紫色の曼珠沙華をあなた達に   作:猫又提督

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佐世保鎮守府強襲1

 長崎県五島列島。深海棲艦が現れた当初、島民は本土への避難を余儀なくされた。本土に近いこともあって海軍が制海権を奪い返すのも早く、島民も比較的早く戻ることができた。しかし現在、強力な深海棲艦が近づいているとして島民は再び避難した。現在列島には誰一人いない。

 列島の中でも一番南に位置する福江島、その沖で艦隊は停泊していた。佐世保鎮守府まで約百キロある。

 ここに来た理由は一つ、レナの腕試しだ。ここに来るまでにさらに鍛錬を積んできた。それがどこまで通用するかわからないが、だからこそ戦うべきだと彼女は思っている。レナはまだ艦娘と戦ったことがない。初戦に本土の鎮守府を選んだのはその壁を感じてもらうため、そして一つの目標を得てもらうためだ。とはいってもたとえ本土の艦娘が相手でも十分戦えると彼女は思っている。レナにはレ級が持たない思考力と他人の指導を聞く適応力がある。臨機応変に動けるし、何より彼女の力をほんの少しだが持っている。

 彼女が自ら育てたから少し過大評価しているかもしれないが、レ級eliteよりも強さは上だろう。言うなればflagship級かもしれない。

 レナは意気揚々と艦隊を出発し、一人で佐世保へと向かった。

 甲板では彼女と暁が二人レナの向かった方向を眺めていた。

「やっぱり心配?」

「そりゃそうよ。レナはまだ艦娘と戦ったことがないのに佐世保に向かわせるんだもの」

「まあ、気持ちは分かるわ」

 その一言は暁を驚かせた。暁は彼女の顔を見て固まり、暁の視線に気づいた彼女は暁を一瞥してから言った。

「佐世保の強さは分かってるわよ。でも別に加藤が撒けようがこっちが失うものはないわ。むしろ得られるものばかりよ」

「佐世保の艦隊がこっちに来たら?」

「潜って逃げるわ」

「戦わないんだ」

「私も学んだわ、自分が無敵じゃないって。自分のエゴであなたを危険にさらすわけにはいかない。特に今はね。勿論ずっと逃げ続けるなんてことはしない。私は逃げ隠れしたいんじゃない、堂々と海を渡っていたい……レナに飛行機一個つけてるんだけど聞きたい?」

「せっかくいい雰囲気だったのに」

「知らないわそんなこと。で、聞きたいの?」

「もちろん」

 

 レナは何もいない海の上を走っていた。厳密に言えば自分の後ろに飛行機が一機いる。あれはマスターが自分につけさせた飛行機だ。つまりマスターが見ている。少し緊張するが深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。

 艦娘と戦うのは初めてだ。でも自分は強い、マスターも言ってくれた。だからと言って油断するのも良くない。油断して負けたらマスターに怒られてしまう。でも警戒しすぎて攻撃できないのもよくない。艦娘と戦ったことがないので指標がないのが厄介だ。

 偵察代わりに出していた艦載機が艦娘の飛行機を見つけた。まだ佐世保まで距離があると思うが向こうも哨戒でもしていただろうか。

 対空戦闘は苦手だ。的が小さいしすばしっこい。おまけに飛んでるから殴り落とすのも無理。艦載機を持っているがどういう訳か三機しかいないので航空戦何て論外だ。

 潜ってやり過ごそうか。こっちが見つけたなら向こうにも見つかってるはず。でもマスターが見ている。マスターの見ている前で逃げるのは……いやでもマスターは好きに戦えと言っていた。それにマスターだって逃げるときは逃げている。自分のしやすい戦い方をすればいい。さっさと肉薄して空母本体をたたけばそれでいいだろう。

 レナの予想通り、紹介していたと思われる飛行機は針路をレナの艦載機に変えた。艦載機はまだ使う予定なので退避させて海中で回収する。もうすぐ艦娘の行動範囲内に入ることが分かったし、佐世保までの針路も大まかだが分かっているのでこのまま潜って進むことにする。

 

 

 

 南方深艦隊が佐世保に近づいているという報告を受け、佐世保鎮守府は早急に警戒網を敷いていた。最後に確認されたのは五島列島付近、間違いなくここ、佐世保鎮守府が標的だ。

 先ほど紹介を行っていた艦隊から深海棲艦の艦載機を発見したと報告が入った。

「南方深艦隊でしょうか」

「どうだろうな。奴らの艦載機は領域を守るようにぐるぐる旋回しているばかりで数機が単独で動いてるなんてことはないと思っていたが」

「ですが近くで深海棲艦の艦載機が見つかるというのは」

「そうだな。それに発見してからすぐに海中に没したというのも気になる。今までに聞いたことのない行動だし奴の可能性もあるな」

「海中に逃げたというのなら本体は潜っている可能性がありますね。駆逐隊に捜索をさせてみては」

「そうだな。とりあえずその場にいる駆逐艦で捜索させて、付近にいる駆逐隊に連絡してくれ」

「了解しました」

 

 いくつか作られた臨時哨戒隊の一つの旗艦である飛鷹は提督に行った報告の返答を待っていた。数分間の待機の末得られた返答は駆逐艦による索敵だった。すぐに飛鷹は同じ隊の駆逐艦二人にこの旨を伝え自身は引き続き艦載機による索敵を行うこととした。

「二人だけで索敵させるのは危険じゃないの?」

 臨時哨戒隊の一人、飛鷹の護衛として残った阿賀野が聞く。

「近くにいる駆逐隊も呼ぶから大丈夫。一応私も近くで見るから」

「そう……まさか本当に襲撃に来るなんて」

「まださっきのが南方深艦隊のものとは分からなわ。見つけた艦載機の数も少ないし」

「艦隊から分離した攻撃隊だったら」

「その可能性は……高いと思う。でもそれなら私たちでも十分対処できるはず」

「だといいわね」

 その後も引き続き索敵を行うがそれらしいものは見つからず、駆逐隊の到着を待った方がいいだろうかと考えていたころ、突出していた駆逐艦から報告が入った。

「何か見つけた?」

『一瞬海中を何かが通り過ぎたような音がしました。魚雷よりも遅いですが、潜水艦の速度ではありません』

「それはどっちに向かったの?」

『それが、飛鷹さんの方向に』

「分かった。あなたたちは一度戻って。近くにまだ敵が潜んでるかもしれない」

『了解しました』

「阿賀野」

「ええ、聞いていたわ。私の後ろにいて」

 阿賀野は臨戦態勢に入った。海中から奇襲をかけてくるつもりだろうか。正面からくるとは限らない。直前で急に方向を変えてくるかもしれない。しかし飛鷹から離れて探るわけにもいかない。きっと敵の狙いは飛鷹だ。

 いつ飛び出してくるかわからない緊張に息の仕方まで忘れそうだ。汗がとめどなく噴き出てきて手が滑ってしまいそうになる。今一度主砲を握りなおす。照準は海面から出てきた瞬間を狙えるようにしておく。

 緊張と集中であまり周りの音が聞こえない。波の音が聞こえてくるだけなのに自分たちを沈めようとする存在が潜んでいるなんて思えない。

 それは突然現れた。それは阿賀野たちの真正面から現れ、彼女の照準はそれを捉えていた。ただ現れた位置が彼女の想定よりもずっと近かった。まさか眼前に現れるだなんて誰が想像できただろう。

 

 

 

 海中で飛行機をやり過ごしたレナは飛び込んできた艦載機を回収しながらまっすぐ佐世保に向かう。途中で空母が見つかればやってしまおう。それで艦娘の力の指標とする。

 途中二つの影を見つけた。何かは分からないが直前で見つけたので咄嗟に浮上できずそのまま通り過ぎてしまった。あれが空母だったかもしれないと少し後悔したが通り過ぎてしまったのならしょうがない。次に出会った奴にしよう。そう思っていた彼女の元にまた二つの影が見えた。今度は少し速度を落としていたおかげで一度止まることができた。

 あそこ二人いる。あれでいいや。レナは小細工をあまりしない。そこまで気が回らないからだ。加えて今はマスターである彼女に見られている状況、少しでもいいところを見せたいと焦ったレナは真正面から対峙した。

 飛び出した瞬間、世界がスローモーションになった。艦娘が驚いた表情で自分を見ているのを見た。

 艦娘は二人いた。一人は砲塔が見えるがもう一人はその類が見えない。もしかして空母か。

 スローモーションな世界はすぐに途絶え、速度が戻ってくる。艦娘が反応するよりも先にレナの攻撃が当たった。蹴りを入れると艦娘容易く飛んでいった。ただ体制を崩さず滑るように離れていったので体幹がいいなとレナは感じた。

 ニ対一、人数不利だ。ならさっさと数を合わせてしまえばいい。吹っ飛んだ艦娘はまだ蹴られた腹を押さえている。もう一人はレナを迎撃しようとしているのか変な巻物を広げ変わった形の紙を乗せていた。それがみるみるうちに飛行機へと変わったのを見てこいつが空母だと確信した。

「マズオマエカラ」

 レナは空母に攻撃を始めた。艦娘の装甲がどれほどなのかわからない。なので強めに拳を振るった。

 見ての通り艦娘はマスターや暁とが意見が似ている。深海棲艦のように装甲が張り巡らされていることはない。レナは深海棲艦の、それも装甲が張られている部分を想定して殴った。当然その力は艦娘には強すぎた。確実に仕留められるよう頭部を狙った拳は易々と頭蓋骨を砕き、粉みじんにした。一瞬で首なしになった空母は脱力し、倒れた。

「ウワッカカチャッタ」

 強く殴りすぎたせいで頭部が破裂し、返り血がレナの顔にかかってしまった。少し目にも入ってしまったかもしれない。視界がぼやけていけないのですぐにぬぐう。

「飛鷹!」

 背中から叫び声がした。振り返るともう一人の艦娘が目を見開いて固まっている。チャンスだ。相手は主砲から手を離している。レナは急接近しもう一人を始末しにかかった。それに気づいた艦娘は小さく悲鳴を漏らすと必死の表情で主砲を撃ちまくった。まともに狙っていない砲弾はレナから遠いところに着弾するばかりで、至近弾しかない。機銃も撃ち、魚雷も流す。魚雷だけは当たるといけないので少し針路をずらした。

 この距離なら主砲でもいいか。砲弾を当てて、拳でフィニッシュ。そんな結末をレナは思い浮かべた。それを実現すべくレナは尻尾を前面に出し、照準を開始した。距離はそんなに遠くない。外さないように慎重に狙う。

 三発の砲弾は一発が艦娘の体に、残りは艤装にあたった。戦艦の一撃はたったそれだけで致命傷になり、加えて艤装の、それも主砲塔に命中した砲弾が誘爆を起こし、たった一斉射で相手は大破に追い詰められた。もはや何もできない艦娘にレナは容赦なく拳を振るう。殺すつもりで振られた拳は腹を貫き、艦娘はレナにもたれるように絶命した。腹から拳を抜くと、艦娘はそのまま海面に伏して沈んでいった。

「オモッテタヨリヨワイ」

 マスターから本土の艦娘は手強いと聞いていたが必要以上に警戒していたのかもしれない。ともかく自分の力が十分に通用するのはわかった。先を急ごう。

 

 しばらく走っていると前方に陸地が見えた。レナにとっては初めての陸地だ。興味本意で艦載機を使って陸地を覗いてみた。艦載機から告げられる陸地の様子はどれも新鮮なものだった。海とは違いとてもカラフルで、聞いたこともない建物ばかりだった。

 陸地の様子に夢中になっていたレナは飛来してくるものに気づかなった。突然水柱が上り、レナの意識は陸地から海へと引き戻される。

 上を見ても飛行機らしきものはいない。となると砲撃か。では一体どこから。そう思っていると再び水柱があがる。見るとレナの右前方、遠くに人影が複数見える。艦娘の部隊だ。

 レナはすぐに戦闘態勢に入った。陸地向かわせていた艦載機を艦娘のもとに向かわせる。

 多分向こうに空母はいないだろう。艦載機が飛んでいない。だがこれだけの距離離れていてレナを射程圏内に入れているならきっと戦艦がいるはずだ。さっきのはあまり戦いがいがなかった。戦艦が相手ならきっと楽しめるだろう。

 距離が遠い。相手の数は……多分六人。戦艦が含まれていて、空母はいない。練習で何度も相手した編成だ。ある意味この戦いが一番成長を実感できるかもしれない。

 距離が遠いのでまずは縮めるところから。艦載機はまだ戻っていないが、目視だけでもある程度は当てられる。

 まずは目視である程度照準を取る。多分ここらへんと感じたところで一発撃ってみる。飛んでいった砲弾は残念ながら命中することはなく上った水柱は敵の姿を隠した。少し手前に落ちたらしい。

 向こうはすでに二発撃っているので修正もできているだろう。レナも修正を行いながら移動を始めた。

 大きく右回りに移動しながら距離を縮めていく。なおかつ主砲の照準も行う。距離を縮めながら砲塔をゆっくり落としていく。タイミング合った瞬間、残りの二発を撃った。

 軽く放物線を描く砲弾は……ビンゴ、艦娘の誰かに命中した。

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