紫色の曼珠沙華をあなた達に   作:猫又提督

64 / 65
投稿が遅れました。すみません


二人でいると気まずかった

 〇五〇〇。まだ空は少し暗いが、すでにグラウンドには多くの艦娘が並んでいた。全国の鎮守府から集まった約三百名の艦娘。全員が今日、一つの作戦に従事するのだ。一つの作戦にこれだけの人数が起用されることはまずない。以前行われた南方海域の掃討作戦の時よりも多い。加えてこの大人数で相手するのはたった一つの目標だ。厳密に言えば相手は艦隊であるが、後にも先にもこんな作戦は無いだろう。元帥が壇上に上がった。全員の気が引き締まった。

「諸君。今回は本作戦に伴い全国から集まってくれて感謝する。諸君らも知っての通り、現在われわれは未曽有の危機に瀕している。生半可な戦力では簡単に返り討ちに遭うような強大な敵がここ、舞鶴に迫っている。そこで我々は質量で以て制圧する作戦を立案した。事態は急を要すため本作戦には粗雑なところがあるが諸君らの練度であればその穴を埋めることができると期待している。特に特攻隊の者たちは本作戦における要である。ぜひとも頑張ってもらいたい」

 そう言って元帥は壇上から降りた。私たちは元帥から期待されている。その上。要だと言われた。特攻隊に命じられた時から言われた言葉だが元帥が言うとまるで重みが違う。この作戦は絶対に成功させなければならない。

 その後は部隊ごとに分かれることになった。特攻隊は特攻隊で集まる。私たちのほかに秋月たちや、佐世保、真出に横須賀の特攻隊が集まった。他の鎮守府と顔を合わせるのは今回が初めてだ。伊勢や神通など様々な艦娘がいたが意外にも同じ艦娘はいなかった。被っているのはうちと大本営の夕立のみだった。

「さて、私たちは元帥からも言われた通り作戦の要だよ。顔合わせは初めてだから連携はそれぞれの部隊内のみだけど進行ルートだけは合わせてもらうからね」

 そう言うのは舞鶴の特攻隊旗艦である川内だ。川内はグラウンドに置かれた机の上に海図を広げた。その海図には赤い線が引かれている。

「目標は日本海を本土に沿って北上している。そこから導き出された針路がこれだよ。今舞鶴の直上と目標の針路が重なる地点で潜水艦が待ち伏せをしている。作戦の始まりは潜水艦による奇襲攻撃。そして砲撃と高高度から行う爆撃による飽和攻撃。最後に撃ち漏らした深海棲艦及び最重要目標である通称二人目を撃破するのが私たちの仕事だ。ここまではいい?」

 つまりここに居る三十人以外は全員飽和攻撃を行うための人員ということか。いささか過剰に思うがそれほどまでに敵艦隊の戦力が多いということだ。

「私たちは敵艦隊の側面部で待機。飽和攻撃完了の報告とともに突撃だ。完了の報せは私が受け取ることになってるけど、保険をかけてそれぞれの部隊の旗艦にも受け取ってもらいたい。旗艦の人は手を上げてもらえる?」

 天龍と秋月、他二人が手を上げた。川内は懐からメモを取り出し、手を上げた者の名前を書いた。

「五人にはまた後で専用のチャンネルを教えるね。予測作戦開始時刻は一四三四。ここを出るのは一三三〇だよ。集合は一二三〇。場所はここね。それまでは各自自由に待機。それじゃ解散していいよ」

「もう終わり?」

 あまりに早く終わったので思わず声に出してしまった。わざわざ早朝に集まった挙げ句、他の人達はまだブリーフィングを行っている。

「このブリーフィングは飽和攻撃部隊の為だからね。私たちよりも作戦も複雑だし参加人数も多い。本当はもっと時間をかけたいんだけど敵は待ってくれないからね。飽和攻撃部隊は多分出撃時間ギリギリまでブリーフィングしてるんじゃないかな」

「大変ですね」

 秋月が他人事のように言った。

「その分飽和攻撃部隊の責任は重大だし、その成功が前提である私たちの責任も重いからね。失敗しちゃいけないんだよ」

 グループごとに集まっている彼女たちを見た。皆真剣な顔で誰かの話を聞いている。紙の束を渡したり、それを捲りながら話をし、聞いているものもいる。

「よし、せっかくだし皆で朝ご飯食べよう。今日は特別に六時から食堂開いてるんだ。あの人たちが入りだしたら落ち着いて食べれなくなるし早く行こ!」

 親睦を深める目的だろうか。まあ食堂のことは私も楽しみにしていたのでいいか。それに川内の言っていることが本当なら早く行ったほうがいいだろう。

 

 ようやく空も白けた頃、まだ開いてない食堂の前でメニューを見ながら待機していると、ドアの鍵が開く音がした。ドアを開けて顔を出したのは間宮だった。

「あら、早いですね」

「早く来ないと埋まりそうだったからね」

「今日は特別メニューですよ。大事な作戦の前ですからね」

「やった!」

 メニューの詳細がやけに豪華だと思ったらそういうことか。何せビュッフェと書いてあるものだから舞鶴の朝食はなんて豪華なのかと皆驚き興奮していた。

 間宮がドアを全開にし、私たちは中に入った。そこには大きなテーブル群の上に様々な料理が乗っていった。私たちは感嘆の声を漏らした。それからすぐに席を確保し料理を取り始めた。全員が取り終わりさあ食べようかという頃に飽和攻撃部隊の一グループがやってきて、川内が危惧した通りたちまち混雑しだした。早く来れて良かったと安堵しながら私たちは朝食を摂った。

 

朝食を食べ終わって食堂を出ると、そこには長蛇の列ができていた。飽和攻撃部隊とそれ以外の舞鶴所属の艦娘だろう。朝食を前にしても作戦の話ばかりしている艦娘たちを横目に鎮守府内を歩いていた。どこに向かっているのか分からないが、特に行く当てがないのでついて行った。

 外に出ると空は完全に青く澄み渡っていた。夜は見えなかった舞鶴鎮守府の外装がよく見えた。つくりは全く同じだが建物群の配置は全く違うので多少の新鮮味はある物だ。中央らしき広場で先導していた川内の足が止まった。

「もう自由に過ごしていいよ。朝に言った通り一二三〇には集合してね」

「演習をしても構わないのか」

 私たちの知らない部隊の誰かが質問した。

「いいよ。許可は取ってるし、所属と特攻部隊ってこと言えばできるよ」

「よし、それじゃ最後の調整と行こうじゃないか」

 その部隊は六人とも演習に向かうつもりだった。

「他の部隊の奴らもどうだ?」

「私やるっぽい!」

「僕もいくよ」

 他の部隊も誘っていた。私はもういいので参加しないが血気盛んな夕立と皐月は参加するようだ。他の部隊からも何人か参加するようだ。

「あ、その前に各部隊の旗艦は集まってね。他は行っていいよ」

 らしいので天龍は川内の元に集まって私は部屋に戻らせてもらった。

 

 部屋に戻るとなぜか静かに感じられた。この場に夕立と皐月がいないからだ。後は鎮守府内の艦娘がほとんど食堂にいるからだろう。時間を見ればまだ七時過ぎ、集合時間までにあと五時間もあった。私は時計を見ながら何をしようと思った」。やっぱり演習に参加してた方がいいかと思ったがどうにも乗り気じゃなかったのでやっぱり参加しなくていいやと思い直した。

 ここは普段空き部屋なのだろうか、備品が置いてあるのみで小物の類は一切おかれていなかった。いっそのこと寝てしまおうかとも思ったが艤装をつけているのでそれは叶わなかった。私は最終的に畳に手をついて天井を見上げた。綾波もちゃぶ台に向かって座ってるのみで何も話さない。そういえば綾波とは今まで交流があまりなかった。何度か出撃時に一緒になったことはあるはずだが必要最低限のことしか話さなかったような気がする。だから彼女とこうして二人きりになった今、何を話せばいいのか分からなかった。まさかあの二人の存在を恋しくなるとは思わず、少し悔しかった。かといって私からは話しかけられなかった。向こうから話しかけてくればどうにかなるが、多分向こうもそういうタイプではないだろう。客観的に見ればむしろ私が話しかけるタイプなのだろう。

 

 気まずい時間を過ごしていると、外の活気が戻ってきたのが分かった。飽和攻撃部隊が食堂から戻ってきているらしい。この距離だとなにか話しているのは分かるが、何を話しているのか全く分からなかった。

「戻って来たみたいですね」

 綾波が唐突に口を開いた。何のことか分からなかったがすぐに飽和攻撃部隊のことだと理解し、一瞬反応が遅れながらも「そうね」と返した。

「あのままずっと話してるつもりかしら」

 私は時計を見ながら言った。集合時間までまだ五時間ある。果たしてそんなに長い時間一体何を相談しようというのだろう。

「そうなんでしょうね。川内さんが飽和攻撃部隊のためのブリーフィングて言ってましたし」

「でもそんな相談することあるかしら。長くても一、二時間ぐらいで終わりそうだけど」

「あるんじゃないんですか? 人数が多いですし、グループで話してましたからグループ間でも示し合わさないといけないことがあるんですよ」

「ふーん」

 一応納得したが私には関係のないことだった。ただああやって大人数の人たちが真剣に作戦に向き合っている中私たちだけがこうしてくつろいでいるのはなんだか謎の罪悪感を湧きあがらせた。綾波にそのことをいうと「私もです」と同意してくれた。

「まあ、かといって別部隊の合同演習には参加する気ないけどね」

「昨日はあんなに自主練していたのにですか?」

「だって模擬槍持ってきてないもの」

「でも皆持ってきてないですよね。ならあの合同演習って本物でやってるんでしょうか」

「さあ? いずれにしろ流石にこんな作戦まじかで怪我するようなこと私はしたくなかったの」

「なるほど、確かにそうですね」

 綾波はくすくすと笑った。私もその顔を見てにやついた。そのままの勢いで「あなたは?」と聞き返してみた。

「私ですか? そうですね。私も似たような理由でしょうか。作戦間際は出来るだけリラックスしておきたいんです」

「分かるわ」

 話し出すと案外弾んだ。次から次へと話題が飛び出してくる。気づけば最初の話題からは全く繋がっていないような話題を出していた。気づくと集合時間が近づいているほどに私たちはおしゃべりに熱中していた。

 

 

 集合時間に近づいてきたためグラウンドに行くとすでに夕立と皐月の二人は他の部隊と一緒にグラウンドに集合していた。依然として飽和攻撃部隊は作戦会議をしている様子で構図は朝と全く変わっていなかった。本当に五時間ずっと会議し続けていたらしい。

「二人とももういたんですね」

「演習終わってから直接こっちまで来たんだ」

「勝てた?」

「楽勝だったっぽい! 夕立に比べたら他の部隊なんて楽勝っぽい」

 その夕立は一体どっちの夕立なんだと思ったがまあ十中八九大本営のほうだろう。

 その後約十分かけて残りの特攻隊も集まってきた。時刻が十二時半を指したであろう頃どこからともなく「全体整列!」と号令がかかった。その瞬間ごった返していた人員はまさに軍隊のごとく並びだした。わずか数分後には早朝時と同じ隊列が組み上がっていた。

 壇上には元帥が朝と同じ足取りで上がった。

「諸君! ついにこのときがやってきた。本作戦は海軍史上最大の作戦となるであろう。その作戦が粗雑になってしまったこと改めてここに謝罪する。しかし諸君らならきっと達成できるものと期待している!」

 朝とほぼ同じようなことを言っていた気がするが、そこはスルーすべきだろうか。そもこの演説は士気の鼓舞が目的だろうから内容は重要ではないか。結局同じことの繰り返しで途中から話し半分に聞いていたが、突然周りが「了解!」と返事をしたので私慌てて、遅らせながら返事を合わせた。全体はそれで解散となり、出撃の準備に入った。他私達だけは朝からずっと艤装をつけていたのでもう終わっている。出撃まであと四、五十分ぐらいだろうか。

「出撃は準備が整った部隊から出発するんだ。私たちは最後のほうだから待っててね」

「俺達はもう終わってるんだが?」

「え、ああ。呉の部隊さんね。あなた達は今日の深夜に到着したから前もってやったんだろうけどその他の部隊は昨日以前から来てるから準備できてないんだよ。さっきまで演習していた人たちは除いてね」

 よくよく見れば他の部隊は艤装を背負っていない。てっきり背負っているものだと思っていたが、私達が事前に背負っているがゆえの先入観だったようだ。

 なるだけ揃って出撃したいという川内の言葉で待つことになった。三百人もの艦娘を一時間で出撃させきるなんて出来るのかと思ったが今日のために出撃ドッグを広げているらしい。一度に三十人を出撃させるそうだ。お陰で出撃時間の二十分前には私たちも出撃ドッグに入ることが出来た。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。