【化学】
問 以下の問いに答えなさい。
『アルミニウム、鉄、ニッケルが濃硝酸に溶けないのはなぜか』
姫路瑞希の答え
『金属の表面に緻密な酸化被膜を生じるため』
教師のコメント
正解です。ちなみに、この状態の事を不動態と言います。
谷村誠二の答え
『濃硝酸とは相性が悪かったため』
教師のコメント
間違ってはいないのですが。
土屋康太の答え
『金属の表面に濃硝酸を打ち消す効果のある液体を塗っていたから』
教師のコメント
金属はなんでも良い訳じゃありません。
吉井明久の答え
『アルミニウム、鉄、ニッケルは濃硝酸に溶けないから』
教師のコメント
あとで職員室に来るように。
「すまん、負けちまった」
試合を終えた俺はFクラス陣営へと戻った。
「いや、十分だ。と言うか、正直ここまでやると思わなかった。後は俺達に任せてくれ」
俺の敗戦で後がなくなったFクラスだったが、坂本は表情を崩すことなくそう言った。
確かに、まだ勝ちの目がなくなったわけではない。もとより俺は数合わせ。ここからの三人がFクラスの主力だ。
「三戦目、科目はどうしますか?」
その声で立ち上がったのは、単一科目最大火力を持つ土屋だ。
「……科目は保健体育で」
もちろん、科目指定は土屋の得意科目なわけだが、二戦目は俺が科目選択したのでここは相手に譲るべきなのかもしれない。
しかし、
「構わないよ」
Aクラス陣営からあがる、そんな可愛い声。
「こっちからはボクが出るね」
その声の持ち主は、ショートカットのボーイッシュな女の子だった。
「一年の終わりに転入してきた工藤愛子です。よろしくね」
ん? 工藤って、もしかして……。
その疑念を確かめるため、俺は横に立つ工藤に話しかける。
「なあ、あの子って……」
「ん? ああ、そうだよ。俺の姉だ」
やっぱりそうだったか。
三月ごろに、工藤から姉が転校してくるだのという話を聞いた。色々と事情があるそうで深くは聞かなかったが、その姉というのがあの子なのだろう。
「俺、姉ちゃんあんまり好きじゃないんだよな」
と、ひとりごちる工藤。
「なんでだ? 別に性格が悪いようには見えないが」
「ああ、いや。そういうんじゃないけどさ」
工藤はよく意味の分からないことを言う。
すると、件の姉が言葉を発した。
「土屋君だっけ? 随分と保健体育が得意みたいだけど、ボクも結構得意なんだよね。キミとは違って、実技でね♪」
な、なんだ!? すごく魅力的な台詞のような気がする!?
と、そこで横を見ると、工藤は非常にうんざりしたような顔をしていた。
「こういう台詞、幼馴染とかならまだしも身内から聞きたくねえよ……」
「あー……なんか、すまん」
「まあいいけどよ、これまずいんじゃないかなあ」
「まずい? 土屋に勝てるわけないだろ」
「確かにムッツリーニの保健体育はすごいけどよ。さっき言ってた通り姉ちゃんもかなり保健体育が得意なんだよ」
「……マジで?」
「マジで」
だとすると、かなり厳しいのかもしれない。
土屋と違って、工藤の姉はAクラス。つまり、総合力がある。
その上での得意教科だとするならば、その実力は未知数だ。
「二人とも、心配しなくてもいいぞ」
そこで俺達に声をかけてきたのは、坂本だった。
「心配しなくてもいいって、どういうことだ?」
「その言葉の通りだ」
いまいち要領を得ない坂本の返答。
まあ、試合が始まれば分かるだろう。
「では、中堅戦始め!」
『
その声と共に、少しずつ姿が現れてくる二人の召喚獣。
先に現れたのは、工藤の姉の召喚獣の方で、ドデカい斧を持ちアクセサリーのような腕輪をしている。
あの腕輪は、確か一定以上の点数を取ると付属するもので、点数を消費して特殊能力を発動できるものだったはずだ。
つまり、彼女はそれほどの実力者だということだ。
『まずい! 腕輪を使ってくるぞ!』
そんな悲鳴にも似た声がどこかから上がる。その声の通り、彼女の召喚獣の腕輪が光った。
巨大な斧に電光をまとわせ土屋の召喚獣に肉迫するその姿に、彼女の勝利は決定的に思えた。
しかし。
「…………加速」
「……え?」
その斧が土屋の召喚獣に当たることは無く、一瞬の後、彼女の召喚獣が全身から血を噴き出して倒れこんだ。
『~中堅戦~【保健体育】
Aクラス 工藤愛子
446点
VS
Fクラス 土屋康太
572点』
ようやく表示された土屋の点数は、俺の総合科目の点数に迫ろうかというほどだった。
「つ、強い!」
「対Bクラス戦の時は出来がいまいちだったらしいからな」
驚きを隠せない俺に、坂本が説明をしてくれた。
改めて思う。土屋、恐るべし。
「勝者、Fクラス土屋康太!」
なんにしても、これで一勝二敗だ。
「四人目の方は?」
「今度はこちらが科目選択をさせてもらうよ」
淡々と進行する高橋先生の声に応えたのは、姫路さんとほぼ同等の実力を持つ久保利光だった。
こちらの科目選択権は残り一つしかなく、それは大将戦に使われるためここはAクラスに譲るしかない。
「久保、出るのはお前か?」
「もちろん。これ以上負けて霧島さんに手を煩わせるわけにはいかないからね」
「そうか。それじゃ姫路、頼んだぞ」
「はい!」
一方、こちらから出るのは当然姫路さんである。
その返事は力強く、その意志の強さがうかがえる。
「……正直な所、ここが一番の心配どころだったが、そんな心配はいらなそうだな」
そんな坂本の声。
特に召喚獣に特性があるわけではない姫路さん。点数で大きな差が付かなければ、負けることも十分にあり得るのだ。
さあ、どうなるか。
「科目はどうしますか?」
「総合科目でお願いします」
「分かりました。では、副将戦始め!」
『
今回も同じような手順で召喚獣が喚び出される。
『~副将戦~【総合科目】
Aクラス 久保利光
3997点
VS
Fクラス 姫路瑞希
4409点』
「んなっ……4000点オーバーだと!?」
総合科目と言えど、この400点以上の大差。操作技術もむしろ姫路さんの方に分があったこの勝負は、点数差の通りの決着をつけた。
「ぐっ……! 姫路さん、どうやってそんなに強くなったんだ……?」
久保君が悔しそうに姫路さんに尋ねる。いつの間にかこれほどの点差が付いていたのだ。不思議に思うのも当然だ。
「……私、このクラスの皆が好きなんです。人のために一生懸命な皆のいる、Fクラスが」
「Fクラスが好き?」
「はい。だから、頑張れるんです」
姫路さんは嬉しいことを言ってくれる。ここ最近の姫路さんの原動力はここにあったらしい。
久保君は、納得したようなそうでないような表情でAクラス陣営へと戻っていった。
それも当然かもしれない。Fクラスは最底辺クラスで、その評判に偽りはないと自分でも思う。だからこそ、この姫路さんの感情は一緒に戦ってきた俺達にしか分からない。
「これで二対二です」
こうして、Aクラス対Fクラスの試召戦争は大将戦にもつれ込むこととなった。
「最後の一人、どうぞ」
「……はい」
Aクラス陣営から出るのは、二学年最強の座に就く霧島翔子さん。
そして、
「俺の出番だな」
こちらから出るのは坂本しかいない。
「教科はどうしますか?」
科目選択権を持つ坂本は、息を吸い込んで大きな声で宣言する。
「教科は日本史、内容は小学生レベルで方式は百点満点の上限ありだ!」
Fクラスの勝利への作戦を。
「つまり、純粋な点数勝負という事ですか?」
「ああ、そういうことだ」
この宣言で、Aクラスにざわめきが走る。
『上限ありだって?』
『しかも、小学生レベルだ』
『満点が前提の勝負になってくるぞ……』
この戦いでAクラスに敗北の可能性があるとすれば、それは霧島さんが何か間違える事であるが、Aクラスの皆はそんなことはありえないと確信している。
しかし、それがFクラスの取った作戦であるとするならば、何かあると身構えるのが当然である。
まあ、もちろん罠があるのだけど。
「分かりました。そうなると問題を用意しなくてはいけませんね。少しこのまま待っていてください」
そう言って、高橋先生はノートパソコンを携えて教室を出て行った。
「雄二、後は任せたよ」
「ああ。任された」
吉井を筆頭に、土屋や姫路さん等、Fクラスの皆が声をかけに行く。折角だから俺も話してこよう。
「坂本。絶対勝てよ」
「フッ、もちろんだ。俺を誰だと思っている」
「分かってるさ、Fクラス代表サマ」
俺達は、そんな軽口を交わした。
少しして、問題を作り終えた高橋先生が教室に戻ってきて、代表の二人は視聴覚室へと連れられて行った。
勝負の様子は、バカデカいディスプレイに表示される。
『では、問題を配ります。制限時間は五十分。満点は百点です。不正行為などは即失格になります』
先生の声と共に、二人の前に問題用紙が置かれた。
『では、始めてください』
そして、問題が明らかになる。
俺達の勝敗は、問題を作った高橋先生のさじ加減ひとつで決まる。
すなわち、あの問題が出ているかどうかだ。
《次の( )に正しい年号を記入しなさい》
やはり出た、年号問題。まずは第一段階クリアだ。
ざっと見た感じ、年号問題は二十問ほどのようだが……
( )年 平城京に遷都
( )年 平安京に遷都
このレベルなら、きっと出ているはずだ!
( )年 鎌倉幕府設立
そして、そのずらりと並んだ問題の中に、その文字列はあった。
( )年 大化の改新
『あ……!』
『あった……!』
Fクラスの皆も、見つけたらしい。
Aクラスの連中は何が何だか分かっていないようだが、そんなのは関係ない!
「最下層に位置した僕らの、歴史的な勝利だ!」
『うぉぉぉぉっ!』
吉井の声に呼応するように、Fクラスの歓喜の声が教室に響き渡る。
こうして、この下剋上の果てに俺達Fクラスの卓袱台は――
《日本史勝負 限定テスト 100点満点》
《Aクラス 霧島翔子 97点》
VS
《Fクラス 坂本雄二 53点》
――みかん箱になった。
結末は、原作通り。