リコリコ×拓銀令嬢 ~実弾は日本を変える~   作:フェデラルジオグラフィック

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拓銀令嬢本編がスポーツネタを取り上げているのでこちらも返信を兼ねてスポーツの単発ネタを投下。


世界体育大会の観戦

 

Side 桂華院瑠奈

 

 

 

 学校は夏休みの時期、多くの人が行楽や帰省を楽しむ中、私は九段下の自宅でテレビの前に座り、ビデオテープをセットする。入っているのは南欧で行われている「世界体育大会」の録画である。メイドに「世界体育大会を見たい」とお願いをしたら、なぜか放送局用のビデオテープで録画しそれを原本として複写したDVDが回ってきた。

 

 世界体育大会は「平和の祭典」と銘打ってはいるが、実際にはその国の威信を背負った戦士たちがただ己の心技体を持って鎬を削る一種の戦争である。最近『検閲』が入って武術や体術の類のビデオや書籍の入手に重い枷がはめられた私にとって、世界体育大会は「干天の慈雨」に等しい。

 

 ゆえにお目当てはサッカーやソフトボールなどの集団競技ではなく個人競技、特に柔道といった武術の類の競技である。要するに世界最高峰の技術を垣間見て少しでも自分のモノにできないかという腹積もりである。しかしそれはメイドに見透かされていたのか、そういった競技の録画映像はアーチェリーと射撃を除いて録画メディアを回してもらえなかった。

 

 だけどそんなことは最初から予想済みである。先に絵梨花さんと鑑子さん、乙女サクラに神奈水樹(ちゃんと複数に分散してリスクヘッジ)に個人的にお願いをしてそれぞれの家庭用DVDで録画したものをこっそり回してもらった。

念のため絵梨花さん以外の受け渡し場所には(メイドもおいそれと入れない)喫茶リコリコを指名し、(春川フキのその様子見も兼ねて)リコリコを訪れた際にお土産に混ぜて受け取るなど念には念をこれでもかと入れておいた。

 

 そして始まる()()()()世界体育大会。ルールでガチガチに固められているとはいえ、その中で磨き上げられた彼らアスリートたちの技術は本物であり、見る者を魅了する。ただし私は彼らに魅せられるのではなく逆に彼らを視る。彼らから少しでも多くことを学び取る。

そのようなときに見逃したと箇所をすぐに巻戻すことができ、かつ再生速度を自由に変化させられるDVDはありがたい。等倍速なら見逃してしまうところでも0.5倍速やコマ送りならば見切ることが出来る。身近に強力な反例があるがそれについて今回は無視する。

 

跳躍競技と短距離走からそれぞれの踏み込みの違いを見出し、

短距離走と長距離走からそれぞれの足の運び方の違いを学ぶ。

体操と飛び込みで角運動量保存則の実例を見るとともに重心管理の大切さを見せつけられる。

 

競走馬の面倒を見始めた私にとって速度以外を競う馬術競技は新鮮に映る。

洋式剣術や洋弓はいつも私が学んでいる剣や弓とは違うので非常に興味深い。

今度アメリカに行くことがあったら行程の合間で散弾銃やライフルを撃たせてもらおうと心に決める。

 

水泳については水中と水上の動きが同時に流れないので上手く分析するのは難しそうだ。

また帆走についてはカメラが引き気味なうえ船の仕組みがよくわかっていないので参考になりそうにない。

 

本命の柔道・テコンドー・レスリング、これらについては学ぶべき箇所は無数にあった。

いかに目の前の相手に組み付くか、いかに相手を振り払うか。

いかに相手を押し倒すか、自分はいかに立ち続けるか。

 

 しかしその本命の中で、ひときわ私の興味を引く試合があった。

女子レスリング 55kg級 決勝戦。日本人選手が金メダルを取ったその試合である。

その日本人選手は自身が小学校に入る前から頭角を現し、参加した大会をことごとく()()()()()きたという。その経歴もあってこの試合には興味を持っていたのだが、いくら見返しても彼女の動きが読めない箇所があるのである。

相手の動きが完全に読めない、ということがあるわけがない。そう考えて何度も何度も見返して気づいたのは、動きが読めなくなる箇所はほぼ決まって彼女が得意とするタックルを掛ける前後であるということである。

 

 本来、人間が何かしらの動作を行う際には、その直前でその動作を行うための体勢を作るために筋肉なり目線なりが動くもので、それを見極めることが出来れば相手の動きを読むことが出来る。防具に包まれ体の様子を直接見ることのできない剣道においてもこれは当てはまる。(もちろんこれは言うには易し行うには難しである)

 

 ところがこの日本人選手の場合、タックルに移る前の動作がほとんど、いや全くないのだ。普通ならば相手の動作を見極めることが出来ればタックルに対して受け身を取るなどの対策を取ることがきる。しかし彼女に場合にはその前兆が全くないため受け身を取るどころかタックルを認知する合間すら与えてくれないのである。つまり相手は『突っ込まれてから気づいた』という状態になるのである。

このタックルに対して『予め受け身を取れ』ということをゲームで例えるならば、格ゲーで相手の操る中国拳法家の連続キックを全てブロッキングしたうえで反撃に転じてHPゲージを削り切るという芸当を決めろ、と言っているようなものだ。

 

 そこまで観察出来たとき、ある老人の言葉が耳を打つ。

 

 

「目だ。人は目で獲物を追い過ぎる。だから、それを崩してやると……」

*1

 

 

彼の場合は相手は自分の動きを読んでいることを()()に『相手の読みを外させ』ていた。

一方の彼女の場合は『相手に自分の動きを読ませない』ことを戦術に組み込んでいる。

相手の対処能力を封じる、という目的は同じでもアプローチが全く違う。

 

 あの剣道の稽古の日に、彼女のタックルをモノにできていれば、私はあの老人に一矢報いることが出来ただろうかという考えが頭をよぎる。しかし即座にこの二つは測ることはできないことに気付く。比較対象の片方がこの世の人ではないこともそうだが、そもそも体の使い方、という尺度が違うからでもある。だが、尺度が違うということは優劣を比較することはできないが、()()()()()()()()()()()ということでもある。

 

…… 1 + 1 = 2 は必ずしも正ではない、ということはこれまで私が散々実証してきたことだ。

 

 老人とメダリスト、この二人の技を(可能な限り速やかに)使いこなせるようになってみせる。DVDを再度巻き戻しながら、私は固くそれを誓うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 なお余談だが手配したDVD四セットは最終的にすべて没収された。乙女サクラが面白がってダビングしたDVDを持っていたため教材に事欠くという事態だけは避けることが出来たことが幸いである。メイドたちは定期的に私がDVDを手配していることを不審に思ってほうぼう調査していたそうだが、最終的には逃げ切ることに成功した。

 

 

 

*1
現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢をするのはちょっと大変 web版 『最後の化け物が伝えし剣技』より抜粋





以上、オリ……世界体育大会の話でした。

元ネタはTogetterのこれ。
https://togetter.com/li/2163141

格ゲーの例え話が分からない人は「レッツゴージャスティーン!」で検索。
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