▽たんさくしゃの あなたは クトゥグアを くりだした! 作:ネスター派
誤字報告ありがとうございます。
1. 生きている炎
目の前の存在する
つい先程まで、死を強く想起させる様な圧倒的威圧感を放っていたガブリアスですら霞んで見える程の存在感。もはや逃げるどうこうの問題ですらなく、ただそこに居るだけで死を覚悟しなくてはならないほどの脅威だ。
生物――いや、生命としての在り方が根本から違う。抗うことすら許されないであろうそれは、もはや神と言うべき他にないだろう。
見上げてもなお視界に収まることのない巨躯は、さながら巨大な火球のようであり、その体表は沸騰した溶岩の如くボコボコと音を立て、至るところから炎を噴き上げている。それが放つ圧倒的熱波は、周囲一帯の気温を急上昇させ、辺りに生えていた草木を赤く燃え上がらせる。一瞬にして周囲を火の海へと変えたそれは、正しく恒星のようだった。
だが、それは意思無き惑星などではなく、その存在を知らしめるかの如く発せられる神威から、確固たる自我があることを否応なしに理解させられる。
さしずめ――意思を持った恒星、或いは
呆然としていた俺は、それが見せた予兆を見逃してしまっていた。先程までとは比にならない程の周囲の超高温化。まるでエネルギーを収縮させるかのように、沸き立つ炎を一極に集中させ、朱く煌めく星の姿。そして、明確に攻撃の意思を持って、目の前にいる
「おい……おい、おい、おい!嘘だろッ!?」
俺がすべてを察した時には、朱く燃え上がる光は臨界点に達する寸前であった。止まれ止まれ、と混乱した頭で連呼してみるもまるで聞く様子がない。
俺はすぐさま背を向け、ただ我武者羅に走った。一時的とは言え、狂気に陥っていたと言ってよいだろう。俺はパニック状態になって、一刻も早くその場から逃れようと必死だった。
何秒、いや何分走ったのだろうか。体感では無限にも思える時間の後に、世界が静寂に包まれた。それは嵐の前のほんの一瞬の静けさだった。直感に従い、咄嗟に岩陰に飛び込むという俺の下した判断は、幸運にも一寸先の俺の命をつなぎとめるという結果を生んだ。
そして――。
太陽が落ちたのではないか、そう思わせるような熱波が、視界を埋めつくす朱色の閃光と共に岩越しに伝わってくる。噴き上がる炎に呑まれて森が、草木が、空が、全てが灰燼と化す。
俺が隠れた大岩も一瞬にして、その体積のほとんどを蒸発させボロボロと崩れ落ちて行く。もしも直接あれを喰らっていたら、こうなっていたと思うとゾッとする。だが、足を止めるわけにはいかない。いつまた第二波が来るか分からないのだ。
俺が再び走り出した後に、耳を劈くような爆発音が連鎖的に鳴り始めた。そして、遅れて届く衝撃波は大地を割り、かろうじて形を保っていた岩石が爆破の風圧に乗り、破砕岩となって降り注ぐ。"りゅうせいぐん"を思わせるそれに被弾しなかったのは奇跡と言ってよい。
地響きや爆発の衝撃に足を取られながらも這這の体で走る。熱を帯びた空気に肺を焼かれるような錯覚を覚えながらも、未だ炎の立ち上る箇所を避け、沸騰する地面を踏まないように気をつけながら、生を求めてひたすらに走る。
もはや振り返ることはできなかった。周囲で燃え盛る炎はその勢いを弱めることなく燃え続け、目に映るもの全てが紅に染まっていく。
正しく地獄絵図。これを引き起こしたのが、ただの一匹のポケモンだと誰が予想できるだろう。いや、あれはそもそもポケモンという枠に収まるようなものではなかった。もっと悍ましいあれは一体……。
理解してはならない真実へと辿り着きそうになった俺を引き戻したのは、またしても熱だった。先程までの思考を振り払うように俺は自らの頬を叩き、無心になって走り始める。
最初に目覚めた森を抜け、焼け落ちた草原を駆け抜け、ガブリアスの現れた岸壁の向こうを目指す。そして、黒い剥き出しの岩肌に手をかけ、途中何度も落ちかけながらも決死の思いで登り続ける。岸壁を登り切れば、あとは向こう側へ勢いよく飛び込むだけだ。
「はぁ、はぁ。これで……あとは!行っけぇぇぇぇええ!!!」
そう叫び声を上げながら強く岩肌を蹴り、前方へと思いっきり飛び込む。そして眼前に広がっていたのは、まるで獲物を捕食する肉食獣かのように大口を開けて俺を歓迎する雄大な自然の姿だった。
パルデアの大穴――前世で全体マップが公開されてから食い入るように眺めていたそれが、現実のものとなって俺を迎え入れた。
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「あああああああ、落ちるぅぅぅ!!!死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬぅぅぅ!!!今度こそ本当に死ぬぅぅぅ」
現在進行系で俺の身体に直撃するのは、吹き荒れる風と圧倒的浮遊感だ。誰もが一度は冗談で口にする紐なしバンジーの真っ最中である。
結果的に勢いよく投身自殺をかましたわけだが、先程までのいつ死んでもおかしくない地獄と比べれば、死ぬまでの猶予時間のある今の方がまだましな状況だ。
だが残された時間は少ない。早々にこの危機的状況を打開しなくてはならない。
目の前に広がるは、視界にすら収まりきらない程の大穴だ。事前公開されていたイラストと同様に、穴の底には厚い雲が掛かっているため下の状況を確認することは出来ない。そして、大穴を囲うようにして高い岸壁が垂直に起立しており、落下中にここへ手を掛けようものなら一瞬でミンチになること間違いなしである。
下から吹きすさむ風が寒い。目を開けているのがやっとな程だ。だが、落下する身体は今も勢いを増し続けており、下へと到着する時間が刻一刻と迫って来ている。
俺は分厚い雲の層を突き抜け、目下には段々に折り重なるようにして構成された豊かな緑が広がっている。いやはや絶景だ。
あ!あそこにいるのはウルガモスだ!いやー、あんなレアポケモンも普通に生息してるか。すごいなパルデアちほーは。
おー!みたことないフラミンゴみたいなポケモン*1もいるぞー!すごーい。
……いや、分かってはいる。現実逃避をしている場合ではないと。確かに、そのための手段にも一つ当てがある。だが、できればそれに頼りたくないのが実情だった。
俺の腰には現在4つのモンスターボールが装着されている。そのうちの1つは先程投げ飛ばしたはずなんだが、どういうわけか、いつの間にか腰へと戻って来ている。恐ろしいことこの上ないが、今は目をつむる。
まず、あの炎っぽい恐ろしいポケモンを再び世に出す訳にはいかないため――今度こそ俺諸共灰燼になってしまう――必然的に選択肢は3つに絞られる。正直、先程の例もあり、どれを選らんでもあまり良い結果にはなりそうにないが、背に腹は代えられない。
「えーい!ここは賭けだ!どれを選らんでも確率は3割ちょい。なら!一撃必殺当てるのと同じじゃあああああ!!!」
俺は覚悟を決め、腰に装着してあったモンスターボールのうちの1つを投げ飛ばす。俺の願いが通じたのか、先程のポケモンとは違い、繰り出した瞬間に放たれたあの存在感はない。
だが――激臭。ボールが開閉した刹那、俺の鼻孔をいっそ殺人的な程の悪臭が貫いた。そして、ボールから現れたのは不定形な青黒い靄。だが、どこから見ても角張って見えるような不可思議な形状をしており、曲線的な部分が存在しない。
何より特筆すべきこととして、見ているだけで生理的嫌悪感を掻き立てられるような悍ましい姿形は、見る者の正気をも刈り取ることだろう。この世に存在するどんなものよりも醜穢なその姿は、正しく不浄の体現者だ。
▽
うげぇ。気持ち悪い。生ゴミを何年も放置して発酵させたような悪臭も然ることながら、そのフォルムがヤバい。
絶対にそうはならないはずのものを無理やり枠に押し込めて作った醜悪な現代アートのようで、その姿はかろうじて犬のように見えないこともない。だが、余りにも歪で気持ち悪過ぎる。これを創造したものがいるのなら、そいつの感性は"あくうせつだん"で吹き飛んでしまったのだろう。おのれ邪神アルセウス、またしてもお前か。*2
「
あまりの激臭に思わず鼻を摘みながら、俺は目の前に浮かぶ醜悪な犬へと指示を飛ばす。こんな見るに堪えない見た目でも、一応は俺の手持ちだ。トレーナーの俺が信じなくてやらなくてどうするというのか……とは言え、臭いものは臭いというのもまた事実だ。
一応は意思疎通が出来たのか、醜悪な犬は口にあたる箇所から鋭く尖った触手で編まれた舌を俺へと伸ばし、勢いよく巻き付ける。すわ捕食か!?と身構えたが、どうやらそうではないようだった。犬モドキは俺を口に抱え、まるで空中に足場があるかのように空を駆け、やがて地面へと降り立った。
そして地面へと降された俺が目にしたのは、広大な縦穴に生息する数多のポケモン達の息遣いと、それを彩る色彩豊かな自然が織り成すパルデアの秘境――エリアゼロと呼ばれる独自の生態系を持ったこの地方有数の危険地帯だった。
「すげぇ、あの雲の下ってこんな風になってたのか!」
目の前の光景に思わず感嘆の声が漏れる。だが、それと同時に込み上げてくるものがあった。飛び込んで来た光景に対する興奮も冷めやらぬまま、俺は盛大に嘔吐した。
仕方ないんだ。だって想像を絶するレベルで臭かったんだよ。むしろ降りるまでよく耐えたと、俺は自分を褒めたい。
そんな誰に対するものでもない言い訳をしながら、俺の冒険は幕を開けた。
――ちくしょう。
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結論から言おう。迷った。
決意を新たに意気揚々と冒険に繰り出したところまではよかった。だがそこからが問題だった。そもそも目的地を決めていなかった。
先程のガブリアスの件もあって、最初はその辺を闊歩する野生のポケモンにビビりながら歩いていたが、それは杞憂だったと直ぐに判明した。
不幸中の幸いと言うべきか、あの激臭犬モドキの残り香が俺の身体中にべったりと染み込んでいたせいで野生のポケモンが寄り付かないようだった。
そんな臭いか?と思わくもなかったが、確かに臭い。あの死体安置所のような臭いは、鼻が利くポケモンにはさぞきついことだろう。南無阿弥陀仏。
そんなこんなで安全が判明してからの俺は自由だった。知らないポケモンを見かければ近づいて行って逃げられたり、現実では初めて見る木のみの味に舌鼓を打ったりした。他にも落とし物拾いに夢中になっていた。
その成果物として、"ひかりのいし"や"いいキズぐすり"を拾うことができた。モンスターボールが拾えなかったのは残念だ。だが、その他にもさまざまなきのみを拾うことができて俺としては大満足だった。
だが、そんなことをしているうちに日は傾き始め、宛もなく大穴の中を散策していたため俺は迷子になったのだった。そもそも帰り道もないため、迷子と言ってよいかは微妙でもある。
帰り方の候補としては大穴の壁を頑張って登るか、飛行して地上に戻るかのどちらかではあるが、どちらを選ぶとしても自力では無理だ。いくら臭いとは言え、空に生息するポケモンに襲われないとも限らない。
帰るには再び手持ちのポケモンに頼らなくてはならないが、極力避けたい選択肢だ。なんかこう、あいつらを見ると心が擦り減るような感覚がするんだよな。
という訳で、取り敢えずの目標としては落ちてるモンスターボールを拾い、レジェンズさながらのバックスタブで飛行可能なポケモンを捕獲することだったのだが、現実はそう上手くはいかないらしい。そもそも近づくとあいつら臭いで逃げるし。
そして現在の俺はと言うと、森のなかでキャンプをしていた。夕方から大急ぎで集めた材料を使って即席で行っているわけだが、これがなかなかに快適だ。
水を汲みに行ったときに川に偶然居合わせたチルットが落とした羽根や、その辺を漂ってたワタッコが落とした毛で作ったベッドはふかふかで非常に寝心地がよい。もしかすると、俺の人生のなかでも一番の寝心地かもしれない。地球に居たら乱獲されること間違いなしだ。
どうするか悩んだ火についても特に問題はなかった。最初は摩擦で火を点けようとしたが、素人にできる代物ではなく、ものの数分で諦めた。ではどうしたのかと言うと、これまたポケモンの素材を利用させてもらった。
たまたま見つけたヤヤコマの巣から拝借した羽根は、どうやら可燃性のものに擦り付けることで火を点けることができるようで、焚き火をするのに役立ってくれた。
パチパチと音を立てて燃えている焚き火の周りに、俺は先程大量に拾ったきのみを棒に刺して置き、程よい焼き加減になるのを待っている。
これも先程散策をしていた際に分かったことだが、こちらの世界のきのみは地球のものとは異なり、少し食べただけでも身体中に活力がみなぎるようだった。まぁ、食べるだけであそこまで体力を回復させる仕様を考えれば、当然と言えば当然だ。
加えて、チーゴのみが見つかったのは僥倖だった。先程の一件で全身の至るところに火傷があったが、これも一口実を食べるだけで、みるみるうちに回復した。しばらく口の中に苦味が残ったのだけが難点だが、その効能は申し分ない。
ところで疑問に思ったんだが、俺はこれから肉を食べたいと思ったときにはポケモンを食べるんだろうか?ヤドンの尻尾はガラルではカレーに入れるくらい一般的なものらしいし、アニメではコイキングを食べようとしていたが、果たして大丈夫なんだろうか。
どうやらポケモン世界の闇に触れてしまったらしい。これ以上考えるのは、怖いからやめておこう。
そんな阿呆なことを考えていると、草木を掻き分け、こちらへと近づいて来る足音が聞こえた。きのみを焼く匂いに釣られて野生のポケモンが来たのだろうか。
もしものときを考えると形振り構っていられないため、万が一に備えて俺はモンスターボールを構える。いざというときは、再びこの世に地獄を顕現させることも辞さない覚悟である……と言いたいところだが、流石にそこまでの覚悟はないため、あの犬モドキのボールを手にしている。
そして草陰を凝視していると、そこから現れたのは亜麻色の髪を肩くらいまでに伸ばした少年だった。
「おいおい、森がバーベキューになってると思って来てみたら……こんなところに子供一人で来るとか、オマエ悪い子ちゃんかよ?」
レザンは てもちの クトゥグアを もくげきした!
レザンは こんらんしている!
1D20の しょうきど そうしつだ!
レザンは いちじてき きょうきに おちいってしまった!
レザンは わけも わからず にげだした!
CoC7版のクトゥグアの能力値を無理やりポケモンのステータスに割り当てると、このようになります。
クトゥグア
HP(SIZ):130 こうげき(STR):400 ぼうぎょ(CON):600 とくこう(INT):105 とくぼう(POW):210 すばやさ(DEX):105
合計種族値:1550
タイプ:あく、ほのお
とくせい:コズミックホラー
うちゅうてき きょうふで じぶんいがいの とくぼうが よわくなる。1D3 または 1D20の しょうきど そうしつ。