リコリコ×拓銀令嬢 ~実弾は日本を変える~ 作:フェデラルジオグラフィック
それと投稿に少し間が空きました。
違うんや、もう少しあっさり目に済まそうと思ったら文章量が想定の二倍になったんじゃ。
決してBDとヒロインアーカイブに脳を焼かれたわけではないんじゃ。
Side 桂華院瑠奈
更衣室でその場で借りたリコリスの制服を脱ぐ。撃たれた左の腰を見てみると痣になっている。
模擬戦前にたきなから伝えられてはいたが、ペイント弾はよっぽど悪いところ(例えば頸椎)に至近距離から直撃しない限り後遺症や死亡のリスクはほとんどないそうだが、まともに食らうと痣が数日残るシロモノらしい。
この傷を直接見てみると、改めて悔しさがこみあげてくる。「決闘」で手加減をされた挙句、全く手も足も出なかったのだから。
チクショウ、いつか見返してやる。
とはいえ、直近でどうしようもない話である。
ここんところ最近、側近はメイドも含めて私には『逃げ方』しか教えてくれなくなった。『戦い方』は成田空港の一件から、『隠れ方』は蛍ちゃんに教えを乞うた辺りからぱったりと打ちきられたのである。マトモに練習させてもらえるのは剣道や弓道など道具が無ければ使えない武術ばかり。
それからは本やビデオなどから我流で覚えようとするのだが、最近は『検閲』が入っているらしく個人で買ったもののうちのいくつかが届かなくなっている有様。
こんな状況下で「私暗殺者に対抗するために鍛えたいの!」なんてわがままを言おうものなら今度こそ九段下…いや白金の本家に軟禁されるに決まっている。
教えがうまいかは二の次として、どこかにあのリコリス部隊に対抗できる技術を持った秘密を守れる人間がいないものかしら。
そんなことを考えながら、顔と服を久春内七海の変装に整え直す。DAのメイク班は九段下には敵わないもののそれなりに腕は立つようだ。
中原ミズキの運転でDAの敷地を出る。私は行きと同じく目隠しをされて千束とたきなの間に座らされる。
骨盤の左側がまだじくじくと痛む。今考えれば骨盤の脇を狙ったのは対戦相手なりの温情なのだろう。ここの痣ならしばらくスポーツ下着をつけることでごまかせるからだ。目にもとまらぬ速さで死角から接近してきたのはわたしに対応の暇を与えることなく狙ったところに銃弾を叩きこむためだろう。
停車と発進を何度か繰り返し、ある時点から車が一時停止することがほとんどなくなり速度も速くなる。高速道路に入ったのだろう。それを見計らって私は二人に話を切り出す。
「あれだけの設備を整えて、私を圧倒する練度を持つ工作員がいれば日本の平和は安泰でしょうね」
と鼠径部をさすりながら言ってみる。
「まー、DAで指折りのベテラン相手に簡単には勝てないだろうなあ」
右側から錦木千束が思い出すような口ぶりでわたしに言ってくる。今つけている目隠しの上からでは相手の表情はわからないが、遠い目をしているだろうことは想像がつく。
「楠木司令はあなた達リコリスが日本の治安を守っているって言ってたわね。あなた達もそうなのでしょう?」
私の質問に左側から声が帰ってくる。
「はい、その通りです。我々リコリスは日本の治安を裏から支えるのが使命ですので」
「おかげで死んでるリコリスもたくさんいるんだけどね」
「千束!」
「まあ当たり前でしょうね。テロリスト相手に銃だけを頼みに挑むんだもの」
普通に考えればそうだろう。リコリスはどれだけ訓練しても(そして目にもとまらぬ速度で動けるようになっていたとしても)根本的には未成年の少年兵である。荒くれ者の大人に組み付かれれば圧倒されるし、若い女性ならば…
「荒くれ者共と対峙したことがあるのはあなたちだけではないってことよ。私だってマフィアに尾行されたりテロリストに襲われたり、小さいころには誘拐されかけたこともある。だから安全のためにボディーガードに固められてるし彼女たちに護身術の稽古をつけてもらってる。私に侍るのはボディガードの中でもかなりの手練れよ。『樺太の子供達』って知ってる?」
「わたしは知らないですね」
「私も~」
「ああ、北日本のリコリスみたいなやつ?国ごと解体された後はアンタが雇ってたのね」
「流石冷戦を知ってる世代は違うねえ」
「喧嘩売ってんのかコラァ」
店にいるときも思うことだが、滑らかに進む掛け合いを見るにリコリコのメンバーはかなりお互いを理解し信用しあっているようだ。まあ年単位でリコリスとして共に死線を潜りぬけてきた境遇は同じだろうから当然か。
「そういえば、あなたたちもその制服を着ているということはリコリスなんでしょ?目隠しされて景色も楽しめないことだし、せめて武勇伝で楽しませてもらってもいいんじゃない?」
「おお、お嬢様も興味ある?それなら―――」
「リコリスの守秘義務は絶対です。たとえ桂華院彦摩呂翁であったとしても、リコリスが自らが参加した個々の事案についてDA直属の人間以外に開示することは許されません」
「「いけずー」」
「どうして二人で声が重なるんですか…」
「根っこでは二人とも似た者同士なんでしょ」
「「なんだとう…あっ」」
「ほらね」
まあなんというか、うん。中原ミズキの言うことももっともだと思う。多少の障害は自分で飛び越えるだけの圧倒的な能力を身に着けているところとか、自分のやりたいことのために周囲の迷惑を二の次に行動しようとするところとか、自分の理想と安全を天秤にかけたときに特段の事情が無ければ即座に理想に振れてしまうところとか。
「いいじゃーん、どうせバレないって。この車につまらない細工なんてないことはクルミが保証してるんだしぃ」
…ん?クルミってあの黄色い小さい子?少しリコリコについて思いをはせてみる。メンバーはミカ、中原ミズキ、錦木千束、井ノ上たきな、クルミ。
錦木千束と井ノ上たきながリコリスの服を着て活動している。つまりあの店はDAのフロントではなく先に案内された支部のような作戦施設だと考えるのが妥当だろう。
ミカが責任者とすると、中原ミズキは運転手(その割には酒におぼれ過ぎているような気もするが)。ではクルミの役割は?
もう少し深く考えよう。彼女の特技は何だったろうか?時折皿を割っていることをたきなとミズキが話していたことを考えると実働は無理。……そういえば彼女はワークステーションを使いこなしていると言ってたな。そして今の千束の発言を踏まえると……。
「もしかして、クルミってあの歳でハッカー?」
「大正解ー、なかなかいい勘してるんじゃない?」
「千束!それはクルミ個人の秘密のはずです!」
「……ん?クルミはハッキングが得意なリコリスじゃないの?」
「……あっ。えーと、それは…」
私の問いに明らかにたきなは狼狽している。顔が見えなくても声で分かる。この様子から察するにクルミの身の上はかなり複雑そうだ。少なくとも
私の身の上で例えれば、私が個人で野月美咲を抱えていて、それを側近やメイドに伝えていない、という状況。これはかなりややこしい話になりそうだぞ。
「DA本体もそうであるようにあなたたちにも何か秘密があるようね。まあいいわ、私だって秘密にしたいことの一つや二つあるのだからそこは深く言わないでおきましょう。その代わり…そうね、『あなたたち個人の身の上話』を話して頂戴。個々の事案じゃなければ開示できるんじゃない?」
「あー、そう来たかぁ。たきな、これなら言ってもいいんじゃない?」
「あ…、わたし達リコリスには守秘義務が…」
「帰ったら本家経由で楠木司令にお手紙書こうかしら」
「分かりました。
聞き分けがよくて何よりだ。
「じゃあお話を始めましょうか。あなた達はどこでいつからリコリスとして実戦に出たのかした?」
「わたしは1998年からでしたね。京都所属でしたが初出動は長野への応援でした。最近東京へ転属して…まあ、色々とあって」
「私は1995年からずーっと東京。初出動で死にかけたんだよねえ。記憶はほとんどないけど」
「えっ?千束も死にかけたことがあるんですか?」
「人を不死のバケモンみたいに言うなバカタレ」
「バケモンですよね?」
「ちゃうわ!れっきとした人間じゃい!」
この二人私が間にいることを忘れて大声で話し始めてやがる。
それは置いておいて二人の話を踏まえるとリコリスは小学生相当から暗殺者として活動を開始しているのか。10歳前後で暗殺者として活動できる状態まで持っていけるDAの教育体制は極端なまでに特化しているが施設と同じように洗練されているとみて間違いない。
時系列を整理すると、錦木千束の活動開始が1995年。同じころ私はまだ田園調布の屋敷に住んでいて…時任亜紀さんの学費をウチから出せないことが分かって奔走し始める時期だ。懐かしいなあ。そのため私が五億円を転がし始めた時期と錦木千束が犯罪者を殺し始めた時期は一緒ってことになる。
その後リコリコでカルテットメンバーが集まり始めるのは小学二年生あたりだったから、私個人だと五億から膨らませた数百億円を元手として1997年から極東グループを立て直し、北海道開拓銀行やら一山証券やらエトセトラエトセトラやってた頃。
次いで井ノ上たきながリコリスになって活躍しはじめるのと、私が泉川副総裁をでっち上げ、アンジェラが『アメリカ』として私の前に最初にやってきたのが1998年である。
同じ世代のはずなのに、生まれが変わるだけでここまで極端な差が生まれるのかと嘆きたくなる。
私の前世もろくなものではなかったが、少なくとも孤児を国民の盾にするような倫理観のぶっ壊れた国家ではなかったことは確かだ。単純に前世では知らされなかっただけのような気もしなくもないが。
もし生まれが違えば。もし違う世界で会えたなら。
転生した私が言うのもおこがましい話ではあるが、彼女たちを見るとそう思わざるを得ない。彼女たちを救うためにDAやリコリスは解体するべきなのだろうか?
リコリコで働く店員たちの顔を思い浮かべてみる。彼女たちは人生を楽しもうとする表情をしていた。いつ終わるとも知れないということを知ったうえで。
DA本部で戦ったリコリスの顔を思い浮かべてみる。彼女の眼は自らの職務や使命に誇りを持っていた。それが唯一無二であると当たり前のように信じている。
DAやリコリスを解体することは日本を「理想の姿」に変えることはできるかもしれない。
しかしリコリスで無くなった彼女達は本当に幸せになれるのだろうか?どこまで世話をしても彼女たちは根本的に
戦場で100万ドルの武器を任された兵士が、市井では駐車係の仕事すら与えられなかったという話はありふれたものだったし、それを知っていた私は彼らためにフロリダに壁を建てた。同じことをすれば彼女たちに表の人生を斡旋できるかもしれないが、それを本人たちは望むだろうか?
「ねえ他にも聞きたいことがあるんじゃないの?」
考え事をしていたところを横から錦木千束に遮られる。彼女たちの『身の上話』を聞こうとしたのはこちらなのに、自分一人で考えごとにふけるのはあまりよくないことだろうと思いなおす。
「……そうね、あまり事件とかの話もしにくいでしょうし……ああ、リコリコはいつできたのかしら?そしてたきなはどうしてリコリコに転属となったの?確か来たのは…一年ほど前だったわね?」
「あー、たきなの件はあまり聞かないであげて」
「任務でやらかして左遷されました。でも今ではリコリコにいるほうがいいなと考えています。それ以上は機密です」
「という訳で千束さんからリコリコの話をしよう。お嬢様がリコリコに来るようにったのは、店ができてからそれほど間もないくらいだよ」
「あー、あの時にコーヒー頼んだ記憶があるわ。興味本位で頼んだコーヒーがいくら砂糖を入れても味が酸っぱいままだったわね」
「こっちもほぼ同い年の娘が先生のコーヒー飲み切るなんて思わなかったぞ」
「頼んだからには飲みきらないとって思ってたから」
「今の店長のコーヒーはおいしいですよね?」
「『今』はね。できた当初のリコリコにいたのは十歳の私と先生だけ。十歳に満たないリコリスと半年前までその教官やってた人が客に出せるコーヒー淹れられたと思う?」
なるほど。『先生』と言われる理由はそこか。錦木千束はミカから戦闘技術を仕込まれたからミカは錦木千束にとっての『先生』なのだ。あの肌の色と体格で座学の教師はないだろう。逆に井ノ上たきなが彼を『店長』と呼ぶのは『店』として板についてから入ったからだ。
「それでまともに店として成り立ってなかったから増員として私が入った。あの組織に嫌気がさしてたからあたしにとっても悪い話じゃなかったけど」
運転席からの声がさらに補足する。
「クルミが入ったのはかなり最近だったわね?彼女はどうやってここへ?」
「あー、それは……ちょっと…色々と…」
明らかに錦木千束の声色がおかしい。かなりしどろもどろになりつつある。
「クルミは凄腕のハッカーで、それゆえに命を狙われています。ですのでしばらくリコリコにて匿っています。匿うこと自体が彼女からの依頼になっております」
井ノ上たきなが助け舟とばかりに返答する。しかしそれで私は納得できない。
「匿っている人間にホールスタッフやらせてるってこと?それじゃいつ相手に居場所が割れて襲われるかわかったもんじゃないわよ?」
「その点は大丈夫です。相手は『目標のハッカー』の顔を知りません。まさか喫茶店で堂々と接客しているなんて思わないだろう、という店長の策略です」
野月美咲を思い浮かべてみる。彼女もそれなりのハッカーで15歳だったはず。それに学外だと典型的なオタク気質を全開にさせている。そんな野月美咲より見た目が若く(滅茶苦茶拙いが)喫茶店で堂々と接客している娘がワークステーション使いこなしてハッカーだなんて、部外者からすれば思いもよらんわな。
ワークステーションの電気代と時たま壊す道具代で喫茶店の経営にスリップダメージが入り続けることを除けば合理的な選択ではある。
……ん?それでも一点だけ筋が通らない箇所がないか?
「だったらクルミのことを素直にDAに報告しておけばいいんじゃないの?」
「いや~、それが、ちょっと…ねぇ?」
錦木千束のこの反応、おいまさか。
「まさかクルミの相手のひとつがDAそのものだったりしないわよね?」
「っ…………」
ビンゴかい。
「厳密には『クルミは自身の居場所をDAに知られたくない』ので報告していないだけです。命を狙っているのは別の人間です」
井ノ上たきながフォローに入っているようで地味に墓穴を掘っている。それって『DAはクルミの身柄を要求している』ってことじゃないの。
これはなかなか興味深い情報だ。この件を上手くすればこの二人を
そのほか色々と話をしたりしていると、また車の速度が落ちてくる。パワーウインドウが下りる音が聞こえ、ミズキが外の誰かと話す声が聞こえる。
「東京に入りましたので目隠しを取らせていただきます」
そう言うなり目隠しを外される。移動中に天候が回復したのか周りが明るくなっていてちと眩しい。
「もう少しで到着だからそろそろお話は中止しましょうか。三人とも今日はありがとうございました。次にリコリコに行く用事があれば何かお土産でもお持ちいたします」
今のうちにお礼を言っておく。九段下についてからでは話す間もなく側近によって有無も言わさず彼女達と引き離されるだろうからだ。そしてそれは的中する。
リコリコの車から降り、自室へと戻ると化粧落としも兼ねて浴室に入る。なお脱衣所で服を脱いだ時に模擬戦で着いた痣をメイドに見られてしまった。「出先でちょっとこけちゃって」とごまかしたら、エヴァとアニーシャと北雲さんがそろって
「それでは転倒しないように後で手ほどきをして差し上げましょう」
と言ってきた。演習用のペイント弾だとバレてるなこりゃ。風呂上り後は覚悟しなければ。
浴室で自分の股に着いた痣を見つめながら、次に彼女達リコリスと会うことになるのはいつだろうかと思いをはせる。何かの桂華グループのイベントだろうか?それとも次の選挙?
二週間後、私の目の前には帝都学習館学園中等部の制服を着た先の模擬戦で私を打ち負かしたリコリスの姿が!
「(素人ではない)他人から見たリコリコやリコリス」というのは個人的に描きたかったことのひとつだったりします。
次回、なぜリコリスは帝都学習館学園中等部の制服を着たのか?
推敲が甘い箇所がいくつかあるので改稿するかも。