私たちは一番最後に出撃した。私たちの前には飽和攻撃部隊の艦娘たちが並んでいる。これだけの数の艦娘が並ぶと壮観だ。ここから約三十分ほど北上したところが敵艦隊とのランデブーポイントだ。
緊張のせいなのか誰も何もしゃべらない。誰も話をしないので私もわざわざ話をしようとは思わなかった。途中で空母だけの艦隊がいくつも停泊しているのを横切った。空母はここで攻撃をするらしい。すでに艦載機を展開しているがまだ早いんじゃないのだろうかと思ったが私には関係のないことだし多分理由があってのことなのだろうと思った。
ランデブーポイント近く、私たちの待機ポイントに到着してからすぐに敵艦隊の艦載機が発見されたとの報告が入った。飽和攻撃部隊はすでに敵の射程内に入ったらしい。ここからはその姿は確認できない。
「ついに始まる」
私は静かにつぶやいた。波の音と緊張感でその声は誰にも届かなかった。静かに待機すること約数分、水平線から艦載機が見えてきた。その直後それよりも奥から水柱が何本も立ち上がった。
あまりにも艦娘たちの動きがないものだから返って警戒していたが、丁度舞鶴を南に捉えたころ警戒網は遠くから飛んでくる大量の航空機の姿を捉えた。ただその数は尋常じゃない。もはや空を埋め尽くさんというばかりの数だ。艦娘がまさかこんな数を用意してくるとは思わなかった。さらに高高度を飛んでいるようでこちらの迎撃は間に合わない。
同時にこちらに近づく艦娘の部隊の姿も見えた。こちらも同様に尋常じゃない数がある。これは確実に自分たちを沈めようという魂胆だろう。
「まっずいわね。数が多すぎる」
「ニゲル?」
「うん。逃げるわ。この数はどうしてもむっ!?」
甲板が揺れた。日本海だから海は荒れるが、だがしかしこれはそういうたぐいの揺れ方ではない。なぜなら水柱が立ち上り彼女とレナは海水を浴びたからだ。そのほかにも駆逐艦には何本か水柱が上がり、それは先行させていた深海棲艦にも同様だ。あの艦娘たちは射程外のはずだ。
「まさか潜水艦が!?」
考えられるのはそれしかない。油断して前方にだけ対潜水艦編成をしていたのがいけなかった。がら空きの側面部をやられた。しかも潜んでいる潜水艦は一隻や二隻どころではない。たちまちなん十本もの魚雷に被弾し、最後部にいた電が脱落しかけていた。
「逃げられない!」
今から潜航しようとしてもその間に潜水艦に好きにされる。艦娘側がこれを狙ったのかはわからないが、彼女たちは必然的に艦娘との決戦に挑む羽目になった。
まずは海中に潜む潜水艦をどうにかしないといけない。人型というのは便利だ。船ならば同深度上の目標にしか攻撃ができなかったのに対して、人型であれば上下にも照準ができるようになる。つまり、現時点で潜水艦がどの方向にいるのかはわかってもどの深度にいるのか分からない。対潜水艦に置いておいた深海棲艦もさっきの奇襲で壊滅した。しかし、そんな不利な状況など全く意に介さない存在もまたこちら側に入るのだ。
「レナ」
「ナニ? ますたー」
「向こうにいるはずの潜水艦任してもいいかしら?」
「ウン、マカセテますたー!」
レナは意気揚々と甲板から飛び出していった。時期に攻撃はやむだろう。彼女は暁に艦内にいるように言った。暁は何も言わずに入っていった。
さっきの奇襲でこちらの戦力の約六割が消えた。駆逐艦も一隻脱落した。しかしそれがどうした。どちらも彼女がいる限り永遠に湧き出てくる。駆逐艦は時間がかかるが深海棲艦など数分経てば再び全員が湧いて出てくる。艦娘どもは消耗戦を選んだようだが正に愚策と言えよう。故に彼女は余裕のある笑みを浮かべながら甲板に立っていた。奴らの射程に入る前にまず駆逐艦の射程に入る。そして奴らが自身の射程に入ったころには我々は完全に復活している。
しかしそれよりも先にやってくるだろう空襲は彼女の唯一の不安点である。なにせ奴らは姑息にも駆逐艦の主砲でしか届かないような高高度からの爆撃を行っているのだ。命中率はたかが知れているが艦隊全体をすっぽり覆ってしまうほどの範囲を爆撃すれば関係がない。この空襲でさらに深海棲艦を減らし、少しでも砲戦を有利にしようという魂胆か。よく考えたものだ。正直言って空襲に関しては損害が大きくならないことを祈るしかない。だから彼女の余裕も少し強がりな面が見えてくる。誰も見ていないのに? いや、彼女自身が見ている。自分が一番強く見せなければならない相手なのだ。
何もできないからと言って抵抗しないのは愚の骨頂だ。あれだけ密集すれば適当に撃っても当たる。駆逐艦は即刻対空射撃を開始した。撃つたびに飛行機の絨毯に穴が開く。しかし、その絨毯はとても広く穴が開いてもそれほど数が減ったようには感じられない。やがて幸運にも生き残った飛行機は艦隊めがけて爆弾の雨を降らせる。彼女は艦内に入り、爆弾をやり過ごした。五分以上も続く爆弾の雨にうんざりしそうだ。
ようやく収まったので外に出ると、ただでさえ減っていた深海棲艦の数はさらに減っていた。これでは数的有利は取れない。とはいえ、反撃は開始する。奇襲で減った分がもうすぐ復活するがそれより前に艦娘たちの射程に入りそうだった。そういえばレナはまだ帰ってこない。手こずっているのか、数が多いのか。
水平線に見えだした艦娘たちと砲戦を開始した。数が多すぎて適当に狙っても当たりそうだ。でも数が多すぎて駆逐艦でも耐えれそうにもない。
どこかで爆発音がした。確認してみれば響の一番砲塔から火の手が上がっていた。艦娘の砲弾が砲室を貫いたようだ。彼女はそこで危機感を覚えだした。水平線に見える艦娘の大群はいくら穴をあけても埋まってくる。もしかしたら全滅するかもしれないという考えが彼女の頭をよぎった時、深海棲艦が湧いて出てきた。だが、数的有利は取れない。新たに湧いて来た深海棲艦も十分しないうちに全滅した。もしかして奇襲と空襲で深海棲艦の湧きのタイミングを調整したのか。いや、しかし、一度沈んだ深海棲艦がまた湧いて出てくるなんて艦娘たちにばれていただろうか。その様子を見せたことはないはずなんだ。ダメだ駄目だ。そんなことを考えてる暇はない。何とかしないとこのままじゃ押し切られる。
「ますたー!」
レナが甲板に飛び乗って来た。ようやく片付けてきたか。
「遅かったわね」
「ゴメン。カズガオオクッテ」
「怪我はない? 全部沈めた?」
「ウン!」
「それじゃ今度はこっち。早くしないと負けてしまいそうなの」
「アレゼンブシズメル?」
「そう、あれを全部沈めるの」
また爆発音が聞こえた。さっきよりも大きな音だ。響の爆発した一番砲塔から火柱が上がっている。その下には穴がいくつか開いていた。その穴から海水がなだれこんでいる。
「ああ、そんな。響が沈んでしまうわ」
これで二隻目が脱落してしまう。早くしないと全滅だ。
しかし彼女とレナが海上に降りると、途端に砲撃はやんだ。
「どうしたのかしら。弾が切れたのかしら」
「ますたー! アッチ」
レナが指さしたところは艦娘たちがいなかったはずだが、今見ると誰かが一直線に近づいている。その顔は見覚えのある顔だった。
「ああ、彼女たちと戦うのは久しぶりね。レナ、気をつけなさい。あの艦娘はあなたと同じかあなたよりも強いかもしれない。戦闘の五人は強いけどその後ろにいるのは……知らない。多分雑魚ね。いい? 気を付けるのは先頭の五人よ」
レナは意気揚々と向かって行った。きっとあれがいるから砲撃がやんだのだ。飽和攻撃でできるだけこちらの戦力を削ってから少数精鋭で残りを叩き潰す。なんともまあ、考えた作戦だ。そして悔しいが完璧なまでに効果的な作戦だ。でも逆に言えばあの艦隊さえつぶしてしまえばあとは烏合の衆なのだろう。あれさえ、あれさえつぶしてしまえば私の勝ちだ。
彼女もレナの後を追って再び湧いて来た深海棲艦とともに秋月たちの元に向かった。レナは先に接敵していたが懲罰部隊には抜けられてしまったようだ。代わりに後ろについて来た雑魚と戦っている。しかしかえって都合がよかった。懲罰部隊の面々と戦って負けでもしたら一気に自分が不利になってしまうから。
「ああ、久しぶりね」
彼女は開口一番そういった。秋月は立ち止まり対話の姿勢を見せた。後ろには見覚えのない艦娘が六人いる。ああいや、夕立はなぜか二人いる。
「ええ、お久しぶりですね」
「変わってないわね」
「あなたもあまり変わってないようですね。周りは随分と変わったようですが」
秋月はレナの方向を見ていった。レナは随分と有利みたいだ。艦娘どもの必死すぎる顔がよく見える。対して秋月は顔をひそめたようだ。
「あれ、沈んだって聞いてたんですけど新しい奴ですか?」
「まさか。レナはレナだもの。代わりはいないわ。それにそんなことしたら暁が悲しむもの。するわけがない」
突然秋月の後ろから誰かが飛び出した。数秒にもみたづに距離を縮め、彼女にナイフを突き立てた。私はその腕をつかんで動きを止めた。その腕はプルプルと震えていて相当な力が入っているのだと分かる。
「今お話の途中。割り込むのはダメよ?」
それは夕立であった。般若の表情で今にも殺さんとしている。鼻息が荒く、一見すると正気を失っているようだ。
「会話ぐらいちゃんとさせてよ。どうせ後でちゃんと戦うんだから」
「いや、申し訳ないですが大人しく会話をする時間はありませんよ」
秋月はもう戦う気満々の様だ。残念だ。もっとお話ししたかったのに。彼女は顎で秋月たちを指した。海鮮の合図だ。深海棲艦たちが一斉に攻撃を開始する。彼女は腕を振って夕立を遠くにやった。しかし思ったよりも飛ばずに夕立はすぐにまたこちらに向かってきてしまう。しょうがないので彼女は秋月たちの方へ向かった。
「皆さん練習通りです! 天龍さんたちは取り巻きの深海棲艦を! 奴は私たちが対処します!」
見慣れない艦隊はその声に応じて私の側を抜こうとした。彼女がそれを見逃すはずがない。彼女は近くの一人に鎌の錨を振りかぶった。しかし何かが当たりはじかれてしまった。秋月の主砲から硝煙が立ち上っている。鎌の刃は砲弾が当たったところからぽっきり折れたが、すぐに生えてきた。
彼女は秋月を見てニヤッと笑った。
「よく当てられたわねえ。すごいわ」
「暁さんに散々鍛えられたもので」
「私は何かした覚えないけど?」
「暁さんの技を見て私も散々練習したんですよっ!」
秋月は言い終わり際に撃ったが彼女はそれを躱した。そして単身実生たちの元へと突撃した。
奴の配下である深海棲艦はどれもノーマルで奴の化け物じみた強さに比べると雑魚よりも雑魚だ。
「簡単だな! これならすぐ終わりそうだ」
「油断は大敵よ。強さに差がありすぎて怪しすぎるぐらいだわ」
だが実際なんの苦労もせずに殲滅できている。こんなものでは秋月たちに鍛えられた甲斐が感じられない。十分で深海棲艦の殲滅は完了した。秋月たちの方はまだ全然決着がつきそうにもない。それに私たちが行っていた戦いとは全くレベルが違うものが繰り広げられていた。助太刀に入れそうもない。
代わりにあの様子の違うレ級はどうだろうか。いや、あのレ級には他の鎮守府の部隊が当たっていた。十八対一ならすでに終わっているだろうか。しかし別の部隊の元まで後退するとそこに立っていたのはあのレ級ただ一人だった。艦娘は誰一人立っていない。唯一海面に倒れこんだ戦艦の姿が見えたがすぐに沈んでいった。
「嘘だろ、全滅したのか!?」
天龍が思わず叫んだ。他の皆も驚きで声が出ないようだ。レ級は天龍の声でこちらに振り向いた。右腕が歪な姿になっているのが見えた。
「マダイタノカ」
「喋った!?」
祖のレ級は何と言葉を発した。レ級と対峙したことはあるが喋る個体に出会ったことはなかった。その歪な腕も相まってそのレ級の異様さに腰が引けた。しかしこのレ級を看過するわけにはいかない。十八人の艦娘に無傷で勝ったその戦闘能力に私たちが勝つことができるが分からないが、私たちは他の部隊とは違う。大本営の精鋭に直接鍛えてもらったのだから。
レ級はまっすぐ私たちの元まで飛んできた。突進しながら右腕を振りかぶり正面にいた天龍を狙った。天龍は持っていた刀で受け止める。受け止めたまましばらく力の押し付け合いが行われていたがレ級のほうが優勢だ。じりじりと後ろに押されている。そこに龍田がすかさず横から槍を突いた。レ級は後ろに飛びのいた。再びにらみ合いが始まった。私たちは単横陣に並びなおし、レ級と対峙した。