モブとテストと優等生   作:相川葵

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第九問 放課後に笑う者は誰

【化学】

 問 以下の問いに答えなさい。

『炭素と水素だけでできた有機化合物のうち、炭素原子間に二重結合、三重結合を含むものを何というか』

 

 

 

 谷村誠二の答え

『不飽和炭化水素』

 

 教師のコメント

 正解です。ちなみに、炭素原子間が単結合だけであるものは飽和炭化水素と言います。

 

 

 

 須川亮の答え

『二重三重炭化水素』

 

 教師のコメント

 それっぽく並べても不正解です。

 

 

 

 吉井明久の答え

『二重三重炭素水素』

 

 教師のコメント

 問題文に出てきた単語を並べただけですか。

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

「さて、どうするかな……」

 

 対Bクラス戦の試召戦争が休戦状態に入り、俺達は解散となった。

 当然既に帰ってしまった連中もいるが、俺は何となく帰る気になれないでいた。試召戦争のテンションが中途半端に余ってしまって、どうにも手持ち無沙汰な気分だ。

 

「今日は結構頑張ったからな、眠い……」

 

 午前中は補充試験を受けて頭を使ったことも要因の一つだろう。

 特にすることも無く適当に校内をぶらつく。めったに読まない本でも気晴らしに読むために図書館にでも行こうかと思ったが、まだ新学期になってから日が浅いからか、開いてなかった。

 

「あ、そうだ。今のうちに木下さんにハンカチを渡しに行けばいいんだ」

 

 用事が出来たので、二年生の教室がある三階へと向かった。多分木下さんなら教室で自習しているはずだ。

 そして、Aクラス教室前まで来ると、

 

「……ん?」

 

 何やらCクラスの方から最近知り合った連中の声が聞こえてきた。

 

「なんでCクラスから……? そもそも休戦中なんだから騒ぐ理由が無いだろ?」

 

 そんなことを思っていると、Cクラスから坂本達が飛び出してきた。

 

「? どうしたんだ、坂本!」

「どうもこうもない……って谷村か! 助かった!」

「助かった?」

「Bクラスの罠にハマった! お前がアイツらを引き留めてくれ!」

 

 見ると、坂本を筆頭に土屋や姫路さん、吉井に島田さんといった主要メンバーの後ろから、Bクラス生徒が4人やって来ていた。

 

「ちょ、どういう状況だよ! そもそも、俺はただでさえ点数を消費してるからBクラス相手じゃ壁にもならないぞ!」

「違う! 立ち会いの先生は長谷川先生だ!」

「!」

 

 そうか……そういう事か。

 

「わかった。やってやるよ!」

「ありがとう谷村! 島田、お前もここに残って相手を引き留めてくれ!」

「了解!」

 

 その数瞬で相談を終え、俺と島田さんはBクラスの連中の前に立ちふさがる。

 その後ろを、坂本達がFクラスへと駆け抜けている。

 

「くそ、手間とらせやがって……試獣召喚(サモン)!」

試獣召喚(サモン)!』

 

 Bクラスの連中が次々に召喚獣を喚び出す。

 

 

『【数学】

 Bクラス  工藤信二 & Bクラス  真田由香

        159点          162点

 Bクラス  加西真一 & Bクラス  井川健吾

        149点          138点』

 

 

 表示されるのは相手の点数。さすがはBクラスと言った所か。

 ただ、それでもそのほとんどが『Bクラスの平均レベル』だ。それ以下のヤツもいる。理由はなぜか知らないが、この科目の得意な生徒は用意できなかったのだろう。姫路さんを凌ぐための戦力として渡り廊下に投入して、そのまま戦死した可能性もある。

 なんにせよ――これなら戦える。

 

「ほら、さっさと召喚獣を出せよ。早くしないと敵前逃亡にするぞ?」

 

 Bクラスの工藤がこちらを煽ってくる。……Bクラスにも工藤っているのな。

 

「まあ焦るなよ。そんなことしなくてもさっさと喚び出してやるからさ」

 

 そして、島田さんと声をそろえて叫ぶ。

 

 

試獣召喚(サモン)!』

 

 

 足元に魔法陣が現れて、少しずつピントが合うように召喚獣が姿を現す。

 

「なあ、なんでこの科目にしたんだ?」

 

 そのロード時間を利用して、工藤に質問を飛ばす。

 

「あ? 姫路さんが数学を消費してるからだよ。姫路さんさえ無効化できればFクラスなんて恐れるものが無いからな」

 

 その答えに、俺は島田さんと顔を合わせてつい笑い声をあげる。

 

「何笑ってやがるんだ!」

「いや、何、残念だったなと思ってな」

 

 召喚獣の喚び出し(ロード)が終わり、俺達の点数が表示される。

 

 

『【数学】

 Fクラス  谷村誠二 & Fクラス  島田美波

        168点          171点』

 

 

 

「――ここは、数学(俺達のフィールド)だ」

「全員まとめて補習室送りにしてやるわ」

 

 俺達は、姫路さんに次ぐFクラスにおける数学の実力者だ。

 

 

 

「お前達、本当にFクラスか……?」

 

 信じられないと言った表情で、工藤が質問を投げかけてくる。

 

「正真正銘Fクラスだよ、数学以外の教科は酷いしな。ただ、たまたまお前らが数学を選んで、たまたま数学の得意な俺達がここにいたってだけのことさ」

 

 おそらくもうこんな機会は無いだろうから、俺は全力でかっこつける。

 

「だが、まあ所詮4対2だ。お前らに勝ち目はないよ!」

 

 工藤がそう言ったかと思うと、4人が一気にこちらへ突撃してきた。

 こうして、対Bクラス戦初日は延長戦へと突入した。

 

 4人の特攻を、島田さんの召喚獣は横に移動し、俺の召喚獣は後ろに距離を取ることで回避する。

 

「避けるだけしかできないのか? だったらさっさと決めさせてもらうぜ!」

 

 4人は、まず島田さんから片づけるつもりのようで、先程と同じく4人で島田さんの召喚獣にぶつける。

 俺達が得点を取れていると言っても、所詮はBクラス止まり。人数差があるのだから、力押しすればBクラスが勝つようにも思える。

 ただし、それは彼らが大人数での立ち回り方を把握していればの話だ。

 

 ガキィン!

 

 金属のぶつかる音がした。

 

 

『【数学】

 Bクラス  工藤信二 & Bクラス  真田由香

     159点→153点       162点→132点

 Bクラス  加西真一 & Bクラス  井川健吾

     149点→128点      138点→104点

            VS

 Fクラス  谷村誠二 & Fクラス  島田美波

        168点      171点→143点』

 

 

『え……?』

 

 Bクラス生徒の困惑の声が重なる。

 島田さんの召喚獣もそれなりにダメージを受けているが、被害は向こうの方が断然大きい。

 

「なんで、私たちの方が減ってるの!?」

 

 なんでと言われても、刃物を持った4人が1人に特攻すればそりゃあ互いに武器がぶつかるよな、というだけの話である。島田さんは殆ど避けるのに専念していたし、すべてを避けることは出来なくても被害を一本だけにすれば、もともと点数はこちらの方が上なのだから、致命傷だけを気を付ければ点数の減少は最小限にできる。

 大人数で戦う時は、一度に特攻してはならない。

 これは、前回の対Dクラス戦の時に坂本から教わり、また身を以て実感した鉄則である。

 坂本曰く、大人数で戦うなら、2人ずつぐらいで立ち代りながら攻撃して攻撃の切れ目を無くすことが一番効果があるのだという。

 

「おっと、俺も忘れて貰っちゃ困るぜ!」

 

 俺の召喚獣は、筆箱の中から何本ものカッターナイフを取り出し、刃を出して相手の召喚獣たちに投げつける。

 一応4人全員を狙ったが、2人にしか当たらなかった。まあ、それでも十分だ。

 

 

『【数学】

 Bクラス  工藤信二 & Bクラス  真田由香

     153点→121点          132点

 Bクラス  加西真一 & Bクラス  井川健吾

        128点       104点→ 62点

            VS

 Fクラス  谷村誠二 & Fクラス  島田美波

        168点          143点』

 

 

「くそっ!」

 

 工藤が焦りまくっている。そりゃあそうだ。Bクラスである彼らがFクラスの俺達に良いようにされているのだから。

 

「なんでお前の投擲(とうてき)は当たるんだ! お前達だって召喚獣の操作にそこまで慣れてるわけじゃないだろう!」

 

 確かにそうだ。俺達の実戦経験なんてたかが知れている。

 ただ、経験はたしかにあるのだ。

 

「俺の投擲が当たるのは、俺の召喚獣がそういう仕様だから、としか言いようがないな」

「どういうことだ……?」

「いや、俺も今日気付いたんだけどな? 召喚獣を『操作する』とはいっても、俺達がいちいち右足を前に出して左足を上げて、っていう風にいちいち考えてるわけじゃないだろ?」

 

 本来二足歩行とはそう簡単に実現できるものではない。そんな風に指示するのであれば、まともに召喚獣を歩かせることが出来るヤツなんて、三年生にだっているわけがない。

 

「俺達は召喚獣に『そっちに歩け』とか『そっちにジャンプしろ』といったイメージで操作してるんだ」

「……それがどうした?」

「つまり、召喚獣の操作ってのは、あらかじめ決められた動きを選択するんだ。ゲームのコマンドみたいにな」

「……そういうことか」

「分かったみたいだな? 要するに、召喚獣ごとに得意な動きがあるんだ。剣士だったら『剣を構える』とか『剣を振る』ってな感じでな。そもそも、武器なんて素人が振ったところで大した効果は得られないだろうし」

「つまり、お前の召喚獣はその得意な動きってのが『物を投げる』だったってことだな」

「そうらしい。多分、成績に応じて精度が上がるはずだ。さあ、続きをやろうじゃないか、工藤」

 

 べらべらと考えていたことをしゃべったおかげで既に坂本達が逃げるだけの時間は稼いだのだが……出来ることならば戦死したくはない。

 

「俺と真田は谷村をやるから、加西と井川は島田をやれ!」

『了解!』

 

 大人数のデメリットの方は相手に教えたわけではないが、相手は二手に分かれた。

 完全に2対1になると厳しいが、点差で押し切れるか……?

 

「かかれ!」

 

 工藤の号令で、襲い掛かってくる召喚獣達。くそ、島田さんの方は島田さんで片づけてもらうとして、こっちは自力で何とかしなければ。

 とりあえず点数が高いのは……真田さんの方か。

 よし、工藤の召喚獣の剣は左腕でそらして、真田さんの召喚獣の手にカッターナイフを思いっきり突き刺す!

 痛みを感じない召喚獣だからこそできる技だが、そもそも文房具(俺の武器)はリーチが短いからこういった捨て身の技になりがちだ。まあ、それをカバーするのに投擲があるんだろうが。

 

 

『【数学】

 Bクラス  工藤信二 & Bクラス  真田由香

        121点       132点→ 86点

            VS

 Fクラス  谷村誠二 

    168点→143点              』

 

 

 ふむ、上手くすれば腕のダメージよりも手のダメージの方が大きくなるようだ。

 

「今度はこっちから行くぞ!」

 

 工藤と真田さんの召喚獣達が上手く分かれたのを見計らって、俺の召喚獣をカッターを両手に一本ずつ携えて、工藤の召喚獣に突撃させる。

 

「食らえ!」

 

 工藤の召喚獣が思い切り剣を振り下ろしてくる。 

 右側ががら空きだったので、右手のカッターナイフを工藤の召喚獣の首に思い切り突き刺した。

 剣はとっさに左腕で受けた。くそ、結構ダメージを食らった気がするが……どうだ?

 

 

『【数学】

 Bクラス  工藤信二 & Bクラス  真田由香

     121点→ 0点           73点

            VS

 Fクラス  谷村誠二 

     143点→ 87点             』

 

 

 よし! 工藤が戦死だ! 143点分の攻撃を首に与えたんだ、そうでなきゃ困る!

 鉄人に補習室へ連れられる工藤を横目に見ながら、今度は真田さんの召喚獣に相対する。

 

「まさか工藤君がやられるなんて……!」

 

 2対1の状況を看破して、ようやく一対一(タイマン)の形になる。

 点数では勝っているが……まだ油断できない。

 

「今度は私の番よ!」

「うおっ!」

 

 真田さんが、刀を前に構えて突撃してきた。とは言え、既に二人とも点数が100点を切っている。あまり大きな動きは出来ない。

 

「死になさい!」

「物騒だなあもう!」

 

 今度は刀を横にして、右から攻撃を仕掛けてきた。

 とっさに右手のカッターナイフを鉄製のシャーペンに持ち替えて、その刀を受ける。強度は……大丈夫だ!

 左手のカッターナイフで真田さんの召喚獣に攻撃を与え――って、上手く動かない! 左腕で二度も剣を受けたからダメージが溜まってたんだ!

 

「刺されええええええ!」

 

 

『【数学】

 Bクラス  真田由香

      73点→ 32点

     VS

 Fクラス  谷村誠二 

      83点→ 76点』

 

 

 結局、刺さりこそしなかったものの、なんとか真田さんの召喚獣の太ももを切りつけることが出来た。

 刀は防いだのに、俺の点数が減っているのは、無理に左腕を動かしたからだろうか。

 ……今更だけど、カッターナイフがリアリティあるだけにとんでもない絵面だな。

 でも、そんなことを気にしてる場合じゃない。

 

「これで終わりですよ!」

 

 右手にカッターナイフを持ち替え、真田さんの召喚獣の胸部に突き出す。

 相手も刀をこちらに突き出してくるが……44点もの点数差はそんなものじゃひっくり返らない。

 

「きゃっ! よけきれな――」

 

 ドスッ

 

 

『【数学】

 Bクラス  真田由香

      32点→ 0点

     VS

 Fクラス  谷村誠二 

      76点→ 53点』

 

 

「はあ、はあ……か、勝った! Bクラスに勝ったぞ!」

 

 Bクラス2人相手になんとか勝利を収めることが出来た。

 正直かなりきつい戦いだったが、初めの投擲でダメージを与えることが出来たのが大きいだろう。

 あと、対Dクラス戦という実戦を経験しているという点も大きかったはずだ。左腕で剣を受けて右手で攻撃、なんて真似は少なくともその経験が無ければまずできなかった。

 そういえば、島田さんの方はどうなったのかと思い見てみると、ちょうど残った一人にとどめを刺している所だった。

 

 

『【数学】

 Bクラス  加西真一

      18点→ 0点

     VS

 Fクラス  島田美波 

     32点→ 29点』

 

 

「ふう」

「お疲れ、島田さん」

「あれ、もうそっちは片付いたの?」

「まあね、かなりきつかったけど」

 

 一応あたりを見渡してBクラスの援軍が来ていないか確認したが、問題ないようだ。

 

「長谷川先生、フィールドを消してくれますか?」

「あ、はい分かりました」

 

 これでひとまずは大丈夫だろう。

 

「島田さん、早く教室に帰ろう」

「そうね、何が来るか分からないし」

 

 そんなわけで、俺達はそそくさと教室へ戻った。

 

 

 

 

「二人とも! 無事だったんだね!」

「良かったです……!」

 

 Fクラスで俺達を出迎えたのは、吉井と姫路さんのそんな台詞だった。

 

「大丈夫よ。点数は減っちゃったから無事ではないけど」

「俺もだ。補給しといて正解だった。明日は朝から補給試験だな」

 

 数学というフィールドでのみ活躍できる俺は、数学の点数が生命線とも言える。まあ、クラスの為になったのならとりあえずはそれでいいか。

 

「二人のおかげで助かった。お疲れさん」

「無事だったようじゃな」

 

 坂本と秀吉もやってくる。坂本はあまり心配していない感じだったが、それは信頼されてるってことでいいのかね。

 

「4人とも倒したか?」

 

 坂本が訊いてくる。

 

「ああ。追っかけて来ていた4人とも戦死させた」

「そうか、こっちの被害は1、向こうは4か……上々ってところか」

「被害1? 誰だ?」

「須川だ。俺が勝負を申し込まれそうな時に身代わりになってくれた」

「……そうか」

 

 須川の犠牲……無駄にしてはならない。

 

「ところで、Bクラスの罠にハマったってどういう事なんだ?」

 

 さっき、Cクラスで一体何があったのだろうか。

 

「……Cクラスが試召戦争の準備をしているとの情報が入ってな」

「試召戦争の準備?」

「ああ。対Bクラス戦が終わったら、その勝者を狙ってBクラスの設備を横取りするってな感じでな」

 

 一応補給のための時間は設けられるとは言え、連戦となるとさすがにキツイ物がある。もしそうなると、Aクラス奪取の妨げとなるのは明らかだ。

 

「だから、不可侵条約を結びにCクラスに行ったんだが……奴ら、Bクラスと組んでいやがった」

「……伏兵か」

「そういうこった。根本が出てきて、『この交渉は協定の《試召戦争に関する一切の行為を禁止する》に反している!』って俺達を攻撃してきたんだ」

 

 屁理屈もいいところだ。

 坂本は一旦話を区切り、その場にいる全員を見渡した。

 

「ってなわけで、これでCクラスも晴れて俺達の敵になったわけだが……同盟戦として始まっていないから連戦という形になるだろうが、正直Cクラスに攻め込まれるのは正直戦力的にもモチベーション的にも勝てる要素が少なくなるから出来ることなら避けなくてはならない」

「でも、具体的にどうするんだ?」

「心配するな、策はちゃんと考えてある」

「……分かった」

 

 つくづく頭のまわるやつだ。

 

「もうすぐ完全下校時刻で試召戦争も完全にストップする。今日はもう解散だ。策については、明日の朝必要な奴に話す。それでいいな?」

 

 坂本は俺達を見渡したが、もちろん反論する奴はいなかった。

 

「よし、それじゃ解散!」

 

 

 

 

 当然の流れとしてその場にいた皆で帰ろうという話になったが、鞄をAクラス前に置いてきたことを思い出して皆には先に玄関に行ってもらうことにした。

 

「えーっと、確かこの辺で坂本達に声かけたから……あったあった」

 

 鞄の中には大切なプレゼントもあるんだ……って……。

 鞄を拾った俺が前を向くと、そこには俺が現在絶賛惚れている、木下優子さんが立っていた。

 

「あら、あなた確か……」

 

 こちらに気づいた木下さんが話しかけてきた。

 

「はい。振り分け試験の日のハンカチ、ありがとうございました」

 

 深々と頭を下げる。

 

「そんな頭なんて下げなくてもいいわ。それで、大丈夫だったの?」

「はい、なんとか振り分け試験にも間に合いましたし」

「そう、良かったわ。……ねえ、クラスを聞いてもいいかしら?」

「……せっかく木下さんからハンカチを貰ったんですけど、残念ながらFクラスでした。自分の成績的に順当ではあるんですが……」

「……そう。まあでも、下手に膿んだりしてなくて良かったわ。怪我の処理はきちんとしないと……ね」

「はい」

 

 やべえ! すごい緊張する!

 よく考えたら、木下さんと話すのはこれで2度目だ。

 なんか無性に恥ずかしくなってきた。

 

「Fクラスってことは、今Bクラスと試召戦争してるんでしょ?」

「え? ええ、はい」

「ねえ、なんで新学期早々に試召戦争を起こす気になったの? まだ成績に大きな差がついてることは明白なのに」

「それは……」

 

 何と答えるのが良いだろうか。

 

「……代表に乗せられたから、というのが一番ですかね」

「代表?」

「はい。代表が、俺達は最強だって言ってました」

「ふうん……」

 

 ああ、木下さんを満足させることは出来ただろうか。もっとましな回答もあったような気がするが……テンパってそれどころじゃない。

 

「ああ、そうだ。ハンカチのお礼をさせてください!」

「お礼? お礼なんていいわよ、そんなもの目当てで人助けしたんじゃないし」

「いや、させてくれないと俺の気が済まないんです! 新しいハンカチを買ってきたので、これを――」

 

 そう言いながら、俺は鞄の中を漁ってプレゼントを取り出す。

 そして、そのまま木下さんの前に差し出したのは――

 

 

 

 ――ぺしゃんこにつぶれた、プレゼントの箱だった。

 

 

 

「――え」

「……これがあなたの気持ちって事?」

「い、いや違うんです!」

 

 な、なんでこんなことに……! 教科書とかぐらいじゃ簡単につぶれないようにちゃんとしてた筈なのに……。

 その時思い出したのは、俺の鞄に付いた足跡だった。

 ああっ! なんであの時気づかなかったんだ! さすがに鞄を踏まれたらプレゼントなんてひとたまりもないに決まってる!

 

「こ、これは――」

「言い訳なんて聞きたくない」

「――っ!」

「凄く不愉快な気持ちになったわ。そんなものいらないから、今後アタシを見かけても二度と話しかけないで」

 

 そう言い放つと、俺の言い訳を挟む隙も与えずにツカツカと階段を降りて行ってしまった。

 

「……」

 

 俺は、手元の潰れたプレゼントに視線を落とす。

 ……別に、木下さんに憤りを感じてるわけじゃない。お礼といってこんなものを渡されたらキレてもおかしくない。むしろ当然の反応だ。

 だが、この怒りを自然霧消させられるほど俺は人間が出来ちゃいない。

 だから、俺は――。

 

 

「根本ぉ……! このお代は高くつくぜ……!」

 

 

 夕暮れの校舎にただ一人たたずむ俺が発した声は、誰もいない校舎に響き渡った。




 Dクラス戦の時にギャグの一環として思いついた文房具が割と使えそうで驚いてます。
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