一週間経つとレナの成長はより顕著に表れるようになった。敵艦隊を圧倒するのはもちろん、繰り返すたびに敵の損害とレナの被害は反比例になる。そしてたった今終わった試合ではレナは無傷で敵を全滅させた
満面の笑みで帰ってきたレナを同じように満面の笑みで暁が向かえ抱き合う。
「すごいわレナ。あなたはとても強いわ」
暁はレナを撫でながらひたすらに褒めちぎる。彼女は大袈裟だなと思う反面、レナの成長の速さに内心驚いているのも事実だった。これじゃもう、そんじょそこらの深海棲艦では相手にならないだろう。もう本土にも近い。レナとまともに戦える深海棲艦はいない。だが彼女はレナにはまだ成長の余地があると思っていた。レナに成長を促してくれる存在はもはや艦娘しかいない。しかしその艦娘は彼女たちを警戒していて全く姿を見せない。
「ねえレナ。艦娘と戦ってみない?」
「カンムス?」
「ええそうよ。艦娘と戦えばきっとあなたはもっと強くなれるわ」
「モットツヨクナレルノ?」
「でも艦娘はここには近づいてこないじゃない」
「そうね。だから嫌でも近づく場所に行くわ」
「また基地に行くの? あなたボコボコにされたじゃない」
「う、うるさいわね。あれはちょっと油断してただけよ。ていうか今はそんな話じゃなくて、力試ししてみないって話。今のレナが艦娘相手にどれだけ通用するのか試したくない?」
「えぇ〜」
「タメシタイ!」
彼女の提案に暁は否定的だったが、レナは大賛成のようだった。
「よしじゃあ佐世保に行きましょう!」
「え、佐世保行くの」
「どうせ通り道だし丁度いいじゃない」
暁はあまり気乗りしないようだ。
「どうしたのよ。佐世保なんて艦娘がいっぱいいてあわよくば殺してもらえるかもってあなたなら喜びそうなのに」
「だって……レナにはちょっと厳しすぎない?」
「何そういうこと? あなたも姉バカがすぎるわよ。強敵と対峙してこそより強くなるものじゃない」
「ちょっと脳筋が過ぎるんじゃないの?」
「じゃああなたならどうやるっていうの」
「一つの戦術を教えて、それを野良の深海棲艦で試すなり辺境の基地で試せばいいじゃない。わざわざ敵の本拠地に行くようなマネをしなくても」
「そこらの深海棲艦じゃ弱すぎて練習にもならないわ。それに今から辺境の基地に行くなんて面倒よ」
「ア、ア、ケンカシナイデ」
口論になりかけた二人を見てレナが慌てて止めようと口を挟んだ。レナに止められた二人はそのことで冷静になり、そして彼女は言った。
「何よりレナがやる気じゃない。あなたはそんなレナを説得できるの?」
彼女の一言はトドメとなり、レナを佐世保鎮守府に襲撃させることが決まった。
佐世保に着くまで少しでもレナを強くしてあげたい。そんな彼女の願いは敵の数を増やすことで叶えようとした。佐世保を襲撃したらどれだけの艦娘が出てくるのか彼女でもわからない。ただ膨大な数であることは確かだ。
「一度にたくさんかしら。それともとめどなくやってくるかしら」
向こうが取る戦術はどちらだろう。短期決戦か長期戦か。彼女は向こうの立場に立って考えてみようとしたが、思えば今まで防衛はあれど人数有利での防衛をしたことがなかった。だからよくわからなかった。だからどっちも想定した訓練をさせることにした。
まずは試しに敵艦隊に三匹加えてみることにする。三匹位ならあまり変わらないだろうか。
レナに戦ってもらったら存外苦戦していた。三匹増えると牽制の切れ間が更に狭くなり近づくのが難しくなった。三十分経っても膠着が続いたので彼女は演習を中止しレナを呼んだ。
「難しい?」
「ますたー、チカヅクスキガナイヨ」
「あなたは突っ込むのが得意だけど、戦艦でもあるから砲撃もしたほうがいいわよ。別にスポーツやってるわけじゃないから出来ることは全部やるべき。あなたは私じゃないからあなたの戦い方をしなさい。常識にとらわれる必要はないけど常識も必要なのを覚えておくことね。どれだけ時間がかかってもいい。大事なのはいかに自分の有利な場面を作り出せるかよ。さ、もう一度やってみましょう。今度は止めないから」
レナが位置に戻ると彼女はさっきと同じ敵艦隊を呼び出し演習を開始した。レナは同じように砲撃しながら突っ込むのではなく、まず砲撃戦を始めた。レナの砲撃精度はすでに並の深海棲艦や艦娘より上だ。観測機も持っているのでほぼ百発百中だろう。自分も砲撃にも自信があるがなにせ性能が駆逐艦だから、もしレナと砲撃戦をすることになったら案外苦戦することになりそうだ。
数十分ほど撃ち合いをし、数を六まで減らしたレナは突撃すると普段通りにあっという間に敵を全滅した。因みに前みたいに自爆覚悟の攻撃はしなくなった。
やはり三つ増やしたぐらいじゃあまり変わらなかったか。それならいっそのこと連合艦隊を相手にしてみてもらおう。空母は……流石に酷だろうか? いやでも向こうは絶対に空母をたくさん投入してくるだろう。だからむしろ入れないと実戦を想定した演習にならない。
「レナ、次は連合艦隊を相手してもらうわ。空母も入れるから頑張ってね」
「ワカッタ!」
「え、空母!?」
突然後ろから暁の声がした。振り返ると暁が驚いた表情で立っていた。
「いつの間に立ってたの」
「連合艦隊で空母つきは厳しくない?」
暁は彼女の問いに答えず彼女の考えた編成に苦言を呈した。
「でも佐世保着いたらそれこそ空母はたくさんいるだろうし、一人だけならマシでしょ」
「そう、かしら」
「そうよ、ほらレナやるわよ」
レナが艦隊から離れ、彼女は空母を含む連合艦隊を編成した。暁は心配そうな面持ちでレナを見ていた。
演習開始の合図がなされるとレナと同時に空母も艦載機を上げた。レナの上げられる艦載機はたった三機で空母の戦闘機群相手では一分もかからずに落とされてしまった。それからすぐにレナのもとには多くの攻撃機が襲うことになる。
爆撃と雷撃が同時に襲い掛かりレナは避けるので精いっぱいだった。対空射撃も的が多いので下手でも当たるがある程度減ると全く当たらないようになった。加えて敵艦隊の砲撃もあってレナは回避以外の動きができなくなってしまった。
「ああ、やっぱり連合艦隊と空母はまだ無理だって」
暁は今にも飛び出しそうにつんのめっている。
「大丈夫よ。三人増やしたぐらいじゃ楽勝だったしもう三人ぐらい増えてもなんて事ないわ。それにまだレナは無傷よ」
彼女の言う通り、レナはまだ被弾していない。至近弾はあるものの、被弾しないよう遠近をずらして回避している。
レナの対空射撃が当たらなくなってしばらくして、レナは対空射撃をやめ敵艦隊への砲撃を開始した。対空射撃が当たらないほどに的が減少した航空攻撃よりも敵艦隊からの砲撃の方が厄介だと考えた結果だ。丁度よく攻撃機たちが補給のために戻って行った。観測機は全て落とされてしまったが元々目視できる距離、上からの目が無くても当てることは可能だ。
レナは正面を向き尻尾の主砲を撃った。ある程度相手との距離に目星をつけていたので一発目から至近弾を得ることができた。上った水柱から砲の向きを修正する。狙いは……多すぎてどれにしようか迷ってしまう。とりあえず砲撃の数を減らしたいので適当に駆逐艦でも狙おう。
レナが撃とうとしたその時、足元に衝撃と痛みが走った。同時にレナの体は水柱に隠れ一瞬でずぶ濡れになった。すぐに魚雷に被弾したことは分かったが何故魚雷が当たったのかはすぐには理解できなかった。
「ああ、レナ!」
暁が悲痛な叫びをする。
「魚雷が一本あたっただけじゃない。それぐらいで騒がないでよ」
しかしレナの右足はボロボロで立つのがやっとに見える。移動は出来ても砲撃の反動に耐えれるかは怪しい。レナはそれでも主砲を撃つ構えを解かない。被弾した衝撃でズレた照準を直し主砲を撃った。主砲が尻尾にある分他の戦艦よりも自身の身体にかかる反動は少ないが戦艦の主砲の反動はちょっとやそっとでは変わらない。やはり反動に耐えきることができずレナは体制を崩し、倒れてしまった。
放たれた砲弾はなんとか駆逐艦に命中したが、代わりに大量の砲弾がレナに降りかかる。右足のせいで立ち上がることができないレナは仕方なくその場で防御体制をとった。当たらないでくれと願ったのはレナ本人だけでなく暁も同じだった。
数秒間の着弾音と上る水柱から出てきたのはレナの無事な姿だった。あの砲撃で一発も被弾しなかったらしい。暁は安堵のため息をついた。
「へー、死んだと思ったわ。運がいいわね」
彼女も被弾しなかったことに少し以外に思っているようだ。
一時的に砲撃が収まったのでレナは急いで移動を始める。艦載機の補給も終わったのか再び敵の攻撃機が襲来していた。足の怪我のせいで速度が出ない。敵はすぐに移動しているレナに照準を合わせた。さっきのはやはりただの幸運だったようで被弾が増えた。航空機の攻撃もあってついにレナは沈んだ。
「あーあ、沈んじゃったわね」
意外にも暁の反応がない。暁の方を向くと暁は無言で彼女を睨みつけていた。
「なに……なんか文句あるの」
「だからまだ早いって言ったのに」
「これは演習、訓練、練習よ。実戦ならともかく練習に早いも何もないでしょうが」
彼女がいくら説明しても暁は納得していないようだ。彼女がいろいろ説明しているうちにレナは浮上し甲板に上がっていた。
「あ、レナ。お帰りなさい」
「ウ〜、イイトコロマデイッテタノニ」
確かに艦載機が引いてから砲撃を始めるのはいい手だ。多分艦載機が戻ってくるまでにある程度減らして突撃するつもりだったのだろう。
「魚雷に当たってから形勢逆転されちゃったわね」
「ギョライナンテドコカラ」
「そりゃあなた駆逐艦でしょう。他のことに気を取られすぎて之字運動とかしてなかったでしょ」
「ア、アー」
「あなたは一人なんだから全部自分でやらなきゃダメなのよ」
「デモヤルコトガオオスギテキガマワラナイヨ、ますたー」
ふむ、確かにレナはまだ呼び出されて日が浅い。他のレ級とは違う性能を見せるけど元々はただの、ノーマルなレ級だ。耐久力もノーマルと一緒だから砲撃はともかく魚雷は通りやすい。一発でも受ければ継戦が困難なハードコア状態。彼女みたいな保険があるわけでもない……保険?
「あー、そうだ。レナ、今から出るものちょっとだけ吸ってね」
そう言うと彼女はいきなり自分の左手を撃ち抜いた。破裂した左手の手首から黒いモヤが溢れ出る暁も、目の前にいたレナも驚いて何の反応も示せない。
「ほら、早く。治るの早いから」
レナは彼女に促されるまま、モヤを少しだけ吸い込んだ。次の瞬間、レナはカッと目を見開きその場にうずくまって悶え出した。
「ちょっと、何したの!」
「私の力を少し分けたの」
「力って」
「あいつの残り香よ。あなたにも残ってるやつ」
「私にも?」
「あの触手、あいつの力を核にして現実に顕現してるのよ多分。まあ今はそっちはどうでもいいの。重要なのはこっち」
彼女は悶えているレナを指差した。レナは加えて苦しそうに呻いている。
「そ、そうだった。レナは大丈夫なの!?」
「多分大丈夫でしょう。あまり吸ってないし少量なら暴走することもないでしょうね」
「暴走!?」
「だってこれ腐っても姫級の力だし、姫級の中でも結構上位だと思うわ。その力が大量に流入したら体が言うこと効かなくなるでしょうね」
「本当にレナは大丈夫なの?」
「そんなに心配しないの。少しはレナを信じてあげるとかしなさいよ……なんか前にも言った気がするのは気のせいかしら?」
レナが悶えていたのは数十秒ほどで、悶えるのが止まったかと思うとスッと立ち上がった。両手を握ったり全身を触ってみるが特にこれと言って異常はないらしい。
「何もないの? 体の一部が変色したりとかしてない?」
「それはあなたが艦娘から深海棲艦に移った時に出たものだから関係ないわ」
「ナニモカワッテナイヨ。ますたーナニシタノ?」
「保険よ。あなたの四肢が吹き飛んでも歪ながらに再生するようになったわ。吸い込んだ量が少なかったから多分一度だけだけどね。あと頭を撃ち抜かれても再生しないと思う。私はぶち抜かれたことないからわからないけど」
「オー、れな、ますたーニチカヅケタノカ」
「割と近づいたわね。このまま私の下位互換まで近づけそうじゃない?」
「ヤッタ!」
「よし、じゃあせっかくだし試してみましょう。さっきの編成と同じで」
「オー!」