モブとテストと優等生   作:相川葵

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第十二問 勝利の価値は

【保健体育】

 問い 以下の空欄を埋めなさい。

『女性は( )を迎えることで第二次成長期になり、特有の体つきになり始める』

 

 

 

 木下優子の答え

『初潮』

 

 教師のコメント

 正解です。

 

 

 

 木下秀吉の答え

『卒園式』

 

 教師のコメント

 早すぎます。

 

 

 

 島田美波の答え

『還暦』

 

 教師のコメント

 遅すぎます。

 

 

 

 谷村誠二の答え

『夜の12時』

 

 教師のコメント

 シンデレラですか。

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

『うおおおおーーっ!!』

 

 吉井や俺を始めとして、生き残っていたFクラスの面々が一斉に土屋の元へと駆け寄った。

 

「さすがムッツリーニだ!」

「よくやったムッツリーニ!」

「すげえぜムッツリーニ!」

 

 そんな俺達の賞賛に、土屋は恥ずかしそうにしていた。

 

「…………その呼び方はやめて欲しい」

 

 あ、賞賛に照れてるんじゃなくてムッツリーニ呼びに照れてるのか。

 まあ、そんな声が届くはずもなく俺達は騒ぎ続けていた。

 そろそろ土屋の事を胴上げしようかという話が出始めた頃、坂本がBクラスに入ってきた。

 

「谷村、その様子だと上手くいったみたいだな」

「ああ、おかげさまでな」

 

 上手くいった、というのは、もちろん俺に託された窓を開けるための作戦のことだ。

 窓を開けるためには、どこかのタイミングで教室に突入しなくてはならず、そのタイミングは、当然吉井が壁をぶち破る瞬間しかない。そのタイミングを合わせて突撃するため、坂本が敵を引き付けてから俺が数学のフィールドで一掃する、という算段だったのだ。

 つまり、実質的に俺が相手を倒し教室にたどり着けるか、というところがこの作戦のカギだったのだが……成功してよかった。

 

「クソ、やっぱりムッツリーニだったか」

 

 騒ぎ立てる俺達の耳に、床に座り込んだ根本の声が聞こえてきた。

 

「ああ。正直窓を開けてくれなかったときは焦ったな」

 

 その声に返す坂本。

 

「完全に読み切っていたのに……クソ、壁を壊すなんて聞いてねえぞ」

「それに関しては俺の指示じゃないな。文句なら明久に言ってくれ」

 

 しれっと責任転嫁する坂本。確かに指示はしてなかったな、予測はしてたけど。

 

「やはりムッツリーニも無効化させるべきだったか……」

 

 無効化? 一体何のことだろう。吉井が姫路さんを戦線から外させたことと何か関係があるのだろうか。

 

「さて、それじゃ嬉し恥ずかし戦後対談に移ろうじゃないか。いいだろ、軟弱なBクラス代表サマ?」

「……」

 

 そのことに心当たりがあるのかないのか、坂本は戦後交渉を始める。さっき言い切れなかった軽口も言えて坂本はどこか満足げだ。

 もちろん、根本に拒否権なんか無い。

 

「本来なら設備を交換してお前達に素敵な卓袱台と素晴らしい腐った畳をプレゼントしてやるところだが、特別に免除してやらんこともない」

 

 その言葉に、Fクラスからざわめきの声が上がる。俺や吉井は前に聞いていたから騒がないが、他の連中はそうもいかないだろう。

 

「落ち着いてくれ皆、前にも言ったが俺達の目標はあくまでも――」

「……Aクラスだろ?」

 

 皆をなだめる坂本の言葉を継いだのは根本だった。そのあたりも当然の如く根本に伝わっていたらしい。

 

「そういう事だ」

 

 その言葉で、Fクラスのざわめきは収まった。

 俺達が狙うのはAクラスだけだ。それ以外に甘んじる気は全くない。

 

「……それで? 条件はなんだ。まさか無条件ってことは無いだろ?」

 

 早く居心地の悪い空間から逃げ出したいのだろう、根本が話の続きを催促する。

 

「まあそう焦るな。当然条件はある」

「……」

 

 忌々しげに坂本を見つめる根本。

 俺の行動次第でこの関係が入れ替わっていたことを考えると、改めてひやりとさせられる。

 

「条件はお前だよ、負け組代表さん。この戦争でも散々好き勝手やってもらったし、正直去年から目障りだったからな」

 

 根本を擁護する声は、誰からもあがらない。

 

「そこで、お前らBクラスに特別チャンスだ」

 

 坂本は、目線を根本からずらして周りを見渡した。

 

「Aクラスに行って、試召戦争の準備が出来ていると宣言して来い。そうすれば今回は設備交換は見送ってやる。ただし、宣戦布告はせずにあくまでも戦争の意思と準備がある事だけ伝えてるんだ。戦争の勃発だけは避けろ」

「……それだけでいいのか?」

 

 疑うような根本の視線。坂本の策はここまでだったが……ここからは吉井の要望が関わってくる。

 

「ああ。Bクラス代表がこれを着て言った通りに行動すればな」

 

 そう言って坂本が取り出したのは、今朝秀吉が来ていた女子制服だった。

 ……そういえば、坂本はこんなものをどうやって手に入れたんだろうか。

 

「ば、馬鹿な事を言うな! 誰がそんなふざけた真似をするか!」

 

 根本君が慌てふためきながら教室から逃げ出そうとする。

 だが、

 

「このまま根本が逃げれば、残念だが設備を交換してもらうことになるな」

 

 と、坂本が言うや否や、先程まで根本を守っていたBクラスの連中は根本を取り押さえた。

 

『安心しろ坂本!』

『その任務は俺達で必ず実行させてみせる!』

『だから設備交換の準備なんかしないでもいいぞ!』

「お、おう……んじゃ決定だな」

 

 あまりの変わり身の速さに、俺達も言葉が出てこない。根本の人望の無さは並大抵のレベルじゃなさそうだ。

 

「や、やめろお前達! 俺は代表ぐふぅっ!」

「とりあえず黙らせました」

「あ、ありがとう」

 

 近衛部隊に腹部へ拳を打ち込まれ倒れこむ根本。おそらく人望の無さは自業自得だろうとはいえ、まさか根本がかわいそうになるとは思わなかった。

 

「じゃあ、着付けに移るとするか。明久、頼んだ」

「了解っ!」

 

 そう言って、根本に駆け寄る吉井。

 そもそも女装云々は吉井が根本の制服を欲しがったからのはずだが、何が理由だったんだろうか。

 気が付くと、吉井は既に根本の制服を剥ぎ取っていて、女子制服を着せようとしていた。しかし、着せ方がよくわからず苦労しているようだった。

 そんな吉井に、Bクラスの女子が話しかける。

 

「私がやってあげようか?」

「ホント? 悪いね。せっかくだから可愛くしてあげてよ」

「土台が腐ってるから無理ね」

 

 ……根本は本当に人望が無かったんだな。

 彼女に着付けを任せた吉井は、根本が来ていた制服のポケットをまさぐっている。何かを探しているようだ。

 どうやら目当てのものを見つけたらしく、ポケットから出した手にあったのは……手紙?

 吉井は、その手紙をポケットに入れて教室を出て行った。なんだったのだろうか。

 まあ、考えて分かるものでもないか。気にしない方針で行こう。

 

「く、くそ……屈辱だ……!」

 

 気が付けば、根本の女装が完成していた。

 ……気味が悪いほどにバッチリメイクされてるけどあれやったのは一体誰なんだ。教室にいる全員がドン引いている。

 

「ほら、さっさとAクラスに行け」

「う、うるせえ! 気持ちの準備をさせろ!」

 

 根本を急かす坂本。ホント個人的な感情が入ってそうだな。

 

「こ、この服ヤケにスカートが短いぞ!」

「いいからキリキリ歩け。これから撮影会もあるんだぞ!」

「き、聞いてないぞ!」

 

 俺も初耳だ。

 きっと根本は一生忘れられないそれはそれは素晴らしい思い出を作ることになるだろう。

 

 

 

 その後、無事に伝令を終えた根本による撮影会は、戦死者組もギャラリーに交えて放課後いっぱいまで続いた。

 

 

 

 

「それにしても、あの根本の顔は傑作だったな!」

 

 須川の楽しそうな声。

 下校時刻を過ぎて、俺達は帰路に着こうとしていた。

 

「まあな、そうとう屈辱だったろうぜ」

「あんな格好させられたんだもんな」

 

 最終的に、根本は若干制服を乱した格好でも写真を撮られていた。誰が得をするんだ、あんな写真。

 

「とにかく、これでBクラスにも勝ったんだ。後はAクラスだけだな」

「ああ。システムデスクは目の前だ……っ!」

 

 と、須川達と話す俺の目に、校門に寄りかかる一人の女子生徒の姿が映った。どうやら誰かを待っているように見える。

 

「……? どうした、谷村」

「何かあったか?」

 

 急に言葉に詰まった俺を不審に思う須川と工藤。

 

「い、いや、なんでもない……ちょっと立ちくらみがしただけだ……」

 

 俺は、そう言ってごまかす。

 

「あ、そうだ! 教室に携帯置いてきた! 悪いお前ら、先帰っててくれ!」

「お、おう」

「それじゃ!」

「お、おい!」

 

 怪訝な表情の二人を残して俺は校舎へと舞い戻る。もちろん俺は、忘れ物なんてしておらず、あの場から逃げるための言い訳だった。

 俺は、そのまま校舎を突っ切り裏口から校舎を出る。

 充分に距離を取ったのを確認して、俺は足を止めて息を整える。無意識に俺の口からは愚痴が漏れてしまった。

 

 

「くそ……なんで木下さんがあんなとこにいるんだよ……!」

 

 

 そう、校門に立っていたのは、紛れもなく木下さんだったのだ。

 

『今後アタシを見かけても二度と話しかけないで』

 

 昨日木下さんに言われたその言葉は、自分で思っているよりも重く俺の心にのしかかっているようで、俺は瞬時に木下さんから逃げ出すことを選んでしまった。

 せっかく自分も活躍してBクラスを――根本を倒すことが出来たのに、俺の気持ちが晴れやかになることは無かった。 

 俺は、木下さんのいる校門を避けて帰宅した。




今回は短めです。
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