モンドのめんどい大人たち   作:チキンうまうま

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拗らせた片想いは如何にすべきか

 

 チェン・ベルナールとジン・グンヒルドは幼馴染である。付き合いの長さは幼少の頃よりもうかれこれ20年近くになるのだろうか。モンド屈指の名家の生まれである彼女と、しがない商人の子であるオレでは本来釣り合いは取れないのだろうが、我々はどうしてか知り合って以来友好な関係を築いていた。

 

 ただし幼馴染と言ってもそれは決して2人だけのものでは無い。ジンの妹であるバーバラや少し離れたところに住む盟友、ディルックとガイア義兄弟もオレには十分幼馴染の範疇に入るだろうし、うちの店に来ていた同年代の女の子も幼馴染と呼んでもいいだろう。どころかそれ以来、(ディルックを除けば)ほぼ全員が仕事柄会うことも多く、未だ交流が続いているというのだからそう考えるとなかなかに奇妙な縁である。

 

 その中でも我が後輩にして上司であるジンとの関わりはかなり深いものがあると思っている。

 

「…ジン、そろそろ休み。残りはオレがやっとくから。」

「だが、この件は代理団長である私がやらなければ…」

「何言っとんねや。ジンが臨時のトップやからこそ自分に倒れさせたらあかんねん。こういう誰でも出来る仕事とかは補佐のオレに任せとき。それとも、なんや?リサとバーバラ呼ばれたいんか?」

「……ああ、わかった。チェンの言う通りにしよう。」

「おん。そうしとき。」

 

 ジンとチェンは同じ職場─風と自由の国、『モンド』を統治する【西風騎士団】の所属であり、現在は2人揃って本部勤めである。加えてチェンはジンの補佐官であり、現在遠征に出ていて不在の団長に代わって騎士団をまとめる彼女の右腕となっていた。

 

「にしても休憩か…ならいい時間だし、そろそろ食事にでもしようか。」

「ん、メシ?ほんなら遠出して『エンジェルズシェア』でも行って()いや。あそこ最近昼間は酒やなくて普通にメシ出しとるらしいで。それもシャレオツな感じの。」

「エンジェルズシェアが?確かにそんな感じのことは聞いたことはあるが…流石に私が昼間から酒場に行くわけにはいかないだろう。」

「休憩中やし酒飲むわけやないんやからええやろ、別に。ガイアとか見てみ?あいつ必要なら仕事中でも行くで?」

「…まあ、ガイアだからな。それが彼のやり方といえばそうなんだが…。」

 

 書類を流し読みしながらジンの様子を軽く伺うと、彼女は額に手をやって軽くため息をついていた。あのオレと同じく異国の血を引く男の素行に頭を悩ませているのだろう、吐かれたため息に合わせてその美しい金色の髪がさらりと軽く揺れた。

 

「わかっとるならそれでええやん。あいつは変に型に嵌めるよりそっちの方が成果出すんやから、好きにさせときや。あいつは変なことはしても損害は出さん…ってちゃうんよ。そうや無いんよ。とりあえずジンはエンジェルズシェア行ってき?マジで。今日だけでもええから。」

「…今の話を聞いてどうして私がそれに頷くと思ったんだ?理由によっては…」

「今日あの店ディルックおんで。」

「せ、先輩が!?」

「おん。なんでかは知らんけど店頭に出るってこないだ言いよったわ。」

 

 ディルック。その名を聞いた途端にジンがワタワタと顔を赤くして慌て出す。その様子に先ほどまでの仕事人間、と言った雰囲気は無い。ただお互いに多忙でなかなか会えない意中の男に会えるかもしれない、と言う思いを溢れ出させる1人の年頃の娘がいるだけである。

 

「な、なら…ちょっと行ってみようか…」

「ん。好きにしたらええ。それと、もしこのことでなんか言われたらオレがええ感じに言い訳しとくから安心しとき。まあジンは普段クソ真面目なんやしなんも言われんと思うけどな。」

「そ、そうか…。なら、その、行ってくる。服装とか、変じゃ無いよな?」

「なんも変やないよ、いつも通り別嬪さんや。わかったら後のことはええから行ってき。残りの仕事適当にやっとくから。」

「ああ。頼んだぞ。…ありがとう、チェン。」

 

 そう言い残してジンが部屋を出ていく。そして執務室のドアが閉まると同時に、パタパタと小走りで彼女が去っていく音が聞こえた。どうやら逸る気持ちを抑えきれないらしい。普段年齢以上に色々背負い込んでいる彼女にはこんな時間も必要だろう。そう言い聞かせてチェンはペンを持ち直し─

 

「…オレにはあんな顔せえへんもんなあ…。」

 

たかと思うとすぐに力なく机に倒れ込んだ。その全身からは哀愁が漂っている。

 

「…あー…とっととオレも諦めればええんやろけどな…。ズルズル引きずっとるあたりがあかんのよな絶対…。」

 

 思い起こされるのは先程ジンの見せた表情。いや、それだけでは無い。普段から見ている凛とした姿が、皆の先頭に立って戦うそのあり方が、時折見せる笑顔が、チェンの脳裏に浮かんでいた。

 

「…ディルックもなあ。とっととジンとくっつきゃええのに。せやったらオレも諦めれるっちゅうの…。無駄に最後まで行きつかんからオレも無駄に希望持ってまうんよ。」

 

 ジンはチェンの盟友であるディルックに片想いをしている。いや、ディルックもジンのことを好いているのだろうから正しくには両片思いなのだろうが、色々なしがらみから2人はくっついていない。それも何年も前からこの調子をキープしている状態である。そんな大切な友人2人のことを祝福したい、と言う思いとはまた別の思いがチェンにはあった。

 

「…いっそオレがバッサリフラれたらそれでケリはつくか…?」

 

 出来もしないことがボロボロと口からこぼれ落ちてくる。それができたらこんな面倒くさい事態にはなっていない。自分で言っておきながら、即座に彼は自分自身の発言を鼻で笑った。

 

「…めんどくさいなあ、オレ。」

 

 友人たちの恋路がうまく行くように願いながら、それを嫌だと思っている自分もいる。

 

 チェン・ベルナールはジン・グンヒルドに恋をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

「入るわよ…って、また何かあったの?」

「ん?ああ、エウルアか。どない?」

 

 滂沱の涙共にチェンが書類を処理していたとき、上品なノックの音と共に1人の空色の髪の女性が部屋へと入ってきた。エウルア、と呼ばれた彼女の手には書類の束。どうやら報告書の提出に来たらしい。

 

「ただの報告書の提出よ。それとも何?罪人の顔なんて見たくないって言うの?」

「まさか。今は誰でもええから話し合い相手が欲しかったところや。」

「誰でもいいなんて酷い扱いね。恨むわよ?」

「恨むんはやめてーや…。今のオレには心にくるから…。」

 

 「恨む」。それがエウルアの口癖だとは知っていても、今のボロボロである彼の心にはよく突き刺さった。そんな様子を察したのか、エウルアがため息混じりにチェンの顔を覗き込んでくる。覗き込まれて、エウルアの琥珀の瞳とチェンの翡翠の瞳がぶつかり合った。

 

()()グンヒルド家の娘?」

「…また、とか言うなや。傷つくやろ。」

 

 チェンの実ることのない片想いは、彼の幼馴染の1人であるエウルアにはとうに知られている。これだから幼馴染というのはやり難いのだ、そう思いながらチェンは苦々しげな顔をして答えた。

 

「また、でしょ。これで何回目?」

「知らん。数えるんもアホらしいわ。」

「そう。…諦めて他の人探せば?貴方ならすぐ見つかると思うけど。」

「…早よ諦めれたらそれでええんやけどなあ、そううまく行けばここまで悩んどらんわ。」

「…そうよね。だけど、覚えておきなさい。」

 

 グイ、と報告書の束をチェンに押し付けてエウルアは踵を返した。ドアを開け、ノブに手をかけたままで口を開く彼女の顔は窺えない。

 

「…貴方が悩んでいると、それが気になって仕方のない人もいるの。だから、早く切り替えなさい。…それだけよ。」

「ん。了解。…てか、それはエウルアもか?」

「…何変なこと言っているの?恨むわよ?」

 

 小さく笑うチェンにそう言い残して、パタリと扉は閉められた。それを見送ったチェンもまた、気持ちを切り替えてその手に持った書類の処理へと移るのだった。

 

 

 

 

 

 

「…本当に、恨んでやろうかしら。」

 

 コツ、コツと騎士団本部の廊下に足跡を響かせながらエウルアは独り言をこぼした。そんな彼女の様子は(彼女の普段を知るのならば)荒れていることがわかっただろう。

 

「よりによって、私の前であのグンヒルド家の娘の話ばかり…」

 

 わかっている。彼は自分に会う前から彼女のことを想っていることなど。自分は彼にとって友人止まりであることなど。エウルアはとうの昔に知っていた。

 

「…私に、しておけばいいのに。」

 

 そう言ってエウルアは自虐的な笑みを浮かべた。こんな罪人の血筋である自分が、彼と共にいて良いわけがない。内心でそう思っているのに、それでも心の隅で彼の隣を歩きたいと。そう思っている少女じみた自分がいた。

 

 チェンがジンに叶わない想いを持っているように。エウルアもまた、チェンに密かな想いを抱いていた。




チェン・ベルナール
 璃月人の母とモンド人の父の間のハーフの男性。現在の役職は西風騎士団代理団長補佐。

ジン
 金髪碧眼女騎士。かわいい。美人。

ディルック
 高身長イケメンクソ強お兄さん。弊ワットの炎担当だが最近ポジションを宵宮に奪われつつある。

エウルア
 こんな細くて美人なお姉さんが大剣を振り回すとか最高ですわよ。全ては物理が解決する。
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