自分に自信がない最強パーティーメンバーが辞めたがる件   作:白石基山

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42.攫われたセルキス

 シルの魔力の調整、とやらで三日ほどリィナさん宅に滞在。

 その間、雑用は基本全部振られたが、他にやることも特にないので無難にこなす。

 結局調整とやらは何しているのかよく分からなかったが、いつも通り普通に終わったとのことなので問題ないのだろう。きっと。

 

 リィナさんに言われた、俺が『聖女』と『魔女』の宿命をどうにか出来るかも知れないという話についてはどういうことか全然教えてくれなかった。マジで適当言ったなこいつ。

 とりあえず用は済んだので我らのパーティーハウスのあるタオへ帰る。

 スズと合流したら、『聖女』について分かったことの共有とセルキスの捜索のこと伝えないとな。あの翠髪、簡単に捕まるとは思えないけどやるしかないよな。なんてウダウダ考えながら、シルと二人で帰路についたのだった。

 

    ◆

 

「やっと帰った……と思ったらまた客か」

 

 

 二人を見送ったリィナが空を見上げる。

 見知った悪友、というとリィナは怒るだろう。マジクの母であるアークの姿を見つけ、リィナは大きな溜息を吐いた。何やら大きな風呂敷をぶら下げているアークが大きく手を振りながら地上に降りてくるのを、見なかったことに出来ないかなーと頭を抱えたくなるのを我慢する。

 

 

「やっほー! 久しぶり」

「おう、そうじゃな。ではのう」

「相変わらず辛辣ねえ。面白そうなお土産持ってきたのに」

「はっ。お前にしては気が利く……なんじゃそれ」

「分かんない」

 

 

 風呂敷を雑に下ろして、広げた中には気絶した翠色の髪の人間が一人。セルキスである。

 

 

「誰だか分からん人間を攫ってきて押しつけるな。元の場所へ返せ」

「いやコイツ面白いんだって。ほら、分からない?」

「何が……ん?」

 

 

 何か違和感を覚えたリィナが手をかざす。セルキスの魔力に触れる。

 

 

「……『魔女』……っぽい?」

「そう! さっすがリィナ分かるー! ぽいのよ! 『魔女』っぽい! このぽいってのが大事よね!」

「ふむ……。こいつがレオの言っておった『魔女』になろうとしている奴……かのう」

「『魔女』になる!? へー。そんなこと出来るの? なってどうするんだろ。本物と成り代わりたいのかなあ」

「代わりたいなら代わればいいと思うがなあ。誰も止めはせんが……。そうじゃなくて変質しようとしておるのかな?」

 

 

 そう言ってリィナは倒れているセルキスを観察しようと屈む。

 刹那、眼を開き飛び起きたセルキスが唾をリィナに吐きかける。吐いた唾はリィナに届くことなく直前で消滅した。

 

 

「な!?」

「ふむ。唾液に魔力を練り込み猛毒に変化させた、か? 魔力の扱いに随分と長けておる」

「えー、やだーこわーい」

「うっざ、死ね」

 

 

 なんだこいつら。セルキスは状況が飲み込めない。

 

 

「ほれ、まだ曲芸があるなら見せてみい」

「馬鹿にしてえええ!!」

 

 

 叫び、取り乱したように見せながらもセルキスは冷静だった。

 不意打ちの猛毒は何らかの障壁で無効化。状態変化の類いは恐らく無駄。身に付けていた薬品類は奪われたのか無い。だが細かい装備は身に付けたまま。長袖を捲り、革のリストバンドの中に仕込んだ長針を、その反対の手の指の付け根に挟みながら三本引き抜きリィナに向けて放った。目にも止まらぬ速さで投げつけられた長針を、リィナは自身に届く前に指で簡単につまんだ。

 己の仕込み針を児戯の如く扱われたセルキスの冷や汗が止まらない。

 

 

「これには麻痺毒か。用意が良いのう。というかアーク。お前」

「アーク……、黒髪、赤眼の魔族アーク!? 先代『魔王』!? 死んだはずじゃ!?」

 

 

 リィナがアークに装備くらい剥ぎ取っておけと文句を言おうとする前に、セルキスの驚愕の声が被さった。

 

 

「んー? まあ『魔王』としては死んだってことで合ってると思うわよ?」

 

 

 振り返ったセルキスは、アークに向かって踏み込んだ。

 目の前の幼女、の皮を被った得体の知れない化け物よりも後ろの魔族のほうがまだ突破してこの場から逃げ出せる、かも知れないと賭けたのだ。

 

 

「何? やる?」

 

 

 アークの圧が一瞬で辺りを覆い尽くす。

 『魔王』の力を失ったはずの先代『魔王』は、未だ五分程度であれば『黄龍』ロサリアをも超える魔力を持ち、『魔王』として生まれ自身の力も受け渡した娘、マジクをもてあそべる程の力がある。

 無理だ。勝てない。

 セルキスは戦うのを辞めた。

 両手のリストバンドを外して地に投げ、スカートをたくし上げ太ももに巻き付けた収納と短刀も外して放り投げる。

 首に巻いたペンダントに仕込んである魔石には自爆覚悟の炎系の上級魔道も仕込んであったがそれも外してぽいっと捨てる。

 白衣のコートの裏地には魔力をブーストさせる魔方陣を描いてあったがそれも発動させることなく脱ぎ捨てた。

 靴の先にも当然の如く刃が仕込んであったので雑に脱ぐ。

 ああ、これもかと身に付けている仕込み武器をどんどんポイポイ投げ捨てるセルキスを見てアークは放った圧を引っ込めた。

 

 

「弱いって大変ね」

 

 

 アークはそんなセルキスを見て同情した。笑いはしない。弱者なりの生きるための努力は当然だろうと見ただけである。

 挑発とも取れるアークの発言だが、セルキスは応えなかった。

 装備を一通り外した後は手を頭の後ろに組み座り込んだ。

 何故連れ去られたのか、まだ分かっていない。殺されていないという事実は利用価値があると生かされているのだろうと踏んだ。であれば相手の会話から情報を得る必要がある。少なくともこの二人は自身より強い。だが生かされているのであれば逃げ出すことも出来るであろう、と踏んだのだ。

 

 

「お前だって弱いだろうに」

「失礼ね。ちょっとは力戻ったわよ。ちょっとだけだけど」

 

 

 アレでちょっと!?

 セルキスは顔には出さなかったが、『魔王』という存在の強大さを知った。そしてその『魔王』に弱いと言ってのけた化け物に恐怖した。

 

 

「ほら、怖がってるって」

「お前のせいじゃろう。いやでもワシ、いきなり攻撃された被害者じゃし別にコイツなぶろうがどうしようが良い気がする」

「駄目よ殺しちゃ。せっかく面白そうだから連れてきたのに」

「面白そう……?」

 

 

 なんだそれ。そんな理由で連れて来られたのか? とセルキスが混乱するのは無理のない話だ。

 

 

「ねえ、貴女どうやって『魔女』っぽくなってるの? だいぶ不完全みたいだけど」

 

 

 不完全。その言葉はセルキスを憤慨させた。

 

 

「私はまだ、完全な『魔女』になる必要条件の過程にいるだけ。まだ、まだ条件が揃ってないだけだ!」

 

 

 セルキスの言葉は、二人の興味を引くには充分だった。

 

 

「へえ、成れるんだ『魔女』」

「ま、『魔女』であればワシらなんぞ怖がる必要なんぞ無くなるな」

 

 

 少し考える素振りを見せたリィナが、とんでもないことを言い出した。

 

 

「ワシも手伝おう。その『魔女』になる必要条件とやらを」

「おおー、さすがリィナわっかるー! 面白そうよね! 私も手伝うわよ!」

 

 

 リィナの言葉にアークも悪乗りする。

 

 

「……はっ?」

 

 

 ……とりあえず、助かった、のか?

 セルキスは可能性を考えた。この二人のどちらか。もしくは両方が『魔女』になりたい場合。いやなりたいならなれば良い。まずなるのは自分なのだ。目的が果たせるならそれも良い。

 この気紛れな化け物達の前から生きて帰れてるならなんだって良い。

 セルキスはそう判断した。

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