▽たんさくしゃの あなたは クトゥグアを くりだした! 作:ネスター派
迫りくるのは毒の大波。幾重にも連なり押し流さんとするそれは、空中へ逃げることは許さないと言わんばかりに
「キラフロル、“だいちのちから”で退路を断ちなさい」
オモダカの指示に合わせてキラフロルが鳴き声を上げ、大地が揺れる。猟犬を取り囲むようにして地面が迫り上がり、逃げ道が塞がれてゆく。
「ティンダロスの猟犬、切り抜けるぞ。そのまま突っ込め!」
ティンダロスの猟犬はもとより不浄の存在。毒や邪悪なものには耐性があるのだ。ならば、多少のダメージは覚悟して真正面から突っ込んでしまえばよい。
猟犬はその痩躯からは考えられないような力強い踏み込みとともに、大波を引き裂きながら一直線に駆けて行く。毒の波は飛沫となって舞い散り、その走路を紫色で彩ってゆく。
「……!なるほど。直前まで引き付けて“だいちのちから”で迎え撃ちなさい」
猟犬は地を駆けキラフロルへと迫らんとする。キラフロルは泰然自若として待ち構え、技を撃つ機を伺っている。彼我の距離が5メートル、3メートルと近づいてもまだ動かない。
「……ここです。撃ちなさい!」
キラフロルはその身に大地の力を宿し、それを操り地盤を励起させる。猟犬の脅威が眼前にまで迫ってからの一撃。まさにベストタイミングと言ってよい。
だが、相手が何をするのか分かっているというのに、そのまま相手の策に乗るほど俺も阿呆ではない。精神の繋がりを通して猟犬へと一つの命令を下す。
その瞬間――空間が歪んだ。隆起せんと熱を爆発させようとしていた地面はそれによって指向性が狂い、上へと向く筈だったエネルギーが下方向へと放射される。
それは両者の周りを陥没させ、そのエネルギーに従って下へと落とさんとする。キラフロルも巻き込まれる形で落下してゆくが、流石はチャンピオンのポケモンと言うべきか、荒れ狂う力の奔流のなかでも堪えているのだ。
だが、俺がそんな絶好の攻撃の機会をみすみす逃すわけが無い。先程やられたのと同じことだ。空中で無防備な姿を晒している方が悪いのだ。俺はすぐさま猟犬へと命令を下す。
「やれ!“どくどくのきば”だ」
猟犬は錆びついた釘のような牙が無数に生えた口を開く。獲物を前にした獣と同様に涎を滴らせる代わりに、青い脳漿のようなものを舌からは溢している。
そして、その顔をゆっくりとキラフロルへと近づけ、丸呑みにするかのような大口でもって喰らいつく。腐敗の息が体表を浸食し、青い不浄の液体がキラフロルの身体を蝕んでゆく。
俺は確かな手応えを感じた。だが、やはりまだ甘かったのだろう。安堵が漏れたその一瞬の隙をオモダカは見逃さなかった。
「キラフロル、一点に集中して“マジカルシャイン”!」
キラフロルの身体を淡い白色が包んだかと思えば、次の瞬間には猟犬の腹を一筋の光が貫いていた。それによって猟犬は引き剥がされ、キラフロルはその上を取るようにして宙へと躍り出る。
「もう一度いかせていただきます。“マジカルシャイン”」
「クソッ、空間ごと捻じ曲げろ!“サイコフィールド”」
キラフロルの花弁に覆われた中心にある結晶へと光が集束し、不浄な存在を浄化せんとする光が穿たれる。俺がそれに合わせて咄嗟に命令したのは、先程と同様の攻撃だ。
ティンダロスの猟犬が持つ独自の能力なのか、こいつは空間にある程度干渉することができるようであり、主に指向性を歪ませることができるのだ。本来の“サイコフィールド”とは多少異なるが、バトルコート全体を覆う程の範囲で扱うことが可能だ。
歪んだ空間は猟犬へと注がれる光を直前で屈折させるも、一部はそのまま命中してしまう。不浄な存在にとってその光は堪えるのか、猟犬は苦悶の声を漏らす。
追撃を避けるため猟犬は空間を蹴って地面へと直下するも、そこには先程までは存在しなかった
それは、紫色に輝く毒々しい針のようなものだった。おそらくは“どくびし”だろうか、バトルコート全域へと撒かれている。もし踏もうものなら、毒に耐性のある猟犬であろうとも、無数の針がその身を傷つけることになるだろう。
いつの間に撒いたのだろうか。こちら側に一切悟らせることなく、それを完遂したのは流石としか言いようがない。だが、そのおかげでこちらの行動範囲は狭まってしまった。
「……やるな」
「ええ。でも、この程度で焦る貴方ではないでしょう?」
なかなかに言ってくれる。俺の胸中で感情が渦巻くのを感じる。これは猟犬のものだろうか、それとも俺のものなのだろうか。どちらだって構わない。純粋に負けたくないという思いが強くなる。
賭けに出よう。状況を打開するにはこのままじゃ駄目だ。あまり分のよい賭けではないが、やれることはやり切ってしまおう。
――賭けるのは、俺の正気。ティンダロスの猟犬の持つ神秘に、宇宙的恐怖に、その悍ましさに何処まで耐えることができるか。
俺は精神をより深く猟犬へと繋ぎ止め、張り巡らせる。時間と空間を越えて、この世とは一切合切が異なる『鋭角の世界』その一端へと手を伸ばす。
心が軋む音が聞こえる。耐え難く、知る由もない悍ましい世界の真理に脳が焼かれる。精神に直接メスを入れられるかのような苦痛を伴う不快感に、喉からは俺の意思に反してくぐもった声が漏れる。
だが、それだけだ。あくまでも精神に傷がついただけだ。自分が何なのかも分からなくなり、正気も精神も何もかもがぐずぐずに溶けて、あの
さらに意識を沈め、猟犬へと精神を寄せる。もう周囲の音は聞こえない。ただ、猟犬の感覚に身を任せる。まるで俺自身の身体であるかのように、猟犬の感覚が伝わってくる。
それは五感だけではなく、人間には備わっていない空間や時間、別次元を感じ取る第六感や七感なども含まれる。人の脳が処理できる範囲を超えた感覚は、俺の精神をゆっくりと焼き焦がしてゆく。
長くは持たない。ここからは時間との戦いだ。
「――ッ、行くぞ!
猟犬はそれに呼応して駆け出し、キラフロルへと再度迫る。単純に真っ直ぐ宙を駆けるのではなく、上下左右を縦横無尽に駆け巡ることで、キラフロルの照準から逃れつつ接近を試みる。
だが、キラフロルは“ヘドロウェーブ”をまるで宙を泳ぐ竜のように波打たせて操り、猟犬に巻き付くかの如く渦巻かせる。
そこに猟犬は、空間を歪ませることで隙間を無理矢理作り出し、縫うようにして脱出するも、待ち受けていたのは白光。今度は束になったものではなく、雨のように無数の光が降り注ぐ。
“サイコフィールド”を用いても避けきれないと判断した猟犬は、“どくびし”が撒かれた地面へと急降下する。そして次の瞬間、猟犬の姿が消えた。
だが数瞬の後、周囲を隈無く警戒していたキラフロルの背後に影が現れる。それはすぐさま痩せた体躯の狼を型取り、残忍な笑みを浮かべながら鉤爪を振り下ろす。
しかし、その爪がキラフロルの胴体を捉えようとしたその時、突如として地面が爆ぜた。それはキラフロルの真下からだった。
“だいちのちから”――トレーナーの咄嗟の指示に従い、キラフロルは自身に向かってそれを放ったのだ。攻撃のためではなく、緊急時の回避手段として用いたのだろう。
そして、爆ぜた勢いで空高く舞ったキラフロルは遥か上空から滝落としのようにして、猛毒の大滝を引き起こす。面で制圧しようとするその技は、回避不能であるかのように思われた。
だが、猟犬は長い尾を使って、周囲に設置されていた“どくびし”の一つを上空へと打ち上げる。
毒の大滝が猟犬を押し潰そうと迫り、地面へと流れ落ちてくるも、またもや猟犬の姿は既にそこからは消えていた。そして、打ち上げられた“どくびし”から這い出るようして青黒い煙が形成され、猟犬の姿を型取る。
もう、オモダカも気づき始めているかも知れない。これは、俺が猟犬の持つ感覚を身を持って体感したことで気がついた猟犬の能力。
120度以下の鋭角を起点として空間転移を行なうことができるのだ。ポケモンの技に当てはめれば“ゴーストダイブ”に近いだろう。
この世界とは別次元に存在する『尖った時間』が支配する世界の住人である猟犬を含む上位種族は、通常の時間や空間の法則に左右されず、自由に移動をすることができるのだ。
これによって彼らティンダロスの猟犬は、時空間を越えて獲物を付け狙う猟犬たらしめられている。そして現在、猟犬はその能力を遺憾なく発揮し、獲物へと襲い掛かろうとしてる。
猟犬は宙を駆け、今度こそは言わんばかりに巨大な注射針のような舌で、キラフロルの身体を貫かんとする。それを空中で“マジカルシャイン”を勢いよく放つことで軌道を無理矢理逸らすことで、キラフロルは間一髪のところで回避する。
地面へと降下して行ったキラフロルを追って、猟犬もその後に続き再び襲い掛かる。猟犬は大蛇のように太い舌を無数に枝分かれさせ、上から散弾のようにしてそれを放つ。
キラフロルは“マジカルシャイン”を用いて迎え撃とうとするも、流石に全てを相撃することは叶わず、いくつか攻撃を受けてしまう。
そして今度はお返しと言わんばかりに、“だいちのちから”を立て続けに放ち、そこに“ヘドロウェーブ”を合わせることで擬似的な土砂崩れのようなものを引き起こし、純粋な力による攻撃を仕掛けてくる。
バトルコートの地面を捲れ上がらせ、破壊の化身となって差し迫ってくるそれは、もし直撃しようものなら、いくら超次元の上位種族であるティンダロスの猟犬であろうとも致命打になり得る。
だが、それは当たればの話である。猟犬は巻き上がった岩を媒介して転移を行い、キラフロルへと攻撃を仕掛ける。それを見切っていたのか、キラフロルはオモダカの指示に合わせて、猟犬の出現箇所に“マジカルシャイン”を放つ。
それを鉤爪を犠牲にすることで、猟犬は受け流し、再び両者ともに距離を置く。睨み合った状態で相手の出方を伺っていると、徐ろにパチパチという拍手の音が聞こえてくる。
その音に思わず俺は同化させていた意識を僅かに浮上させ、音の発生源へと目線を遣る。そこには、先程までとは異なる驚きと歓喜を綯交ぜにしたような笑顔を浮かべるオモダカの姿があった。
「アハハハ!素晴らしいです!これが若き才能……ならば
オモダカはそう言い放ち、懐からテラスタルオーブを取り出す。それを前に差し向けるかのように構え、エネルギーが吹き荒れる。そして、オーブをキラフロルの方へと投げれば、忽ちキラフロルの身体が結晶へと包まれゆく。
――テラスタル。パルデア地方固有の現象であり、一部よ認められたトレーナーにしか扱うことを許されないバトルにおける切り札。
全身を結晶性させ、頭上に石造りの古代神殿を思わせる冠をしたキラフロルからは、大地に聳える巌の如きオーラが溢れ出ている。“いわタイプ”のエネルギーを最大限に増幅させたその姿は、まるで雄大な自然そのものに相対しているかのようであった。
「これが頂点というものです。最高峰の技を体感してください。――キラフロル、テラバースト!」
キラフロルに宿る岩峰のエネルギーがさらに増大し、橙色の光となって現出される。キラフロルはそれを、自身の中核となる結晶に集束させ、まばゆいばかりの光が満ちる。
それは純然たるエネルギーとなって凝固し、巖の力を宿したそれは、結晶の隕石となって降り落ちる。猟犬は鋭角を用いて回避を試みるも、バトルコート全域に降り注ぐそれを避けきることは叶わず、最終的にいくつもの隕石に被弾してしまう。
そしてそれによって生じた苦痛は、精神を介して俺にも伝わり、いよいよ限界を迎えてしまう。それは全身を蝕むような不快感の他にもえづくような吐き気を催す。頭が割れるような頭痛のなかで、俺はそれでも思考を巡らそうとする。
頭のなかに靄のようなものがかかる。それは次第に形を帯びてゆき、包み込むようにして広がり、思考を蝕んでゆく。
何が足りなかった?正気を削り、精神をすり減らしてもなお、勝利には届かなかったというのか。そんなもの、納得できるはずがない。
頭にかかった靄は形を変え、さらに深く浸食してゆく。
どうすればいい?脳は埒外の知恵への拒絶から焼き焦げるような痛みを訴え、限界を示している。だが、俺はこんな結末に納得することなどできない。やるならば完全なる勝利を。矮小なる存在を踏み潰し、その存在を示さねばならない。
だというのに、今の俺はこの体たらくだ。一体何故だというのか。どうすればよかったのだ?このまま挑み続けて、俺は果たして、勝利することができるのだろうか。
頭の靄は決定的に形を変え、それは狂気という病を齎す。心の奥底に根を張り、着実に成長を重ねていたそれは、今をもって萌芽したのである。
それは心に巣食う悪夢。覚めることのない
あぁ、分からない。どうすれば彼女の――イドラのためになるんだろうか。彼女の目的を達成しなくてはならない。貢献しなくてはならないのだ。
それこそが、俺がここにいる意味。俺がこの世界にいることを許される唯一の理由だ。それ以外の理由などあろうはずもない。
俺は彼女だけの王。彼女のための『Silver Key』だ。ならば、彼女の意思に応えなければならない。
そのためには、どうすればいいのだろうか。分からない、分からない。何を選べば、彼女のためになるのだろう。俺はどうすればいいんだ?
なぁ、誰か教えてくれよ……。
▽…… …… ……
▽あなたは███の██を得た。行動を決めましょう
▽あなたには四つの選択肢がある。さて、どれを選びますか?
分岐点ということで、アンケートを設けさせていただきました。お答えいただけると嬉しいです。
結果の如何によって今後の展開に変化があります。
アンケートの締め切りは1月21日の昼頃までです。
▽あなたには四つの選択肢がある。さて、どれを選びますか?
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1. 精神を賭して再び抗う。
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2. 猟犬の支配権を手放す。
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3. 夢を見続ける。
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4. 降参する。