▽たんさくしゃの あなたは クトゥグアを くりだした! 作:ネスター派
いつも誤字報告してくださる方々、本当にありがとうございます。
1. 頂点
昔々あるところに、収集家の王がいたという。王は珍品を集めることに熱心であり、異国の宝物を好んだ。
ある日、その噂を聞きつけ、東方から一人の商人がやってきた。その商人は祖国から持ってきたという四つの宝物を王の前へと並べた。
並べられたのは、器、剣、木簡、勾玉の四つの品々。王は大変興味を惹かれ、商人に莫大な富を与え、これを譲ってもらったという。
それらの宝物は不思議な魔力を持っており、王の底無しの欲望にあてられたことで、ついには厄災となって暴れだしてしまった。
厄災の一つは、一日にして国の大地を割った。
厄災の一つは、一日にして国を冬へと変えた。
厄災の一つは、一日にして国の緑を奪った。
厄災の一つは、一日にして国の都を焼いた。
王は高名なポケモン使いを呼び、激闘の末に災いを収め、これをパルデアの地のどこかに封印したという。
おとぎ話はここで終わっている。だが、この話には歴史から葬り去られ、人々の記憶からも忘れられた続きがあるという。
――以下ゲート団本部、旧オレンジ宮殿内禁書庫に保存された未開示歴史公文書より抜粋
かつてのパルデア王国は呼び寄せてしまった四つの災厄によって疲弊し、国王の権力は衰え、もはや国としての形を保つこともできなくなってしまったという。
そして王は国を四つに分け、自身の子供達をそれぞれの国の王に据え、最も強きものが再び国を一つに平定せよ、と言い残したという。そして、収めた厄災の力を四つの国の王達へと分け与えたことで、パルデアの地に戦国の時代が訪れた。
やがて数十年の時が流れ、四つの厄災の力を束ね、分裂した国を一つに平定した覇者が現れた。その王は苛烈かつ貪欲であり、かつての王国の土地だけでは満足せず、戦火は拡大の一途を辿った。
そして、周辺の国々をも呑み込み尽くし、王はその名を捨てて自らを皇帝と名乗り、以後1000年に渡って繁栄を謳歌したパルデア帝国を築いたという。
その時より厄災は皇帝の力の象徴であり、また皇帝にしか制することのできない諸刃の剣でもあった。そのため、皇帝選定の儀はその血を引く者達を殺し合わせ、最後に生き残った者を次代の皇帝として戴いたという。
そして時は流れ、ある代の皇帝よりパルデアの大穴に眠るという財宝を求めていたずらに富を浪費し始め、隣国との戦争を経てパルデア帝国は瓦解したとされている。
四つの厄災も長い歴史のなかで、いつしかその姿を消しており、現在に至るまでその存在は確認されていない。
▽△▽△▽△▽
「陛下、もう間もなくご到着となります」
現在、俺がいるのはテーブルシティと呼ばれるパルデア地方最大の学園都市。街は活気に満ちており、ヨーロッパのような煉瓦造りの街並みが特徴的だ。
そして、街の中央にそびえる城のような建物がオレンジアカデミーであり今回の俺達の目的地だ。街ゆく人々の奇異の目が突き刺さるも、今となっては全く気にならない。
ゲート団とかいう訳の分からない組織に身を置いてから早3年の月日が流れ、こういった光景ももはや日常茶飯事である。俺を取り囲むのは、相変わらずの黒い祭服に不可思議な仮面を付けた不審者集団であるため、街の人々の気持ちも分からなくはないが。
前世では画面越しにしか見ることのできなかった憧れの街に訪れたことで、俺は内心興奮気味ではあるが、今優先すべきは仕事である。権威付けのためだか何だか知らないが、ことある毎に組織のボスとして各所のお偉いさんの元へと引っ張り出されているのだ。
面倒くさいことこの上ないが、最高レベルの衣食住を保障してもらっている以上、最低限は働かなくてはならない。俺は少し憂鬱な気持ちになりながらも、アカデミーへと続く阿呆みたいに長い階段を上って行く。
そしてようやく最後の段を越えると、側仕えのうち二人がエントランスへと続く大扉を両側から開き、俺をなかへと招き入れる。
アカデミーの内装は見たところゴシック様式であり、おそらくは大理石と思しき石材を用いた柱が曲線を描き、広い天井を支えている。だがそれでいて絢爛というよりも静謐という言葉が似合うこの建物は、正しく知を探求する学び舎という言葉が相応しい。
入って直ぐの正面には大きな書棚が待ち構えており、その前には受け付けと思しき場所が備えられている。側仕えの一人がそちらへと赴き何かを話しているが、その間の俺は非常に暇だ。
何をするでもなくぼーっと辺りを見ていると気づくことがある。突然の珍客に驚いたり、怯えたりしている生徒達が遠目にこちらを指差し、近くの者同士で何やらコソコソと話しているのだ。
少し居た堪れないような気持ちにもなるが、今の俺に抜かりはない。基本的に外出の際には、他のゲート団の団員達と同様に、俺も変な仮面と祭服を身につけているのだ。
ただ少し違う点と言えば、俺の祭服は特別製のようで、白銀の糸を使って編まれており、近くで見るときらきらと光っていることだ。加えて、頭にも銀色の花冠のようなものを被っているため、この珍妙な集団のなかでも一際目立っている。
そんなことを考えていると、受け付けの方ではようやく話がまとまったようで、俺達はアカデミーの職員に連れられてどこかへと案内される。
アカデミー内をもっと自由に見て周りたいところではあったが、俺達は大人しく案内に従って歩いて行き、たどり着いた部屋の扉には『校長室』の文字が刻まれていた。
「それではあとの話は、校長と話し合っていただければ……」
そう言い残し、案内役の職員はそそくさとその場から立ち去ってしまう。そして、満を持して校長室の中へと入れば、中央にある品の良い机の上で手を組み椅子に腰掛けている一人の人物がいた。
それは幸の薄そうな男だった。前髪が後退しかかった白髪混じりの髪に、眉間には加齢による皺があり、黒縁の四角い眼鏡を掛けている。おそらく、この覇気のない人物こそが校長なのだろう。
「えぇー、あー……ゲート団の皆さん、本日は遠いなか本校にまでよくぞお越しくださいました。私がオレンジアカデミー校長のイヌガヤと申します。さっそくですが、その、ご要件というのは……?」
見た目と同様に、発言にもどこか自信のなさが表れているように感じられる。テロリスト集団を前にした一般人の反応としては正しいのかもしれないが、校長というにはあんまりな人物である。
それとは別に、今更ながら俺はここに来た目的を知らない。聞かされていなかった訳ではないが、それを伝えてきたのはイドラであり、その時の俺は絶賛トリップ中であったため、その内容を全く把握していないのだ。
「今回我々がここまで来たのは他でもない。以前より通達していた立ち退きの件だ。これ以上の猶予を与えることはできない。……そこでゲート団は、現時刻を持って即刻このアカデミーを我々に明け渡すことを要求する」
なにそれ聞いてない。アカデミーの明渡し?何だそれは。どうやら俺が想定していた以上に、事態は明後日の方向に進行していたらしい。
そして、イヌガヤとかいう校長も深刻そうな顔で下を向き何やら唸っている。万が一本当にアカデミーを占領できたとして、俺の組織は一体何をしようと企んでいるのだろうか。謎は深まるばかりだ。
「……致し方ありません。そちらの組織からは沢山のご支援を受けている以上、私にはその要求を断ることなどできません。承諾しましょ――」
イヌガヤがそう返答をしようとしたところで、突然ドアがバタンと開き、後ろで手を組んだ女性がコツコツというヒールの音を鳴らしながら部屋へと入ってくる。
「お待ち下さいイヌガヤ校長。そのお話、アカデミー理事長である
そう言って、俺の前を通り過ぎていったのは黒い礼服に身を包んだ浅黒色の肌の女性だった。黒檀のように黒く、所々黄色のメッシュの入った途轍もなくボリュームのある髪型が特徴的であり、その威風堂々とした佇まいからただ者ではないことは明らかだった。
「貴様、陛下の御前を横切るなど、何を考えている?」
側仕えの一人が憤るが、オモダカと名乗ったその女性は意にも介さずといった様子でこちらを見遣る。
「おや、ごきげんよう。貴方が噂のゲート団の……なるほど。失礼、申し遅れました。私はこのアカデミーを運営している理事長のオモダカと申します。貴方のお名前を伺っても?」
また側仕えが何か言おうとするが、俺はそれを手で制し、オモダカへと向き合う。不思議な人物だ。今までに出会ったことのないタイプの人間である。人の上に立つカリスマ性というのだろうか……そのようなものを感じる。
「……レザン」
俺がそう短く答えるとオモダカはにっこりと微笑み、こちらへと手を差し出してくる。俺がそれに応えれば、彼女はその笑みを深め、再び話し出す。
「ええ、よろしくお願いします。それでアカデミーの明渡しでしたね……残念ですが、それを承諾することはできません。ここは学び舎、なくなってしまえば私や生徒の方々も困ってしまいますもの」
正直、俺個人としてはアカデミー明渡しなど非常にどうでもいい――というより、意味が分からない。だが、これが他ならぬイドラが伝えてきた案件であるため、失敗すればどうなるか分からない。
なんとしてでも成功させるべきだろう。俺がそんな風にある種の決意を込めて口を開けようとすれば、それよりも早くオモダカが言葉を紡ぐ。
「貴方々にも何か事情があることでしょう。そこで、ここは一つポケモン勝負で決めてはいかがでしょうか?見たところ貴方も私もポケモントレーナー、せっかくの良い機会です」
一体何がせっかくだというのだろうか。だが、俺にも引けない事情がある。受けて立とう、その意思を込めて俺は仮面の下でうなずいた。
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校長室から場所を移し、俺達が現在居るのはアカデミー敷地内にあるバトルコート。その中央で俺達は向かい合い、最後の確認を行なう。
「ルールは一対一のシングルバトル。道具の使用や持ち物を持たせるのは禁止。……これでいいか?」
「ええ、それで構いません。それと一つ確認を忘れていました――」
オモダカは一度、そこで言葉を区切る。そして真っ直ぐに俺の顔を見据え、続きを口にする。
「この勝負、勝利した方が相手の要求を一つ飲む……これでいかがでしょうか?」
「なるほど。こちらとしてはそれで大丈夫だ」
そう答えれば、彼女は再びにっこりと笑った後に俺へと背を向け、バトルコートの端へと歩いて行く。俺とそれに合わせて規定の位置にまで歩んで行けば、背中越しに声をかけられる。
「実は私、アカデミー理事長の他にもポケモンリーグのトップチャンピオンも兼務でやらせていただいておりまして……ポケモン勝負には一切の妥協ができないのです」
とんでもない爆弾が落とされた。トップチャンピオン……おそらくはこの地方のチャンピオンということだろうか。しかも手抜きは一切しないときた。
なるほど、たが相手にとって不足はない。こちらも伝説のポケモンもびっくりの化け物使いだ。むしろ丁度よいレベルの相手である。
「それでは、ご準備はよろしいでしょうか」
「……ああ」
俺達はあらためてお互いに向き直り、モンスターボールを構える。オモダカはこちらへと手を差し向け、問いただすようにして告げる。
「貴方の才……見定めさせていただきます」
▽トップチャンピオンの オモダカが 勝負を しかけてきた!
『しろがねのかかん』
古くはパルデア帝国の皇帝が身につけていたとされる白銀の冠。オレンの実の花を模して作られたという。
かつて初代オレンジアカデミー学長はこう言い残した。「知恵を欲するものよ、汝オレンジを食べよ。されど未知を恐れたまえ」
ポケモンに持たせると特攻が上がるが、特防が下がってしまう。
白銀を素材としたそれは、時代を切り開く鍵を意味するものであり、全てを統べる王の象徴であった。
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Q. レザン君、なんかこの前までと雰囲気違くない?何があったの?
A. ……きっと夢でも見てるんでしょう(すっとぼけ)