モブと約束とラブレター(前編)
「ううん、良い天気だなあ」
早朝の通学路を歩く俺の頭上には、雲一つない澄み渡る青空が広がっている。まだ低い太陽の日差しと、体に当たる涼しい風がとても気持ちいい。
今朝は早くに目が覚めたので、普段より一時間も早く登校しているのだが、それだけでこの学校へと続く坂道は様変わりする。いつもはごった返す生徒達で騒がしい通学路も、今はどこかから鳥の鳴き声が聞こえてくるほどに静かだ。早起きもたまにはしてみるもんだな。
まあ、こんな早くに学校に来たところですることなんてない。何をして暇をつぶそうか考えていると、校門に誰かが掃き掃除をしているのが見えた。あれは――鉄人か。
不服にも先の試召戦争の結果とはいえ一応は我らがFクラスの担任な訳だし、挨拶でもしておこう。
「おはようございます」
すると、一瞬爽やかな笑顔をした鉄人は、声の主が俺だと気付くとすぐに表情をもどし、
「おう、おはよう。今日はやけに早いな」
と返した。
「なんでそんな厳しい顔で挨拶するんですか。一瞬笑顔だったのに」
「何を言っている。お前達Fクラス以外には笑顔で挨拶をしているぞ」
笑顔で挨拶する鉄人……自分で言っておいてなんだが、改めて冷静に想像するとなんておぞましい光景なんだ。
「まあいい、せっかくこんな早くに学校に来たんだから、HRまで自習していろ」
「え、どうして授業でもないのに勉強なんてしなきゃいけないんですか」
「……お前は
じろりと鉄人に睨まれた。
「じょ、冗談ですよ、ハハハ……早起きは三問を解くって言いますしね」
「それを言うなら早起きは三文の得だ、バカ」
あれ、そうだっけ?
呆れ顔の鉄人に苦笑いで返し、そそくさと下駄箱へと向かう。
すると、
「……ん?」
下駄箱の前に何かが落ちているのを見つけた。
これは……封筒か?
「なんだこれ?」
裏返してみると、封筒は赤いハートのシールで封がしてあり、右下には吉井明久さまへと宛名が書いてあった。
「…………これ、もしかして!」
吉井宛のラブレターか!
と、気付いた瞬間後ろから声をかけられた。
「あら、谷村君じゃない」
「ひゃい!」
驚いた俺が奇声を挙げながら振り向くと、そこには、学園の優等生、木下優子さんが立っていた。茶色いショートカットで前髪はピンでとめてあり、きりりとした目が今日も美しい。そして、その、なんだ、俺が絶賛片思いしている相手でもある。
とっさに封筒を後ろ手に隠して、振り返る。
「そんな驚かなくても……」
「あ、すいません……木下さん、早いんですね」
「それはこっちの台詞よ。私は自習の為にたまにこのくらいの時間にくるけど、あなたはこんな時間に見かけたことないもの」
「ああ、まあ……俺の場合はたまたまですよ」
そうだったのか。さすがはAクラス。こんな朝早くから勉強するなんて、俺達Fクラスじゃありえない。
「そうだ。試召戦争の時に喫茶店に行こうって約束したのに、まだ行ってなかったわよね?」
「そうですね」
そうなのだ。
あの日木下さんと喫茶店に行く約束をしたはいいが、結局急な用事がお互いに入って延期になってしまった。つまり、あの約束をまだ果たせていないのだ。
「ちょっと今は勉強したいから、後で話しましょう。……そうね、昼休みに屋上でいいかしら?」
「はい。大丈夫です」
どのみち昼休みに予定なんかはいりっこない。いつだってオールフリーだ。
「じゃあ、また会いましょうね!」
そう言って、木下さんは一足先に教室へと向かっていった。
朝から木下さんと話せるなんて今日はとてもいい日かもしれない。早起きは三問を……じゃない、早起きは三円の得とはよく言ったもんだ。
と、そこで背中に隠していたラブレターの存在を思い出した。
「あ……これどうしようか」
少し悩んだが、今の俺はとても気分が良い。吉井に春が来るのは多少むかつくが、このラブレターを書いた女子の気持ちを考えると無下にすることもできない。その女子の代わりにラブレターを吉井の下駄箱に入れておいてやろう。
「……これでよし」
木下さんとも話せて、人助けもして、なんていい朝なんだ。これで木下さんとのデートの期日を決められれば、もう言うことは無い。
昼休みが楽しみだ。まさか、誰かに襲われるとかそんな非現実的な事は無いだろうし。
そんなのんきなことを考えながら、俺は教室へと足を進めた。
『……あれ? 今のは谷村君と……木下さんかな? 何話してたんだろ』
『何やってる吉井、手が止まってるぞ。ちゃんと働け』
『はいはい。言われなくてもちゃんとやりますよーだ……まったく、鉄人ときたら人使いが荒いんだから……』
『聞こえてるぞ吉井』
『そう言いながら僕の召喚獣に蹴りを入れるのはやめてください西村先生!』
次第に人の増えていく教室を見るのは、なかなか面白かった。早朝に教室に来てもすることはマンガを読むくらいだが(ゲームは没収されると買い戻しづらいので持ってこないし)、早起きしただけの甲斐はあったかもしれない。もう当分はいいけど。
「あー……彼女欲しいよなあ……」
俺の隣の席でみかん箱に突っ伏している須川が、そんなことをぼやきだした。
「だよなあ……Fクラスじゃ出会い自体が少ないから難しいけど」
工藤がこっちを向いてそう返した。
「工藤はいいよな。Aクラスの工藤さんが姉なんだろ?」
「よくねーよ。正直、姉ちゃんがかわいいだなんだって話はよくわからないしな」
「お前工藤さんの良さがわからないとは……ん? ちょっと待て、お前、工藤さんと
「そういうことになるけど……な、なんだ、どうしてお前達は急にロープを取り出してるんだ!」
「うるさい裏切者! その環境が妬ましいっ!」
なにやら急に騒ぎ始めたが、工藤が姉と一緒に暮らしてるからと言って俺は別に何も思わない。彼女が出来たなら全力で潰しにかかるが、そうじゃなかったら騒ぐほどでもない。
これは多分、須川達とは違って俺には心の余裕があるからだろう。木下さんと実質デートに行けるというのがこの余裕を生み出していると思う……あ、まずい。ニヤケてきた。
須川達の騒動は工藤が簀巻きになったあたりでチャイムが鳴ったのでお開きになった。
その直後、吉井、坂本に続いて鉄人が教室に入ってくる。相変わらず時間に正確な先生だ……吉井はあのラブレターを見つけたはずだが、もう読んだのだろうか?
鉄人の存在だけで静まりかえった教室で、鉄人は出席を取り始めた。
「阿部」「はい」
「安藤」「はい」
「井上」「はい」
しかし、毎朝鉄人はいちいち名前を呼んで出席を取っているが、どうしてそんな必要があるんだろうか。50人いるとはいえ見渡せば誰がいて誰がいないかなんてすぐわかるだろうに。
「工藤」「はい」
「久保」「はい」
「近藤」「はい」
「斉藤」「はい」
そんなどうでもいいことを考えるうちに返事はどんどん続いていく。騒がしい教室に訪れたのどかな平穏。変わり映えのしない朝の平穏が――
「坂本」「………………明久がラブレターをもらったようだ」
『『殺せええぇ!!!』』
坂本の一言で終わりを告げた。
教室内が一瞬で殺気で埋め尽くされる。
「ゆ、雄二! いきなりなんてことを言い出すのさ!」
坂本の声は明らかに小声だったのに、Fクラスはそういうことに敏感なのか誰も聞き逃さなかった。
吉井の下駄箱に入れたラブレターは、坂本にも気づかれたらしい。
『どういうことだ!? 吉井がそんなものをもらうなんて!』
誰かのそんな声を聞いた須川が、
「吉井がもらってるのに俺がもらえない訳はない! このみかん箱の中にでもあるんじゃないのか!?」
そう叫びながらみかん箱を持ち上げ中を確認している。
「ダメだ! 持ち帰り忘れた弁当しか入ってねえ!」
「うわっ! お前それ中身腐ってんじゃないのか!」
この気温だ。そろそろ酸っぱいにおいがしてきてもおかしくない。
『どうなってるんだ一体!』
『俺にもラブレターをよこせよ!』
教室内は怒号が飛び交っている。そのほとんどが妬みによるものだ。
俺は、そもそもあのラブレターを吉井の下駄箱に入れた張本人だし、今更慌てない。大体、木下さんとのデートがあるんだ。慌てる必要もない。
「お前らっ! 静かにしろ!」
――シン
と、鉄人の一喝で教室に静寂が戻ってくる。さすがは鉄人だ。その野太い声だけで窓ガラスも割れそうだな。
「それでは出席確認を続けるぞ」
吉井も落ち着いたようで胸をなでおろしながら腰を下ろしている。
「須川」「……はい」
「谷村」「はい」
「塚本」「……はい」
「手塚」「……コロス」
「土屋」「……コロス」
「藤堂」「吉井コロス」
「戸沢」「吉井コロス!」
「新田」「吉井コロス!!」
「皆落ち着くんだ! いつの間にか返事が『吉井コロス』に変わっている!」
吉井が急に叫び出した。なんなんだ一体。
「吉井、静かにしろ」
「僕ですか!? ここで注意するべき相手は僕じゃないはずです! このままだと学園内で殺人事件が起こる羽目になりますよ!」
「布田」「吉井マジコロス」
「根岸」「吉井ぶち殺す」
「聞いてねええええーーーー!!!!!」
「福沢」「吉井刺し殺す」
「宮川」「吉井焼き殺す」
「そして既に僕の殺害方法に言及し始めている!」
吉井が懸命に叫ぶが、鉄人もクラスメイト達もそれを無視して出席確認を進行する。ハハハ、嫉妬に狂った連中を見てるのは楽しいもんだ。
須川をはじめ、Fクラスの連中は彼女ができる目処も立たず、他人をねたんでいる奴らばかりだ。だから、ラブレターをもらっただけで吉井を殺したくなるほどに嫉妬するし、
「か、かくなる上は……」
「吉井」
「今朝、谷村君は木下優子さんと仲良さそうに喋ってました!!」
『『谷村も殺せええええぇぇぇ!!!』』
たったそれだけの情報で俺も
「ふざけんな吉井!」
なんてことを言ってくれるんだ!
「さあ皆、僕なんかにかまってていいの? 谷村君はもしかしたら僕よりもっと女の子と仲がいいかもしれないよ?」
くそっ! バカの癖にこんな時だけ頭が回りやがって!
「そんなわけないだろ! ちょっと会って話しただけだって!」
「それだけで重罪だクソ野郎!」
須川が叫ぶ。
「渡辺」「二人ともぶっ殺す!」
「結局僕も狙われるのか!」
「当たり前だろこのバカ!」
なんで逃げられると思ったんだこのバカは!
「よし。遅刻欠席は無しだな。今日も一日勉学に励むように」
この混乱のさなか出席を取り続けた鉄人は、出席簿を閉じて教室を出ようとする。この男は殺気を感じる能力が欠如しているんじゃないのか?
「待って先生! 行かないで!」
「そうだぞ! 可愛い生徒たちが死んでもいいのか!?」
保身のために、俺と吉井は二人で鉄人を呼び止める。もうプライドとかは気にしてられない!
「吉井、谷村。何を言ってるんだ」
「……なんですか」
すると、鉄人は振り返りもせずに告げる。
「お前達は不細工だ」
「不細工とまで言われると思わなかったよバカ!」
「可愛いってのは言葉の綾だろうが!」
「授業はまじめに受けるように」
「待って! 先生!」
「お願い! 助けて!」
俺達の懸命の叫びもむなしく、鉄人は教室を後にした。これでもうFクラスの暴走を止められる者はいない。一時間目が始まる前に暴動が起こるのは間違いないだろう。
「おい谷村! 詳しく話を聞かせろ!」
そう言って俺の腕を強く掴むのは、先ほどまで簀巻きになっていたはずの工藤だ。
「ははは……別に大したことはないって。ホントにちょっと話しただけだから……」
「本当か?」
疑いの目で俺を見る工藤。
「でも、こいつさっき吉井のラブレターの話を聞いても取り乱さなかったぞ……」
「谷村って、この前の試召戦争の時も、木下さんと仲良さそうに話してたよな」
「そういえばあの時、一緒に喫茶店に行くだのなんだの言ってなかったか?」
工藤と同じように俺を責める須川達が口々にそんなことを言いだした。
「結局喫茶店にはまだ行ってないんだって!」
「……『まだ』?」
「……それも言葉の綾だ! 中止になったんだからな!」
「嘘だ! 行く予定があるんだろ!」
くっ……こういうときだけ鋭いなこいつ!
ふと視界には島田さんと姫路さんに詰め寄られている吉井の姿が目に入った。なんであいつは女の子に囲まれて、俺はむさくるしい男子どもに囲まれなくちゃいけないんだ。これは不公平ってやつなんじゃないのか?
「皆、ちょっと落ち着け」
そんな中、パンパンと手を叩く音が教卓の方から聞こえてきた。このFクラスの代表であり、この騒動の元凶ともいえる坂本雄二の声だ。
「今問題なのは、明久の手紙を見ることでも谷村の疑惑の真偽を確かめることじゃない」
坂本がクラスメイトたちに言い聞かせるように語る。なるほど。さすがは代表。自分の不始末は自分で片をつける気のようだ。
「問題は、こいつらをどうグロテスクに殺すかだ」
「前提が間違ってんだよ畜生!」
「バカじゃねーのかこのクラスの代表は!」
ついに命の危険を感じた吉井と俺は、荷物をひっつかんで教室から同時に飛び出した。
こんなところにいられるか! もう今日の授業は全部サボってやる!
『逃がすなぁっ! 連中は二手に分かれた! 追撃隊を二つ組織しろ!』
『手紙を奪え! 吉井を殺せ! 谷村をねじ殺せ!』
「ねじ殺せってなんだよ!?」
『サーチ&デス!』
「だから怖いって!」
廊下に響いてくる声を聞いて、Fクラスの団結力の恐ろしさを実感した。
「はあ……はあ……ここまで逃げればひとまずは大丈夫だろ……」
Fクラスの教室を飛び出した俺は、真っ先に一階にある図書室を目指した。普段だったらこんな活字だらけの場所に来ることは無いが、状況が状況だけに逆に好都合だ。入口は一つだけだが、進学校という文月学園の性質上膨大な数の本棚が並んでおり、それはすなわち死角の多さを意味する。
ちらりと入り口を確認するが、誰もやってくる気配はない。足の速さには自信がある上に、連中の多くは『手紙』というわかりやすいアイテムを持っている吉井の方に向かっているはずだ。うまい事撒けただろう。
すでに一時間目を告げるチャイムは鳴っている。
「あの……授業は大丈夫なんですか?」
息を整える俺に話しかけてきたのは、この図書室に務める司書である中川先生だ。だいぶお年を召した女性の方で、かなり押しに弱い。申し訳ないと思いつつ強引にカギを開けてもらった。
「はい、自習なので大丈夫です」
「あ……そうなんですか」
そう俺は返事をするが、それはもちろん嘘だ。自習なわけがない。一時間目を担当する先生はもぬけの殻の教室を見て唖然としているだろう。
ともかく、これでしばらくは安全のはず。この騒動の発端となった吉井には囮になってもらおう――そう考えた俺が窓の外に目をやると。
「……」
「……」
ニコリと笑った吉井と目が合った。
「谷村君は図書室にいるぞー!!!」
「「こっちか!!!!」」
吉井がそう叫ぶと同時に、廊下から複数人の声と足音が聞こえてきた。
このバカ! 何しやがる!
「ちくしょう!」
窓を開けてそのまま脱出。内履きで外に出ることになるが、気にしていられない。
俺を密告した吉井はすでに生徒玄関の方へと走り出している。
「待て吉井!」
「こっちの台詞だ! 止まりやがれ谷村!」
恨みも込めて吉井を追いかける形で追手から逃げ出すと、連中――須川と工藤たちもその後を追いかけてきた。
「止まれって言って止まるわけねえだろ!」
とにかく、つかまるわけにはいかない。つかまったら待っているのは
「この……!」
「うわっ! 谷村君今僕の首根っこ掴もうとしたね!? ていうか足速っ!」
「あいつらも吉井を差し出せば諦めてくれるだろ!」
「その言葉、そっくりそのまま返してやる!」
吉井に追いついた俺は、吉井と言い争いながらも追い越そうとする。しかし、
「貴様ら……こんなところで何をしている?」
俺達が走るその先、生徒玄関の前にある一人の男が立っていた。
「「げ、鉄人!」」
吉井と声がハモる。
何をしているは俺が言いたい! 授業中だぞ!
とにかく、鉄人につかまるわけにはいかないが、かといって引き返せば須川達の餌食だ。
「くそっ……!」
前門のなんとやら、なんとやら、なんとやらだ! 一人で逃げてもいいが、こうなると話は別だ。
ただ校舎から離れてもつかまるだけ……なにかないかと周りを見渡す。
……あった!
「吉井! あの窓だ!」
「分かった!」
俺と吉井は、同じタイミングで右に曲がり、開いていた窓からどこかの部屋の中へと、まずは俺、その次に吉井が飛び込んだ。その直後、窓を勢いよく閉めてカギをかける。
『教室に戻れ!』
『鉄人だ! 総員退却!』
須川達は鉄人と鉢合わせる形になり、何とかしのげた。せっかくなら吉井も締め出したかったが、そうなるとこの先逃げ切れるかが怪しくなる。
部屋の中を見るとそこは事務室のようで、用務員のおじさんが目を白黒させて俺達を見ている。
「ははは……失礼しましたー」
「しましたー」
苦笑いを浮かべながら事務室から駆け出す。ここに飛び込んだことは鉄人にも須川達にもばれている。できるだけ早く逃げ出さなければ……!
悲鳴を上げる足に鞭をうち、懸命に逃走を続けた。
「……ひとまず……ぜえ……ここで休もう……」
「そ、そうだね……」
俺達が今いるのは1-E教室。どこかのクラスが移動教室をしているだろうと踏んで、誰もいない教室を探してもぐりこんだのだ。廊下から見えないように、教卓や机の陰で休んでいる。
いくら足の速さに自信があるといっても、大勢に追われながら校舎内を駆け回るのはかなりしんどい。
「まさか鉄人に見つかるとは……ますます厄介なことになったなあ……」
あまり息を切らしていない様子の吉井がそんなことをぼやく。こいつ、意外と体力があるのか。
「厄介って……そもそも、お前が……図書室の、外で……叫んだから、だろ……」
「だって、僕だけ追われてるのに一人だけ図書室で休んでるなんて不公平じゃないか」
「バカ、そういう、作戦なんだよ……お前が、囮になって、追手を引き付けて、くれれば……俺は、逃げ回らなくて、済むんだから、な……」
「それが不公平なんだよ!」
「おい……! あまり、大声出すな……!」
と、言いつつ自分も大きな声を出したのでそれは反省しつつ。
「とりあえず、これから、どうするかだな……こうなった以上は、協力していくぞ……」
「うん、わかったよ」
一時間目ももうすぐ終わる。いつまでもここにはいられないが、そのまえにこれからの作戦を立てなくてはならない。そのために吉井と行動してるんだ。ここまで来たら二人で協力する方が生き延びる確率が上がるだろう。というか、一人で逃げてもどうせまた巻き添えを喰らうだけだ。
「吉井、ラブレターはもう読んだのか?」
「いや、まだだけど……どのみち、追われながらじゃゆっくり読めないし」
それもそうか。
「そういえば、谷村君の方は結局何話してたの?」
「何って?」
「ほら、今朝、木下さんと」
「ああ。ただの世間話だ。……まあ、言ってもいいか。昼休みに屋上で待ち合わせしてるんだ。それだけだよ」
今現在、俺も吉井も女子とのつながりを持っている、ということでクラスメイトに追われている。これくらいなら話したところで吉井が嫉妬に狂うことは無いだろう。吉井の方もラブレターをもらったという事で心に余裕があるだろうし。
「ふうん……あ、それだ!」
「だから叫ぶなって……それって?」
「あ、ごめん。屋上だよ。屋上なら人もあまり来ないし、貯水槽の上とかみたいに隠れられるスペースもある」
言われて、考える。なるほど……身をひそめるにはもってこいかもしれない。須川達に見つかると逃げ場がなくなるが……今なら殆どが鉄人に追われてそんな余裕はないだろう。
幸い今日は快晴だ。屋上の貯水槽の上で昼休みを待つとしよう。
「なるほどな……よし、それでいこう」
「うん」
すべきことは決まった。
目指すは、屋上だ。
谷村君は足が速いけどスタミナがない感じですね。
後編に続きます。