紫色の曼珠沙華をあなた達に   作:猫又提督

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懲罰部隊の実力

 私たちは食堂に来た。勿論夕食を取るためだ。聞きなれた喧騒を横にメニュー表を凝視していた。夜はメニューが増えるのでいつもどれにしようか迷ってしまう。定食にしようか丼ものにしようか、うんうん唸っていると他のみんなは決めてしまったらしく食堂に入ろうとしていた。

「あ、ちょっと。もう決めたの?」

「叢雲は決めるのが遅いっぽい。夕立は先に行ってるっぽい」

「ちょっと待ってよ」

 私は置いてかれまいと慌てて決めようとする。しかし慌てれば慌てるほど何も考えられなくなる。結局一番最後に目についたカキフライ定食にすることにした。

 小走りで皆に追いつくと歩幅を合わせて中に入った。間宮さんにカキフライ定食を注文してお盆をもって列に並ぶ。

「叢雲さん結局何にしたんですか」

「カキフライ定食」

「あら、昨日と一緒ですね」

「え……ほんとだ。私昨日も頼んだじゃん」

 頭を抱えたくなった。思い返せば昨日も悩んだ挙句急かされてカキフライ定食を頼んでいた。

「綾波は?」

「今日は麻婆豆腐です」

「私もそれにすればよかった」

 明日はそれにしようと思いつつ、せめてカキフライにかけるソースは別にしようと決めた。

 しばらく待ってカキフライとご飯を乗せた私は調味料コーナーに向かった。さまざまな調味料があるが私は結局昨日と同じタルタルソースをかけた。なにせこれが一番うまいのだ。これを超えるものはない。私が席に着いたところで夕飯を食べはじめた。

「明日って出撃ないんだっけ」

 黙々と食べていたところで皐月が声をかけた。

「ああ。明日から作戦開始日までずっと演習だよ。朝から晩まで」

「え、きっつ」

 私は今日の演習を思い出した。正直思い出したくもない。あれが一日中続くだなんて憂鬱だ。

「きついが俺は身についている感じがあってよかったぜ。なあ龍田」

「ええ、天龍ちゃんの言うとおりね」

「そう? ずっと試合してばっかりで疲れた以外に何もなかったわ」

「叢雲はずっとぼこぼこにされてたっぽい!」

「うっさいわね。あんただって手が出なかったじゃない」

「そういえば向こうの夕立は随分変わってたね。敬語は使うしぽいぽい言わないし僕びっくりしたよ」

「そうですね。でも教えるのがとても上手でしたよ」

「まあでも随分ひどい現実を突きつけられたけどね」

「弱いっていわれたっぽい!」

「連携は捨てるとおっしゃってました」

「ん、俺たちも同じこと言われたぜ。連携するより個々の力を伸ばした方がいいってさ」

「他の鎮守府と一度も合同訓練したことないって言ったらますますそれに力を入れるってさ」

「まあそうよね。他の部隊のこと知らないのに連携も何もないものね」

 他愛のない話をしながら夕食を取った。

 部屋に戻った私達は各自で風呂に入り布団に臥した。なんてことのない日常だった。

 

 翌日私達は同じ演習海域に向かった。あの四人はすでに到着していた。挨拶も簡略し、昨日と同じように別れた。夕立と綾波は向こうの夕立に連れられてどこか行ったが私は昨日とやることは変わらない。ひたすら初雪と戦うだけ。防がれ、いなされて反撃される。

 今日は主砲にちゃんと演習弾を装填した。だから昨日言われた通り主砲でも攻撃しようとしてみるが、私が主砲を向けると初雪はちょこまかと動いてまともに照準できない。必死に狙いをつけているうちに気づけば私に砲口が突きつけられていた。

「砲撃に集中しすぎ。何のための槍?」

「あんたが使えって言ったんじゃない」

「使えるものは何でも使えってね。それ一辺倒になるなって言ったの」初雪は主砲を下げた。「当てるんじゃなくて動きを制限させるの。じゃ、もう一度やろう」

 初雪の言葉を受けて今度は牽制を意識してみるが、しかしどこに撃てばいいのかわからない。迷っているうちに初雪がまた距離を縮めようとする。

「ほら、また集中しすぎてる」

「うっさい!」

 牽制は諦めて槍を握り直した。距離を縮めようと前に進むと、一転して初雪は距離を開け始めた。だが初雪は反転せず後退しているため私との距離がすぐに縮まる。槍のリーチを以て攻撃するが初雪はそれを易易と避ける。ある突きで初雪が唐突に砲口を向けた。撃たれる。しかし体制は酷く前のめりで避けれない。

 左半身に風を感じた直後、海水を浴びた。私の左には鎖につながったドラム缶があり、そこを中心に波紋が広がっていた。

「はい死んだ」

 初雪は何の感情も籠ってない声で言った。その言葉が意味するのはつまり、あと少し右にずれていたら私はこのドラム缶に押しつぶされていたということだ。全身から冷や汗が噴き出し思わず身震いした。

 ゆっくりと正面を向くと初雪は実に涼しい顔をしていた。まるでさっき言った言葉が何を意味するのか分かってないようだ。私は恐怖し全く動くことができなかった。いや、厳密には体が震えていた。

 初雪が首を傾げた。きっと私が動かないから不思議に思ったのだ。

「どうした?」

 初雪が声をかけてようやく私は体を動かせるようになった。その瞬間前のめりになった体はバランスを崩し倒れそうになった。だが艤装で足が海面に固定されているおかげで転ぶことはなかった。

「い、いや。なんでもないわ」

 転びかけた際に落とした槍を拾いながら私は言った。

「さっきは主砲を撃ち返すべきだったね」

「あんな一瞬でそんなことできるわけないじゃない」

「でもできなかったから死んだんだよ」

「うっ、そ、それは」

 無茶だ。あんな一瞬で判断できるわけがない。あんなことをしないと倒せない相手なのか、その南方深艦隊というやつは。案外今の自分達でもなんとかなるんじゃないか。そもそも艦娘が砲雷撃戦をせずに近接武器で戦うこと自体ありえないことだ。

 小声で文句を言っていると後ろから声がかかった。夕立の声だ。うちのじゃない、大本営の方。

「初雪さん。こっち来てくれますか」

 初雪はその申し出に応えて、夕立の方へ向かった。少し遅れて私もついていく。

 夕立はこちらの夕立、綾波と試合をしてみてほしいと言った。私が初雪と戦っている間ずっと何か教わっていた様子なので実践させたいのだろう。初雪はややめんどくさそうにするも了解した。

「合図はどうしますか?」

「二人の好きなタイミングでいいよ」

「ではそうしましょうか」

「勝敗の基準とかは決めてる?」

「いえ特に決めてないですが、いりますか?」

「いや、ないならいいよ」

「あ、そうでした。お二人には事前に怪我をする覚悟はしてもらってます」

「いいの?」

「重傷は困りますが、まあ多少なら構いません」

 私と大本営の夕立は少し離れたところで観戦することにした。両者は少しのにらみ合いの後、夕立と綾波が動き出した。二人とも全速力で突撃し、初雪の迎撃よりも速く間合いに飛び込んだ。

「すごい」私は二人の動きの進化に目が釘付けになっていた。「昨日の今日であんなに動けるなんて。昨日とは大違いね」

「元々お二人は才がありましたからね」

「知ってたのかしら?」

「まあ、夕立に関しては自分のことでもありますが、綾波さんは元から血の気が多い人ですよ」

「そうなの? 私は大人しいと思っていたけど」

「案外綾波さんは好戦的ですよ」

 夕立に言われてもう一度見ると確かに綾波と夕立と同じぐらい積極的に攻撃している。二人は場所を細かく変えながら攻撃している。初雪はその動きについていけてないように見えた。ドラム缶で防御したり逃げたりばかりで一向に反撃しようとしない。

「勝てるかも」

 私は無意識にそんな言葉が漏れたが夕立は何も答えなかった。

 綾波が仕掛けたところ、初雪は瞬時に綾波の頭に撃った。ほぼノールックだったはずの砲撃は綾波の頭に命中した。あんな至近距離で撃たれた綾波は後方にのけぞりその場に倒れた。私は慌てて駆け寄ろうとしたが夕立に「危ないですよ」と言われて止められてしまった。

「で、でも綾波が」

「大丈夫です。気絶もしてないです」

 もう一度見てみると綾波は倒れていると言えども頭を押さえて震えているようだった。

 たった一瞬で数的有利を覆えした初雪は一転して攻勢にでた。ドラム缶で軽く突き飛ばすとすかさず主砲を撃つ。夕立は避けようとするも至近距離のためそうそう避けることができない。せいぜい致命傷を避けるような当たり方だ。やはり至近距離なので当たれば相当痛いだろう。次第に動きが鈍くなっていた。

 私はさっきまでの期待とは反対にハラハラしながら様子を見守っていた。私が介入できないのがもどかしい。そしてついに夕立が膝をついた。初雪がその隙を見逃すはずがなくドラム缶を振りかぶった。夕立が殴られる、そう思った私は耐えきれずに飛び出した。しかし腕を大本営の夕立につかまれてしまった。

「ちょ、ちょっと離してよ」

「邪魔しちゃだめですよ」

「邪魔って、あれじゃあ」

 邪魔も何もない、と言いかけたところで向こうから声がかかった。

「終わったよ」

 ドラム缶は夕立のすぐ横で止まっている。尻餅をついてドラム缶を凝視しているようだった。私の腕をつかんでいた夕立はようやく腕を離してくれた。そのまま初雪の方へ向かう夕立に続いて私もついて言った。

 初雪が尻餅をついたままの夕立の腕を引いているところに私たちと、頭を押さえた綾波もやって来た。

「大丈夫ですか?」

「いたたた……まだ痛いです」

「負けたっぽいー」

「零距離で主砲を撃つのはやりすぎなんじゃないの?」

「怪我させてもいいって言うから」

「だからって」

「いいんですよ叢雲さん。私たちが了承したことですから。まあ零距離で撃たれるとは思っていませんでしたが」

「そうしないと勝てなかったからね。大ぶりな武器は軽い武器に弱いんだよ」

「じゃあ大本営の夕立なら初雪さんに勝てるっぽい?」

「え、な、なんでそういうことになるんですか」

「私も気になります。後目標も欲しいですし」

「私もずっとボコられてたから代わりにボコしてほしいわ」

「一人だけ私怨が混じってるね」

「私は別に構わないんですけど」

 そう言って夕立は初雪の方を見た。

「私?」初雪は自身に指を指す。「そうだね。私は嫌だね。どうせすぐ負ける」

「え、そんなに強いっぽい!?」

「そうだよ。こっちの夕立は強いよ」

「それほどでもないですよ。第一私はまだ来て一年も経ってないです」

「時間は関係ないよ。そもそも私は白兵戦なんてしないんだから。これを作ったのも数年ぶりだよ」

「それならますます見たいわ。負けてばっかりで勝てる気がしないもの」

「でも初雪さんがしたくないと言ってますし」

「私は夕立がいいなら構わないよ」

「え、えぇ。でもさっき嫌だって言ったじゃないですか」

「死ぬんだったら嫌だけどね。別に死にやしないし、まあ叢雲の言う通り少しは希望というものを見せてあげてもいいんじゃない」

「ま、まあ初雪さんがいいなら私も異論はありません」

 夕立と初雪が戦うことになった。私達はその場から離れ、二人は互いに距離を取った。私達が戦ったときと同じ十メートルほどの距離だ。

 合図は私に任された。二人の間には緊張が走っている。私達が初雪と対峙したときよりもよっぽど重い空気が漂っていた。まるで今から本当の戦いをするような雰囲気だ。

「は、始め!」

 少し物怖じしながらもなんとか開始の合図を下ろせた。

 合図が下された瞬間夕立と初雪は互いに発砲した。夕立は突撃し、初雪は後退している。初雪の砲撃は正確で、夕立は紙一重で避けていた。しかし着実に近づいている。一方で夕立の砲撃も正確だ。初雪はドラム缶で防御しているがそのすべてが命中している。初雪は自身の間合いに入ると途端にドラム缶を投げ飛ばした。真っ直ぐと飛んでいくドラム缶に流石に夕立も大きく回避せざるを得なかった。

 初雪は夕立が回避したその地点を狙って発砲した。私もやられた技だ。その場に止まればもちろん被弾するし、動き続けても偏差を取られる必中の技。私は避けれた試しがないし避けれる気もしない。しかし夕立は上体を逸らすことで間一髪砲弾を避けた。私たちはその姿に思わず感嘆の声を漏らした。

 上体を起こした夕立は再び突撃しやがて自身の間合いに持ち込む。夕立の間合いは綾波のようにとても相手と近いようだ。

「そう言えばあっちの夕立って武器何使ってるの?」

「ナイフだそうです」

「なるほど道理で」

 戦況は夕立が圧倒的有利に見える。しかし私はこの状況を何度も見てきたし、ここから何度も覆されている。あの夕立でも油断できない。

 初雪が主砲を持った腕を上げたところは見えた。しかし次の瞬間には初雪は海面に転び、首元に何か押し付けられていた。そして少ししてから初雪は両手を上げ夕立はこちらに向かって「終わりましたよ!」と声をかけた。

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