キングダム 銃痕伝   作:夕叢白

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第1話 難病の転生者

あぁ、お目覚めかな?ふふ、混乱しているね。

(いや)、当たり前か。死を実感した次の瞬間にはこの場に居たのだから、取り乱しもする。私かい?善くぞ聞いてくれた!

 

私は古き時代より死者の霊魂を管理している、謂わば天上への案内人。理解する必要はないよ。君と直接会うのは、これが最初で最後になるだろうからね。

 

む、御託はいいからさっさと本題に入れって顔をしているな君。あはは、ごめんごめん落ち着いて、別に怒ってる訳じゃないよ。ただ本題に入る前に三つ、受け入れてほしい事がある。

 

一つ目、君は完治不可の難病で衰弱死した。

 

二つ目、よって元いた地球には戻れない。

 

三つ目、君にはこれから転生してもらう。

 

おやおや、そんな簡単に受け入れちゃうんだ?どうして自分が選ばれたんだ〜とか、たかが案内人のお前に転生の権限があるのか〜とか、疑問に思わないの?

 

興味がない、か。考えなしなのか肝が据わっているのか。まぁ、気に入った。転生する世界に何か持っていきたい物はあるかい?僕から君へ、せめてもの餞別さ。何でも言って。

 

たいぶつ...ライフル?へカートつぅ...?ほうほう、成程、うんうん...えっ!ほ、本当にそんなので満足なのか!?そ、そうかい。分かった。何でも、と言ったのは私だし。

 

転生後、そのへカートを君に授けよう。特別に念じれば手元に現れる便利機能も付けてあげるから、感謝して敬ってよ?

 

さて、ちょっと長話が過ぎたね。君面白いし、本当はもっと話していたかったんだけど、残念、時間切れ。今から君を転生させる。

 

あ、一つ言い忘れてた。ヘカートは現代兵器、つまり運用には弾薬が必要だろう?そこで君の寿命を有効活用しようと思うんだ。

 

具体的には弾薬を必要としない代わり、一発撃つ毎に五年、君の寿命が縮む...要は等価交換って事。だ・か・ら、うっかり死なないようにちゃんと考えて使うんだよ?

 

 

 

それじゃ、元気でね。幸運で不幸な人の子。

 

 

 

 

 

 

 

ーーー紀元前二百六十年

 

中華にて秦国と趙国による長平の戦いに決着がつき、勝利した秦国の大将軍、白起(はくき)の手によって趙兵二十万人が生き埋めにされたその年、僕はこの世に生まれた。より厳密に言うのなら、前世の記憶を持ち、自我を確立した状態で赤子に転生していた。

 

言うまでもなく、最初の内は混乱の極みにあった。両親に話を聞こうにも、当時の僕にできたのは、ただおぎゃあおぎゃあと泣く事だけ。泣いて、漏らして、再び泣き喚いて、疲れたら寝る。なまじ思考力に問題がないだけ、精神的なダメージは大きかった。

 

数日間、赤子として両親におんぶに抱っこされ、家とも呼べない掘っ建て小屋の周囲を見て回った結果、分かったのは絶望的な事実だった。小屋の引き戸を開けて外へ出れば、視界いっぱいに広がる田圃(たんぼ)風景。

 

畦道(あぜみち)には牛車を引く見窄らしい服装の男性や薪を背負う腰の曲がった老人。背後に目を向けると、山々が連なる雄大な大自然が見て取れた。この世界の文明レベルを一言で表すのなら、弥生時代以外に最適な言葉はないだろう。

 

電気はない、ガスもない、水道だってない。文明の利器が何一つ存在しない時代に何故、自分が前世の記憶を持って生まれたのか?転生してから一週間後のその日、ついに僕は高熱を出した。両親は鬼気迫る勢いで治療方法を模索していたが、当時の僕にはそんな彼等の行動一つ一つが酷く滑稽に思え、心底どうでもよかった。それだけ現実を受け入れたくなかった。

 

三日間、高熱は続いた。症状は悪化する一方で治まる気配はない。五感の機能も著しく低下しており、このか弱い赤子の体が死に瀕しているのは明白だった。母は必死に授乳を行おうとし、父は握り拳を作りながら、悔しそうに顔を伏せている。緩やかだが、着実に全身から生気が失われていく。

 

その時になってやっと悟った。また呆気なく終わってしまう...と。死にたくない、最後の力を振り絞って今世の両親へ縋るような一瞥を向けると、赤子の僕はそのまま意識を暗闇に落とした。

 

 

 

「ね、熱が...引いてる...。」

 

「本当か!?」

 

 

 

結論から言う、二度目の死は訪れなかった。そして、無事に目覚めた僕は転生に関する事柄全てを思い出していた。どうやら前世の記憶を持って生まれたのは偶然ではなく、寧ろ必然だったらしい。死者の霊魂を管理している天上への案内人、物凄く胡散臭いとは思うが、僕はその存在に転生を言い渡され、この世界に生を受けたようだった。

 

考えるに例の高熱は記憶を思い出す過程での副次的効果ではないだろうか。正直な所、案内人との会話はあまり覚えていない。肝が据わっているだの何だのと評価されていた気もするが、今際の夢だと思い込んでいただけで、受け答えに至ってはかなり適当だった。真面目に返答していればと悔やまずにはいられない。

 

何より一番の問題は転生特典。異世界へ転生するなら、魔法の才や好きな漫画のキャラクターが使っている能力を選ぶ事こそ定石。本来であれば、僕もそうした。対物ライフル、へカートII。フランスのPGM社が開発した高威力の狙撃銃、衰弱死する一週間前に観たアニメの影響か、その現代兵器が一時の感情で僕が希望した、問題しかない転生特典だった。

 

文明レベル弥生時代の後進世界に対物ライフルのヘカートIIを特典に転生する。俗な言い方だが、正にチートだ。そんな転生特典の名に相応しい現代兵器の何が問題なのかって?まず第一に僕は銃の詳しい扱い方を一切存じ上げない。前世は人生の大半を病院の中で過ごしており、実物を見たり触ったり、ましてや学ぶ機会には恵まれなかった。第二に転生特典の制約。ヘカートIIを一発撃つ毎に寿命が五年縮む、案内人の言葉だ。とてもじゃないが、気安く使える代物ではない。そもそもの話、簡単に人を殺せる兵器を持ち歩きたくはなかった。

 

「あぅ。」

 

「おぉ...喋った、喋ったぞ!」

 

「ええ、ええ!本当に...奇跡だわ...。」

 

転生の原因は判明したものの、転生を強制された理由が解らない。その他にも案内人の正体や転生特典の取り扱い、今後の両親との関係にこの世界の生活様式等々、考えるべき事は山ほどあったが、結局僕が優先したのは目先の目標を定める事だった。

 

本を読んで妄想するしかなかったあの頃とは違う、目の前のチャンスを無駄にしたくない。この世界で生き、この世界で育ち、前世で成し得なかった人生経験を今世で積む。胸の奥に潜む不安と焦燥を掻き消すように、当時の僕は決心した。

 

あぅあうおうああ、あうぁーっ(逞しい男に、なるぞーっ)!」

 

 

 

 

 

 

 

ーーー紀元前二百五十七年

 

あれから四年、気付けば既に三歳。ハイハイからよちよち歩きに進化した今の僕は立派な幼女へと成長していた。

 

 

 

 

 

──────────え?

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