モブとテストと優等生   作:相川葵

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章末問題 最後の清算

【歴史】

 問 次の(  )に正しい年号を記入しなさい。

『(  )年 キリスト教伝来』

 

 

 

 木下優子の答え

『1549』

 

 教師のコメント

 正解です。

 

 

 

 谷村誠二の答え

『絶対に忘れない、君と俺が出会った1993』

 

 教師のコメント

 不正解です。

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

「三対二でAクラスの勝利です」

 

 怒号を挙げながら視聴覚室に突撃した俺達に、高橋先生は冷酷に告げた。

 うん、分かってるんです。俺達の負けです。

 

「……雄二、私の勝ち」

 

 灰になったかのような坂本に、霧島さんが歩み寄る。

 

「……殺せ」

「良い覚悟だ、殺してやる!」

「吉井君、落ち着いてください!」

「そうだぞ、吉井! 殺す前にギリギリまで痛めつけるんだ!」

 

 坂本に襲いかかる吉井と、それを止める姫路さんと俺。

 

「うるさい、二人とも! コイツはここで殺さないとだめだ! だいたい、53点ってなんだよ! この中途半端な点数だと――」

「いかにも俺の全力だ」

「この阿呆がぁーっ!」

「やめろ吉井! こうなったら殺さずに生きていることを後悔させてやるんだ!」

「二人とも、落ち着きなさい! アンタ達だったら30点も取れないでしょうが!」

「「それについて否定はしない!」」

 

 さっきの年号問題、殆ど分からなかったからな。

 

「大体、アンタらも負けたんだから坂本を責める権利なんてないでしょ!」

「「じゃああれだけ大口叩いたコイツに文句を言わずにおけって言うのか!?」」

「息ぴったりね、アンタら」

 

 いやまあ、負けたことに責任を感じてなくはないが。けど、絶対坂本と吉井よりは頑張ったぞ。 

 

「皆さん、やめてください!」

 

 結局、体を張って必死に止めた姫路さんのおかげで坂本の処刑は見送りになった。

 

「くそっ。雄二、姫路さんの優しさに感謝しておいてよ」

「……でも、危なかった。雄二が所詮小学校の問題だと油断していなければ負けてた」

「言い訳はしねえ」

 

 図星か。

 

「……ところで、約束」

 

 ……約束? 何のことだ?

 ふと周りに目をやると、吉井や土屋がなぜかそわそわしている。

 

「なあ吉井、約束って何のことだ?」

「あ、そうか。皆はそのことを知らないんだっけ。ええと、戦前交渉の時に、一騎打ちを飲む条件として『負けた方は何でも一つ言う事を聞く』ってのがあったんだ」

「へえ……っておい! そんな大事な事黙ってたのかよ!」

「う、うん。雄二が黙ってたってことは言わなくても良い事だったんだろうし」

「たくっ……んで? なんでお前達はそんなにそわそわしてるんだ?」

「え? あはははは……」

 

 なぜかはぐらかされた。どうしたんだ一体。

 

「……雄二」

「分かっている。なんでも言え」

「……それじゃ――」

 

 霧島さんはFクラス陣営を一瞥して、再び坂本に向き直った。

 そして、小さく息を吸って、

 

「……雄二、私と付き合って」

 

 そんな衝撃的な一言を言い放った。

 

 

 

 ……え?

 

 

 

「やっぱりな。お前、まだ諦めてなかったのか」

「……諦めるわけがない。ずっと、雄二の事が好き」

 

 ちょ、ちょっと、どういうこと?

 一体何が起きているんだ?

 学年主席の霧島さんが坂本の事を好き? そんなバカな!

 

「その話は何度も断っただろ? 他の男と付き合う気は無いのか?」

「……私には雄二しかいない。他のひとなんて、興味ない」

「拒否権は?」

「……ない。約束だから。今からデートに行く」

「ぐぁっ! 放せ! やっぱこの約束は無かったことに――」

 

 そんな声もむなしく、戦犯は霧島さんに首根っこを掴まれて教室から引っ張り出された。

 

『……』

 

 残された俺達は当然沈黙するしかなく、あまりの出来事に言葉が出ない。

 つまり、霧島さんが告白を断っていたのは、異性に興味が無いんじゃなくて坂本の事をずっと想っていたからってことか?

 …………。

 

「さて、Fクラスの諸君。遊びの時間はここまでだ」

 

 呆然としている俺達に、突如野太い声がかけられる。

 当然と言うかなんと言うか、そこに立っていたのは鉄人だった。

 

「あれ? 西村先生。僕らに何か用ですか?」

 

 とりあえず、吉井が話しかける。

 

「ああ。今から我がFクラスに補習についての説明をしようと思ってな」

 

 補習か……試召戦争に負けたから仕方ないのかな……ってあれ?

 

「先生、『我がFクラス』ってどういう事ですか?」

 

 すると、鉄人は俺達に笑顔を向けた。

 

「おめでとう。お前らは戦争に負けたおかげで、福原先生から俺に担任が変わるそうだ。これから一年、死に物狂いで勉強できるぞ」

『なにぃっ!?』

 

 俺達は皆、悲鳴をあげる。

 それも当然だ。鉄人の指導はとても厳しいもので、ろくな学園生活にならないことは想像するまでもない。

 鬼の補習は俺も一年の時に経験があるし、その恐ろしさは今回の試召戦争で戦死したヤツなら余計に分かるのではないだろうか。

 

「いいか。確かにお前らはよくやった。でもな、いくら『学力がすべてではない』と言っても、人生を渡っていく上では強力な武器の一つなんだ。決してないがしろにしていいものじゃない」

 

 くそっ! なんでこんな説教臭いことを言われなきゃいけないんだ!

 

「吉井。お前と坂本は特に念入りに監視してやる。なにせ、《観察処分者》とA級戦犯だからな」

 

 ……つまり、生贄にしてもいいってことか?

 

「そうは行きませんよ! なんとしても監視の目をかいくぐって、今まで通りの学園生活を過ごしてみせます!」

「……お前には悔い改めるという発想は無いのか」

 

 吉井の事だ。そんな気はさらさら無いだろうな。

 しかし、吉井の顔はどこかやる気があるようにも見えた。この試召戦争の結末は、少なくとも吉井にはいい影響を与えたのかもしれない。

 

「とりあえず明日から授業とは別に補習の時間を二時間設けてやろう」

 

 二時間かあ……二時間はきついな。

 ただ、吉井と同じように、俺も少しだけやる気が出てきていた。

 一つの理由としては、もちろん、この教師や劣悪な環境から逃げるため、というものである。

 しかし、それとは別に、勉強したい理由がもう一つある。

 

「谷村君、ちょっといいかしら?」

「あ、はい。大丈夫です」

 

 そんなことを考えていると、木下さんが話しかけてきた。

 

「その……さっきの召喚獣バトルで、アタシが悪いって事になったじゃない? だから……お詫びをしたいのよ」

「お詫び?」

「ええ。えっと、一緒に喫茶店に行きましょう? もちろん、私がおごるから」

「おごるだなんて、そんな……」

 

 と、言いかけてから考える。これが、彼女なりのけじめなのだろう。

 であれば、ここで断ることは道理じゃないはずだ。

 

「……分かりました。いつにしますか?」

「そうね、今度の週末でどうかしら?」

「いいですね」

「そう! じゃ、そういう事だから。詳しいことは後でまた決めましょう! それじゃ!」

 

 そう言い残して、木下さんは去って行った。

 俺に初めて見せた、笑顔と共に。

 

 

 ……ん?

 これってデートじゃないか?

 

 

 

 

 

 

 さて、俺が勉強したい理由は、木下さんにある。

 彼女のタイプにはなれそうにもないが、それでも、俺は木下さんの事が好きなのだ。

 だから、少しでも優等生である木下さんに近づきたいと、そう思ったのだ。

 

 

 まあ、とりあえず、俺が今からすべきなのは、

 

「なあ谷村。なんか楽しそうな話をしていたな?」

「詳しく話を聞かせてもらおうか」

「おいおい、話なんか聞かなくてもいいんじゃないか?」

 

 この嫉妬に狂ったクラスメイトから逃げ切るということだった。




所用でなかなか投稿できずに、ようやく第一章完結です。
今後の投稿予定については活動報告にて。
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