【生物】
問 以下の問いに答えなさい。
『人が生きていく上で必要となる五大栄養素を全て書きなさい』
姫路瑞希の答え
『①脂質 ②炭水化物 ③タンパク質 ④ビタミン ⑤ミネラル』
教師のコメント
その通りです。
須川亮の答え
『①土 ②火 ③水 ④木 ⑤金』
教師のコメント
これは五行説の五大元素ですね。知っていたのは立派ですが、五大栄養素とはまるで違います。五つなら何でもいいわけじゃありません。
谷村誠二の答え
『①月 ②火 ③水 ④木 ⑤金』
教師のコメント
これではただの平日です。
Bクラスに勝利してから二日が経った。
試召戦争後の補充試験も終わり、Aクラス戦を残すのみとなったが、未だに俺の心に影は残ったままだった。
あの日以降、木下さんと交わした言葉は、無い。
「では、これより対Aクラス戦に向けたミーティングを始める」
Fクラスの教壇に立つ坂本の一言で、俺達は息を飲む。
遂にこの下剋上もクライマックスを迎えるのだ。
「まずは皆に礼を言いたい。周りの連中には不可能だと言われていたにもかかわらずここまで来れたのは、他でもない皆の協力があってのことだ。感謝している」
と、坂本は俺達に頭を下げた。こんなふうに素直に感謝されてしまうと照れてしまう。
「ゆ、雄二、どうしたのさ。らしくないよ」
「ああ。自分でもそう思う。だが、これは偽らざる俺の気持ちだ」
吉井の反応を見る限り、坂本が礼を言う事はめったにないようだ。坂本にとって、Aクラスへの挑戦というのはそれほどの事なのだろう。
「ここまで来た以上、絶対にAクラスにも勝ちたい。勝って、生き残るには勉強すればいいってもんじゃないという現実を、教師どもに突きつけるんだ!」
『おおーっ!』
これまで二度の死闘を演じてきた俺達は、最後の勝負を前に気持ちが一つになっていた。
「皆ありがとう。さて、士気を上げてから言う事ではないかもしれんが、残るAクラス戦は一騎討ちで決着を付けたいと考えている」
Bクラス戦の戦後交渉の時と同じく、殆どのクラスメイトから困惑の声が上がる。
『一騎討ち?』
『誰と誰がやるんだ?』
『それで本当に勝てるのか?』
「落ち着いてくれ。それを今から説明する」
坂本が机をバンバンと叩き、皆を静まらせる。
「やるのは当然、俺と翔子だ」
試召戦争は基本的に代表の戦死を持って終結する。だとすれば、この二人が戦うのが道理だろう。
いやでも、こう言っちゃなんだけど、相手は学年主席だ。坂本の点数は知らないが、坂本じゃ――
「馬鹿の雄二が勝てるわけなぁぁっ!?」
「明久、次は耳だ」
カッターがかすめた頬を押さえながら無言でうなずく吉井。
……口に出さないでよかった。
「まあ、明久の言うとおり確かに翔子は強い。まともにやり合えば勝ち目はないかもしれない」
「そこで認めるなら僕にカッターを投げつけなくても良かったんじゃ何でもありません」
坂本がカッターを取り出した瞬間に撤回するなら黙ってれば良いのに。
「だが、それはDクラスの時もBクラスの時も同じだったはずだ。まともにやり合えば敗戦必至だった」
しかし、俺達はこうして勝ち進んでいる。
「今回だって同じだ。俺は翔子に勝ち、FクラスはAクラスを手に入れる。俺達の勝ちは揺るがない」
最初の頃は、無茶苦茶で荒唐無稽だった坂本の話。しかし、今となっては誰も坂本の言葉を否定する者はいない。
「俺を信じて任せてくれ。過去に神童とまで言われた力を、今皆に見せてやる」
『おおーっ!』
このクラスの全員が、坂本を信じている。
「さて、具体的なやり方だが、一騎打ちではフィールド……というか、戦闘方法を限定するつもりだ」
「戦闘方法を限定する? 召喚獣で競争でもするつもりか?」
「いやそうじゃない。召喚獣を使わない、純粋な点数勝負にするんだ」
点数勝負って……それこそ勝ち目がないんじゃないか?
「もちろん、内容は限定する。科目は日本史で、小学生レベルの百点満点のテストだ」
「……はあ?」
思わず声が出た。
「それにしたって、結局霧島さんが圧倒的に有利なのは間違いないんじゃないか? あの人だったら、何回やったって満点を叩き出せるだろ?」
そんな俺の疑問に、坂本は首を振って答える。
「いいや、違う。アイツには絶対に間違える問題があるんだ」
『絶対に間違える問題?』
俺達の声がハモる。
「ああ、そうだ。アイツは、大化の改新について完全に間違えて覚えているんだ」
「間違えてって……誰がやったかとか、何をしたのか、とかをか?」
「いや、そんな複雑な話じゃない。アイツが間違えてるのは年号だ」
年号? 確か大化の改新は、7――
「大化の改新が起きたのは645年。こんな簡単な問題はFクラスですら間違えない」
『……(サッ)』
坂本の言葉に、半分以上のクラスメイトが顔を逸らした。
俺? 今日も雲一つない青空が気持ちいいな。
「……とにかく、この問題を翔子は間違える。これは確実だ。そうすれば、俺達が勝って晴れてこの教室とおさらばって寸法だ」
なるほど。小学生レベルなら、この程度の問題は出る可能性が高い。かなりの確率で、坂本は勝利できるってわけか。
と、そんな事を考えていると、珍しい人から声が上がった。
「あの、坂本君」
「ん? なんだ姫路」
「霧島さんとは、その……仲が良いんですか?」
そういえば、さっきから坂本は霧島さんの事を『アイツ』だの『翔子』だのと呼んでいた。それなりに仲が良くないとそんな呼び方はしない。
まさか、坂本は霧島さんといい関係、とか?
「ああ。アイツとは幼馴染だ」
「総員、狙えぇっ!」
「なっ!? なぜ明久の号令で皆が急に上履きを構える!?」
理由なんか説明しなくてもいいだろ!
「黙れ、男の敵! Aクラスの前にキサマを殺す!」
「俺が一体何をしたと!」
『遺言はそれでいいな?』
「なんで相談もしてないのにハモれるんだお前ら!?」
俺達の気持ちはいつでも一緒だ。
「待つんだ須川君! 靴下はまだ早い!」
「了解です隊長!」
「覚悟しろ雄二!」
食らえ! 俺達の怨念がこもった一撃を!
「あの、吉井君」
「ん? なに、姫路さん」
ふと声がした方に目をやると、吉井が姫路さんに話しかけられていた。
「吉井君は霧島さんが好みなんですか?」
「そりゃ、まあ。美人だし」
「…………」
「え? なんで姫路さんは僕に向かって攻撃態勢を取るの!? それと美波、どうして君は僕に向かって教卓なんて危険なものを投げようとしているの!?」
ダメだ! 吉井はもう戦力にならない!
「まぁまぁ。落ち着くんじゃ皆の衆」
パンパンと手を叩いて場を取り持つ秀吉。
「冷静になって考えてみるが良い。相手はあの霧島翔子じゃぞ?」
言われて、霧島さんに関する噂を思い出す。
学年主席である霧島さんは、一年生の時から有名人だった。加えて彼女の美しい容姿も学年を問わず知れ渡り、男子生徒からの告白が絶えなかったという。しかし、一度としてその告白が実ることは無かった。要するに、彼女は告白を断り続けているのだ。
その事から、彼女は同性愛者なのではないかという噂が真しやかにささやかれている。
「……なるほど」
いくら幼馴染とはいえ、あの霧島さんが坂本に興味があるとは思えない。
「むしろ興味があるとすれば……」
「……そうだね」
俺達の視線が一人に集中する。
「な、なんですか? もしかして私、何かしましたか?」
慌てる姫路さん。
……まあ、何も言うまい。
「とにかくだ。俺と翔子は幼馴染で、小さな頃に間違えて嘘を教えていたんだ。アイツは一度教えたことは忘れない。だから今、学年トップの座にいる」
霧島さんは一度覚えたことは忘れない。しかし、今回はそれが仇になる。
「俺はそれを利用してアイツに勝つ。そうしたら俺達の机は――」
『システムデスクだ!』
「なあ谷村。一騎討ちってことは、今回は俺達の出番はないんだよな?」
「そうだろうな、須川」
ミーティングが終わり、坂本は吉井達を引き連れて交渉を兼ねて宣戦布告に行った。
そのため、俺達は教室で適当に時間をつぶしている。
「なんて言うかさ、せっかく士気が上がったのに何もすることが無いってのは少し物足りないな」
「そんなこと言ったって、俺達が出張ったところで何もできることは無いんだから仕方ないだろ」
物足りないのは俺だって同じだが、だからと言って活躍の場があるかと言えばそんなことは無い。Bクラス相手でさえあの始末だったのだ。
頼みの綱の数学も、Aクラスが相手なら勝ち目などあるはずがない。
「ま、俺達は今回は応援を頑張ればいいんじゃないか? いくら点数勝負って言ったってその場の雰囲気だってあるわけだし」
「そんぐらいしかできないよなあ……」
と、そこまで話した辺りで教室のドアが開き、坂本達が帰ってきた。
「坂本、交渉は成功したか?」
「まあな」
それはよかった。
「皆、聞いてくれ。これから最終ミーティングを始める」
坂本の声に、雑談を止めて前を向くクラスメイト達。
「交渉の結果、こちらの狙い通り一騎打ちでの試召戦争となった。ただし、一回勝負ではなく五回勝負だ」
「五回勝負?」
「ああ。それぞれのクラスから五人代表者を出して、先に三勝した方の勝ちだ」
「ふむ」
「科目選択権は、こちらが三回、向こうが二回という事になった」
なるほど。これは誰をどんな時に出すか、といった風に戦略が大事になってきそうだ。
「それで? 具体的にはどうするんだ?」
「相手の出方次第で替えてもいいんだが……とりあえず、勝利数を稼ぐ三人は、俺、姫路、ムッツリーニだ」
ふむ。この三人なら、Aクラスにだって負けないかもしれない。
坂本はさっきの説明の通りで、姫路さんは学年次席に匹敵する実力者。ムッツリーニ……土屋に関しては説明はいらないだろう。
「俺とムッツリーニは科目選択権を使う。そうでなければ勝ち目はないからな。姫路には、科目選択権無しで戦ってもらうことになるが……行けるか?」
「はい!」
「……良い返事だ、姫路」
姫路さんらしからぬ大きな返事。彼女にとっても大事な一戦なのだろう。
「そして、残りの二人は、残っている連中の中で勝利の可能性が高い二人だ」
勝利の可能性が高い二人か……誰の事だ?
「まず、《観察処分者》である明久だ」
「ぼ、僕!?」
ふむ。一人目は吉井か。
『なんで吉井なんだ? 吉井と比べたら俺の方が点数が高いはずだが……』
どこからかそんな声が上がる。確かにそれはその通りだろう。
「確かに明久はバカだ。点数に現れない部分を加味してもこのクラスで一番のバカだと言える」
「ねえ雄二、もう少しビブラートに包んでくれないかな?」
「こんなふうにな」
「え?」
少し不安になったが、それでも吉井には強みがある。
「だが、明久よりも多少点数が高くてもAクラスには敵うはずがない。そうだろ?」
『……それはそうだが』
「だが、明久は教師の雑用をこなしてきたおかげで、その操作能力はAクラスとは比べ物にならない。俺はここに賭ける。明久、やってくれるな?」
「オーケー雄二。やってやるさ」
さっき声を上げたヤツも納得したらしい。
そもそも、吉井は対Bクラス戦でその行動力をいかんなく発揮している。これに賭けてみるのも充分アリだ。
「そんなわけで、明久は科目選択権無しでやってもらう」
「どうしてさ!」
「お前、どの科目も等しく苦手だろうが」
「そんなわけ……! ……あるか」
「そういうこった」
ということは、残った科目選択権は最後の一人に使わせるのか。
残った面子で特定の科目が高いヤツは……社会が得意な工藤か? いや、島田さんの数学の方が高いか。確か島田さんは俺よりも高かったはずだ。
「で、最後の一人は――」
そして、大きく息を吸って坂本が発したのは、
「――谷村。もちろん科目は数学だ」
俺の名前だった。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。どうして俺なんだ?」
「もちろん、お前が勝つ可能性があるからだ」
「その理由を知りたいんだ。数学に限ったって、俺は島田さんより点数が低かったはずだ」
「いいか? 相手はAクラスの、それもおそらく上位五人だ。200点にも届かないのであれば、多少の点差は誤差というのもおこがましい」
「……まあ、それはそうだな」
「で、その中でもお前を選んだのは、お前の召喚獣が特殊だからだ」
「特殊?」
どういう事だろうか。
俺の召喚獣は、吉井のように物理干渉が出来るわけじゃない。
「ああ。お前の召喚獣、武器はなんだ?」
「武器? 筆箱……というより文房具だな」
「そう、それだ」
「は?」
「いいか? 殆どの召喚獣は、まともな武器だ。剣や槍、斧といった具合にな。あの明久ですら、木刀を持っている。ただ、お前だけは中途半端に点数が低すぎたために文房具なんてもので戦っている」
「そうだな」
「しかし、一見不利に見えても文房具には文房具の利点がある。谷村、心当たりがあるだろう?」
言われて、考える。
確か、対Dクラス戦では、突進する時に相手の手に筆箱を投げつけた。
対Bクラス戦では、カッターを投げつけたりシャーペンで武器を防いだりしていた。
そして思いつく。
得点差をひっくり返す、ある秘策を。
そうか……これが、俺の――文房具の利点か……!
「どうあがいても姫路やムッツリーニ以外は点数じゃAクラスの連中には勝てない。だから、吉井にしろ谷村にしろ、点数以外で強みのあるヤツを選んだ」
そう言って俺達を見下ろす坂本。
やってやろうじゃねえか、打倒Aクラスを!
「戦争開始は10時ちょうどだ。いいかお前ら、俺達は――」
『――最強だ!』
ようやくAクラス戦です。
一巻分も残すところあとわずかになりましたね。