リコリコ×拓銀令嬢 ~実弾は日本を変える~ 作:フェデラルジオグラフィック
二日市先生のご紹介によるバブルも落ち着いてきました。ありがたや。
あとツイッターで『生臭い』って形容されてました。
公爵令嬢の現地指導
「お嬢様、わたくしはこのような役回りをするためにご学友となった覚えはないのですが」
「本当にごめんなさい。今日はどうしても代理を立てなければならないの」
九段下の私の邸宅の更衣室にて、目の前で明確に不服の意思を表す久春内さんに頭を下げる。ただし彼女の容姿は私に似せている。そして私は久春内さんの容姿を取っている。要するに久春内さんに私の影武者を今日一日やってもらうのである。一応今日は完全にオフとし、誰にも会うことはないから影武者はただそこにいるだけでいい。その間に私は『久春内七海として』車種と内装を北樺警備保障のそれと合わせたDAの車に乗って九段下を出発し、東京を管轄するDAの支部のひとつに足を運んで視察を行う。この日を用立てするためにアンジェラ、カリン、橘にはそれはもう骨を折ってもらった。
「お嬢様、大丈夫でしょうか?今回我々桂華の人間は一切同行が許されておりませんが…」
「ごめんなさい佳子さん。今回ばかりはどうしようもないの」
自室で佳子さんに平謝りする。本来護衛は複数の出自の人間で組むのが基本だからだ。実際私は一度護衛と二人きりになったせいで誘拐されたことがあるから、『護衛は相手方の要員だけ』という状態は使用人の長としても許容できるはずがない。ただ今回に限ってはやむを得ないので私の強権と橘の圧力で押し切った。DAと言う組織の秘密は何よりも(関わる自分の身の安全を担保する意味で)優先されるのだから。
「…で、その引率に行きつけの喫茶店の店員が当てられているのはどういう冗談かしら?」
あちこちに頭を下げてようやく乗り込んだDAの車にいたのは、学生服を着た喫茶店の店員だった。
「よっくぞ聞いてくれましたぁー!」
「時間が押しているのとここはまだ桂華の施設内ですので速やかに出発しますよ。ミズキさん出してください」
「あいあい。千束ー、舌噛むなよー」
そういう割には非常に滑らかに車を発進させる中原ミズキ。その手つきから察するに自動車の運転スキルはかなり高いとみて間違いない。
九段下の地下駐車場から出て東京の道を進む。天気は雨こそ降っていないが雲がかかっている。今日は東日本全域が曇りないし雨とのこと。車が首都高速に乗ったあたりで私は切り出す。
「つまるところあなた達が『リコリス』という訳ね。しかも私の護衛に当てられているということはかなりの手練れでもある」
「あう、せっかく私から自慢したかったのに…」
「あたしはリコリスじゃないわよ、ただのドライバー。DAなのは否定しないけどね」
「それと前後を挟んでいるのはDAのお仲間?」
「その通りです。このままわたしたちはお嬢様をDAの東京支部へお連れいたしますが、留意点が一つ」
「なにかしら?」
「桂華院家はDAの庇護者ですが、桂華院瑠奈嬢はまだ厳密には庇護者ではございません。DA施設の場所を開示することはできませんので、途中からお嬢様には目隠しをしていただきます」
井ノ上たきなの忠告を聞いて、秘密組織ってのは思った以上に徹底してるなあと一周回って感心する。今日という日をDAが指定してきたのも、東京周辺が軒並み曇りまたは雨なので太陽の角度からこれから行く先の場所を類推できないようにするためだろう。要するに私はまだDAから信頼されていないということである。そのままにするにせよ何かしら手を付けるにせよ、私に対する不信感だけは何とかしておかないとまずそうだと頭の中にいれておく。
車列はお堀端の環状線から外れ、渋谷、三軒茶屋と東京の中心地から外延部に向けて走り続ける。首都高速の終わりを示す料金所を過ぎたあたりで目隠しをされた。要するに東京支部は東京都心にはない、という情報しか私に与えるつもりはないらしい。私は抗議の意味を込めて目隠しを外されるまで余計な口を利かないことに決める。
どれぐらい走ったか正確にはわからないが、九段下から体感で三時間ほど走ったところで目隠しを外される。外から開けられた車のドアから外に出てみれば、目の前にはきれいに整えられた建物。想定される人員規模に比べて小ぶりなことから考えておそらく半地下式の施設の入り口だろう。いかに秘密組織とはいえ、国税局から逃れる方法は限られているからだ。*1
「ようこそDA東京支部へ、桂華院瑠奈嬢。私はこの施設の責任者を務めている楠木と申します」
特徴的な赤髪を短くそろえたややお年を召した女性がスーツ姿で挨拶する。周囲に侍る少女たちは錦木千束や井ノ上たきなと同年代に見え、また制服のデザインが同じことから考えて彼女達もまた『リコリス』であることは疑いようもない。
「本日はDAの組織につきまして応接室にて簡単な概要を説明させていただいたあと、本支部のリコリスと簡単ながら顔合わせの場を設けられればと思います。それではこちらへ」
そう言われて案内されるままに施設に入る。そこにあったのは空港にあるようなセキュリティゲート。
「この施設に入る際はこちらで身体検査を受けていただきます。基準は空港に準じますが、追加で筆記具並びに映像及び音声の記録機器の類も持ち込みが禁止されております。これは規則ですのでご了承のほどお願いいたします」
そう言われて係員の指示に従って手荷物を預けゲートをくぐる。錦木千束や井ノ上たきなも同様に扱われていることから外部から来た人間は一律にこの手続きをうけていることになる。楠木司令とその周りにいたリコリス達が手続きを受けていないのは出迎えのために外に出ていただけだからだろう。
応接室に通されて出されたグレープジュースを飲みながらDAについての概要を聞く。内容は後田さんに聞いたそれとあまりかけ離れたものではない。しいて言うならば後田さんが完全に政界から身を引き私が生まれた90年代あたりからの話が追加された程度だろうか。予想はしていたが911や成田、新宿の時にもリコリスとリリベルは出動しており911では地方都市にてテロのいくつかを未然に阻止することに成功したらしい。DAの組織の性質上彼女の言うことの裏が取れないので話半分に聞いておくが、それでもこの国の治安を裏から支える組織としてそれなりの能力を持っていることは確かなようである。その手段が完全に黒であることに目をつぶればだが。
「あなたたちについてはよくわかったわ。先にはっきりと言っておくけど、私はDAについて誰かに話したりするつもりもないし、当面の間は貴方たちに何かを指示したりするつもりはない。これまで通り日本の治安を陰から守っていただければそれで充分。ただ、まあ『ご挨拶』はさせていただくわ。ドル、円、トラベラーズ・チェック、どれがいいかしら?」
そう言って私は机に置かれているメモ用紙に金額を書き込み楠木司令に提示する。彼女自身に決裁権はないはずから、この数値をそのまま上に投げるだけだろう。私が取引として提示できる条件としては良くも悪くもカネしかないのもまた事実であり、そのことをDAが見透かしているであろうことは容易に想像できる。だったら先にこちらから切り出してしまったほうがいいという判断である。ただし金額は全力の一割にも満たない値を提示する。それでも米ドルで十万をポンと提示するあたり、成金になったなあと改めて実感する。これで何度目かと聞かれれば、パンの枚数と一緒だと答える。
「私の隠し口座から出すのとDAの組織の体裁を守る都合上、現金でドンとはいかないからかなり回りくどい方法を取ることになるけれど、即座に用意できるのはこれだけってところ」
「我々を『買収』するおつもりですか?」
「DAってのはこれっぽっちで買収できるほどお手頃な組織なのかしら?」
「DAを舐めないでいただきたい。我々は確かに秘密であるがゆえに動きにくい組織だが窮しているわけではない」
「でしょうね。こちらも買収する気はさらさらないわ。これはあくまでDAの組織の一部を開示してくれた『情報料』よ」
「『情報料』…ですか。わかりました、それでしたらありがたく受け取りましょう」
現金というものは渡し方が難しい。足がつかないようにするという意味だけではなく心理的な意味においてでも。ただただ渡すだけでは相手に罪悪感を与えてしまうことが圧倒的に多いからだ。なので渡すときには『くれてやる』という気持ちで渡すのはご法度である。「どうぞお受け取りください」という言い回しが生まれることがあるのはこのためである。ただし今回の私は「DAの情報をこの金で買う」という体裁をとることでこの点を繕いつつ、少しでも情報を引き出すための梃子の役割も担わせている。
こちらが提示した金額を吟味する仕草をしばらく続けてから楠木司令は私に向き直る。
「『情報料』の受け取りに関しましては一度経理部門と相談させていただきます。結果につきましては喫茶リコリコを経由して伝えることになるでしょう。それではこちらも料金に見合った商品をご提供させていただきます。リコリスとの顔合わせの代わりに東京支部の設備についてご紹介させていただきましょう」
目隠しされた時点で察していたが、やはりDAは私に最低限の情報しか渡すつもりがないらしい。少しばかりの金で一支部の設備という桂華院家の令嬢にとって重要であるか即座には判断しづらい『情報』を提示してくるあたり、この女性も一筋縄ではいかない人間であることがうかがえる。それでも私は楠木司令の申し出を受けることにする。相手が「出す」と言っているモノを無下に断るほど私も愚かではないし、今この瞬間はDAにその身を預けている以上下手な詮索や反発をしないことが文字通り身のためだからだ。
楠木司令に先導され、錦木千束をはじめとしたリコリス数名を引き連れてDA東京支部を回る。ついてくるリコリスは錦木千束や井ノ上たきなと同じ赤か青の制服を着ていることから彼女達もまた手練れなのだろう。赤服が少ないということは赤服がより上位とみていいだろう。ざっと見る限りこの施設にいる「リコリス」は赤色、青色、白色、灰色の四種類。赤色と青色は供回りを含めても数が限られ、目算でも白色と灰色が半数以上を占める。白色は見たところ私と同じぐらいの年頃で、灰色はそれよりも若く明らかに十歳未満が含まれているところから見ると、おそらく白色が数的な主力で灰色は「見習い」といったところだろうか。赤色と青色はそれぞれ「指揮官」ないし「選抜兵」と思われる。どちらがどちらかは分からないが。
首都の守りを司るだけあって、東京支部の設備は非常に良好なように見受けられる。清潔な宿泊施設(二人部屋であることから考えてリコリスの最低戦闘単位は二名なのだろう)、元宮内省*2の人間が料理長を務める食堂、任務で負傷した要員を治療する医療施設、リコリス達が身体を鍛えるためのトレーニング施設。どれも十分な広さを持っており将来的な拡張もある程度考慮したつくりとなっている。半地下式の施設であるとはいえ東京から車で数時間の地域のどこにこれだけの敷地を用意できたのかと感心する。あれ?そういえば…
「リコリス達は部隊としてそれ相応の待遇を与えられているようだけど、訓練はどうしているの?まさかテロリスト相手に徒手空拳というわけにもいかないでしょう?」
どれだけ鍛えてもリコリスは根本的に私と同じ十代の少女だ。暴力を是とする荒くれ者どもと真正面から無手で殴り合って勝てる見込みなどあるはずがない。最低でもナイフや棒といった武器の類に長けている必要があるはずだ。これまで見た施設の中には肉体を鍛える設備はあっても武器を扱うそれはなかった。
「DAの支部の視察と言うからにはそういった設備は見せていただけないのかしら?」
「…承知いたしました。こちらです」
案内しようとする楠木司令の声色には渋々という色がわずかににじみ出ていた。
さてリコリスの武器はなんだろうか?色気という訳ではあるまい。
題名の元ネタはツイッタラーのエターナル総書記氏
次回「お嬢様 VS リコリス」