【生物】
問 以下の問いに答えなさい。
『必須栄養素とは何か、説明しなさい』
姫路瑞希の答え
『生きていくために外部から摂取する必要のある物質』
教師のコメント
その通りです。体内では生合成できない物質の事ですね。ヒトの場合、ビタミンCなどがあげられます。
土屋康太の答え
『命にかかわるものを口に入れないという危機回避能力』
教師のコメント
君に何があったんですか。
谷村誠二の答え
『生死の境においても必ず生き延びるという強い意志』
教師のコメント
本当に君達に何があったんですか。
「では、両名とも準備はいいですか?」
今回の試召戦争の立会いを務めるのは、学年主任の高橋先生である。全ての科目のフィールドを展開できるため、今回の試召戦争に適任なのだろう。
「ああ」
「……問題ない」
ちなみに、戦場となるのはAクラス。理由はもちろん、Fクラスじゃ100人も入れないからだ。腐った畳じゃ締まらない、という理由もあるが。
「それでは、これよりAクラス対Fクラスの試召戦争を開始いたします。まず、一人目の方どうぞ」
「私が出ます。科目は物理でお願いします」
Aクラスからは、えーと……誰だろうか。そこまで有名でないという事は、あまり点数は高くないのかもしれない。
とはいえ、科目指定をしてきたのだ。Aクラスの特化型である可能性が高く、その実力は推して測るべきだろう。
さて、向こうが科目選択権を使用してきたという事は、こちらから出るのは……。
「よし、ここは明久が行け」
「僕?」
「ああ。姫路を出してもいいが、相手が特定の科目をしてきたのならよほど自信があるのかもしれない。万が一を考えて、こちらはお前を出す」
「それって僕にやられて来いって言ってるんじゃ……」
「何を言う。お前には姫路にはない操作技術があるだろうが。俺はお前を信じているんだ」
「……うん、分かったよ! それじゃ行ってくるね!」
こちらからは吉井が出るしかない。
勢いをつけるためにもここは是非とも勝ってほしい所だ。
『行けー吉井!』
『目に物見せてやれ!』
『頼んだぞー!』
Fクラス生徒から上がる声援。
「やれやれ……遂に僕の本気を見せる時が来たようだね」
おや? 何やら吉井は自信があるようだ。
『吉井はどうしたんだ?』
『まさか、これまでは本気じゃなかったというのか!?』
「そのまさかさ」
ほう、これは期待できそうだ。
「えっと、あなたは吉井君でしたっけ?」
「あれ? 僕の事を知ってるの? 照れるなあ、いつの間にか有名人になっちゃったみたいで」
「ええ……確か学園一のバカだって」
「オーケーまずはその認識を改めさせてあげよう」
二人は先ほどから火花を散らせている。
「先鋒戦、開始!」
『
高橋先生の号令の後、二人の声が重なり召喚獣が現れる。
さて、点数差は……。
『~先鋒戦~【物理】
Aクラス 佐藤美穂
389点
VS
Fクラス 吉井明久
62点』
確か、こういうのは
「やっぱり六倍以上の点数を相手に慣れだけで勝てるわけないよね」
「アキ、佐藤さんが一周回ってかわいそうな目でアキの事を見てるんだけど」
「必死に目を逸らしてる現実を教えるのは勘弁してくれると嬉しいかな、美波」
まずは一敗、か。
「よし。勝負はこれからだ」
「ちょっと待った雄二! アンタ僕を全然信頼してなかったでしょう!」
「信頼? 何ソレ? 食えんの?」
まあ、相手の点数を見る限り、やはり得意科目であったようだから姫路さんでも厳しかったのではないだろうか。
ところで、
「なあ坂本。もしかして俺もただの人数合わせか?」
「……」
「おいそっぽを向くんじゃないFクラス代表」
いやいや、まさか……な。
「では、二人目の方どうぞ」
切り替えて行こう、二戦目だ。
「今度はこちらから行かせてもらうぞ」
「……構わない」
「というわけだ。行ってこい、谷村」
「了解」
ここで負けたら後が無い。一応残りの三人には充分な勝機があるがここで勝っておくに越したことは無い。
クラスメイトの期待を背負いながら、俺は前へ進む。
「Fクラス、谷村誠二が出る! 科目は数学だ!」
とりあえず真っ向勝負じゃ勝ち目がないから、虚勢を張って流れをこっちに身に付けよう。
「それじゃ、こっちからはアタシが出るわ」
「誰が来たって返り討ちにしてや……っ!」
そんな声と共にAクラスから次鋒として出てきたのは、振り分け試験の日に俺が惚れた相手。すなわち――
「――Aクラス、木下優子よ」
俺達は数日ぶりに、言葉を交わした。
「それでは、次鋒戦、開始!」
『
『~次鋒戦~【数学】
Aクラス 木下優子
351点
VS
Fクラス 谷村誠二
169点』
ほぼダブルスコアか。
今回数学の採点を務めたのは、採点に関しては特別甘いわけでも辛いわけでもない船越先生だ。今回はそれなりに点を取れていたと思っていたが……それでも木下さんの半分にも及ばなかった。
さて。
「……」
木下さんに謝りたいこと、話したいこと、言いたいことはいくらでもある。
ただ、そう思っても声が出ないし、そもそも話しかけるなとまで言われている。
どうしたもんかと思っていると、
「あなた……谷村っていう名前だったのね」
なんと、木下さんの方から話しかけてきた。
「え? え、あ、はい」
まさか、向こうから話しかけてくるなんて思わなかったから思い切り動揺してしまった。
そういえば、俺の名前を木下さんに教えてなかったな。
「……えっと、その……あの時はすいませんでした」
そう言って頭を下げる俺。
なんとか、謝罪の言葉を口にすることが出来た。
とはいえ、そんなもので木下さんの機嫌が直るとも思えないし、これ以降会話をすることも無いだろう。
そう思っていたのだが。
「……谷村君」
「……はい」
「えっと、その……ごめんなさいっ!」
俺の目の前には、謝罪の声と共に頭を下げる木下さんの姿があった。
俺と木下さんの周りには状況がまったく掴めずに困惑の表情をAクラスとFクラスの面々。
ちなみに、俺も状況の把握が一切できずに戸惑っている。
「な、なんで木下さんが謝るんですか! 木下さんが謝る必要なんて全くありませんよ!」
「そんなことないわ」
「……説明してくれますか」
このまま言い争っていても埒が明かない。
ひとまず、木下さんの話を聞いてみることにした。
「その……アタシ、あの時は馬鹿にされたと思っちゃって怒っちゃったじゃない……」
「……あの状況はそう思っても仕方なかったと思います」
「違うのよ。谷村君の言い訳も何も聞かずに帰っちゃった事を謝りたいの」
「……」
「あの後家に帰ってから、秀吉から聞いたのよ」
「聞いたって、何をですか」
「あの日、Bクラスから襲撃を受けたことよ。何人かは筆記用具だけじゃなくて鞄を踏まれたりしたって……」
……そういう事か。
「ちゃんと理由があったのに、一人で勝手に怒って、あまつさえ『もう話しかけないで』なんて言っちゃって……本当にごめんなさい!」
再び頭を下げる木下さん。
つまり、木下さんはあの一件の真相に気づいていたのだ。
それでも、彼女が謝る道理は無い。
「事情があったとしても、俺が木下さんを怒らせちゃったことに変わりはないですよ。こちらこそ、すいませんでした」
「そういう事じゃなくて……! アタシがちゃんと話を聞けば良かったのよ! それなのに、この数日間全然話す機会が無いし……」
「話す機会……?」
「そうよ。校門で待ち構えたりとか色々してたのに、何故か全然会えなくて……」
あの日見かけた木下さんは、俺の事を待ってたのか!
「それに関しては……俺の方が謝るべきですね」
「……どういうこと?」
「話しかけるなって言われたから、校内で見かけても出来るだけ避けてたんです。……まさか話があるなんて」
「そういう事だったら、それこそアタシのせいよ。あんな事言っちゃったんだから」
木下さんはかつて見た時とは違いとてもしおらしくなっていた。
「……とにかく、そういうわけだから今回アタシが次鋒として出てきたのよ。この機会を逃したらもう謝るチャンスなんてないと思って……」
それは……おそらくその通りかもしれない。俺は、この後も木下さんを避け続けただろうから。
「……木下さん、お手数かけてすいませんでした」
「だから、悪いのはアタシなんだから谷村君が謝らなくても――!」
「いや、悪いのはちゃんと確認しなかった俺で――!」
ダメだ! 話が付きそうにない!
下手にあの時から時間が流れているせいだろうか。互いに自分の方が悪いなんて思っている!
クソ、悪いのは俺の方なのに……!
そんな風に木下さんと口論を続けていると、痺れを切らして高橋先生が口を挟んできた。
「あの……痴話げんかはそこまでにして、いい加減召喚獣バトルをしてもらえますか?」
「ち、痴話……っ!?」
「そ、そんなんじゃないですよ!」
慌てて否定する俺だったが、周りを見ると皆うんざりといった様な顔をしていた。事情が分からないから余計にそう思うのだろう。
というか、試召戦争中だという事をすっかり忘れて……ん?
……そうだ。
「木下さん、提案があるんですが」
「何よ?」
「このまま言い争っていても終わりませんから、召喚獣バトルで決着を付けましょう。勝った方の言い分が正しいってことで」
「……アタシはいいけど、あなたはそれでもいいの?」
木下さんが言っているのは、俺達の間にある圧倒的な点数差だろう。
このままでは勝負にすらならない、と。
「問題ありませんよ。だって謝るべきなのは俺なんですから、負けるはずがありません」
「へえ……言うじゃない」
俺の一言が木下さんの闘争心に火をつけたらしい。
「でもね、謝るべきなのはアタシの方よ。理由も聞かずに怒ったんだから……!」
おっと、話題がループしかけている。
「……それじゃ、始めましょう」
「ええ」
「高橋先生、悪いんですがもう一度号令をお願いできますか?」
「分かりました」
これから始めるのは、あの一件にケリを付けるための戦いだ。
この戦いには、お互いのプライドがかかっている。
「次鋒戦始め!」
その号令と共に、二人ともとりあえず召喚獣を思い切り飛び退かせて距離を取る。
改めて点数を確認する。
『~次鋒戦~【数学】
Aクラス 木下優子
351点
VS
Fクラス 谷村誠二
169点』
正直な話、ダブルスコアをひっくり返すのは並大抵のことではなく、特に操作技術に秀でているわけでもない俺では正攻法で戦ったところで敗戦は免れない。
ならば、正攻法でなければよいのだ。
「まずは……よっと!」
「きゃっ!」
俺の召喚獣は二本のカッターナイフを木下さんの召喚獣に向けて投げつける。木下さんの召喚獣は、横っ飛びでなんとかそれを回避する。
「くっ……! 投擲武器なんて、卑怯じゃない!」
「それがそうでもないんですよ。点数が高い相手には今みたいに避けられちゃいますし」
カッターナイフはそれなりの速度があったが、さすがは350点越え、召喚獣そのもののスピードが高くまともに当てることすら難しい。しかも、当たったところでこの点差だ。大したダメージを与えることは出来ないだろう。
「それ、まだまだ行きますよ!」
それでも、俺の召喚獣はカッターナイフやその替刃を投げまくる。
「来ることが分かってるカッターに当たるわけないわ!」
当然の如くカッターを避け続ける木下さんの召喚獣。
だが、それでもかまわない。この投擲は、直接当てることが目的ではないのだから。
「いい加減鬱陶しいわね……今度はこっちから行くわよ!」
相手が、痺れを切らしてこちらに突撃してきた。作戦通りなのだが……それでもここは凌がないと!
木下さんの召喚獣の構えるランスを受け止めるのは、盾やそれ相応のものが無ければ厳しく、筆箱は代わりにはなってくれない。
ただの剣や斧であればまだ防御が出来たが……仕方ない。
作戦の為には、一瞬でも木下さんの召喚獣に攻撃が当たったように見せかける必要がある。
俺の召喚獣はカッターナイフを携えて、ランスをよけながら木下さんの召喚獣を切りつける
ランスを躱しきるに越したことは無いが、さあどうだ……?
『~次鋒戦~【数学】
Aクラス 木下優子
351点→332点
VS
Fクラス 谷村誠二
169点→108点』
結局完全にかわしきることは出来ず、わき腹を抉られるようにランスを食らってしまった。
「クソ……結構削られたか……!」
「この点数差でそのダメージで済んでるんだから充分じゃないかしら?」
点数差がさらに広がり、余裕の表情でこちらを見る木下さん。
「最初はダブルスコアだったのよ。今の一撃が致命傷になっても……?」
と、そこで突如彼女は疑問の表情を浮かべた。
「あれ? なんでアタシの点数まで減ってるのかしら? 確か攻撃は食らわなかったはずのなのに」
よく見ると、今の交戦の結果俺の召喚獣は約60点、木下さんの召喚獣は約20点ほどダメージを受けている。
「簡単な事ですよ、攻撃を食らっただけです」
「いやでも……まあいいわ。大した失点じゃないもの」
『実は直接攻撃を与えていない事』に気づかれたのかと思ったがスルーしてくれたらしい。
確かに、この点数なら20点なんてほとんど影響はない。
――だからこそ、付け入る隙がある。
「すぐに決着を付けてあげる!」
「――まずっ! 距離を取らないと!」
「逃がさないわ!」
この時点から、俺は逃げに徹する。それでこそ、勝ちの目が出てくるのだ。
「食らいなさい!」
思い切り繰り出される木下さんのランス。しかし、下手な事を考えずに避けることに専念すれば、この広いフィールドの中で回避することは意外にたやすい。もちろん、二度の試召戦争の経験もあってのことだが。
『~次鋒戦~【数学】
Aクラス 木下優子
332点→318点
VS
Fクラス 谷村誠二
108点』
「くっ……また攻撃が当たったの!?」
今回ダメージを受けたのは相手側だけ。すなわち、こちらは無傷だ。
間違いない、俺の策は確実に成功している。
「まだ点差はあるわ! 覚悟しなさい!」
「分かりませんよ、どっちが勝つかなんて!」
そして、二体の召喚獣は交錯を続ける。
数分後、木下さんの召喚獣による度重なるランスの攻撃を全て躱しきることはもちろんできず、俺の召喚獣は虫の息だ。
「おかしいわ……絶対におかしい!」
しかし、この現状に焦っているのは俺ではなく木下さんの方だった。
その現状とは、すなわち――
『~次鋒戦~【数学】
Aクラス 木下優子
318点→ 53点
VS
Fクラス 谷村誠二
108点→ 45点』
「どう考えても、アタシの点数が減りすぎてるわ!」
俺の攻撃が当たっているわけでもないのに、木下さんの点数が減っている、という事だ。
「一体どうして……? 攻撃がかすめることはあっても直撃はしてないはずなのに……」
実のところ、俺の召喚獣が携えるカッターナイフはかすめるどころか一度として木下さんの召喚獣には当たっていない。
しかし、確実にダメージは与えているのだ。
「そろそろ頃合いかな」
「頃合いって……やっぱり何かしてたってこと?」
「うん、まあそういうことなんです」
既に木下さんの点数は60点を切っている。これなら、45点でも急所に当てれば一撃で戦死にすることができるはずだ。
「今のうちに謝っておきます、木下さん」
「……説明してくれるかしら」
今回は、怒るわけでもなく冷静に話を促す木下さん。
「はい。実は、『まきびし』を撒いておいたんです。もちろん、まきびしそのものじゃ無いですけど」
「まきびしって……あっ!」
気づいたみたいだ。
「もしかして、最初に投げていたカッターの替刃の事!?」
「その通りです」
「なるほど、それが足に刺さってたからダメージを食らっていたのね……」
「そういう事です。召喚獣なら何か踏んでも気づかないし、抜くことも出来ませんから」
そう、これこそが今回の作戦の肝なのだ。
俺でしか使えないこの『替刃のまきびし』は、踏んだ時点で詰んでいる。その存在に気付いた所で、どうしようもないからだ。
替刃に気づいても、大まかな動きしかできない召喚獣では替刃を抜くことは出来ない。
さらに、一歩踏み出すたびにダメージを食らうため動くことが出来ない。この点数なら、致命傷にすらなり得る。
だからこそ、今このタイミングでネタバラシをしたのだ。
「そんなわけで、一歩も動かない方が良いですよ。動くのであれば、俺は逃げ回るだけですから」
「……それでも、アタシは諦めないわ」
「……もういいでしょう。結局、悪いのは俺だったんですよ」
そう言って、俺は召喚獣を木下さんの召喚獣へ突撃させる。
もちろん、カッターナイフを構えたままで。
「これで終わりです!」
「それはどうかしら?」
「……? もう出来ることはありませんよ!」
底なし沼に脚が取られたか如く、足を動かさない、否、動かせない木下さんの召喚獣。
なのに――カッターナイフが首筋に刺さろうかというその瞬間、その召喚獣の姿が消えた。
ダメージを受けるはずなのに、木下さんは何のためらいもなく召喚獣を動かしたのだ。
「なっ!?」
「まきびしってのは確かに良い作戦だったわね。ただ、ネタバラシが早すぎたと思うわ」
渾身の一撃が宙を切った俺の召喚獣は地面に倒れこみ、その真上からランスが突き刺さった。
『~次鋒戦~【数学】
Aクラス 木下優子
53点→ 6点
VS
Fクラス 谷村誠二
45点→ 0点』
「思い切り踏み込んだからかしら。思ったより点が削られてるわね」
冷静に状況を判断する木下さん。
その凛々しい表情はとても美しくて――って、そんな場合じゃない!
「ちょっと、なんで足を動かしたんですか!」
「なんでって……そうしないと勝てないじゃない」
「そんな……下手すりゃ負けてたんですよ!?」
「だとしても、動かなかったら負けてたわ。だったら、ここは動くべきよ」
な、なんて男前なんだ……。
「ほら、よく言うじゃない。女は度胸ってね」
「え? いや、確かそれは……」
と、俺は訂正をしようとしたが、少し悩んでやめた。俺がそれを言うのは、無粋過ぎるだろうから。
「勝者、Aクラス木下優子!」
高橋先生の声が、Aクラス中に響き渡った。
今回が第一章のクライマックスです。