モブとテストと優等生   作:相川葵

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第一問 ざわめきの朝

【化学】

 以下の問いに答えなさい。

『調理の為に火にかける鍋を製作する際、重量が軽いのでマグネシウムを材料に選んだのだが、調理を始めると問題が発生した。この時の問題点とマグネシウムの代わりに用いるべき金属合金の例を一つ挙げなさい』

 

 

 

 姫路瑞希の答え

『問題点……マグネシウムは炎にかけると激しく酸素と反応する為危険であるという点。

合金の例……ジュラルミン』

 

 教師のコメント

 正解です。合金なので『鉄』では駄目という引っ掛け問題なのですが、姫路さんは引っかかりませんでしたね。

 

 

 

 須川亮の答え

『問題点……使用したマグネシウムが一般のものより重かった点。

合金の例……思いの外軽いマグネシウム』

 

 教師のコメント

 重さは関係ありませんし、勝手に想定しないでください。

 

 

 

 谷村誠二の答え

『問題点……食材を用意していなかった点。

合金の例……食べられるマグネシウム』

 

 教師のコメント

 その合金は果たして美味しいのでしょうか。

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 今日から、二年目の高校生活が始まる。

 学園へと続く坂道を彩るように、両側の桜は綺麗に咲き誇っている。俺は情緒を大事にする人間ではないが、それでもこの景色には一目置いてしまう。

 さて、今日は運命のクラス分け発表の日である。

 振り分け試験の日とは違い、今日は寝坊することは無かった。そのため、俺は悠々と坂道を上っていた。

 

 

 

「うわ、なんだこれ……」

 

 校舎の前まで来ると、多くの生徒たちが列をなしていた。その中から悲鳴や歓声が上がっている。

よく見ると、一年の時のクラスごとに分かれているらしい。俺がいたのはCクラスだったから……あそこか。列に近づき、最後尾を陣取っていた俺の友人――須川亮(すがわりょう)に話しかけた。

 

「よう、須川」

「お、谷村じゃねえか」

「なあ、この列はなんだ?」

「あ? お前、振り分け試験の時ちゃんと話聞いてなかったのかよ。クラス分け発表は一人ずつやるからこうやって並べって言われただろ?」

「……そうだったか?」

 

 必死に思い出そうとするがあまり記憶にない。あの日は痛みを堪えるので精いっぱいだったからな……。

 

「そうだったよ。っと、俺の番だ」

 

 須川が前に出て、かつての担任である布施先生から封筒を受け取る。なるほど、ああやってクラスを知らせるのか。

 

「それにしても、なんでわざわざこんなことするんだろうな」

「さあな。試験校だからとかなんとか言ってたけど、どうなんだか。さて、俺のクラスは~っと」

「……お前のクラスは多分――」

「な、なんだと!?」

「Fクラスだと思うぞ」

 

 封筒の中身に震えながら驚いている須川を横目に、俺も封筒を受け取る。

 

「お、おい! なんで俺がFクラスだって分かったんだ!?」

「一年もお前と同じクラスにいれば分かるっつうの」

「く、くそ、お前もFクラスになってしまえ!」

「心配しなくてもいいぞ」

「は?」

 

 封筒の中身を取り出し、須川に見せる。

 

 

「俺もFクラスだ」

 

 

■  ■  ■  ■  ■

 

 

 木下さんからハンカチを貰ったその後、俺は何とか試験開始直前に教室に入る事が出来た。

 体を怪我していた俺を見てクラスメイトの大半はぎょっとしたが、転んだだけだという事を伝えると、安心したのか各自の勉強へと戻っていった。他人の怪我より自分の未来の方が大事なのだ。俺だって自分の怪我より未来の方が大切だ。

 教室を見渡すと、Cクラスの生徒たちのうち半分ぐらいしか揃っていなかった。不思議に思い、近くに座る工藤信也(くどうしんや)に訊いてみる。

 

「なあ、人が少なすぎないか?」

「黒板に紙が貼ってあるだろ。カンニング対策で、クラスを半分に分けてるんだとよ」

「ふうん」

 

 確認してみると、確かにそのように書いてあった。幸いにも俺はこの教室で受けるらしい。

と、その時、布施先生が教室に入ってきた。

 

「みなさん、席についてください」

 

 こうして、俺の振り分け試験が始まった。

 

 

 

 

 結果から言うと、大失敗だった。

 

 怪我をした影響というものは予想外に大きく、まずシャーペンを持つのがままならない。さらに、ひざの痛みにも耐えながら解いていくが、とても正解しているとは思えなかった。なんとかすべての科目を受け終えたが、得意科目の数学でさえ解答欄を埋めていくのが精いっぱいだった。

 

「ちくしょう……」

 

 俺が本気を出せば、少なくともEクラスは行けたであろうだけに非常に悔やまれた。

 

「せっかくハンカチくれたのにな……」

 

 わざわざ俺なんかの為にハンカチを一枚無駄にしてくれた木下さんに申し訳ない。もともと同じのを買ってお返しするつもりだったが、もっと高いものを買う事にした。転んだ時に諦めてればハンカチを汚すことも無かった……いや、それでも木下さんならハンカチをくれた可能性はあるか。

 

 

■  ■  ■  ■  ■

 

 

 なんだか恥ずかしいのでハンカチの事は隠して須川に経緯を伝えると、

 

「いや、お前だって本気出したところでEクラスに行けるか怪しいじゃねえか」

「なんだと?」

「お前、ちょっと自己評価高くねえか?」

「おいおいその発言はいただけないな。俺を誰だと思っている?」

「おつむの悪い谷村誠二君だろ? 一年間同じクラスで今更お前の成績が分からないわけあるかよ。お前だってそう言っただろうが」

 

 ぐぐぐ……ああいえばこういう……だったら――

 

「だったら、勝負しようじゃねえか!」

「はぁ?」

「さすがにしょっぱなから試験召喚戦争を仕掛けることも無いだろうから、期末試験の点数で勝負だ!」

「望むところだこの野郎!」

「はっ! 俺が須川なんぞに負けるわけねえだろうが!」

「バカ言え、俺が本気を出したら谷村なんぞぼっこぼこだ!」

「上等だ!」

 

 と、二人で騒いでいると、

 

「何を騒いでいる貴様ら」

 

 どこからか野太い声が聞こえてきた。

 

「何をって……て、鉄人!?」

「なんで鉄人が!?」

「あれだけ校舎前で騒げば生活指導の俺が出てくるのは当然だろう。それと、教師を鉄人と呼ぶんじゃない」

 

 その言葉と共に、俺達の頭上に拳が振り下ろされた。

 

「ぐおおお……」

「いってぇ! 何しやがる、こっちは怪我人だぞ!」

「お前の怪我は一ヶ月も前のただの擦り傷だろう。振り分け試験の日に怪我をしたのは災難だったが……それだけ騒げる元気があるなら十分だ。ほら、さっさと教室に行け」

「くそ……言われなくても今行きますよ。須川、行こうぜ」

「これは体罰だろ……ちくしょう……」

 

 俺達は二人して目に涙を浮かべながら、校舎へと入っていった。

 

「まったく、あの元気を他に活かせばこちらとしても助かるんだがな」

 

 背後から、呆れ返る鉄人の独り言が聞こえた。




今回で、この作品の雰囲気や方針、また谷村誠二の立ち位置などが掴めるかと思います。
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