モブとテストと優等生   作:相川葵

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第十一問 誰が為に風は吹く

【英語】

 問 次のことわざを訳しなさい。

[Nothing venture, nothing have.]

 

 

 

 坂本雄二の答え

『虎穴に入らずんば虎児を得ず』

 

 教師のコメント

 正解です。

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

「なんっ……で……!」

 

 坂本の口から、そんな言葉が漏れる。

 Dクラス代表の平賀の手によって、Bクラスのエアコンはストップしている。

 ごった返す人のせいで、教室の中はかなり暑苦しいはずだ。

 だというのに、なぜか窓は開いていない。

 

「もしかしてお前ら、俺が窓を開けるのを期待してたのか?」

 

 そんな中、教室の中から聞こえてくる根本の声。

 俺と坂本は苦々しい顔になるが、周りのクラスメイト達はきょとんとしていた。そりゃそうだ、土屋の事は限られた人しか知らなかったんだから。

 

「あれから二日も経ってるんだ。Dクラスとの和平交渉の中身が漏れてない訳はないだろ? 俺達の教室のエアコンを壊す目的なんざ、一つしかない。窓を開けさせて、そこから誰かを侵入させることだ。お前らの戦力を見る限り、ムッツリーニあたりがその役目だったんだろうな」

「ぐっ……」

 

 つまり、根本は俺達の作戦を一から十まで見抜いていたというわけだ。

 ここまでなのか……?

 どうしても諦めきれず、なんとかアイデアを絞り出して坂本に小声で提案する。

 

(おい坂本、こうなったら窓ガラスを割って無理矢理土屋を突入させたらどうだ? 作戦を見抜いてると言っても、手筈通り近衛部隊を引き離せば問題はないだろ?)

(だめだ。ムッツリーニだけならともかく、体育教師も突入させるんだ。教師に窓を割らせるなんて、さすがに無理だ)

 

 確かに、教師に『窓ガラスを割って突入してください』なんて言っても断られるに決まってる。

 壁を壊すのはあくまでも教師を欺いて吉井が勝手にやることだ。

 

(じゃあどうするんだよ坂本!)

(ちょっと待ってろ! 今策を考えてる!)

 

 坂本は顎を手に当てて考え始めた。

 そんな坂本に、尚も根本は話しかけてくる。ここは俺が答えるしかない!

 

「どうした代表さんよぉ? 拙いおつむで考えた作戦が看破されて必死に猿知恵でも考えてるのか?」

「はっ! 考える必要なんかないね! そんなもので俺達の勝ちは揺るがない!」

「まったく、何言ってるんだか。今の状況を考えてみろよ、お前らに勝ち目なんかかけらもありゃしないさ」

 

 根本に言われて、俺も改めて戦況を把握してみる。

 

 現在の戦力は、Fクラスはこちら側の扉に7人、向こう側の扉に3人。対するBクラスはというと、教室の中に閉じ込めている21人で全員となる。

 目を凝らしてみれば、近衛部隊は9人、こちら側の扉に7人、残りが向こう側の扉付近にいて、根本は真ん中の窓際にいる。

 吉井は、Bクラスの窓が開いていない事も知らず、Dクラスで必死に壁を叩いている。壁が壊されるのは作戦開始の11時の予定だ。

 窓が開けられていないため、屋上に配置させた土屋は全くの無意味だ。

 ……なるほど、正直絶望的かもしれない。

 

「さっさと負けを認めれば楽になるんだぜ?」

 

 だが、俺達は――俺は、何があってもコイツに屈するわけにはいかない。

 

「はん。それはこっちのセリフだ。俺達にはまだ策があるからな」

「策ねぇ……まあいい。すぐにソイツを討てばいいだけの話だからな」

 

 そう言って根本が指差すのは当然坂本だ。

 く、そろそろ時間稼ぎもキツイ……!

 

(……谷村)

 

 すると、坂本が話しかけてきた。

 

(なんだ? 諦めるとか言うんじゃないだろうな?)

(そうじゃない。お前、数学の補充には成功したよな?)

(? ああ。少なくともCクラス並みの点数は確保したはずだ)

(もう一つ、足の速さに自信があると言っていたが……音を立てずに走ることは出来るか?)

(んー……やったことは無いけど、やりようはあるだろ。靴を脱いで気を付ければなんとかなるだろうし)

(そうか……フッ)

 

 そう言うと、坂本は手で髪の毛を思いっきり掻き上げて、不敵な笑みを浮かべた。

 

(坂本! 何か思いついたのか!)

(簡単なことだったんだ。窓が開いてないのが問題だったら、窓を開けてしまえばいいんだ)

(それはそうだが……それが出来ないから問題なんだろうが)

(いや……一つだけある)

(本当か坂本!)

(ああ……喜べ谷村。この作戦の要は、お前だ)

 

 時刻は午前10時50分。

 吉井が壁を壊すまで、あと10分。

 

 

 

 

「木内先生!」

 

 坂本から策を授かった俺は、まずは補給試験の為に待機させておいた木内先生に声をかけた。

 

「どうしました、谷村君。補給試験ですか?」

「いえ、ちょっと教室の外に出ていただいて、フィールドを張ってもらいたいんです」

「……そうですか。分かりました」

 

 素直に俺の要望を聞いてくれた木内先生は、教室の外に出てフィールドを展開する。

 

「これで良いですか?」

「はい。それと……もう少し渡り廊下側に来てもらえますか?」

「構いませんが……行けてもEクラス付近までですよ?」

「ええ、そのあたりで結構です」

 

 頭の上に疑問符を浮かべながらも、移動する木内先生。

 これで下準備は完璧だ。

 

「ありがとうございます! それじゃ、俺は向こうに行くのでフィールドはそのままでお願いします!」

「あ、ちょっと」

 

 何か言いたげな木内先生をEクラス前に残して、俺は戦線へと舞い戻る。

 あと7分か……行けるか?

 

「お前ら! 一気に決着を付けるぞ! Fクラスを押し出せ!」

 

 戦線へと帰ってきた俺を出迎えたのは、根本のそんな怒号だった。

 

「くっ! 戦死だけは避けるんだ! 皆少しずつ下がれ!」

 

 ()()()()()()()()勝負を急いだ根本は、坂本を狙って戦線を押し広げようとしてきた。その狙いに乗じて、後退する坂本。

 戦線が扉でなくなったことで、戦況も一対一ではなく多人数対多人数となる。

 

試獣召喚(サモン)!』

 

 いくつもの声が重なり、召喚獣が現れる。

 

 

『【現代国語】

 Bクラス  鈴木二郎 & Bクラス 金田一 香

        162点          168点

 Bクラス  田中 玲 & Bクラス 加賀谷 博

        159点          172点

            VS

 Fクラス  朝倉正弘 & Fクラス  有働住吉

         54点           59点

 Fクラス  原田信孝 & Fクラス   英 慎

         62点           48点』

 

 

 現代国語はBクラスの得意科目で、その点差は圧倒的だ。

 この形になってしまえば、Fクラスの朝倉達に勝ち目はなく、一瞬で決着がつく。

 

 

『【現代国語】

 Bクラス  鈴木二郎 & Bクラス 金田一 香

        162点          168点

 Bクラス  田中 玲 & Bクラス 加賀谷 博

        159点          172点

            VS

 Fクラス  朝倉正弘 & Fクラス  有働住吉

     54点→ 0点        59点→ 0点

 Fクラス  原田信孝 & Fクラス   英 慎

      62点→ 0点       48点→ 0点』

 

 

 あっという間に4人が補習室送りになってしまい、残る本隊は坂本や俺を含めて3人。

 この状況で坂本が勝負を挑まれてしまえば、敗北は避けられない。

 

「逃げるぞ!」

 

 故に、この判断は当然ともいえる。

 俺達は、渡り廊下を旧校舎側へと疾駆する。

 もちろん、このがら空きのFクラス代表というオイシイ状況をBクラスが逃すわけはなく、俺達を追いかけてくる。

 

「川口先生! こちらへ来てください!」

 

 俺達をフィールドの外へ出さないため、Bクラス教室内にいた現国担当の川口先生が教室から廊下と引っ張り出される。

 

 

 

 ――かかった。

 

 

 

「それを待っていたんだよ!」

 

 川口先生を呼ぶ声がした瞬間、Fクラスへと逃げる本隊の3人の中で俺だけが切り返してBクラスへと向かう。

 

 

 それと同時に、渡り廊下を覆い尽くしていた現国のフィールドが消滅した。

 

 

『なっ! どうして!』

 

 突然のことに戸惑いを隠せないBクラスの連中。

 しかし、フィールドが消えたのは当然の事なのだ。

 教師の展開する召喚フィールドは、異なる教科のフィールドが重なると干渉しあって消滅するという特性を持つ。

 俺は、木内先生のフィールドを現国とギリギリ接触しない位置に誘導した。その状態で川口先生をこちらに近づければ、フィールド同士の干渉が発生し、どちらのフィールドも消滅するに決まっている。

 いまだに状況を把握できていない敵部隊に構わず、Bクラス内にいるはずの長谷川先生に向けて腹の底から声を出す。

 

「長谷川先生! 召喚許可をお願いします!」

 

 返事は聞こえなかったが、その代わりにBクラスから渡り廊下にかけて数学のフィールドが展開され、俺とBクラスの連中を覆い尽くしてしまった。

 さすが、長谷川先生。召喚フィールドが広くて助かる。

 

「ほら、坂本を討ちたきゃ俺を倒すんだな!」

 

 俺は、精いっぱいBクラスの連中を煽る。

 ここで乗ってくれなきゃ作戦は成功しないのだが、

 

「言われなくてもそうしてやるよ!」

「俺達Bクラスをなめるんじゃねえ!」

 

 この煽りにつられないのなら、そもそもこんなところまで追いかけてきたりはしない。

 

『バ、バカ! お前達は――』

 

 連中の声が届いたのか、Bクラスの中から根本の叫び声が聞こえた。

 

試獣召喚(サモン)!』

 

 が、その声は届かず、俺達を追いかけてきた7人のうち4人が召喚獣を喚び出してしまった。

 

 

『【数学】

 Bクラス  鈴木二郎 & Bクラス 金田一 香

         56点           43点

 Bクラス  田中 玲 & Bクラス 加賀谷 博

         39点           48点』

 

 

『――数学の補給試験を受けてねえだろうが!』

 

 ようやく聞こえた根本の怒号。

 そう、Bクラスの連中は、数学の点を失っているにも関わらず補給試験を受けていないのだ。

 なぜなら、ここから先の戦闘に数学は使わないと思い込んでしまったから。実際、今日使っていたフィールドは英語と現国だったし、そのフィールドが書き換えられることなど考えもしなかっただろう。

 ちらりと腕時計に目をやると、時刻は10時58分だった。

 あと2分か、行ける!

 

試獣召喚(サモン)!」

 

 Bクラスの4人から少し遅れて、俺も召喚獣を喚び出す。

 

 

『【数学】

 Bクラス  鈴木二郎 & Bクラス 金田一 香

         56点           43点

 Bクラス  田中 玲 & Bクラス 加賀谷 博

         39点           48点

            VS

 Fクラス  谷村誠二

        156点              』

 

 

「ちっ!」

 

 鈴木が舌打ちをするが、そんな事をしても状況は変わらない。

 

「川口先生! フィールドを展開してください!」

 

 数学では勝ち目がないと判断したようで、金田一さんがフィールドの干渉を狙う。

 だが、それは不可能だ。

 

「無理です。干渉してしまうじゃないですか」

「そんなっ!」

 

 教師は、自分の意思でフィールドの干渉を起こそうとはしない。あくまでも干渉が起こるのは事故だ。

 だからこそ、木内先生はEクラス前までしか来てくれなかったのだ。

 さて、舞台は整った。

 俺の召喚獣はカッターを取り出し、まず確実に二人を戦死にする。この点差なら、別に急所に刺さらなくても十分致命傷になりえるから、随分やりやすい。

 

 

『【数学】

 Bクラス  鈴木二郎 & Bクラス  金田一 香

     56点→ 0点        43点→ 0点

 Bクラス  田中 玲 & Bクラス  加賀谷 博

         39点            48点

            VS

 Fクラス  谷村誠二

        156点               』

 

 

「ぐぅ!」

 

 残った2人のうち、まずは田中の召喚獣に襲い掛かる。相手は40点を切っていて、117点も開いているのだ。こんなものシャーペンを突き刺したって戦死する。

 

 

『【数学】

 Bクラス  鈴木二郎 & Bクラス  金田一 香

         0点            0点

 Bクラス  田中 玲 & Bクラス  加賀谷 博

     39点→ 0点            48点

            VS

 Fクラス  谷村誠二

    156点→149点               』

 

 

 息つく暇を与えず、最後の1体を襲うように召喚獣を操作する。ここは絶対に戦死させなくてはならないため、慎重にカッターで急所を狙う。相手も武器を構えて何とか対処しようとする。

 まあ、それでも多少攻撃を食らった所で100点も離れていれば敗北は無い。

 

 

『【数学】

 Bクラス  鈴木二郎 & Bクラス  金田一 香

         0点            0点

 Bクラス  田中 玲 & Bクラス  加賀谷 博

         0点        48点→ 0点

            VS

 Fクラス  谷村誠二

     149点→112点               』

 

 思ったより点数を削られたが、無事に4人を戦死させることが出来た。

 さて、戦死者が出れば、当然補習室に連行するために鉄人が現れる。

 

「いやあああああ! 補習室は勘弁してええええ!」

「やめてくれえええええ!」

 

 悲鳴を上げながら鉄人に抱えられる鈴木達。鉄人の登場によって、陣形が崩れて隙ができる。

 

 これを待っていた。

 

「あっ!」

 

 この混乱に乗じて、俺は一気に相手の横を駆け抜けてBクラスに突入する!

 

「ま、待てっ!」

 

 残っていた前線部隊の3人が俺を止めようとするが、もう遅い。

 今、数学のフィールドにいる召喚獣は、俺のものだけでBクラスのヤツらは誰も召喚獣を出していない。

 故に、

 

「長谷川先生! フィールドを消してください!」

 

 フィールドを消すことが出来る。

 これで、Bクラス内部にフィールドは展開されていない、という状況になった。

 誰かが召喚獣を出していればまた変わっただろうが……まあ、これもBクラスの驕りってヤツだろう。あるいは、目まぐるしい状況の変化についていけなかったのかもしれないが。

 

「お前! 何が目的で!」

 

 Bクラスの入り口に立つ俺に向けて、根本が声を飛ばす。

 フィールドを消す目的なんか、さっき俺がやった通り、フィールドの切り替えしかない。

 

「根本ぉ! これが俺達の『策』だ!」

 

 そう俺が言い放った瞬間に、時計の針は11時を差した。

 

 

 ――間に合った。

 

 

 

 ドゴォッ!

 

 

 

 その瞬間、ド派手な音を立ててDクラスとBクラスを繋ぐ道が生まれた。

 すなわち、吉井が壁の破壊に成功したのだ。

 

「くたばれ、根本恭二ぃーっ!」

 

 Dクラス内から、ワラワラとFクラス生徒が飛び出してくる。

 皆、根本の元へ全力で走り寄る。

 

「遠藤先生! Fクラス島田が――」

「Bクラス山本が受けます!」

「くっ! 近衛部隊か!」

 

 だが、そんな奇襲部隊の行く手を根本の近衛部隊がふさぐ。

 あっという間に吉井達は取り囲まれてしまった。こうなってしまっては吉井達になす術は無い。

 だが、それで十分だ。

 

「は、ははっ! 驚かせやがって! お前らの策ってのは、要するにコイツらの奇襲だったんだな! 残念だが、ウチの教室は広いからそんなもんじゃ俺のところまで来れるわけねえ!」

 

 根本は、安堵の感情を含んだ声で叫び散らす。

 

「お前がフィールドを消したのは、コイツらがフィールドを展開するからだったんだな!」

 

 そう言って入り口の方を見た根本の目に俺の姿が映る事は無く、そこにいるのは先程坂本達を追いかけて教室を出て、俺を追って戻ってきた3人だけだった。

 

「ん? アイツはどこに――」

 

 ()()()()()()そんなことを言う根本に、俺は()()()()()()()()言ってやる。

 

「俺ならここだぞ」

「っ!?」

 

 大きな動作でこちらを振り向く根本。

 

「残念だったな根本。主語が違う」

 

 そして、俺は後ろ手に窓を開けて横にずれる。

 

 

 

 涼しい風が、教室に飛び込んできた。

 

 

 

「この勝負、俺達の勝ちだ」

 

 

 窓を開けて教室に入ってきたのはもちろんそれだけではなく、二つの人影が大きな足音を立てて根本の前に降り立った。

 それは、並外れた行動力を持った体育教師と、保健体育の点数ならAクラスすら上回る土屋だった。

 

「……Fクラス、土屋康太」

「き、キサマ……!」

「……Bクラス根本恭二に保健体育勝負を申し込む」

「ムッツリーニィーーッ!」

 

 俺が前線部隊を、吉井達が近衛部隊を引き付けたために丸裸になった根本恭二。

 そのどちらの部隊も、Bクラスが広すぎたせいで根本の救出には間に合わない。

 

「――試獣召喚(サモン)

 

 フィールドを展開するのは、土屋の引き連れた体育教師だ。

 

 

『【保健体育】

 Fクラス  土屋康太

        441点

     VS

 Bクラス  根本恭二

        203点』

 

 

 土屋の召喚獣は、手にした小太刀を一閃し、一撃で敵を切り捨てる。

 

 長かった対Bクラス戦は、今ここに終結した。




 一巻の山場は対Aクラス戦よりも対Bクラス戦だと思います。


 一言付き高評価が付きました。ありがとうございます。
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