自分に自信がない最強パーティーメンバーが辞めたがる件   作:白石基山

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13.サン・ブリジビフォア祭①

 『白獅子』の面子は王都に入った段階でレオと離れていた。魔族混じりのマジクは人混みを怖がる為、王都ではスズが自身出身の孤児院に連れて行くのでシルもそれに着いていった。レオには「儀式は遠くから見てますので」と言ってある。

 

 『蒼麒麟』レイラもレオと二人でクルスの護衛役を務める事になっているので教団と王家、そして国の力の象徴たる『五龍』最強の一格『白獅子』の友好を全国民にアピールする場となる。

 

 祭りが始まり、祭りのメインイベントである聖女の舞の時間に近付いた。複数の鐘の音が、王都に鳴り響く。ゆっくりと開かれた王都の正門から正装を身に纏った『聖女』である『朱天狐』クルスと、その後ろから純白の鎧と表地が白色、裏地が朱色のマントを身に付けた『白獅子』レオ、拳闘士スタイルに蒼のマントを身に付けた『蒼麒麟』レイラの二人が現れ、メインストリート直線にメイン広場まで敷かれている赤絨毯を歩き出した。

 

 白。穢れなき神聖な色。物体が全ての波長を一様に反射する最も明るい色。祭りを大地が祝い、祝福を注ぐような眩い日光が照らし出す純白の鎧とマントを身に付けた『白獅子』は、今回の主役である聖女に劣らない注目を集めた。

 

 

「あのマント……裏地が朱色?」

「え、ウソほんと?」

「お似合いじゃん」

「おいおいマジかよ大ニュースじゃん」

 

 

 一部の人間が『白獅子』の装いを見て、少し騒ぎ出す。その様子を人混みを避け建物の屋上からマジクとスズの二人が眺めていた。

 

 

「あっ、クルスさん今こっそり笑った」

 

「やってやった! とか思うとるんやろうなあ」

 

「スズ、あのマントどういう意味がある?」

 

「貴族ってな、家それぞれに家色ってのがあるんや。で、婚姻の際に纏うマントは男側の貴族の家色が表地、女側の家色が裏地のマントを身に付けるっちゅうのが決まりであってな」

 

「でもレオ貴族じゃないよ?」

 

「貴族の家色にも例外はあってな。『五龍』それぞれの色は、例え王家であっても更に優先する色とされるんや。だからレイラ様も今『蒼』のマントを付けとるし、普段ロサリア様が『黄』のマントを付けとるのもそういう事や」

 

「ふーん。……あっ」

 

「そっ。全国民が王都に祭りを見に来とるこのタイミングで「レオと私は特別な仲です」アピールをしとる訳やな。この祭りを取り仕切っとるのは教団やし教団も折り込み済みって訳やろうなあ。知らんのレオっちだけやろアレ」

 

「へー」

 

「でもレオっちもマジクと同じく「俺貴族じゃないし」くらいに思うとるんやろうなあ。で? マジクはええんか? レオっち取られるかも知れんで?」

 

「だってレオにクルスさんどう思ってるか聞いた事あるし」

 

「……なんて言うてたん?」

 

「すげぇ可愛いゴリラ」

 

「……あれでも可愛いとは思っとるんやなぁ。不敬不敬っと。まあ、クルス様なら笑いながらレオっちをブッ飛ばすか」

 

 

 クルス様、気安い関係を求めとるもんなとスズは遠くから眺めながら呟いた。マジクもスズが買ってきてくれた出店の食べ物をハムハムと食べながら一緒に見ている。

 

 

「シルは?」

 

「シルならもうちょい近くで見てくる言うとったで」

 

 

 しっかし。やっぱレオは表の、それも国の顔になる人間なんよな。うち、一緒におるんやっぱまずいよなあ……と、スズがいつもの思考に入るのは平常運転である。

 

 

「そういやクルス様、「教団のガス抜きに協力しろ」とか言っとったな」

 

「それであのマントなんでしょ?」

 

「それもあるけど……多分、貴族側と教団側の戦争の代わりを用意したんやな」

 

「代わり?」

 

「ん。ようはレオっち争奪戦、やな」

 

 

 レオっちそういうのほんま興味ないからな。興味ないから良いってのもあるんやろうけど、あんまやり過ぎるとうちらも怒るからなと、スズはクルスにシラけた目線を送っていた。

 

 

 

 

 

「やっぱ人多いな」

 

「だな。この日は国中が楽しみにしている日だからな」

 

「聖女の奇跡、ねえ」

 

「なんだ見た事無いのか?」

 

「祭りのって事? あるよ」

 

「祭り以外もあるって事か?」

 

「そりゃあ首が千切れても即座にくっ付くなんて奇跡だろうさ」

 

「違いないわ」

 

 

 ゆっくりと広場に向けて前を歩くクルスの歩調に合わせながら、目立たぬよう小声でレオとレイラは会話していた。本来、会話をする場などではない。レオを人選したほうが悪い。レイラも、こういうの悪くて良いなと思っている上、表舞台で『白獅子』や『蒼麒麟』を注意出来る人間がいない。

 

 

「二人共、お静かに」

 

「「はーい」」

 

 

 聖女を除いては。そんな三人を近くで見ようと人混みの中に紛れたシルも見ていた。

 

 

「レオ、本物の王子様みたい……」

 

 

 割と本物の王子様であるロサリアを眼にする機会もあるシルだが、レオに関しては目が曇っているのでそんな感想になるのも仕方がない。

 

 

「クルス様ともレイラ様とも、お似合い……私……」

 

「失礼、『白獅子』の付与魔導師だな?」

 

「え?」

 

 

 

 

 聖女が大広場に設置された舞台に上がる。舞台両袖に控えるのは『五龍』の二格。歓声が上がる。皆一様に聖女を讃える。

 

 

(うん、クルスはレオと出会って本当に楽しそうだ。やり過ぎなところはあるけど。俺やロサリア兄様と居る時以外にもようやく自分の居場所が出来たって感じだな。ずっと使命に押し潰されそうだったもんな……。流石は俺の旦那だ)

 

 

 舞台中央に立つクルスを見ながら、レイラは昔を思い出していた。出会った頃は作られた笑顔しか浮かべる事が出来なかったクルス。そんなクルスを笑顔にしようと頑張っていたロサリア。色々無茶やって怒られたんだよなとか考えながら、頑張り過ぎて兄妹みたいになっちゃって男として見られていない兄が少し可哀想になった。

 

 

(ロサリア兄様とクルスなら立場的にもまったく問題無いんだけどなあ。ロサリア兄様が政治を自分から出来るだけ遠ざけた結果、政略結婚の線は無くなってるし。王族なのにロマンチストなんだよな兄様は。人の事言えないけど)

 

 

 王位継承権の序列が低かった為、自由に育てられたロサリアやレイラ。そのロサリアはレイラから見てロマンチストと言える思考に育ったにも関わらず、序列の高い現実主義に育った長兄から三男までがロサリアを王へと推す皮肉。

 

 

(結局どうするのが一番なんだろうなあ。幼なじみの騎士王と聖女ってなれば美談の作りようなんていくらでもあるだろうし、兄様方も考えてそうだけどロサリア兄様が本人の意思を無視するのは許さないだろうし)

 

 

(……無血革命って形でレオを頭に据えちゃうのも有り、かな? 野心ゼロだし……どことも仲良いし……国の運営丸投げしそうだから国の仕組みの変化は無さそうだし……『千年に一度の厄災』から国を救う偉業を達成して『白獅子』を与えられた英雄で国民人気抜群だし……。私がレオの子でも産んじゃえば王族の血は繋がるか……それなら革命じゃなくても良いのでは? で、そしたらロサリア兄様も本当に自由になれるし……クルスもレオ以外にちゃんと目を向けられる……?)

 

(……ありなのでは?)

 

 

 とんでもない事を考え出したレイラが、反対側の舞台袖に立つレオに視線をやる。レオに声を送る女性や子供達が多い。一切興味無さそう、なんなら聖女の舞にも興味無さそうで今日の夕飯しか考えてなさそうな顔でレオは立っている。

 

 

(『白獅子』パーティー全員レオの嫁にしちゃって、んで俺が対外的に正妻って事にすれば後は別にこだわりないし……)

 

(……レミアハート兄様にそれとなく言ってみるか。いや、レオが面倒臭がる壁がデカいか)

 

 

 基本表舞台に興味無いし『白獅子』の授与も無理矢理だったみたいだしなとレイラは舞台そっちのけで思考を巡らせていた。なお、レオも夕飯の事しか考えていないので舞台の事なんて考えていなかった。

 

 

 

(お二人共、こっちの事なんて考えてないみたいですね)

 

 

 そんな二人を舞台中央から見やり、思わず笑みが溢れた。今日付いてくれた二人はクルスにとって自然体で居られる数少ない人間なのだから。

 

 

(少しはあのマントで動揺してくれるかと思ったのですが、まったく動じないのは傷付きますよ? ……といけないいけない)

 

 

 余計な思考をクルスが止めた。手に持つ儀杖を天にかざす。会場が、いや国が静まり返った。場にいる全員が、聖女を見ている。

 静かに。ゆっくりと聖女が踊り出す。昼間であるにも関わらず、はっきりと分かる優しい光が天から聖女に降り注ぐ。スキルでもない。魔法でもない。ただ国の平和を祈る聖女へ、天から祝福の光が舞い降りるのだ。

 

 そんな奇跡を目の当たりにした全員がいつの間にか跪き、聖女へ祈るのだ。

 

 

『神の加護のあらんことを』

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