リコリコ×拓銀令嬢 ~実弾は日本を変える~   作:フェデラルジオグラフィック

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原作は密林プライムで見れるので気になった方はぜひ。

話の分量的に分割したかったけど、うまい切り方が出来ず視点が何度も映ることになってしまいました…。


確かな「しるし」

 

Side 桂華院瑠奈

 

 

 喫茶リコリコで話をした一か月後、九段下の私の自室にて、アンジェラ、岡崎のと向き合う。議題は「新規に作る町工場の人事について」である。

なお二人にはこの町工場について「最近話題になった放火犯の調査のため、桂華の名を伏せて設立する」旨を伝えた上で人材を手配してもらった。

二人ともDAについては知っている(岡崎には名前を含め最重要機密はぼかしている)ので「喫茶リコリコの案件に関わることで今の私がDAにどこまで介在できるかの試金石とする」という口実も申し添えてある。

 

 カリンにはあえて伏せておき、そのことを二人も徹底しておくように伝えておいた。DAについて一段関与を深めることを彼女が知った場合、どのような振る舞いをするか読み切れない所があったからである。一応バレたときに備えてアンジェラに「CIAとDAの合同作戦に名義貸しだけした」体裁を整えてもらっている。

 

「『墨田鋳造工業株式会社』……ね。社長は都知事に紹介してもらったレスキュー上がりの元消防署長と」

 

「経理は共鳴銀行と長信銀行の系統から一人ずつ出しました。プロファイリングは実施済みです」

 

「営業は旧赤松商事から個人的に信頼できる奴を三人用意しました。完全に桂華(ウチ)の身分を捨てることになるもんですから説得が大変でしたよ」

 

 大変だったという割に岡崎はあっけらかんとした調子である。一方アンジェラの表情は固いままである。

 

「生産管理と技術は帝国重化学産業の人間が中心に揃えましたが、お嬢様、研究開発に入っているのこの人間は…」

 

「あー、この人ね、喫茶リコリコの側で手配した技術者らしいわ。『すべて世話になるわけにはいかない』ってね。一応DAと公安で身辺調査は済んでるし、面接した技術部長はかなり高く評価していたわ。それでも怪しいことに変わりはないから当面は研究開発要員の一に留めてる。『技術開発をさせてやってほしい』という要望だったしね」

 

 アンジェラにいきさつを説明する傍ら、技術部長(となる予定の人)が面接の後に『彼は天才だ!』と喜んでいたことを思い出す。どうしてこんな人と繋がれたのかしら?彼はここ十年喫茶店を経営していたはずなのに。

 

 

 

 

 

**********

 

 

 

 

 

No Side

 

 

 お嬢様の提案に千束が乗ってから五カ月が経ち、東京下町の一角に新しい工場が出来上がりつつあった。

敷地の中にある新築の三階建ての建物の前にて、ミカと阿部、吉松がヘルメットを被って話をしている。

 

「いやはや立派なものができたじゃあないか、ミカ」

 

「依頼を受けてから半年もたって依頼主には申し訳ない。ただ作戦の前提となる施設がようやく完成した」

 

「しかし押上金属工業とそっくりな建物ですな、マスター」

 

「鉄筋コンクリート三階建て、三階に火元になった社長室、二階と三階の廊下の窓は人気の少ない路地に面している」

 

「造ってもらってなんだが、ここまで露骨に押上金属工業に似せると罠だとバレるんじゃないか?」

 

 阿部の質問に対し、吉松は微笑みを少しも崩さないまま返答する。

 

「それは大丈夫でしょう。ここまで大掛かりな罠を仕掛ける人間など普通はいないでしょうから。それに一階を作業場ではなく倉庫にするなど少しアレンジは加えてますから、見抜かれることはまずないでしょう」

 

「そりゃあそうだが……吉松さん、あなたはどうしてここに?」

 

「ミカの古い友人でこの会社の出資者の一人だからです」

 

「シンジには人も斡旋してもらったからな。本当に助かったよ」

 

 そう言いながらミカはこの会社の出資比率を思い出す。約半分は桂華院のお嬢様が(岡崎の口座から金を借りて)出したが、三割は吉松、一割が自分達で、残りの一割は吉松から口利きを受けた銀行である。『助かった』という言葉は紛れもない事実なのである。

 

「そんなに畏まらなくたっていい。()()()()()()()()()()()()()ところだったからね」

 

 二人のやり取りを聞いている阿部は刑事の勘から二人の会話の内容がすれ違っていないかという感覚を覚えていたが、二人の間柄に口をはさむ必要もないし悪いだろうとそれ以上気に留めることはしなかった。

 

 

 

――――― 二週間後

 

 

「私が社長の舞洲ひたちと申します。至らぬところも多いかと思いますが、一緒にこの『墨田鋳造工業株式会社』を発展させていきましょう!」

 

 社長がお立ち台の上からそう挨拶すると、事務建屋脇の来客用駐車スペースに集まった社員たちからぱらぱらと拍手が上がる。

拍手をする彼らのうち自らの脇に立つ役員と最前列に並ぶ上級職の一部は『元桂華グループの出世街道から外れた人間』であることを舞洲は知っている。

しかし技術部長の後ろに並ぶ一人が特徴的なフクロウの首飾りを着けていることはその立ち位置から見えていなかった。

 

 

 

 

 

**********

 

 

 

 

 

Side 錦木千束

 

 

 お昼ご飯を済ませた阿部さんの足音が無くなった喫茶リコリコ。たきなとカウンターで賄いのおにぎりを頬張り、先生がどこかからかかってきた電話で長話をしているとき、クルミが私の横にやってきた。

 

「千束、あの阿部とかいう刑事の依頼で会社を作ったことを覚えているか?」

 

「あー……『墨田鋳造工業』でしょ?最近ようやく会社として動き出したんだよね?」

 

「その墨田鋳造工業がニュースになってるぞ。ちょっとこっちに来てみてみろ」

 

 クルミに連れられ押し入れの中の端末のモニタを見る*1。たきなとミズキも後ろから覗き込んでくる。表示されているのはいくつかの新聞記事の画像やネットニュースのサイト。

 

―――墨田鋳造工業が越後重工向け鋼製部品を受注…

 

―――LNGを燃料とする新型宇宙ロケットエンジン用部品を新会社が落札……

 

―――墨田鋳造工業が新しい特許を取得…

 

「おー会社が動き出したのね、意外とうまくいってるじゃないの」

 

 ミズキが感心した声を上げる。よく言うよ、お嬢様が帰ってから一番反対していたくせに。

まだ素面の呑兵衛に冷ややかな目線を送っていると、先生が電話を終わらせてこっちに来た。

 

「たった今その件で電話があった。立ち上げた会社が業績を上げ始めたそうだ」

 

「それも急速にな。見ろ、創業から一年足らずでこんなに伸びる企業なんて、テック企業のスタートアップでもそうそうないぞ」

 

 クルミはそう言ってモニタ表示を新聞記事から会社の業績を示すグラフに切り替える。

私はいまいちよくわからなかったけど、たきなが目を輝かせているあたりかなりの業績を上げているのだろう。

一方で先生はかなり険しい顔をしている。

 

「それで今その墨田鋳造工業から電話があったのだが、どうやら根古屋社長が墨田鋳造工業を訪れたらしい。『同業者としてご挨拶』と守衛には言っていたそうだが、舞洲社長曰くかなり横柄な態度でどちらかというと脅迫に近かったとのことだ」

 

 その言葉にみんなが表情を変える。

 

「それに舞洲社長の好みを聞いてきたので手筈通り『タバコと音楽鑑賞』だと伝えたそうだ。また守衛や従業員によれば根古屋社長は事務建屋を出てからその周囲を見て回っていたらしい」

 

「下見、ですね」

 

 たきなの考察に全員が同意する。しかしここまで露骨にやるもんかね、普通。少しは罠だと疑わなかったのかな。

 

「クルミ、監視は大丈夫?」

 

「問題ない、墨田鋳造工業には建設当初から各所に隠しカメラを仕込んでおいたし、根古屋鋳造には電気設備の法定点検の業者を装って同じようにカメラと収音マイクを設置してもらってる。くまなくとはいかないが根古屋鋳造側の動きを監視するには十分だ」

 

 クルミは白い歯を見せながらモニタを隠しカメラの映像に切り替える。モニタではタバコを吸いながら高笑いを上げる根古屋の姿があった。

『こりゃあ前と同じ手が使えるなあ』

笑いながら根古屋はそう口走っていた。

 

「言っておくがこれらのカメラとマイクの音声は証拠としては使えん。依頼を達成するには根古屋が動いたその時に確たる証拠と共に身柄を抑えるしかない。そこはわかっているな?」

 

 先生の言葉に私は黙って頷く。

 

 それからというもの、リコリコの営業とリコリスとしての任務の傍ら、根古屋鋳造を監視するという微妙に忙しい日々が始まった。

クルミ、先生、ミズキが交代で隠しカメラを監視し、私とたきながいつでも動けるように任務と休息と待機をローテーションする。

この生活は長く続けられないだろうなと始めた当初から思っていたけど、チャンスは意外と早くやってくることになる。

 

 

 

 ある日の夜、リコリコの営業を終えてたきなと共にセーフハウスに戻った私は、先に風呂を済ませてテレビを見ていた。

携帯電話が鳴る。発信元はクルミだ。

 

「もしもし」

 

『千束か。根古屋が珍しく夜遅くなのに工場に残っている。今日かもしれないから準備しておけ』

 

了解、とだけ返すと電話が切れる。風呂に入っているたきなを呼び出すと、制服に着替えて出撃準備。そうしてると廊下から濡れた足音が近づいてくる。

 

「千束、根古屋氏は動き出しましたか?」

 

「たきなぁ、髪の毛はもうちょっと丁寧にさあ…」

 

「任務が優先です。それで状況は?」

 

たきなは任務となると一事が万事この調子なのでもはや髪の毛はもう諦める。

ただしたきなが「いつものブツ」に手をかけるのは阻止する。

 

「たきな、今回銃は無し。ただの放火魔だし、何より警察官の阿部さんに見つかるとごまかしがきかなくなるよ」

 

「そうですね。今回は特殊警棒だけにしておきましょう」

 

「うーん、それでもあまりよくないような…」

 

その先を言いかけたところでクルミから再びの電話。根古屋社長は弟二人と『今日決行するぞ』と打ち合わせたらしい。

電話を切ったのとたきなの準備が整ったのがほぼ同時だったので、急ぎセーフハウスを出てスクーターにまたがり墨田鋳造工業へ向かう。

その道すがらで阿部さんに電話をする。阿部さんは夜勤だったらしくすぐに出てくれた。

根古屋が動こうとしていると伝えるとオレが捕まえてやる、と息巻いたので墨田鋳造工業で落ち合うことに決める。

 

 墨田鋳造工業に着き、墨田鋳造工業の事務所棟が見える場所に身を隠したところで携帯電話が再び鳴る。クルミからだ。

 

「もしもし」

 

『千束、根古屋が兄弟連れて三人で工場を出たぞ。会社のトラックに黒いボンベを積み込んでる』

 

「黒色?何か見当はついてる?」

 

『おそらく酸素だ。日本では酸素ボンベを黒く塗る決まりになってる』

 

「酸素…ね」

 

『銃は使うな。根古屋が酸素をバラまいた状態で発砲したらお前たちも火だるまだぞ』

 

「そこは大丈夫、家に置いてきたから」

 

『そうか、とにかく気をつけろ。根古屋の放火の証拠だけは忘れるなよ』

 

クルミはそう言って電話を切った。背後から気配がする。

 

「若い女の子がこんな時間に外に出てちゃいけないだろうが」

 

「阿部さん、元はと言えばあなたの依頼でしょ」

 

「がはは、それもそうか」

 

「静かに、車か来ます」

 

たきなに促されて息をひそめて墨田鋳造工業の様子をうかがう。事務所棟最上階の社長室には電気がついている。

 

 

 

 トラックのディーゼル音がどんどんと近付いてくる。幌のついた平ボディの二トントラックが墨田鋳造工業の事務所棟の脇にある路地に止まる。

丁度よくトラックの後部が見える。幌の影が邪魔で荷台の中までは良く見えないが…。

キャビンから三人出てきた。最後に出てきたのが予め写真を見せられていた根古屋社長だから、他の二人は彼の兄弟になる。

三人が荷台の中を確認し、二言三言やりとりすると、根古屋社長はトラックの前方に回った。ここからはよく見えない。

 

たきなはトラックが止まってからの一連の出来事を証拠として記録するためカメラを構える。DAが作った夜間対応の一品だから、暗くてもフラッシュをたく必要はない。

 

「あいつら荷台から何かを引き出しているようだな。あれは……何かのタンクか?」

 

「ク……ミズキが根古屋鋳造を監視してたんだけど、出発前に黒いボンベを積み込んでたんだって」

 

「黒いボンベ……酸素か。それが凶器なら大した証拠は残らないだろうな。溶接に必要だから金属加工業者なら工場に置いていてもトラックで運んでいても怪しまれない」

 

「お詳しいんですね」

 

「生活安全係は危険物取締も仕事の一つだからな。これならオレでも捕まえられる」

 

どうやら決着は阿部さんに任せてもよさそうだ。

 

「写真撮った?」

 

「ばっちりです」

 

「手際がいいねえ、二人とも」

 

私達の仕事ぶりに阿部さんが感心していると、事務所棟の三階の窓が開いて、中から根古屋社長が姿を現した。

三階の根古屋社長と地上の二人がアイコンタクトを交わすと、三階からロープが投げられる。それを掴んだ地上の二人はそれを掴んでごそごそやっている。

地上の二人が腕を振って合図を送ると根古屋社長はロープを手繰り寄せる。ロープの地上側には別のロープ状のものが結ばれ、窓から建物に引き込まれる。

もしかしなくてもあれが酸素のホースだろう。これ以上は建物と社長が危険なので打って出ることにする。

 

「兄弟二人はオレがいこう、二人は社長を頼む」

 

「建物内の根古屋社長はわたしで押さえます。千束は阿部刑事と一緒に。相手は二人ですから」

 

「オーケー」

 

 

 

 気配を消して二人の後ろに回る。二人して三階の様子をうかがっているので近づくのは容易だ。阿部さんが先に声をかける。

 

「こんばんは」

 

「な……なんだあんたは!?」

 

「見てわからない?近所のおじさんと女学生」

 

「おいおっさん、そんなかわいい娘さん連れてこんな時間に出歩いていていいのか?警察に捕まっちまうぜ?」

 

「実はオレはこういうもんでねえ」

 

そう言って阿部さんは懐から手帳を出す。それを見るなり顔色を変えて視線を背後に移す二人。

 

「ところで、その後ろのトラックにあるのは酸素ボンベじゃないか?」

 

「へ、へへ。俺たちは積荷が崩れたか確認するためにここにトラックを止めたんだ」

 

「じゃあそのボンベから建物の窓に伸びてる太いのは何だい?それにこのシューって音は何だ?バルブが空いているんじゃないか?」

 

「う、うう……」

 

「高圧ガス保安法違反の現行犯で逮捕する。千束ちゃん、タンクのバルブを閉めて」

 

はーい、と言いながらトラックの荷台に上がると同時に、建物の方から男性の呻き声が聞こえてくる。

 

『根古屋社長を確保しました』

 

相棒ののっぺりとした無線に了解、とだけ返しながらタンクのバルブを閉じて一件落着。

完全に諦めた二人を拘束し、たきなが拘束した根古屋社長を連れてきた。

 

「じゃあ阿部さん、あとはよろしく」

 

「ああ、助かったよ。お礼は今度するから、さっさと帰りなさい。()()()()()()()()()()()()()()()()

 

パトカーのサイレン音を背負いながら下町の路地を足早に駆ける。阿部さんが呼んだ応援の警察官に見つかるとお互いの立場がまずくなるから。

 

 

 

 数日後、新聞の三面に根古屋社長はこれまでの犯行を自供し再逮捕されたと書かれていた。商売敵だけでなく関係を断った取引先にも同様の犯行を行っていたらしい。

 

 その新聞と追加の謝礼を渡しにリコリコを訪れた阿部さんは、その一週間後に犯行に及ぼうとした連続放火犯を現行犯逮捕したことで賞詞*2と金一封をもらった。ちなみに金一封は最近人気のカフェのスイーツとして私とたきなとクルミの胃袋の中に入った。

 

 そして放火犯を捕まえるために作った墨田鋳造工業についてだが、根古屋が犯人であることを突き止めるという当初の目的を達したので解散にはならなかった。いや『解散させられない』と言ったほうが正しいかもしれない。

ヨシさんが紹介してくれた研究者が諸々の技術を開発するわ取引先の技術的難題を解決するわで世間からの注目を浴びすぎてしまったのだ。

根古屋の犯行を誘うために会社は業績を伸ばしたんだけど、急速に成果をあげたおかげで予想以上の利益を上げつつある。どれぐらいかというと、たきなは来年の配当金が楽しみだとスキップするぐらいに。

思った以上に話が大きくなっているような気がするけど、大丈夫なんだろうか?墨田鋳造工業ってそんなに大きな会社ではないような気がするけど。

 

 

 

 

 

**********

 

 

 

 

 

Side 桂華院瑠奈

 

 

 

「再度のご支援を賜れませんでしょうか。お嬢様」

 

 九段下の私の執務室でそう言いながら頭を下げたのは元消防署長以下墨田鋳造工業の役員たち。

 

「再度も何も、()()()()()()()()()()()()()()()()()。それを前置きしたうえで一応聞くけど、なにがあったのかしら?例の放火犯は捕まって、()()()()()()()()()()()()()と聞いたんだけど」

 

そう、当初の目的は達成したのであるからこの会社は清算しても構わなくなったはずなのだ。そのためには彼ら自身が会社をたたむ決心をする必要があるのだが。

建前上私は出資はおろか関与すらしていないし、金額的にも投げ捨てて構わない案件ではあるので、今後については役員たちの意思に任せる、と間接的に伝えたら、彼らはここにやってきて先の通り頭を下げてきたのである。

黙って待つ私に対して技術部長がとつとつと語り始める。

 

「わが社の研究開発要員が画期的な成果を複数挙げたのはご存じでしょう?それにより政府の関与する新型宇宙ロケット事業が急速に進展しつつあります」

 

「その成果が国内外に伝わりまして、今となってはこれだけのオファーが来ております」

 

技術部長の発言を営業部長が遮り、そのまま鞄から出した書類の束をぶちまける。

えーと、ロケット事業に出資している日米の重工系に始まり、帝亜自動車を筆頭としたロケットに関わってない日本の製造業、欧米の有名企業に官公庁、アメリカ航空宇宙局に至っては独占契約のオファーまで提示される有様。経産省や国交省でさえ助成金の案内でとどめているのにね。

 

「引く手あまたとはこのことね、あなたたち」

 

「ですから困っているのです。現在の規模ではこれらの案件の十分の一も消化できません。それに今御覧になっているアメリカ航空宇宙局など、我々を囲い込もうとする契約も複数来ております」

 

複数、と聞いて書類の束を流し見する。独占契約ないしそれに近いオファーを出しているのは、アメリカ航空宇宙局を筆頭に、ドイツとデンマーク系の老舗エンジンメーカ、フランスの航空機メーカ、アメリカの石油産業と防衛産業、日本からは帝亜と岩崎。さらにロシアや台湾系も混ざっている。

 

 ここまで多くの囲い込みを目的とした引き合いがやってきてしまうと『どこと契約したか』がかなり重大な意義を持ってしまう。自分の能力で消化できる案件だけに絞ったとしても、それからこぼれた相手先はそうは思わないだろう。

契約できなかった相手方がライバルの足を引っ張る目的で何かしらの妨害をかけてくる可能性ががある。根古屋のように放火といったヒトやモノを狙った妨害なら警備員を増強すればいいが、原材料や中間財の買い占めなどに走られると資本力の小さい墨田鋳造工業はお手上げになるし、サプライチェーンが混乱して世界中にとばっちりが広がってしまう。

 

 巨大なチャンスを逸すること、取引先から不要な恨みと妨害を貰わないこと。これらを両立する方法はひとつしかない。

 

「……私が墨田鋳造工業を買うしかないわね。資金注入で規模を拡大しつつ、私の名前を背負わせて誰からも手出しができないようにする」

 

「その通りでございます。お嬢様、大変厚かましいお願いであることは承知なのですが、再度のご支援をお願いいたします」

 

 

 

 かくして、私は自分の借金で作った会社を自分の現金で買い取るという器用なことをやる羽目になった。岡崎に直接この経緯を伝えたら私の目の前で噴出したので水月にタックルをぶちかまして悶絶させてやった。

なお外野からの余計な手出しを防ぐため、購入後の町工場に私の名前を入れようとしたのだが、本件は完全に個人の買い物として買収した格好であったため、『桂華』も『極東』も使えず、やむなく私の()()を付けて『墨田()()鋳造工業』というキラキラネームに着地した。

珍奇な名前の町工場は東京下町から静岡県湖西市に追加の製造拠点を設けるなど事業規模と収益を順調に拡大し、それなりの配当金(おこづかい)を生み出してていくことになる。

 

 

 

*1
2004年にタブレット端末はまだ普及していない

*2
表彰としては上から四つ目で結構高め




新型ロケット
ギャラクシーエクスプレス GXロケット
実際は開発が上手くいかず計画中止となるが、「才能」の力でテコ入れされることになった。

静岡県湖西市:サイコロで決めた。他意は無し。

キラキラネーム:2000年代前半が最もよく取り上げられた時期である。

タックル:2004年はアテネ五輪で霊長類最強の女が金メダル取った年だということを知るなど。
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