▽たんさくしゃの あなたは クトゥグアを くりだした!   作:ネスター派

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今作はストーリーが歴代でも最高でしたね。ただ、世代を重ねるごとに悪の組織がショボくなる現象……あれ、なんとかしたいですよね(ボ卿並み感)

※本作は神話生物に関する独自の解釈や設定を含みます。


導入

そこは薄暗い部屋だった。照明は天井に吊るされた壊れかけの蛍光灯のみであり、それは時折ジジッと音を立てて点滅している。部屋には乱雑に置かれた荷物が散らかっており、隅の方には埃が積もっている。

 

長い期間放置されてきたかの様な荒れっぷりではあるが、今その部屋には人影があった。部屋の様相とは対照的な清潔感溢れる学生服に見を包んだ少年少女が四人、部屋のなかへと足を踏み入れていた。

 

彼らの足元には衣類や食品など様々なものが転がっており、その中でも取り分け書物の類が多い。カビの生えた分厚い古書から、真新しい雑誌など種類は様々だ。

 

特に目を引くのは、書きなぐったような字で書かれた無数のプリント類であり、束になったものや丸めて捨てられたものなどが、そこかしこに散らかっている。

 

そしてそれらには見知らぬ言語でありながらも、不思議と生理的嫌悪感を覚える文字で『Phnglui mglwnafh Cthugha Fomalhaut』や『空飛ぶ円盤のポケモンは "Yog Sothoth" の化身か?』などの走り書きがあった。なかには『H55 A90 B80 C50 D105 S96 = 476』などの数式で書かれた暗号の様なものもあり、記載されている内容は様々だ。

 

だが、少年らの視線の行き先は今やそこにはない。彼らの瞳に映るのは、この部屋で唯一まともに光源の役割を果たしているテレビが映し出している光景だった。

 

そこには、結晶に飲み込まれる街の映像と原稿を読み上げるニュースキャスターの姿があった。画面下には『LIVE 緊急速報 急遽発生した無差別テラスタル現象』の文字がでかでかと表示されている。

 

ニュースキャスターは一見淡々と話しているように見えるが、どこか緊張感を感じさせる面持ちで発言を続けている。

 

「本日未明より発生した大規模な結晶化現象は、現在パルデア全域に拡大しており、一部地域では近隣住民の避難が行われております。専門家によると、この現象はテラスタルによるものと推測され、現在発生しているテラスタルオーブの暴走やポケモンの強制的なテラスタルなどとの関係性が調査されています」

 

映像が切り替わり、テラスタルオーブが突如として膨張し、周囲を結晶化させているものへと変わる。

 

「また、強制的なテラスタルにより暴走したポケモンや侵食域の拡大を続ける結晶については、警察やポケモンリーグが総力を上げて対処に当たっており――――ッ!ここで速報が入りました」

 

ニュースキャスターの下へと慌ただしく原稿が手渡され、それに目を通したキャスターの顔が驚愕に彩られる。そして、それに応じて画面下部の文章も変化し、『LIVE 大規模犯罪組織による犯罪声明 首謀者はリーグ四天王か』という表示が映し出される。

 

「現在より数十分前、映像配信サービス上にて一件の動画が公開されました。公開元は、パルデア地方を拠点として活動する大規模犯罪組織"ゲート団"によるものと見られ、現在起きている一連の騒動との関与の疑いがあります」

 

続く内容からゲート団に関する情報が述べられる。ゲート団は、数世紀ほど前に実在していたパルデア帝国の再興を目的としたテロリズム活動を行う集団であり、今回の事件もその一環として引き起こされたという。

 

「また、新たに判明した事実として、長らく不明とされていたゲート団の首領とされる人物が明らかになりました。動画上では、現ポケモンリーグ四天王を務めるレザン氏によって、その事実及び今回の事件に関する犯罪声明が行われました」

 

画面の映像がまたしても切り替わる。その映像は、周囲の光景からポケモンリーグで撮影されたものと見られ、画面中央には現リーグ四天王を務め、数日前から失踪しているレザンと呼ばれる人物が映っていた。

 

およそ十代半ば程と見られる年齢の少年であり、髪は漆のように黒く、夜空の星を散りばめたような、覗き込めば吸い込まれてしまいそうな宇宙色の瞳が特徴的だ。だが、纏う雰囲気に覇気はなく、どこか物憂げな表情をしており、厭世感のようなものを漂わせている。

 

「現在、この事実に対する非難の声が各地よりポケモンリーグへと寄せられています。また、動画公開からおよそ数十分程度で、レザン氏について当番組へ向けてポケモンリーグ及びアカデミー関係者と思われる人物から多数の証言が寄せられています」

 

画面上にはいくつかの文章が羅列され、以前より噂されていた信憑性の高そうなものから、事実かどうか疑わしい眉唾物まで様々である。

 

曰く、アカデミー在席前には、本来立ち入り禁止であるパルデアの大穴――エリアゼロに無断で侵入していた。そして、その際にある少年一名を襲い、その少年のポケモンを再起不能にさせるなどの事件を起こしている。

 

曰く、アカデミー在席時には不良集団を率いて集団でいじめを行い、大多数の被害者生徒を退学に追い込み、その上で責任を教職員一同に押し付け退職させている。

 

曰く、ジムチャレンジやチャンピオンテストで不正な手段を用いて勝利し、その後はリーグ委員長を武力で脅迫することで、実力不相応であるにも関わらず四天王の地位に就いている。

 

曰く、テラスタル研究の第一人者であるオーリム博士を殺害し、博士本人に扮する偽物を用意することで、数年に渡りその事実を隠蔽していたという疑いが掛かっている。

 

「現在、証言の内容に関する事実関係の確認がされており、警察及びポケモンリーグはレザン氏の動向を追っています。また、公開された動画は以下の内容によって締められています」

 

『帝国再興の時は近い。パルデア帝国は今一度、この地の支配者としての栄光を取り戻すことになるだろう。もし止めたいというのならば、我々はエリアゼロ最深部にて君たちを待っている』

 

そして、一拍を開けて告げる。

 

『さぁ、早く来いよ――主人公』

 

 

 

▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽

 

 

 

眩しい。目蓋へと太陽の光が射し込んでいるのが分かる。思わず目を開ければ、俺の視界に飛び込んで来たのは雄大な自然だった。

 

「は?……どこだ、ここ?」

 

周囲を見渡せば樹木が生い茂っており、遠方には岸壁が木々を超えて聳え立っているのが見える。そして――。

 

「……ポケモン?」

 

そう。あろうことか、俺の目の前には白い丸まるとしたボディに、つぶらな瞳をした鯨っぽいポケモン――新作のPVで見たハルクジラに似たポケモン*1がいた。たぶん進化前だろう。

 

この時点で半ば気がついていたが、次のシルエットが目に映った瞬間に確信に変わった。気に紛れるようにして奴がいた。初見では間違いなく誰もが草タイプだと思うであろう岩単タイプの奴だ。ウソッキーが何食わぬ顔でこちらを見ていた。

 

これは、つまりそういうことだろう。ここはポケモンの世界だ――!!

 

「いよっしゃあああああああ!!!」

 

それも既存の地方ではなく、おそらくはPV映像を眺めることしか出来なかったあのパルデア地方だ。ランクマの禁伝幻何でも有り環境*2に身も心を擦り減らしていた俺に神様が慈悲でもくれたのだろうか。

 

感極まって奇声を上げながらガッツポーズをしている俺を見て、ウソッキーが憐れみを込めた視線を飛ばしてくるがそんなことはどうでもいい。というか、お前は早くPVに習って草テラスタルしろ。俺は早くテラスタルが見たい。まあ、それはともかく大事なのは、俺が今ポケモンの世界にいるということだ。

 

よく見れば、視界の端にある草むらにはシキジカやペルシアンが居るし、頭上では翼を広げて空を羽ばたくヒノヤコマを始めとした鳥ポケモンが時折通過する。ああ、素晴らしきかなポケモン世界。

 

興奮冷めやらぬ状態ではあるが、取り敢えずは周辺の街を探そう。新ポケモンを探したいところではあるが、今の俺は生身。さすがにポケモンとステゴロで戦う訳にもいかない。というか、歩いているだけでも普通に危ないだろう。

 

目下の目標は街へ行くこと。次点で他のトレーナーを探すことだろうか。ここがあの修羅の国、ヒスイ地方であればどこからともなく破壊光線やシャドーボールなど、ポケモンからの袋叩きに遭うところではあるが、今のところはその兆しはない。

 

ポケモンには取り敢えず近寄らないようにしつつ、遠くに見える道に沿って進んでみよう。そう思ったのも束の間。

 

それがフラグだったのだろうか。背後から異様な気配を感じると同時に、思わずその場から飛び退くと、そこには焼け焦げた地面が広がっていた。そして、背後を振り返り下手人を探して目を凝らせば、そこには紛うことなきドラゴンが居た。

 

「おいおい嘘だろ……?お前は、ガブリアス!?」

 

なんでだ!?ガブリアスが明らかに俺を狙って技を撃ってきていた。その形相は獲物を刈り取る捕食者のものであり、直ぐにこの場を離れなければ第二第三波が来ることだろう。

 

「クソッ、お前ら人間じゃねぇ――ッ!*3

 

悪態をつきつつも間一髪の所で、繰り出された紫色の光線――野生なのでおそらくは"りゅうのいぶき"――を避ける。たが、その幸運が何度も通じるとは限らない。今のはおそらく小手調べ。次からが本番だ。

 

それにガブリアスはマッハポケモン。図鑑によれば音速で動くことが出来る上に、狙った獲物は逃さないという。そして、奴は構えを取り、目にも止まらぬ速さでこちらへと突っ込んで来た。

 

辺りにいたポケモンは身の危険を感じ取り、一目散にと逃げ出すが、ガブリアスはそれを意にも介さず進路にあった木々をまとめて薙ぎ倒し、地面をえぐりながら砂埃を上げて、猛スピードでこちらへと迫ってくる。

 

予め予見していたこともあり、ヒスイ式のローリング回避の如く勢いよく前に飛込むことで、攻撃の範囲から外れることが出来たが、状況としてはかなり不味い。まぁ、元から絶望的な状況なのは変わらないんだが。

 

そもそも生身でガブリアスに挑むことが自殺行為なのだ。それに見たか?今の。これ"ドリルライナー"でも何でもない、ただの突進なんだぜ。流石600族とでも言うべきか。だが、感心している場合ではない。なにせ動くだけでも脅威なのだ。

 

特に何がヤバいかと言えば、先程までは向こうも全く本気でなかった上に、距離の利もあったことだ。ガブリアスはどちらかと言えば近接よりのポケモンのため、こうして距離を詰められ、こちらが反応出来ないほどの速度で動かれれば、待っているのは死だけだ。

 

どうする?どうすればいい?彼我の距離は、体感でも10メートルもないはずだ。次に奴が体制を立て直し、こちらへ攻撃を仕掛けてきたら一巻の終わりだ。

 

考えろ――!このミニマムボディでこの状況を切り抜ける方法を。

 

「……ん?」

 

なんか今、変だったぞ?ミニマムボディ?目を覚ましてから、この短時間で余りにもいろいろなことがあり過ぎて全く気がついていなかったが、改めて自分の身体に意識を向ければ、おかしな点にきがつく。

 

まず視点が低い。それに声もわずかに高いし、デスクワーク続きで致命傷を負っていた腰が異様に軽い。そんな新たな気づきと共に一つ納得がいく。

 

あぁ。これ、ポケモン世界に転移したんじゃなくて転生したのか――と。

 

まぁ、それがこの状況でどうしたって話なんだけれども。だが重要なのはそこではない。先程身体に意識を向けた際に気づいたのだ。腰に付けられたモンスターボールの存在に。

 

そしてここでガブリアスはいよいよ立ち上がり、闘志の漲った顔でこちらを睨んでくる。そして、両腕についた鋭くも強靭な鉤爪を打ち合わせ、こちらを威嚇するガブリアスに対し、俺は不敵な笑みを浮かべる。

 

「なぁ、ガブリアス。これが何か分かるか?これはなぁ、モンスターボールって言うんだよ。そしてッ!こういう状況で繰り出すってことは間違いなくイベント戦!チュートリアルでガブリアス出すなんてやってくれるぜ、パルデア地方ォォ!!」

 

あまりの極限状態からか、ハイテンションになった俺は自分ですら分けの分からない言葉は捲し立てつつ、手に持ったボールを構えて向き直る。

 

そうだ。初めてゲームで見たときから、実際に一度言ってみたいとずっと思っていたセリフがあったんだ。こんなお誂え向きの状態で、今言わずしていつ言うというのか。

 

ここだ。ここしかない。俺はすぅっと息を吸い込み、渾身の思いを込めて言葉を口にする。

 

「――ギラティナ、打破せよ!!*4

 

そう叫びながら、ガブリアスへ向かってモンスターボールを投げる。そして空中でボールが開き、中から目を焼く閃光と共に何かが現れる。

 

瞬間、世界が止まった。いや、そう感じざるを得ない程の圧倒的存在感を放つ存在がそこにはいた。それは、まるで太陽の如き灼熱をまとっていた。それは、周囲一帯を飲み込んで余りあるほどの熱波を放っていた。それは、神としか形容できないような人智を超えた存在だった。それは、それは、それは、それは、それは――。

 

讃えよ。其はグレート・オールド・ワン。意思を持った恒星、またの名を()()()()()()

 

 

神話生物に魅入られた者(ポケモントレーナー)の レザンは クトゥグアを くりだした!

 

 

*1
アルクジラ

*2
SV発売前の剣盾ランクマッチのルールが生んだ悪夢。あのイカれた期間はたぶん居酒屋で決めた

*3
アニポケでタケシがロケット団に向かって言い放った衝撃的な迷言

*4
ポケモンレジェンズ アルセウスの裏ボスの名言

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