紫色の曼珠沙華をあなた達に   作:猫又提督

57 / 65
佐世保鎮守府強襲3

 レナは考えなしに突撃した。一番目についた戦艦に向かって主砲をぶちかましながら吶喊する。勿論向こうもレナを迎撃しようとする。最低限避けはするが動きが大きすぎて避けた先を狙われそうだ。実際に副砲の射程内に入ると回避した先を狙われだした。ダメージが低くいのである程度無視できるが、全部受けるわけにはいかない。避けれる分だけさらに避けているが、ある時点で主砲でその部分を狙われてしまった。

 レナは抉れていた左腕で主砲を受けた。

「ガッ、ァアアアア!」

 感じたことのない激痛とともに左腕が爆発した。左腕は完全に吹き飛び、防ぎきれなかった破片が体に突き刺さる。一瞬意識が飛び海中に没したがすぐに取り戻し、海中を進んだ。さっきので力尽きたと思ったのか攻撃が飛んでこない。

 艦娘の足が見えたので飛び出した。すると体に複数の衝撃が走った。体が動かせずその場に倒れこむ。多分何かが体に刺さった。確かめると棒のようなものが見える。周りを見ると空母が弓を構えて立っていた。弓矢が刺さったらしい。

 もう意識が飛ぶ。これ以上動かせられない。どうしてばれたのか分からない。すべてお見通しだとでもいうのか。悔しいので、最後死に際に一発ぶちかましてやる。

 レナは最後の力を振りしぼり尻尾を持ち上げた。まともな照準もせずに主砲を撃った。爆発音とともにレナの意識は完全に飛んだ。

 

 

 

 艦隊に戻ってきたレナは意識が戻るやいなや悶え苦しんだ。死ぬ瞬間まで意識を失いかけるほどの痛みを感じていたわけだから幻覚のような痛みを感じるのも無理はない。

 彼女は対処法を知らなかったので放っておこうと思ったが、暁がいち早く飛び込んでレナの元へ向かった。

「だ、大丈夫よ。もう何もいないわ。あなたを傷つけるものはなにもないわ」

 暁が触れたことでようやくここが艦隊だと理解したレナは呼吸を荒くしながらも徐々に落ち着いていった。

 レナは暁に支えられ甲板に上がって来た。その頃には支えがなくとも立てるようになった。

「ますたー。サイゴドウナッタ?」

「最後? ああ、あれ。そうね、結構大ダメージだったけど沈めるまでにはいかなかったわね。惜しかったわ」

「ソッカ……チンジュフノトコロマデイケナカッタ」

「いやいや、あなたは佐世保相手に十分やれたわよ。駆逐艦八人、軽巡三人、重巡一人、戦艦一人、軽空母一人。一人でこれだけやれたんなら大戦果よ。佐世保でこれならそんじょそこらの基地ぐらい壊滅間近まで行けたかも」

「ホントウ?」

「本当、本当。でもこれ嫌いで満足せずに、それこそ一人で鎮守府を壊滅できるようになるまで頑張りましょうね」

「ウン!」

「よし、じゃあ一先ず退散しましょうか」

 彼女は笑顔で言う。レナはどういうことなのか一瞬理解できず、暁の顔を見たが暁も真顔でうなづいている。仕方がないので彼女に説明を求めるような顔をしてみると通じたようで彼女は手短に説明してくれた。

「ここであなたを回収しようと待ってたらちょうどこのあたりを哨戒していたらしい部隊にバレちゃって、多分佐世保から報復がたくさん来るから逃げようってこと」

「ムカエウタナイノ?」

「ここ袋小路だから無理」

 艦隊は島の入江のような場所に停泊しているのでろくに動けない。これではただの固定目標だ。

 彼女は急速潜航を命じた。艦隊は次々に海中に潜っていく。甲板に海水が侵入してきたあたりで警戒網の艦載機から艦娘の大編隊が接近していると報告が来た。やはり報復に来たか。それもこちらが対処しにくい高高度からの攻撃だ。高度がありすぎて敵までの距離がよくわからない。とりあえず敵が接近していることは分かったし警戒網も撤退させよう。

 警戒網を撤退させたことで情報が断たれてからすぐに艦隊は潜航し終わった。

 海中で暁は聞いた。「どこまで行くの」

「そうね……対馬あたりまで時間をかけていってから様子を見ましょうか。」

「ハヤクイカナイトオイツカレチャウヨ」

「早く行っても艦娘たちはまだ探し回ってるし、下手に早く行ったら逆に見つかりやすいわ」

「ナルホド」

 

 

 

『すみません。逃げられました』

「そうか。また奇襲される可能性もある。もうしばらく捜索して見つからないようなら撤退してくれ」

『了解しました』

 彼は一つ大きなため息を付くと大きな、座り心地のいい椅子の背もたれにもたれた。

「大丈夫ですか? お茶を持ってきましょうか」

「ありがとう。お願いするよ」

 大淀は隣の給湯室に入った。カチャカチャと瓶と金属が小突きあう音がし、ポットからお湯が流れる音がする。そうしてお盆に湯気の立つ湯呑みと急須を乗せた大淀が出てきた。

 彼は置かれた湯呑みに手を伸ばすと二度息を吹いてから茶を啜った。そしてもう一度ため息をついてから大淀に尋ねた。

「何人やられた」

「駆逐艦朝潮、霞、潮、響、漣、曙、初雪、陽炎。軽巡阿賀野、神通、那珂。重巡愛宕。戦艦霧島。軽空母飛鷹です」

「レ級一人に十五人か。手酷くやられたな」

 彼はまたため息を付いた。さっきからため息をついてばかりだ。しかしつくしか感情の吐露ができない。

 もちろん戦争をしている以上艦娘が撃沈されるのは不可避だ。しかし一度の戦闘で深海棲艦一人に対して、更には自陣の直ぐ側でこれほどの被害を出したことは今まで一度も、それこそ海軍内で一度もなかった。果たしてそれは彼の采配が悪かったのか、それとも相手の強さが異次元だったのか。

「被害はまだ鎮守府内には知られてないか」

「いえ、恐らく知られ始めているでしょう」

 それを証明するかのように窓の外からは微かに悲鳴のようなものが聞こえてきた。

「カウンセリングをなんとかしないとな」

 艦娘が撃沈された場合、残された者たちの心の傷は酷く深くなる。そのためカウンセリングを間宮や明石、場合によっては提督である彼自身が行う。しかし今回は多すぎる。艦種や型が多種にわたる分カウンセリングが必要になる艦娘が増える。少なくとも三十人は超えるだろう。カウンセリングの担当者のカウンセリングまで必要な羽目になるかもしれない。他の鎮守府との合同作戦もある。言っては何だがカウンセリングを行っている暇はない。

「しょうがない。応援を呼ぶか」

「それがいいでしょうね。ですがどこから呼びましょうか」

「呉が近い。今はわずかな時間さえも惜しい。一応大本営の方に報告がてら支援を要請してみよう。大淀は呉に連絡してくれ」

「分かりました。すぐに連絡します」

 大淀はすぐに部屋を出ていった。彼はこれが最後、と息を吐いた。落ち込むのはここまでだ。やらないといけないことはほかにある。まずは大本営に今回の件を報告しなくてはならない。

 彼は受話器をとり大本営に連絡を取った。番号を押す間どう報告したらいいか考えたが、専用番号のためそれほど時間はなく、無駄に心配を募らせただけだった。コール音が一回なった後、受話器が撮られ大淀の声が聞こえた。

『はい、大本営です』

「佐世保だ。元帥殿につないでほしい」

『了解しました。少々お待ちください』

 簡素な待機音がなる。数秒の後、待機音は鳴りやみ、元帥の声が聞こえた。

『どうした』

「つい一時間ほど前、我が鎮守府に南方深艦隊と思しきものから襲撃を受けました」

『思しき?』

「はい。襲撃はレ級一人でしたが五島列島の福江島にて南方深艦隊が停泊しているのが発見されました」

 一瞬報復を仕掛けたことを言いそうになったが作戦では防衛のみだった。これは言わない方がいいだろう。

『して襲撃の被害は』

「駆逐艦八名、軽巡三名、重巡一名、戦艦一名、軽空母一名、計十五名が撃沈されました。扶桑が大破しましたがそれ以外は無傷です」

『げ、撃沈!? 大破や中破などではなく? 嘘ではないのか』

「残念ながら現実です。申し訳ありません。合同作戦に少し支障が出るやもしれません」

『い、いや。それは大丈夫だ。近接部隊の被害は』

「幸か不幸か、近接部隊を出撃させる前にレ級を撃沈しましたしたので損害はありません」

『そうか。部隊が無傷ならまあ大丈夫だろう。それにしてもレ級一人に十五人か』

「近くで南方深艦隊が停泊していたことを考えるとおそらくそのレ級はあの深海棲艦の配下である可能性が高いかと」

『つまり単純に考えてあの旗艦はそれよりも強いということか』

「そういうことになりますね」

 電話の先では元帥の唸り声とため息が繰り返し聞こえてきた。元帥は何も言えなくなってしまったのか話題を佐世保の被害に変えてきた。

『一度に十五人となると通常勤務にも支障が出るだろう。大本営の方でも人員の貸し出しなど出来るが何かしらの支援は必要か?』

「勤務に支障はありません。ただでさえあまり艦娘を外に出せない状態ですし皮肉にも南方深艦隊のおかげで通常の深海棲艦の数も少なくなっています。ただカウンセリング要員が足りません。呉にも人員を貸してもらえるよう要請はしていますが数が数ですので、正直それでも余裕がありません」

『分かった。到着は明日になるだろうがそれでもいいか?』

「構いません。支援ありがとうございます」

『構わん。それと今回のことは他の鎮守府にも報告する。場合によっては作戦の修正が必要かもしれないからな』

「了解しました。それでは失礼します」

 受話器を下すと肩の力がどっと抜けた。こちらに完全に非があるわけではないがかなり緊張していたようだ。佐世保というプライドが合ったせいかもしれない。一先ず何とかなるだろう。

 彼は空っぽになった湯呑に急須で茶を入れなおした。茶は少しぬるく、濃くなっており、彼はそれを一口で飲み切った。

 

 

 対馬についたのは十日後の夜だった。艦隊が浮上すると同時に彼岸花が一斉に花開く。当初は花壇程度だった彼岸花も今ではほぼ水平線にまで広がった。いずれは警戒網まで広がるかもしれない。

 空には満月が昇っているが、彼岸花が紫色をしているせいであまり光を反射してくれない。月光は艦隊を朧気に映すのみで海面は彼岸花を含め真っ暗だった。

「夜だから飛行機も飛んでないわね」

 彼女は柵に手をかけながら星空を眺めた。その横には暁と暁についてくるレナの姿があった。

「対馬……来たことないわね」

「もともと佐世保所属じゃなかったっけ?」

「そうだったかしら。覚えてない。でもそうだとしてもここに用はなかったわ。ここらあたりに深海棲艦は出てこないもの。ここは当時唯一平和な場所だったわ。夜に到着できてよかったわね」

「どうしてそんなこと?」

「多分今もここが平和ならまだ人が住んでる」

「えっ嘘。なんで教えてくれないのよ。見つかってたらすぐに艦娘に知らされてたじゃん」

 彼女は少々食いつき気味に暁に文句を言った。しかし暁はただほほ笑むのみ。彼女はどうして暁がこんなにへらへらしているのかイラつきながら疑問に思ったがそれはすぐに解けた。

「そうね。あなたは見つかっても構わない。むしろ見つかったほうがいいものね」

「私は別にどっちでも構わないわ。たとえ島の人に見つかって鎮守府に通報されようが運よく島の人に見つからずに自分たちの存在が秘匿され続けようがね」

「見つかりたかったんじゃないの」

「生憎あなたの所為でそう簡単に命を投げ出せれなくなっちゃったからね」

 暁はレナの方を見ながらそう言った。「別に生きようが死のうがどっちでもいいわ。どっちに転ぼうが私にとって損はないもの」

「れなハアカツキニシンデホシクナイヨ」

 レナが心配そうに暁を見つめ返すので暁は「でもあなたが護ってくれるんでしょ?」と言った。レナは笑顔でうなづいた。

「何それ。ずるい。私はあなたが死なないように気を使ってるのに」

「元々私とあなたは相反してたでしょ。でもあなたの狙い通り生きる希望も見出させてくれたじゃない。おかげで死一辺倒な考え方はしなくなったわ」

「むー」

 彼女は何も言えなくなってしまったのか頬を膨らませて暁をにらむ以外何もしなかった。

「はぁ。でもそれならさっさとここを移動しないといけないわね」

 彼女は艦隊に進行の命令を行った。艦隊はすぐさま機関を動かす。静寂ににわかに音が響き始めた。目的地まであと少し。日本海を北上すればすぐだ。

「目的地まですぐよ。深海棲艦も少ないから多分艦娘の目も少ない。でも呉と舞鶴が近いし、佐世保強襲でそこまで強くないと分かってても油断はしないようにね」

「ワカッタ」

 

 艦隊は動き出す。最後の場所へと。一方で同じように動き出す大本営の作戦、二つがぶつかるまでそれほど時間はかからないだろう。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。