紫色の曼珠沙華をあなた達に   作:猫又提督

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佐世保鎮守府強襲2

 誰に当たったのかは分からない。第一どの艦娘がどの艦種なのかも分からないのだから。多分一番前にいるでっかい主砲を携えているのが戦艦なのだろうが少なくとも命中したのはそいつではない。

 駆逐艦なら一発でも沈むような威力だが、艦娘たちに離脱者がいるような気配はない。接近戦に移るまでに少なくとも二、三人は落としておきたい。レナは再装填をしながらより当たりやすいよう、艦載機が戻ってくるまでの時間稼ぎのために之字運動で近づいていく。

 

 しばらくして艦載機が戻ってきた。再装填も終わった。

 どの艦娘に当たったのか分かった。単縦陣の真ん中にいたやつだ。多分中破している。戦艦の砲弾を食らって中破止まりとは、相手は重巡か戦艦か。

 一先ずもう一度砲撃をしてみよう。狙いは中破している艦娘だ。

 一発撃って修正を試みる。もちろん当たってくれるならそれでいいが。対象を狙って撃つのはまだあまりできない。現にさっき撃った砲弾は中破したやつではなく最後尾のすぐ後ろに着弾した。

 艦載機から送られる着弾のズレを修正する。移動もしているのでそれを考慮する。一人を狙うのはあまり練習してなかったから照準に時間がかかる。数十秒かけて照準を終えて残りの砲弾を撃った。

 放たれた二つの砲弾、狙いは中破していた艦娘だったがやはりその艦娘には当たらずその一つ後ろの艦娘に命中した。二発ともあたったのでそのまま沈んだ。狙い通りにはならなかったが結果としてはよかった。

 また再装填に待たなければならない。面倒だし、これ以上戦闘を引き延ばすと後ろの駆逐艦が寄ってくるかもしれない。さっさと終わらせよう。副砲の射程にまで近づいてより迅速に戦力を減らそう。

 早速近づいて副砲も照準を始める。主砲と副砲はそれぞれ性能が違うので照準の時に少し考えなければならない。そういう時に尻尾自体に意思があって助かった。副砲の照準は尻尾に任せる。レナとは違って高度な知能は持ってないのでバカスカ撃つが副砲は数が多いし再装填に時間もかからないし、全然構わない。それに副砲の砲撃も艦載機が観測してくれるし、修正も行ってくれるので便利だ。

 最終的に三人にまで減らすことができ、いずれも何かしらの損傷は負わせることができた。近接戦の間合まで入るともはや大口径主砲の持ち主は何もできない。見たところ小口径の主砲を持つ艦娘が一人いる。多分駆逐艦だろうか。艦娘は駆逐艦でも仲間を大事にすると聞いたし、まずはそっちから始末しよう。レナは戦艦の前に立ったがぬるりとその後ろにいた艦娘に向かった。

「んなっ!?」

 戦艦を通り抜けたレナは小口径の艦娘に拳を向ける。その艦娘は恐怖で動けないのか目を見開いたままだ。頭部を狙って拳を振り抜いた。頭が弾け飛び返り血がかかる。

 激昂したのか巡洋艦らしき艦娘が主砲を向けた。レナは咄嗟に駆逐艦の死体を盾にした。巡洋艦が引き金を引くと一度に六発の砲弾が放たれたがそのすべてを死体で受け止めた。盾となった駆逐艦はそれでボロボロになりもはや使い物にならない。死体を手放したときレナは真っ青な顔をした巡洋艦が見えた。

 巡洋艦は主砲を構えたまま震えている。ついさっき見せた怒りに震えるか音は真逆に恐怖のような情けない表情を見せている。もしかして仲間の死体を撃ったと事がショックだったのか。

「ナカマイシキガタカイ」

「喋った!?」

 思わずレナは感心の声を漏らすと戦艦は驚きの声を上げた。そういえば普通のレ級は言葉を発しないんだったか。

「シャベッテナニガワルイ」

 巡洋艦は繊維を喪失しているようだし、戦艦を相手しよう。

 レナがいつも通り拳で殴り掛かると以外にもその艦娘はレナの拳を掴んで止めた。流石にこれは予想外だ。艦娘が兵装以外で戦ってくるとは思わなかったし、自分の拳を受け止めるとも思っていなかった。右腕を止められたレナは左腕で殴り掛かるが同様に掴まれて、押し合いになった。レ級である自分と同等に力を持つこの艦娘はやはり戦艦で間違いない。

 しばらく押し合いになった両者だが、ふとレナが力を弱めた。急に軽くなった腕に艦娘はレナに引き寄せられるように体制を崩す。レナは艦娘の腕を支えにして飛び上がると、艦娘の腹に飛び蹴りをした。艦娘はレナの拳を離し後方に蹴り飛ばされた。

 一度仕切り直しだ。さてどう戦おうか。一番の自慢である拳は受け止められてしまうし、だからと言って砲撃はすでに自爆範囲内。まるで八方塞がりだがそんなはずはない。何か勝てる要因があるはずだ。

 レナは一緒に威嚇する尻尾を見て思いついた。

「ソウダ、オマエアイツヲクイコロセ」

 レナにあるのは手足だけではない。尻尾は主砲を撃つためだけのものではない。その凶悪な口は一体何のためにある。なぜわざわざ生き物のような造形をしている。

 レナはもう一度同じように拳を振るった。当然艦娘も同じように防御する。これで両手はふさがった。もう防御は出来ない。

「クエ」

 レナが短く命令すると、背中からあの尻尾が口を開けて出てきた。すぐに自分が何をされるのか理解した艦娘はレナの腕を離そうとするがレナはがっしりとつかんで離さない。艦娘が慌てふためくのも束の間、尻尾に上半身を食いちぎられた。

 尻尾はすぐに上半身を吐き出した。派手に水しぶきが上がるとそのまま死体が浮き上がることはなかった。

「オイシクナカッタ?」

 尻尾は賛同するかのように上下に揺れた。拍車をかけるようにその場で海水を含むとすぐに赤い海水を吐き出した。

 さっきまでの喧騒からは一転して静寂が訪れた。先に進もうと振り返った時座り込む艦娘を見た。そういえばあともう一人無視していた奴がいた。レナを前にして力なくうなだれ海面を見つめてばかりで動こうとしない。もはや生きる気力まで失ったのか。

 レナはその艦娘に歩み寄ると頭を蹴り飛ばした。これで今度こそ先に進むことができる。

 

 岸壁を横目に通過したころ、先行させていた艦載機が再び敵の飛行機を発見した。四機五機どころじゃない、何十機もいる大編隊だ。哨戒する数じゃない。何かを攻撃するような数だ。その何かというのはもちろんレナだろう。どうやらさっきの艦隊が援軍か何かを要請していたらしい。

 あの数相手にするのはどうやっても無理なのでもう一度潜航し、空母を直接叩こう。

 潜航したレナは艦載機を回収し、大編隊をやり過ごしながら敵の空母を目指した。

 

「見つけました。千二百メートル前方、約二十ノットでこちらに向かっています」

『了解、やはり潜航して向かってきてますね。ポイントへの到着予想は?』

「恐らくあと二分後です」

『分かりました。では計画通り爆雷であぶりだした後航空攻撃で仕留めます。そちらでの攻撃が必須ですからくれぐれも成功させてくださいね』

「了解」

 旗艦の扶桑からの通信を切り、前を向く。自分含め六隻の駆逐艦が待機し、自分の言葉を待っている。

「千を切った。そろそろ行かないと」

 聴音をしていた霞が急かしてくる。

「行きましょう。私たちが成功する前提の作戦です」

 それを合図に霞も聴音を切り上げポイントに向かう。ここから情報なしに感覚で行動する。鈍足な潜水艦でさえ、攻撃する直前まで聴音するのに、それよりも早いものを聴音なしに攻撃を会えるなんて至難の業だ。しかし私たちはそれをやってのけて見せる。なぜなら私たちは佐世保鎮守府の駆逐艦であるから。

 ポイントに近づいた。目印代わりの観測機が旋回して待っている。近くでは編隊が同じく旋回している。

「爆雷投下用意!」

 投下ポイントまで三、二、一__

「投下!」

 先頭にいた朝潮に続き、続々と爆雷が投下される。数秒後、爆発音とともに水柱が次々と起こる。

 朝潮たちはそのまま数百メートル離れ、投下ポイントを振り返った。そこには一人のレ級が立っていた。あまりダメージを受けているようには見えない。やはりぶっつけ本番で全てが行くわけではなかった。しかし、一番重要な海上に引きずり出すことはできた。

 朝潮はレ級の姿を確認するや否や、扶桑に報告した。

「出ました!」

 直ちに航空攻撃が始まる。特徴的な音色を奏でる十機の航空機が先導を務める。あれはドイツのJu87だ。日本の艦爆よりも多くの爆弾を乗せることができる。

 次々と爆弾が投下され、すぐにさっきと同じ量の水柱が湧きあがった。爆撃はとめどなく行われスツーカに続き、どんどん爆弾が投下される

 一方で雷撃機も攻撃も攻撃の準備が為されていた。朝潮たちは攻撃の邪魔にならないようにさらに退避する。全方位から投下される魚雷を回避するなど不可能だろう。やがて投下された魚雷はレ級のいる一転に集結し大爆発を起こした。特大の水柱が上がる。

 朝潮たちは退避先でレ級の確認を行うために水柱が収まるのを待っていた。霧のように広がる水しぶきが収まる。

 あれだけの物量、本来姫級に行うような攻撃方法だ。しかしあのレ級がここまで来たということは先行した霧島の艦隊を突破したことになる。たった一人で一艦隊を突破するなど、まるで姫級だ。できればこの攻撃で撃沈してほしい、いや撃沈できているはずだ。姫級でもあれだけ食らえば損害が大きい。ましてレ級なんかが。

 期待とは裏腹に、ようやく見えるようになった海上にはレ級が立っていた。しかし、その姿は異様だった。腕は黒くごつごつとしており、おおよそ手と言えるところには少し膨らんだ装甲から三本の爪のようなものが生えているのみ。元々獣ぽかった足も形はあまり変わらないものの、装甲が張り巡らされたように黒くなっていた。尻尾も全体的に黒く硬質化したようで、蛇腹状になっている。刺々しかった顎は丸くなり、一基の主砲がついているのみだ。

「て、敵は未だ健在!」

 無線から驚きの声が聞こえる。そしてすぐに後方に退避するよう命令も下った。朝潮はすぐにその命令に従うことを決断し、周りにも知らせようとした。ふとさっきレ級がい当た場所をみるとそこには何もいなかった。

「あ、あれ。さっきのレ級は」

「潜ったわ。多分扶桑さんたちの方へ向かったんじゃ」

「それなら急ぎましょう。扶桑さんから退避するよう命令が__」

 不意に音がした。それは朝潮のすぐ近くであり、比較的激しい、そう、例えばプールから勢いよく顔を出したときのような音だ。朝潮が振り返ると、そこにはあのレ級が右腕を振りかぶっていた。

「え、どうして」

 その疑問は直ちに叩き潰された。朝潮が肩まで抉られると霞もそのまま腹を貫かれ、響は食いちぎられる。尻尾が吐き出した響の死体を被った漣が恐怖で悲鳴を上げた。曙が咄嗟に主砲で迎え撃つが、腕でガードされた上に無傷だ。

「嘘でしょっ!?」

 反撃に喉を突き刺されえづく間もなく首を飛ばされた。残された潮は動けない漣を置いて逃げ出すが、レ級が潮を指さすと尻尾が狙いを定め撃った。三発すべてが命中し直ちに潮は沈んだ。

 

 残った艦娘を始末した。やられた。マスターの力を分けてもらっていなかったらさっきので沈んでいた。ショックだ。でもこの体は強い。この腕は近接戦に向いている。だからこそ余計に悔しい。

 視界が半分青い。頭の出血が目に入ってしまっている。ぬぐってもぬぐっても血が止まらない。やっぱり頭は治らないのだ。

 どこだ、どこにいる。この私をこんな姿にさせたやつはどこにいる。残った艦娘を始末するんじゃなかった。

 上から音がしたので見てみると数編隊の飛行機がこちらに急降下している。

「マダノコッテ――」

 咄嗟に左腕で防御した。爆弾が落ちてくる音が聞こえて数秒後に激痛が走った。爆撃が止んだようなので腕を退かしてみると、左腕が抉れている。見ただけで痛そうだが実際痛い。治るのは一度だけだと言っていたのでこの腕はもう治らない。

 遠くに恐らく空母の下へ戻ろうとする飛行機が見えた。レナは艦載機でそれを追おうとしたが出てこない。尻尾は主砲以外が全部装甲に覆われ、格納庫の部分まで隠れている。仕方がないので自分の足でそれを追いかけた。

 痛い。痛みで意識を失いそうだ。しかし気を持たせるのもまた別の痛みだ。視界は青く、周りが黒ずんでいる。ただ一点、空に見える飛行機を追いかけるのみ。そうして水平線から見えてきたのは横一直線に並ぶ艦娘の姿。出血のせいでよく見えないが、見慣れない兵装をまとっているのが六人。戦艦らしい大きな主砲を担いでいるのが一人、その後ろに何人か見える。あれがさっき攻撃してきたやつらだ。殺す、殺してやる。

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