リコリコ×拓銀令嬢 ~実弾は日本を変える~   作:フェデラルジオグラフィック

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お気に入り800超えました。ありがとうございます。
調べることが多くて難儀しますが頑張って書いていきます。


側近団の新人
Technical Assistance Grants(1)


 

Side 春川フキ

 

 

 

 お嬢様と戦った、ということによる噂も7.5日。その間も私は(頼りになるが騒々しい)相棒や他のリコリスと共に任務に駆り出された。内容は「いつも通り」事前に収集した情報をもとに割り出したテロリスト共のアジトや取引現場の襲撃である。

 ニューヨークで旅客機が突入してからというもの、敬虔な異端審問者気取り共の跳梁跋扈は留まることを知らず、その波はこの日本にも例外なく降りかかっているのだ。

 一週間もすればリコリスの間での話題は(ときには話者自身も)入れ替わるものである。

 

 そして8日目、サクラ共々楠木司令に呼び出された。私は執務室のドアをノックする。

 

「入れ」

 

「春川、乙女、入ります」

 

 ドアの向こうからの声を聴いてからドアを開けて入る。サクラがドアを閉める。ドアを閉めたサクラが向き直るのを確認してから歩調を合わせて司令のデスクの前に置かれた椅子の隣まで歩く。司令の顔に表情はほとんどない。あまり顔に出ない(が声色には出る)人ではあるが今日は一層平坦な表情をしている。

 

「お呼びでしょうか、司令」

 

「そこに座って構わない」

 

 司令が椅子に手を向けたので、失礼します、と言って座る。

 

「君たちは無駄話が好きではないから単刀直入にいく。春川フキ、乙女サクラ、君たちは東京支部から転属となる」

 

 司令はその表情と同じぐらいに無を突き詰めた声色で告げる。隣でサクラがえっと声を上げるのを脇目で制する。

 

「辞令はこれだ。二人一緒に転属となる」

 

 楠木司令から渡された紙を読んでみる。サクラもサクラで別の紙を渡されているが内容はほぼ同じのはずだ。

 

 

辞令

 

春川フキ 認識番号:LC2809

 

〇月✕日付けを持って下記部隊に転属とする。

   特殊警備部隊戦術班

 

上記に伴い同日付をもって宿舎を下記施設とする。

   東京都台東区浅草…

 

 

 

「センパイ、これって…」

 

「喫茶リコリコへの転属だ」

 

「その通りだ。先日の桂華院瑠奈嬢への粗相が上層部の耳に触れ、問題のリコリスに対し何らかの処分を下さざるを得なくなった。流石に人の口に閂は掛けられん」

 

 司令の声はがやや申し訳なさそうである。サクラは表情には出していないが冷や汗をかいている。

 東京支部の系列であることには違いないが、『あの』喫茶リコリコは以前一人左遷された先だ。それと同じ扱いを受けるのである。

 

「喫茶リコリコは現在でもその任を果たしているはずです。わたし達がリコリコに送られる理由は何でしょうか?」

 

 表情がみるみる不機嫌になり、司令への文句が咽頭まで出かかっているサクラに代わって司令に質問をぶつける。

 わたし自身は任務だと言われれば割り切りはするし先生に近付けるという意味では満更悪いことではないのだが、サクラにとっては必ずしもそうではない。

 

「喫茶リコリコへの配属は書類上のものだ。君たちが喫茶店の店員になる必要はない。リコリスの制服は着れなくなるだろうがな」

 

「あーしらはこの制服に誇りを持っているっす!それを脱げとおっしゃるんすか!」

 

 珍しくサクラがかなり司令に食って掛かっている。こいつの目標はファーストになること。そのためには『左遷』と『リコリス制服を脱ぐ』ことの意味は大きなものになるからだ。

 

「『処分』というのは表向きの話だ」

 

 サクラの様子に全く動じることなく司令の表情と声が冷徹になる。

 その様子に立て板に水がごとく流れていたサクラの文句が止まる。

 

「DA上層部は桂華院瑠奈嬢へのコミットメントをさらに強めることを決定した。彼女に存在を知られた以上、多少行動を拡大しても問題ないという判断だ」

 

「それと喫茶店への転属と何が関連するんすか、司令」

 

 サクラが不服の声を上げる。わたしが補足も兼ねて彼女の次の言葉を抑えることにする。

 

「おおありだ。あの喫茶店は『桂華院瑠奈嬢への対策』も兼ねて作られたんだ」

 

 驚いた顔をするサクラに対し畳みかけるように司令が喫茶リコリコの設立経緯を話す。わたし自身は千束の当時の相棒兼同室仲間としてあの喫茶店の設立に関わっていたので知っていたことである。

 

 

-----

 

 

 お嬢様は良くも悪くも日本で最も目立つ存在のひとつであり、テロの標的になることは日常茶飯事である。

 またDAの政治的後ろ盾である桂華院家のご令嬢とあって彼女はDAの最優先防衛目標の一つである。

 

 だがDAは警察や他の期間と密接に協力しているとはいえ、主に国外からやってくるテロ計画のすべてを把握することは難しい。また把握したとしてもDAも警察も対処が間に合わない事案が発生することもある。

 仮にそうなってしまった場合、DA東京支部の対応は後手になる可能性が高い。東京支部は都心から離れた場所にあって車を飛ばしても三時間はかかる。

 成田の一件はその典型例で、あそこにマフィアが武器を備蓄していたことをDAは把握していたが、24時間運用の国際空港に隣接する保税区域という相性最悪の環境をいかに打開するかDAが手をこまねいていたところへ、千葉県警が踏み込んだのとまたしても何も知らないお嬢様(13)が乗りつけたのが重なってしまい大騒動となった。

 

 騒ぎになって一度マスコミが集まればリコリスもリリベルもその力を発揮できなくなる。そこで騒ぎになった場合にDAとしてお嬢様の安全を守るには()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そしてその拠点としてここ東京支部は即応性の面で不適格である。もっと都心に近い場所に拠点が必要になる。

 かくしてお嬢様専用のDAの拠点を設立することが決められた。

 

 さて新しい拠点の設立を決めたとして問題は誰を送るかである。

 DAは根本的に『殺し(攻め)』の組織である。重要拠点に常時人を派遣する『内張り(守り)』は想定していない。そのためリコリスにしてもリリベルにしても人数は限られている。

 またリリベルもリコリスも十代の少年少女である。大人数の十代の少年少女が制服を着て学校でもない建物に出入りしてしているとかなり目立ってしまう。

 この二つの理由でDAは九段下の内張りだけに大人数を当たらせるわけにはいかなかった。

 

 お嬢様の警護に誰を充てるかDAが悩んでいたのと同じころ、東京支部にはDAの原則殺害の方針に積極的に服そうとしない生意気なリコリスがいた。ただの命令不服従であれば懲罰なり再教育なり処分なりやりようはあるが、彼女には歴代最強とも評される圧倒的な戦闘能力があった。リコリスはおろか教官さえ容易に圧倒するその力を東京支部は惜しむと同時に完全に持て余していた。

 

 片やお嬢様の警護に張り付ける人数を極限まで減らしたい上層部。

 片や自分のやりたいように(殺さないように)任務にあたりたい最強リコリス。

 

 上層部は最強リコリスに接触した。

『桂華院瑠奈嬢の安全にかかわる事案には最優先かつ手加減なしで当たること』

 これを条件に新しく設立される支部にてある程度の裁量をもって任務にあたることを認める、という取引を持ち掛けたのだ。

 まだ十歳にもなっていなかった最強リコリスは二つ返事でそれに応じた。

 そして最強リコリスは『複数の命令違反』を、当時の東京支部司令の『監督不行き届き』を理由として、錦糸町に新しく設立された支部に『左遷』された。

 

 こうして喫茶リコリコは生まれた。後に九段下の再開発に対応する形で千束(せんぞく)から下町に移転して今に至る。

 

 喫茶店の体裁をとったのは最強リコリスのワガママだったが、住宅街で昼間にをある程度自由に子供(リコリス)を出歩かせるには家族経営の個人商店という体裁をとらせるのも悪くないと上層部が考えたからでもある。

 

 先の新宿で司令が外人部隊を呼んだ理由はこれである。要するに部外者の目を入れた上で取引の履行を強要したのだ。

 

 最近井ノ上たきながあそこに送られた件については文字通りの左遷だが、成田の一件でお嬢様の警護要員の増強が必要であるという先生の意見に応じた形でもあった。

 今のところ千束とたきなはいい相棒となっているからその目論見は上手くいっているといえる。

 

 

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「政治的後ろ盾となっている桂華院家の安全はDAの最優先事項のひとつだ。これまで喫茶リコリコを経由した間接的な警護を実施していたのは、あくまで桂華院瑠奈嬢が我々の存在を認知していなかったからに過ぎない。彼女に認知された以上、DAは直接的な行動をとることが許可された。その第一弾が君たちの派遣だ」

 

「だったらどうしてセンパイとあーしなんすか!ファーストやセカンドのリコリスならほかにもいるし、それこそリコリコのメンバーでも…」

 

「司令、お言葉ですがわたしも人選については納得しかねます。理由を説明ください」

 

 司令は息を整えるとわたし達に向き直る。

 

「数あるリコリスの中で桂華院瑠奈嬢の護衛が務まるのは君たちと喫茶リコリコのメンバーだけであると結論付けられたからだ。これを見てくれ。昨日行われた桂華グループ内での警護訓練の模様だ」

 

 そう言って司令は映像を流し始める。

 

*****

 

 おそらく九段下と思しきビルのエレベーターホールが映し出されている。画角から考えておそらくは監視カメラのものだろう。エレベータは4台あるようだ。

 一番右側のエレベータの扉が開き、廊下にスーツを着た男性数名がエレベータから出てくる。

 男性が周囲を固めたタイミングで隣のエレベータの扉が開き、女性の一団が現れる。

 女性の一団がエレベータから完全に出ると左端のエレベータの扉が開き別の男性の一団が現れる。

 エレベータの制御室とも連携した見事な安全確保手順だ。ファーストリコリスだけで組んだチームでも真似はできまい。

 

 男女混合の一団がエレベーターホールから移動したところで画角外から一人の男性が現れる。これがおそらく『襲撃者』の役なのだろう。

 男性の襲撃者の前にスーツ姿の男性が立ちふさがり…その隙間を縫って『護衛対象』が一番前に出てきて襲撃者と取っ組み合いをしているではないか!

 本来ならあり得ない展開に護衛の間で混乱が生まれる。また『護衛対象』が襲撃者に組み付いているため護衛は銃や警杖などの武器を使えなくなっている。

 そうこうしているうちに『護衛対象』は体格に勝る襲撃者に組み伏せられてしまい状況終了。そして映像が切れる。

 

*****

 

「成田やこの映像のように護衛対象が護衛を出し抜いて襲撃者に突撃しようとするのは何としても止めなければならん。そのためにはお嬢様が走り出したときに確実に止められる要員が必要だと結論付けられた」

 

 司令の言いたいことが読めてきた。先走って護衛より前に出ようとするお嬢様に追いつけるリコリスは(お嬢様に反応する時間すら与えないほど)足の速いわたしか(先天の才で)視界の中相手の先を読み切れる千束しかいない。

 そして千束は万一の際の救出要員なのでお嬢様の傍に張り付かせるわけにはいかない。そうなれば消去法でわたしがお嬢様の護衛に選ばれる。

 しかしわたしは確実にお嬢様に取りつくことはできても体格差の都合上完全には止められない。そこでわたしが時間を稼いでいる間に相棒のサクラ(か他の護衛)が追い付いて完全に取り押さえるのだ。

 一度捕まえてしまえばあとは彼女を簀巻きにでもして他の護衛と一緒に安全な場所まで引きずっていけばよい。

 ……考えておいてなんだがこれじゃどっちが狼藉者なのかわからなくなる。

 

 お嬢様の護衛にわたしを配属させるために先週の件を蒸し返してサクラと一緒に表向きは『左遷』という形で転属させようとしているのだ。

 それならば『処分』という言葉は表面上の話でしかなく、むしろ任務が最重要対象護衛の専任と考えれば立場は今よりも上になるはずだ。

 サクラは東京支部の肩書に気を取られてそのことに気付いていないようだが。

 

「君たちは桂華院瑠奈嬢の護衛に回ってもらう。リコリスではなく帝都学習館学園の制服を着てだが」

 

「なるほど。では司令、いくつか確認させてください。この転属は先週の問題行動に伴う措置という『名目』でよろしいですか?」

 

「『まさに』その通りだ、と言っているだろう」

 

 サクラが余計な文句を言うよりも前に言葉を挟むと、司令は意を汲んで即座に応えてくれた。

 

「では任務への貢献によってはここに戻ってくることも可能なのでしょうか?」

 

「結果次第だが場合によっては東京への再配属や、今以上の立場に据えることも検討する」

 

 つまりわたしとサクラの待遇と査定にはほとんど影響がないということだ。粗相の件があってプラマイゼロになっているが。

 サクラはようやく納得したのか威嚇の表情を完全に崩す。

 

「……功績を上げたらファーストに上げてくださるんすか?」

 

「私の一存ではできないが結果によっては上層部に掛け合おう」

 

「……絶対にファーストに上げてくださいよ、司令」

 

「それまで生きていればな」

 

「分かりました。センパイと一緒に司令どころか上層部も驚くような戦果を挙げてみせるっすよ!」

 

 最初とは打って変わって上機嫌な声で高らかに宣言するサクラ。

 それはいいのだがこの任務で『戦果を挙げる』という言葉の意味をこいつは分かっているのだろうか?

 わたし達が戦果を挙げているってことは、警察や警備会社がしくじってお嬢様の目の前に暗殺者が到達しているというかなり危険な状況のはずなんだが。

 

 

 




フキは良くも悪くも忠実なので一歩下がった視点から物事を書くときに便利なんですよね。
次回がサクラ視点での転属話を書こうかな。

リコリスが簡単に海外に行けるならこの作品のリコリコメンバーがフキサクににプーケットかバンダアチェでのクリスマス休暇をセッティングするんですがね。なお。

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