モブとテストと優等生   作:相川葵

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第一章 モブとテストと試召戦争
第〇問 寝坊で始まる片想い


 俺がこの文月学園に入学してから、間もなく一年が過ぎようとしている。気の合う友人たち(バカ共)もできて、本当に充実した一年だった。

 ただ、そんな情緒に思いを馳せている場合ではない。

 俺こと谷村誠二(たにむらせいじ)は、死ぬ思いで学園へと続く坂道を駆け上っていた。

 

 

 文月学園にはクラスがAからFまであり、二年生以上は成績順でAからクラスが決まっていく。さらに、クラスによって環境が異なるため、頭のいい人は設備の整ったAクラスへ、頭の悪い人はオンボロのFクラスへ、といった具合だ。せっかくの新学期をそんなぼろっちい教室で迎えたくはないため、是が非でもFクラスだけは回避しなくてはならない。

 さて、その大事なクラスを決定する成績は、これまでの一年間を総合した成績ではなく一年の終わりに実施される振り分け試験の成績が対象となる。すなわち、どんなに普段の成績が良かろうとこの振り分け試験で失敗してしまえば下位クラスに行くことになり、逆もまた然りなのである。

 俺は決して頭が悪いわけではないが、DクラスやEクラスに甘んじずにどうせなら上位クラスへと行きたかったのだが……。

 

「どうして俺はこんな大事な日に寝坊なんてするのかねえ……!」

 

 そう、今日が振り分け試験の当日なのにもかかわらず、俺は寝坊してしまったのだ。

 幸いまだギリギリで間に合いそうな時間だったのだが、もしも遅刻なんてしてしまえば不受験によりFクラス行きが確定となってしまう。そんなのは嫌だ!

 最後の希望を守りきるため全力で足を前に進めていたその時、

 

 

「ぐあっ!」

 

 思いっきり転んでしまった。

 

 

 とっさに手を突き出したはいいものの、掌を擦りむいてしまった。さらに、下半身からもなにやら痛みを感じる。

 痛みに顔を歪め恐る恐る目をやると、擦りむいた膝からはどくどくと血が流れ出していた。

 くぅっ! 痛い!

 どうやら骨に異常はなく、ただ擦りむいただけのようだが、それでもかなり痛い。

 ええと、ハンカチで押さえて……ああそうだ、寝坊したからハンカチなんて持ってきてないんだ。クソ、なんで今日はこんな事ばっかり起こるんだ!

 だが、振り分け試験を諦めるわけにはいかない。これからの一年間がかかっているのだ。痛みをこらえながら放り出してしまったカバンを手に取り、駆け出そうとすると、

 

 

「大丈夫?」

 

 

 唐突に、後ろから声をかけられた。

 一体誰かと思って振り向くと、自転車にまたがった美少女――確か名前は――

 

「えっと、木下さん? ですよね」

 

 木下優子さんだったはずだ。

 

「あら、アタシの事を知ってるの?」

「まあ有名人ですしね……」

 

 彼女について、成績優秀で立派な優等生だという噂をよく耳にする。一年生の時は同じクラスではなかったので話す機会は皆無だったし、実際にこれが初めての会話であるが。俺があまり頭が良いとは言えないことも一因である。

 

「そんなことより、大丈夫なの? さっき、思い切り転んでたみたいだけど」

「大丈夫です! こんなの、つば付けとけば治るんで!」

 

 本当はそんなレベルではないが、こんなところで油を売っている暇もないので嘘を付く。ただ、木下さんの目はごまかせなかったようで、

 

「……どう見ても大丈夫には見えないんだけど……ハンカチか何かで押さえた方が良いんじゃないかしら?」

「あー……今日は寝坊したのでハンカチは忘れちゃったんです」

「そう……じゃあ、アタシのハンカチをあげるから、それで押さえてなさい」

 

 なっ!? 今ハンカチをあげると言ったか!? 俺と木下さんは初対面のはずなのに!?

 木下さんは自転車から降りると、こっちに近づいてきた。

 

「そんな、木下さんに悪いですよ! 初対面ですし!」

「いくら初対面でも、そんな怪我の人を放っておけないわ」

「で、でも……ほら、今日は振り分け試験じゃないですか! 俺なんかに構ってないで早く行かないとまずいんじゃないですか!?」

「それはあなたもでしょう?」

「え? どうして俺が一年って……」

「明らかに急いでたし、そもそも今日は振り分け試験のある一年生しか登校しないはずよ。二年生の振り分け試験は明日のはずだし」

 

 ……そういえばそうだった。

 

「って、そうじゃなくて! 木下さんが遅刻したら大変なことに――!」

「じゃあ、こうしましょう」

「え?」

 

 木下さんはそう言うと、ハンカチを俺に押し付けて自転車にまたがった。

 

「アタシは先に学校に向かうから、あなたはそのハンカチで自分で応急手当てする。それでいいわね?」

「は、はい……」

 

 気が付くと木下さんのペースに乗せられて、ハンカチを握りながら呆然と走り去っていく木下さんを見送る俺の姿があった。よく自転車で坂を上れるなあ……あ、電動自転車か。

 

「って、やばい! 俺もさっさと行かないと!」

 

 とりあえずもらったハンカチで膝や手の血を拭いて、今度は転ばないように気を付けながら文月学園へと向かった。

 このハンカチ、どうすればいいんだろう?

 

 

「それにしても……木下さんって、可愛くて優しい人だったな……」

 

 

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