▽たんさくしゃの あなたは クトゥグアを くりだした! 作:ネスター派
リアルで試験があるので、しばらくは投稿ペースが落ちます。申し訳ありません。
ゲート団に身を置いてからの三年間でいくつか分かったことがある。まず、俺の
そもそもポケモンなのかという疑問は置いておくにしても、既存の枠組みに囚われないウルトラビーストのような立ち位置にいることは間違いない。確認できている3匹だけでもその危険性は計り知れない。
伝説のポケモン――というよりも、神話に登場する生き物のような超常の存在だ。その有り様は常識の埒外にあり、人知を超えた未知の法則のもとに存在するため、視認するだけでも精神を大きく傷つけることになる。
もっとも単純にグロテスクであったり、見るに堪えない様相に生理的嫌悪感を覚える場合も多い。ものによっては酷い腐敗臭までするのだから、あまり好き好んで近づきたいとは思わないだろう。
そして、これが俺の最も気にしている点なのだが、図鑑と説明が違うということだ。
俺はいったい何を使役しているんだろうか……。そう天を仰いだ回数は数しれない。全く持って謎であるが、世の中には知らないことの方がよいことも多いのだ。
そもそも使役と言ったが、俺の手持ちのほとんどが言うことを聞かない。トレーナーとしてのレベルが足りないとか、そういう話ではなく、単純に人間という種族のスペックの問題だ。
まず
だが、それはキズナなどというものでは断じてない。そこにあるのは、どちらが相手を精神的に屈服させられるかの戦いである。勝てば支配し、命令を下すことができる。だが、もしも負けてしまえば、
そして当然のように、神如き精神性を持つ相手に貧弱な人間の精神力で勝てるはずもなく、精神勝負が始まった時点で押し切られ、支配権を手放す羽目になる。そうなれば、その
そして唯一というべきか、若干他よりも格落ちする
だが、あくまでも可能性があるだけであり、確率としては半々といったところだ。それでも俺にとっては非常に強力な手札だ。コントロールの利かない破壊兵器と比べてれば、使い方次第でいかようにもなる。
つまりは、まともな勝負をするのなら
▽
宙へと舞ったモンスターボールからは赤い閃光が迸る。それに紛れるようにして青黒い煙のようなものが噴き出し、場を死臭のような酷い腐敗臭が埋め尽くす。
それはゆっくりとその形を凝固させ、おぼろげながらも徐々に一つの姿へと変化してゆく。何処から見ても曲線と思しきものがなく、ただ鋭角のみが存在する不気味かつ悍ましい様相。
溶け落ち煮詰められてゆくかのようにドロドロと形を変え、一旦は液状となったそれは、地獄から這い上がろうとする亡者のように手を伸ばさんとする。
煙を引き裂いて飛び出したのは、痩せ細った獣の前足だった。刃毀れした刃のような爪を持ち、その間からはどす黒く濁った液体が溢れ出ている。
そして、それに続いて幽鬼が現世へと降り立つかのように、ゆらりとその姿を顕にする。鋭角のみで構成された幾何学模様を描いたような体表は、およそ生というものを感じさせず、死蝋のように溶け出している。
そのなかには、所々抉られとったように陥没した箇所が存在し、張り付いた皮膚を貫通して鋭い骨が剥き出しになっている。それと同時に青みがかった脳漿のようなものを滴らせるさまは、見る者に不快感を与えることだろう。
遠目に見れば、そのシルエットは痩せ細った狼のように見えるかもしれない。だが現実としてそこにいるのは、あまりに悍ましく、神秘的な不浄の体現である。
およそ口にあたる箇所から漏れるのは、死体安置所のような臭いを醸し出す腐敗の息だ。そして人の胴体ほどの太さを持ちながらも、鋭く伸びた注射針の如き舌は、不気味に蠢く大蛇のようである。
瞳には深い執念が宿っており、決して獲物を逃すまいという意志が垣間見える。それは正しく捕食者のものだった。絶えず飢え、時空を越えて獲物を付け狙う猟犬――
▽△▽△▽△▽△▽
「……想像を優に超える。なるほど、若き才能というのは恐ろしいものです」
オモダカの声は僅かに震えているように感じた。だが、彼女はグローブを一度握り直すと、真っ直ぐにこちらを見据えてくる。
そして、投げられたボールから繰り出されたのは、鮮やかな青い花のようなポケモンだった。黒い半透明な結晶のような顔には黄色の目がついており、それを青や水色の花弁が取り囲んでいる。
見たことのないポケモンだ。植物めいた姿から察するに、タイプは草・エスパー辺りだろうか。あまり素早さは早くなさそうだが受け寄りのポケモンなのか、或いは……。
「ぜひ
俺が思案していると、オモダカから挑発めいた言葉が飛んでくる。……面白い。トレーナー戦はこれが始めてだが、圧勝するつもりで挑ませてもらおう。
「
俺が開口一番に出した指示――もとい命令にオモダカは訝しげな表情を浮かべているが、これでいい。まず何より優先すべきは、こいつの支配権を握ることだ。
いいから言うことを聞け、という意志を込めて猟犬へと精神的な繋がりを通じて訴えれば、猟犬はギロリとこちらを睨みつけてくる。だが今回は珍しく、それ以上抵抗することなくすんなりと受け入れられた。
「それでは私の方から行きましょうか。キラフロル、“ヘドロウェーブ”!」
オモダカは薄く笑みを浮かべながら、キラフロルと呼ばれた花のようなポケモンへと指示を下す。その瞬間、キラフロルは閉じていた蕾のような状態から、花弁を開くようにして後ろを向き、顕になった水色の結晶のような花弁にエネルギーを貯める。
紫色の光が満ち、花から雫が溢れるようにして、一滴の毒々しい液体が地面へと落ちた。そして、落下した箇所を中心にして毒の波が周囲へと伝播する。
「……空中へ避けろ。その後は隙を見て“したでなめる”」
押し寄せる毒の波を前にして、猟犬は宙へと足を掛ける。そして、まるでその場に足場があるかのように軽やかな動きで空中を駆けてゆく。
キラフロルとの彼我の距離が狭まった頃合いを見計らい、俺は精神の繋がりを通じてタイミングを伝える。猟犬は鋭く尖った舌の切っ先をキラフロルへと向け、勢いよく口から射出する。
“したでなめる”と銘打ってはいるが、その攻撃は明らかにその範疇にはない。そもそも俺の持つ
それならば、どうしてポケモンの技が使えようか。ポケモンの技はPP――ポケモンパワーを消費して繰り出すものであるため、残念ながら俺の持つ神話生物は使うことができない。
だが、それがどうしたというのか。通常の攻撃であろうともその威力は絶大。猟犬の持つ鋭利な舌が、人間では視認不可能な速さで迫ってゆく。回避不能――俺は間違いなくそう確信していた。
衝撃音とともに地面を抉り、砂埃が舞い上がる。そしてそれが晴れた先では――無傷のキラフロルが悠々と宙を泳いでいた。
ありえない。トレーナーの指示もなく、いったいどうやって……?俺の脳内をそんな疑問が埋め尽くす。だが、思考を止めるというのは、勝負においてもっとも避けなければならないことだった。
「キラフロル、“だいちのちから”で叩き落としてしまいましょう」
俺のミスを咎めるようにして、オモダカは無情にもそう告げる。舌を地面へと突き刺した状態で、空中で無防備な姿を晒していた猟犬の真下から地面が隆起する。
大地が噴き上がり、岩々が巨大な礫となって猟犬へと襲いかかる。それを抵抗すらままならない状態で受けた猟犬は地面へと落ちてゆく。
もしこれがゲー厶であれば、お互いに番手を守り、じっくりと思案した上で行動を選択することができただろう。だがこれは現実である。ターン制などというものはもはや存在せず、目まぐるしく変わる状況に応じて適切な判断が要求されるのだ。
「先程の技は素晴らしい威力でした。ですが、まだ少し甘いところがありますね」
パチパチと軽く拍手をしながらオモダカは告げる。俺はその言葉がひどく責めているようなものに聞こえた。トレーナーとポケモンの実力が見合っていない。おそらくはそう言いたいのだろう。
「技はこのようにして放つのです。頂点を感じてください」
オモダカの言葉に応じて、再び毒の波が押し寄せる。彼女はこちらを見定めるようにして見つめながら、悠然と高みから見下ろすように微笑んでいる。
……ふざけるなよ。あまり見縊られても困るのだ。先程はあくまでも小手調べに過ぎない。彼我の実力の把握は済んだ。ここからが俺の本気、今まで培ってきた知識の全てを投じて――頂点を穿つ。
ティンダロスの猟犬
HP(SIZ):85 こうげき(STR):80 ぼうぎょ(CON):150 とくこう(INT):85 とくぼう(POW):120 すばやさ(DEX):50
合計種族値:570
タイプ:あく、こおり
とくせい:コズミックホラー
うちゅうてき きょうふで じぶんいがいの とくぼうが よわくなる。1D3 または 1D20の しょうきど そうしつ。
──────────────────────
『ぎんしのローブ』
白銀の糸で編まれた外套。魔除けの力を持つと信じられていたそれは、今となっては邪悪な気配を帯びている。
ポケモンに持たせると、相手の技を受けたときに相手の特防を下げることがある。
夢の魔女が手ずから編んだそれは、甘く幸せな夢のように包んだ者を放さない。いつまでも、いつまでも。彼女が満足するその時までは。
──────────────────────
次の投稿日は一週間後の1月17日になります。次回は【分岐点2】になるので、また選択肢を用意させていただこうと思います。よろしくお願いします!