リコリコ×拓銀令嬢 ~実弾は日本を変える~   作:フェデラルジオグラフィック

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巷もすなる「くろすおーばー」というものを己もしてみむとするなり


はじまり お嬢様、DAを知る
「信頼できる」お店


 

 

Side 桂華院瑠奈

 

 

 

 この世に生まれて15年と経っていないのに、やれ公爵令嬢だの天才トレーダーだのフィクサーだの女王だの芸人だの色々な肩書を(周りの言いたい放題に)つけられている。そのほぼ全てに心当たりというか所以というかがあるのが腹立たしい。

 

 そんな私にだってプライベートってもんがある。

 

「芸人と政治家は『自分自身』が価値だからプライベートなんてものはあきらめたほうがいいよ」

 

 お?裕次郎君、貴様が挑発するのは珍しいな?戦争するなら受けて立つぞ?お?

 

「やめておけ。こいつ相手に言葉でやりあうのはいくら瑠奈でも分が悪い」

 

「…」

 

 私をやや投げやりに諫める栄一君と無言で頷く光也君。この二人の言うことももっともなのでここは引き下がろう。この四人がTIGでも生徒会でもなく完全なプライベートで集まれる機会もほとんどなくなってしまったのだから。もっとも主な理由は私の都合がつかなくなったからだけど。

 

 今回はプライベートな集まりである。ゆえに場所はどっかの会議室でも誰かの邸宅でもなく、この会合のために貸し切った()()()の中である。ただ私の()()と違うのはこの喫茶店は二階建て構造になっていて、一階が畳のある座敷席になっているということ。店員が着物を着ていること。メニューの主力に和菓子や抹茶が入っていること(最初に来た時に無理を言ってグレープジュースをメニューに入れてもらった)。名前が『喫茶リコリコ』となっていること。おかしいな、『アヴァンティー』は完全な一階建て、内装も店員もメニューも洋風である喫茶店のはずだったんだけど…。ただ橘が言うには「ここが最も安全な喫茶店でございます」とのことなので割と最初の方からこういった集まりに使っている。使わされているといったほうが正しいかもしれないが。

 

 リコリコには店員が五人いて、マスターを除けば後は女性。うち三人ほど私と同じくらいかやや下の少女である。もともとは三人だったが最近青服のたきなと黄色服のクルミという新顔が増えた。

 

 マスターのミカは黒人の男性。流暢な日本語をはじめ複数の言語を使いこなすおおらかな店長。1991年にアメリカ陸軍の士官として湾岸戦争に従軍した際に負傷して除隊、その傷がもとで左足を杖でかばっている。除隊後は陸軍時代に一時配属された日本での経験を気に入り色々とあって東京で喫茶店を始めたのだという。(色々についてはごまかされてしまった)なお戦闘兵科出身のためか喫茶店の経営ついて初めから試行錯誤を繰り返していたので、見かねた私が経営のイロハについて色々と気を利かせてあげたこともある。千束からは「先生」と呼ばれている。なぜかと聞いたら千束に()()()を教えたからだそうだ。

 

 中原ミズキという女性はミカの個人的な伝手でこの喫茶店を手伝っているとのこと。結婚願望が非常に強いもののそれが空回りしている様子。まあそのことを客がいない時間帯に店の中で愚痴りながら酒を飲んでるんじゃあねえ。ガサツなところは見受けられるものの経営的な業務についてはマスターよりも適性があるようで、店の金庫番的なポジションを長年務めていた。最近新入りに代わったらしいが。まあ昼間から酒飲んでるやつに帳簿を任せていたのは半ば消去法的な人選だからむべなるかな。

 

 錦木千束、赤い着物の看板娘。最初に訪れたときから店員として働いていたから、私達と一緒に歳を取ったようなもの。彼女のほうが三つ年上だが。初等部の修学旅行の前後ぐらいの頃に、昼間は大抵喫茶店の仕事をしている彼女に学校はどうしているのか?と聞いてみたら定時制の学校に通っているとのこと。幼いころに両親を亡くし、親の知り合いの黒人の店長に拾われ、喫茶店の仕事を手伝って学費の足しにしているのだとか。彼女を見ていると没落しかかったが華族の家に生まれた私の立場を実感する。

 

 井ノ上たきなは最近入ってきた新人。千束と同じ学校らしいので定時制ということになる。制服はデザインこそ千束と同じだが青色。働いている理由は千束と似たり寄ったり。ただし千束より一歳年下。何事もそつなくこなし金庫番の役をミズキから奪い取ったようだ。ただ少しばかり一般常識に疎いというか、天然のような言動が見受けられ、千束やミズキが慌ててフォローしているところを見たことがある。

 

 クルミ(上の名前はわからない)はミカのクウェートの時に一緒だった戦友の娘で、親の都合で一時的に預かっているとのこと。親の遺伝か金髪碧眼で黄色い着物がよく似合う。まだ小さいのでよほど忙しい時でない限りは店の仕事を振らないらしい。それでも出自ゆえに日本語と英語が堪能なようでカルテットの間で割と()()()な話を英語でやり取りしていた時に「I can hear you.(聞こえているぞ)」と言ってきたこともある。加えてコンピュータが趣味らしくここに来たときに大型のコンピュータを複数持ちこんだため一同に驚かれたとか。ちなみに実機は拝んでいない。詳しい年齢は聞いていないが、あの若さでバイリンガル、しかもワークステーション複数を使いこすので15か16になり次第TIGの要員として直々に雇いたいなあと考えている。

 

 傍目から見ればいわゆる家族経営の喫茶店が縁故で従業員を雇っている構図である。しかしそう考えるには不自然な点が多い気がする。

 

 まず家族経営の店に見えて実際は従業員間に家族とみなせる関係性がほとんどない。ミカと千束は孤児とその保護者という立場であるから一種の家族とみなせるが、ミズキとクルミはミカの伝手で入っただけの他人で、たきなは千束と似た境遇なだけ。実情としては店長一人が預かった子供一人を世話しながら三人従業員を抱えていると言ったほうが実態に近い。

 

 その従業員についてもつじつまの合わない所がある。特に千束は「喫茶店で働いて学費の足しにしている」という割にはやたら羽振りがいい。アパートもそこそこいいところに住んでいる様子。たきなとミズキは千束に比べればまだ質素な生活をしているようだが、住居が明らかに親のない子供や女性が一人で家賃を支えられるようなアパートではないという点は千束と共通である。試しに三人のアパートの登記簿を取ってみたら、一応貸主たるアパートの権利者は実態のある日本の法人のようだ。ただし三人とも同じ法人からアパートを借りている。これ以上は手間がかかるので詮索はしなかったが彼女たち自身もなかなかに胡散臭い立場なのは確かである。

 

 立場と言えば錦木千束と井ノ上たきなについては立ち振る舞いも普通の少女のそれではない。特に非常に勘が鋭く雇った探偵の尾行を容易に見破って振り切ってしまう。おかげでこちらは二人の住処を調べるために最終兵器(蛍ちゃん)を使う羽目になった。ついでに言えば着物を着ていてわかりづらいが二人ともかなり筋肉質で体格がいい。あの体つきは神奈水樹や明日香ちゃんのそれではなく、私や鑑子さんに近い。勘の鋭さも考慮すると何かしらの武術の類を修めているとみて間違いない。

 

 また経営面についてもよくわからない点が多い。従業員四名を抱えて東京都内のまあまあ悪くない立地に喫茶店を構えるのは並大抵ではない費用が掛かる。一度喫茶店の客の入りを部下に調べさせたがそれなりに賑わっているという程度。この喫茶店実は赤字なんじゃないのかと割と直球で店長に聞いたときにはあっさりと認めた。聞けばかつての橘のようにある程度別口の収入がありそれで補填している状態なのだという。それを聞いた私は一度資金繰りについて相談しようと提案したのだが拒否され、代わりに経営のテクニック面を教えるにとどまった経緯がある。

 

 こんなに怪しい点がてんこ盛りの店が「最も安全」とはこれいかに。…まさかとは思うけど私を含めた『カルテット』の身の安全のためだけに桂華院家がでっちあげた店とかじゃないでしょうね?

 

 

 

「瑠奈、大丈夫か?ずっとどこか遠い目をしていたようだが」

 

 おおっと、いかんいかん。せっかくの集まりなのに一人考え事をしてしまっていた。えーと今の話題は何かしら?

 

「もう時間だから帰るところだよ。桂華院さん」

 

 ああ、せっかくのプライベートの集まりなのになんてもったいないことを。

 

「どうせ学校でいやでも顔を合わせるだろ」

 

「栄一君、そういう意味じゃないんだよ…桂華院さん、例の地下都市の完成式典のすぐあとだから、それほど間が空くことがないのは幸いだったね」

 

 次に会う時は栄一君と開戦の準備をしておこう。そう心に決めて喫茶店を出ることにする。完成式典の後が楽しみだ。

 

 

 

 




初のクロスオーバーもの、かつ見切り発車なので至らない点が多いかと思いますが、よろしくお願いします。



追記

分かりにくいので申し訳ありませんが「喫茶リコリコはDAの支部である」という点はこの作品でも健在です。

ミカや千束の出自等の言及については「お客さんへのカバーストーリー」になります。

次回「新宿ジオフロント完成式典…の裏側」
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