合

 艦隊は北上を続ける。沖縄諸島を進み、東シナ海に入った。流石にここまで来ると深海棲艦は雑魚さえ湧かない。艦娘たちも警戒してなのか全く姿を見せない。

レナの訓練は今日もやる。毎日午前は彼女のもとで訓練、午後は暁のもとで座学。よくやると彼女は思った。自分ならきっと一日も経たずに音を上げるだろう。だがそのおかげもあってか最近になってようやく他のレ級と差が出始めてきた。物事を考え戦況を把握し戦術を使う深海棲艦、もし敵なら厄介なこと極まりないだろう。

 今日は遂にレナにいつもの回避訓練に加えて攻撃を許可する。実戦式の訓練と座学で学んだ戦術の数々、それを実践するのにレナのみならず彼女や暁も楽しみにしている。彼女たちが手塩にかけて育てたレナだ。きっと満足行く結果を残してくれるだろう。

「レナ、準備はいい?」

『イツデモダイジョウブ!』

「じゃあ……始め!」

開始の合図とともに敵役の艦隊はレナに向けて一斉に砲撃をした。一方でレナは艦載機を上げた。艦載機は敵艦隊に向けて飛んでいき、レナもそれに続くように近づいた。その後ろに先程敵が撃った砲弾が着弾する。しばらくすると少し速度を落とし尻尾の主砲を覗かせた。調整する素振りを見せると一発二発と撃った。レナの撃った砲弾は至近弾こそあるが残念ながら命中はしなかった。しかし初弾至近弾という結果に彼女は少しだけ感心した。確実に最初に比べて成長が見られる。

レナはその場にとどまらず更に接近する。しっかり魚雷を警戒して之字運動も併用している。レナは再び主砲を覗かせた。だがさっきみたいに速度は落とさない。撃った砲弾は先程よりも更に至近弾だが命中しなかった。レナは悔しそうな顔を見せたが彼女はより感心し暁は感嘆の声を上げた。

「すご〜い。あれ至近弾するのね」

「当たらなかったけど短期間であそこまでできるようになったのは凄いわね。あれが当たるようになるまで時間はかからなさそうね」

 レナは他のレ級よりも近接戦を好む。理由を聞くとそのほうが確実だからだそうだ。近づくまでの砲撃は前もってダメージを与えトドメを刺しやすくするように、ということ。この戦い方を彼女と暁は教えていない。彼女の近接戦の教えと暁の砲撃戦の教えを組み合わせたレナ独自の戦術だ。

 接近するまでにもう二発だけ撃つことができる。レナは今度こそ当てるべく艦載機の情報と組み合わせ砲塔を動かす。距離の減少も含め砲塔を下げていき、合致した瞬間に撃つ。放たれた砲弾は見事敵艦隊の一部に命中した。

 当たったのは重巡だ。中破して速力が落ち、早々に艦隊から脱落仕掛けている。最初に仕留めるのはあいつだ。レナはより一層速度を上げた。砲撃をかいくぐり敵に近づくさまはいつしかの彼女と一緒だ。

 レナは脱落した重巡にタックルした。最高速のタックルを受けた重巡は簡単に足が海面から離れ遠くに飛んでいく。海面に落ちるとタックルのダメージだけで沈んでしまった。戦艦の体当たりだから相当なダメージだったのかもしれない。

 タックルをブレーキ代わりにしたレナはそのまま最後尾の敵に攻撃を仕掛けた。レナは武器を使わないので基本拳で戦う。尻尾ぐらいは武器になるだろうが本人曰く尻尾には軽く意思があるようだし叩きすぎると主砲が壊れてしまうのでまりしたくないようだ。

深海棲艦は思ったよりも仲間思いだ。味方が巻き込まれそうになると攻撃を躊躇ったりする。しかし想像通り冷淡でもある。その深海棲艦の立場が弱かったり換えの効くようなものだったら躊躇しない。例えば駆逐艦や軽巡の類だ。だから今レナが攻撃している駆逐艦に対しても他の敵は巻き込んででもレナを沈めようとする。だから旗艦を狙うのが一番だがレナにはまだそのことを教えていなかった。

 敵は味方を巻き込みながらレナに砲撃を食らわせる。レナは咄嗟に下がるが間に合わずいくらか被弾してしまった。だがまだ小破で経戦は可能だ。巻き込まれた駆逐艦はそのまま沈んでしまった。

 レナは再び接近しようとするが敵の旗艦はレ級だ。多少の知恵がある。レナを近づかせることの危険性を学んだのか砲撃はレナに当てるのではなく牽制のようなレナを近づかせないように動きを制限させるものに変わった。レナは自分を狙う攻撃を避ける練習はしたが、牽制攻撃を避けたことはない。直接狙っていない分下手に避けると返って被弾してしまう。近づけなくなったレナは仕方なく砲撃戦に移った。

「あら近づかなくなってしまったわ」

「牽制を抜けられないみたいね」

「あれ牽制なの? 外してるだけかと思ったわ」

「急に下手になるわけ無いでしょ。あなたも一様昔は強かったんだから見抜けるでしょ」

「私は普通の艦娘だったから砲雷撃戦なんてしたことないわ。牽制を抜けて攻撃する方法は知らない。あなたが教えるべきでしょ」

「まあそれはそうね。今度教えとくわ」

 砲撃戦に移ったレナたちの戦いは膠着状態に移った。だが多勢に無勢、数的不利なレナはだんだん被弾が増えてきた。

「ああ、あれは無理そうね」

「え、じゃあ止めてよ」

「あのまま続けた方が学べることも多いでしょ。それにまだあきらめてなさそうよ」

 レナは不利な状況でも必死に砲撃戦を続け突撃できるチャンスがあれば実行しようとしている。

 数十分の砲撃戦の後、敵のレ級の砲弾がとどめとなりレナは沈んでしまった。暁は狼狽えたが以前のように騒ぐことはなかった。ようやく慣れたのかもしれない。

 レナはすぐに艦隊のそばに浮上した。レナは見るからにしょんぼりしている。彼女はレナを呼び、しょんぼりしたまま甲板に上がった。

「大丈夫よ、次にまた頑張ればいいわ」

 暁はレナを励まそうと優しく話しかけた。

「ウン」

 レナはなんだか泣きそうだ。今までの訓練で自信がついていた分失敗したのが相当ショックだったのだろう。

「そんなにしょげないの。避けるならまだしも攻撃までしたのは初めてでしょ? 暁にも習ってたんでしょうけど教えてもらったことを実際にやるのは難しいんだから。私もまだ教えてないことあるし、次また頑張ればいいのよ」

 彼女も見かねて暁と同様に慰めると、ようやくレナも少し元気が出てきたようだ。

「ホントウ?」

「本当本当。まだ時間はあるわ。ゆっくりやっていきましょう。あなたは強くなれるんだから」

「ウン!」

 レナは早速次がやりたいと言い出した。全くついさっきまであんなにへこんでいたのにこの変わりよう、幼児のそれを思い出す。

「まあまあ待って。まずはおさらいからよ。えっと……そうね」

 そう言って彼女は暁の方を見た。きっと暁もレナに何か言いたいはずだ。だがまあどうせ夜に言うだろう。レナにとって砲撃戦はおそらくサブみたいな扱いだろうしここは近接戦の教えを優先させてもらおう。

「いくつか言いたいけどまずは褒めるところからね。接近までのプロセスはいいと思うわ。接近までにできるだけ相手を削る、私はまだ教えていなかったのによくできたわね」

「れなハサイショカラワカッテタ。テキガヘレバタタカイカンタン」

 そういえば実戦に出したときも砲撃しながら近づいていたか。あの時は一発も当たっていなかったが。

「あの砲撃の仕方は暁が教えたのかしら」

「あの砲撃?」

 暁は何のことなのか分かっていないようだ。

「あれよ、一気に近づきながら撃ったやつ。あれって最初に撃った時の距離感を覚えてから、近づいて修正しながら撃ったんでしょ」

「あんな方法私教えてないわ」

「え、じゃああなたのオリジナル?」

 彼女が聞くとレナは胸を張って頷いた。正直驚いた。あの撃ち方をするレ級を彼女はもちろん暁だって出会ったことがない。レナには他のレ級とは違う何かがある。これが言葉を覚えた影響だとでもいうのか。

「へぇ、やるわね。将来が楽しみ。それじゃあ今度はアドバイスね」

 彼女は次のことを言った。一つ、深海棲艦は利益で動くこと。だから価値の低いものは簡単に見捨てる。一つ、狙うなら旗艦を狙うこと。旗艦を狙えば他の敵は下手に攻撃できない。

「価値の高い奴を狙うのもアリね。戦艦とか空母とか……艦娘はこの限りじゃないけどね。艦娘は誰を狙っても味方を巻き込もうとはしないわ。でも一部には深海棲艦と同じような思考をしたところもあるから同じように行動するのがいいかもね」

「ソレハドウミワケルノ?」

「そうね、普通の艦娘なら仲間同士でコミュニケーションを取るはずよ。そういうやつらは仲間意識が強いから誰を狙ってもいいわね。逆にコミュニケーションを取らない奴は仲間意識が弱いわね。だからそういう舞台を見かけたら一番攻撃力が高かったり旗艦を狙えばいいわ。あなたは接近戦をするし見分けるのは簡単なはずよ」

「ワカッタ!」

「私が言うのはこのくらいかしら。後は暁に教えてもらいなさい」

「さあレナ。たっくさん教えてあげるわ!」

 暁は自分が言った通り一つの事項に彼女の何倍も丁寧に教えていた。同じ部分を褒めるにしてもそんなにあるのかと思うほど語彙が豊富だった。

 彼女はしばらく暁の講義を聞いていたが飽きてその場を離れてしまった。

 

 夕方になって戻ってみるとまだ講義が続いていた。

「まだやってる」

 彼女の講義はたった数分で終わったというのに、あの戦闘でどれだけ教えるポイントが見つかったのだろうか。

 彼女が聴講を再開してすぐに講義は終わった。二人に疲れた様子はなく両者ともに満足した顔をしていた。

「終わった?」

「ええ、教えられることは全部教えたわ……って、あれ!? もう夕方?」

「そうねもう夕方よ。随分と熱心に教えてたわね。レナは学べた?」

「ウン! タクサンマナンダ!」

「もう夕方だけどもう一度やる?」

「ヤル!」

「はいはい、準備するからちょっと待っててね」

 準備に時間はかからない。今朝と同じ編成の艦隊を用意するだけだ。レナもすでに甲板を飛び出している。十分もかからないうちに敵役の準備ができた。レナも所定の位置に着いた。

「じゃあ始めるわよ。三……二……一、始め!」

 始めの行動は変わらなかった。艦載機を出して観測させる。ある程度近づくと速度を落としてまず試射を行う。それから修正を行い、もう一度撃った。着弾を確認しないうちにまた突撃する。

 再装填を完了するとまた砲撃の構えを取った。すると速度を落とさなかった前回とは違い徐々に速度を落としていく。そして撃った。さらに撃ってすぐにまた進むのではなく右に回り込んだ。砲撃しながらどんどん回り込み敵旗艦の正面までやってきた。

 正面で相対した瞬間レナは突撃した。敵艦隊はすでに一匹沈み、二人脱落している。レナが突撃し、レ級は迎撃の構えを取った。後ろの仲間が同じく迎撃するために展開するがその間にもレナはぐんぐん距離を縮める。

 五百メートルを切ったときレナは真っすぐ突撃するのをやめて蛇行し始めた。そのまま突っ込むと思っていた彼女は首を傾げた。だが暁はなんとも思っていないようだ。どうやらレナのあの行動は暁が教えたものらしい。

「さてさて、暁が何を教えたのか楽しみにしようかしら」

 レナは蛇行したまま近接戦の範囲内に入った。ここまで蛇行した意図は全くわからない。敵の砲撃を避けるためだというなら撃たれる前に近づけばよかっただけだ。一体何の意図が、と考えているとレナは尻尾を前に出した。まさか撃つつもりか。相手は目の前、外す余地はない。ただ戦艦の砲弾はあれだけ近いと撃った当人にも被害が出てきそうだ。そのことをちゃんと教えたのだろうか。

 爆炎が上がった。レナの砲弾は全て命中し、初速そのままに飛んだ砲弾はレ級他、周りにいた仲間にも命中した。爆炎が晴れるとそこにいたのは尻尾と体の一部がボロボロのレナと大破したレ級、それと運良く展開が遅れて後方にいた敵の仲間一人だけだった。

 暁は中破程度のダメージを負ったレナを見てあわあわしている。あの様子だとやはり教えていなかったのだろう。彼女はあえて暁に聞いてみた。

「そんなに慌ててどうしたの」

「れ、レナが……どうして。敵の砲弾は全部避けてたはずなのに。もしかして相打ちになったのかしら」

「はあ……あなたね、戦艦の砲弾の威力知ってる? 私達みたいな駆逐艦の低威力なものじゃないのよ。接射なんてしたら爆風で撃ったやつにもダメージ行くわよ」

「うぇ、そうなの?」

「あれあなたが教えたのね」

「うん。切り札にいいかなって」

「切り札ね」

 切り札よりかは最後の悪あがきに使った方が良さそうだ。

 ただ相対的に見ればレナの方が有利だ。レ級はさっきの接射で武装を全てダメにした。もはや何もできまい。レナは拳でレ級を沈め、残った一匹も始末しこの勝負はレナの勝利で終わった。

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